資格を手放した元先生の繰り返した世界線での願い   作:Thinker1714

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なんか筆が乗ってしまったので、本日3話目です

流石にもう今日は無理だ


第5話 原作へのカウントダウン

 彼女……ホシノの入学まで——もう間も無く、だった。

 

 知らぬ間に高校見学をしていたのか、ユメが「来年は1人来てくれるよ〜」と嬉しそうに報告してくれたから、そのお祝いに手作りケーキを作ってやって一緒に祝った。防砂林がしっかりと機能しているおかげか、最近は砂嵐の被害も目に見えて減っているらしい。

 

 アビドスの高等学校の歴史が大きく動き出す直前の束の間。組織名を『ノイアンファング』へと改めた我が拠点は、かつての寂れた面影が嘘のように、連日活気に満ち溢れていた。

 

 ……もっとも、活気がありすぎて頭を抱えたくなる瞬間も増えたが。

 

「お邪魔しまーす! ねぇユウくん、今日のお菓子は何? 私、この間食べたサクサクのクッキーがいいな!」

 

「ここを一体何だと思っているんだ、聖園ミカ。お前は自分の学園に帰る場所がないのか? それに、この拠点にはゲヘナ出身の部下だっているんだぞ?」

 

「えー? 確かにゲヘナの角付きは居るけど、ユウくんの教育のおかげで気にはならないくらい礼儀正しいし、話してみて思ってたより楽しい子ばかりだからなぁ……それに、ナギちゃんだって最近しょっちゅう来てんじゃん!」

 

「わ、私を巻き込まないでくださいミカさんっ! 私はあくまで商業パートナーとしての視察と、情報交換を——……あ、でも、そこの淹れたてハーブティー、一杯いただけますか?」

 

「お前もお前だ、桐藤——」

 

「ナギサとお呼びください!」

 

「……むぅ……」

 

 いつの間にか、我がノイアンファングの一角は、トリニティ総合学園の二大巨頭——桐藤ナギサと聖園ミカの「お気に入りのお茶会スペース」と化していた。

 

 最初のうちは物珍しさから顔を出していたのだろうが、今や護衛を引き連れて当然のようにやってきては、うちの特製ハーブティーを飲み、甘味を摘み食いしていく。最初はピリピリしていたナギサや、ゲヘナ出身の生徒がいることで面白半分に煽っていたミカも、今やすっかりここで息抜きを覚えたらしく、たまに頭を抱えつつも居心地良さそうにしている始末だ。

 

 とはいえ、彼女たちが来てくれるおかげでトリニティとのパイプは太くなり、学内マーケットでのハーブティーとハチミツの売上はうなぎ登りだった。

 

「……はぁ。まあ、稼ぎが増えるなら文句は言えねぇか……って、危ねぇ。ナギサ、一番いいダージリンの茶葉を仕入れたいんだが……」

 

「それなら今度お持ちいたしますよ」

 

 ちゃっかり次に訪れる口実を作られたりしながら、トレイに淹れたてのお茶を乗せ、俺は深い溜め息を吐く。

 

 ——しかし、日常の喧騒から離れた場所や、裏社会の隙間では、もっと別種の「出会い」もあった。

 

 それは連邦生徒会長との邂逅だった。

 

 シャーレもまだ影も形もなく、彼女自身がまだ「連邦生徒会長」の座に就く前のこと。

 

 所用でD.U.地区——連邦生徒会のお膝元で、現在の地勢がどうなっているのか調査をしていたさなかだった。人混みの中でかすかに聞こえた「死騎先生……」という声に驚いて振り返ると、そこには、人混みの中からこちらを泣きそうな顔で見つめる少女の姿があった。

 

 スカイブルーの長髪に、インナーカラーのピンク。よくスマホの画面で見かけた、少し幼い頃の連邦生徒会長だった。

 

 俺は彼女を連れ、近くのカフェへと立ち寄った。

 

「まさか君にまた会うことになるとはね……」

 

「……そうですね……死騎先生はお元気そうで何よりです」

 

「私は“先生”ではないよ……資格を手放すどころか、責任すら果たせなかった愚か者だよ……」

 

「そんなことっ……!」

 

「——ッ!?」

 

「そんなこと言わないでください!」

 

 私の声を遮った彼女に驚き、落としていた視線を向けると、彼女は今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。

 

「先生はずっとみんなのことを想って動いてたじゃないですか……今までの世界でも、この世界のように不良生徒たちを更生させてたりしてたじゃないですか……それなのに」

 

「それなのに、前の世界での“あの出来事”で、私の心は完全に折れてしまったんだよ……こんな弱い私を許してくれ……さすがにあれは堪えたよ」

 

「あれは、私も堪えました……」

 

「あの後、私が暴走した後の世界はどうなった?」

 

 俺の後悔というか心残りなのは、4度目の世界のその後だった……。

 

「あの後は——」

 

 その後は再会を細々と祝いながら、今後の動きなどを話し合った。その際、彼女はこう告げた。

 

「先生……アビドスのこと、ありがとうございます。この先のことは不透明になるかもしれませんが、私も頑張ります。先生も頑張ってください」

 

 そう言って、彼女とは別れた(最後まで“先生”呼びではあったが……)。

 

 ——そして、日常の喧騒から戻れば、そこには温かい時間が待っていた。

 

 ある日の昼下がり

 

 広大な栽培地の隅に置いたベンチ。連日のブラックマーケットの巡回や仕事、組織の運営、さらにはアビドスの開墾作業に走り回っていたせいで、流石に半年以上の蓄積した疲労がピークに達していた。

 

 開けた青空の下、ほんの少しのつもりでベンチに腰掛け、目を閉じた瞬間——いつの間にか、心地よい睡魔に意識が引っ張られていく。

 

「んしょっと……お疲れ様、ユウくん」

 

 ふと、頭に柔らかい温もりが触れた。

 

 気だるげに目を開けると、そこには優しく微笑むユメの顔があった。彼女は自分の膝をポンと叩き、そこに俺の頭を無理やり(だが愛情深く)乗せたまま、慣れた手つきでサラサラと髪を撫でてくれる。

 

「ちょっとユメ、いくら仲良くても、年頃の女の子がこんなこと――……」

 

「いいのいいの! 毎日私たちのために走り回ってくれてるんだから、これくらいのご褒美は当然でしょ? ほら、力抜いて、ゆっくり休んで?」

 

 からかうような、けれどどこまでも温かいユメの声音に、張り詰めていた神経がスッと解きほぐされていく。砂漠の乾いた風が心地よく頬を撫で、ユメの体温と甘いハーブの香りに包まれるうちに、俺はそのまま深い眠気へと落ちていった。

 

(それに……誰でもいいわけじゃないよ……ユウくんだから私は……)

 

 ……目を覚ましたとき、ユメの膝には申し訳程度に軽い痺れが残っていたが、不思議と体中の疲労はすっきりと消え去っていたのだった。

 

 また別の日には、アビドスの現実的な問題と向き合うため、俺はユメと共に借金返済のため現金収集車を待ちながら、借金の総額や利息、土地の権利書などの書類を見てあきれていた。

 

「まさか、この土地の権利書や利息の膨らみ方がエグい……何より、総額が元々10億あるのが効くなぁ!」

 

「ひぃん……ユウくんに言われて地籍図見たけど、こんなことになってるなんて……。でも、ユウくんがノイアンファングの商売で稼いでくれた資金と、トリニティへの卸しのおかげで、一昔前じゃ絶対に払えなかった額が減っていってるよ! おかげで借金も減って、今じゃ6億5千万だよ!!」

 

 砂埃を舞い上げながら、現金収集車に金を渡していく。受取人のロボットはユメのそばに俺がいるのを見てひどく驚いていた。

 

 ユメには言っていないが、「借金元のカイザーに警戒されるような動きはしていないつもりだが、特産品の件で恨みを買っているのかもしれない」と、念のため警戒しておこうと思った。

 

 原作では先生が来るまで利息の支払いだけで精一杯だったアビドスの借金が、協力者がいるとはいえユメ1人で何とかやれているのを確認すると、胸の奥から込み上げてくるものがある。

 

 泥臭く、汗まみれになって戦う日々。

 

 それでも、隣で同じ方向を見て笑ってくれるユメの姿があるだけで、この世界で生きていく意味が確かにそこにあると感じられた。

 

 ——アビドスの借金返済を終えて数日後のこと。

 

 俺の元へ、カイザーコーポレーションの黒塗りの高級車と、屈強な武装警備員たちが使者としてやってきた。

 

 現金収集車の件で「警戒しておこう」と思っていた矢先のご招待——いや、実質的なお呼び出しというわけだ。

 

 連れてこられたのは、D.U.の高層ビル群にそびえ立つ、カイザー本社の最上階——VIP接待用の重厚な扉の向こうだった。

 

 室内には、葉巻の煙と冷ややかな空気が充満している。待っていたのは、カイザーの頂点に君臨する二人の男だった。

 

「おや、噂の独立組織『ノイアンファング』の代表殿。よくぞお越しいただきました」

 

 ふんぞりかえったソファの上で、上品なスーツを纏った男——プレジデントが、薄気味悪い笑みを浮かべながら恭しく頭を下げた。その声音は丁寧な敬語でありながら、値踏みするような冷徹な光を帯びている。

 

 その傍らで、腕を組んで鋭い睨みをきかせていたのは、軍服に身を包んだジェネラルだった。

 

「ふん、小童が。プレジデントのお慈悲がなければ、今頃お前など砂漠の肥やしになっているところだぞ。ありがたく思え」

 

 ジェネラルの威圧的な声が部屋に響くが、俺は表情一つ変えず、目の前のソファに勝手に腰を下ろした。

 

「で、大企業様が何の用だ。俺たちのやっている商売が、お偉方の利権にでも引っかかったか?」

 

 俺の態度に、ジェネラルが眉をひそめて険しい顔を作る。しかし、プレジデントは穏やかな笑みを崩さず、ワイングラスを傾けながら本題を切り出した。

 

「いやいや、怒らないでください。我々が評価しているのは、あなたのその手腕です。ブラックマーケットを拠点としながら、トリニティを巻き込み、アビドスの借金すら現実的なペースで減らしていく……実に素晴らしい。そこで提案なのですが」

 

 プレジデントはスッと目を細め、底意地の悪い笑みを深める。

 

「我がカイザーコーポレーションの傘下に加わりませんか? ノイアンファングを正式な企業として買い上げ、あなたをその幹部に迎える。ブラックマーケット初の『正規の学園企業』として、莫大な富と安全を約束しましょう。もちろん、個人的な報酬も弾みますよ」

 

 それは甘い蜜を塗った、あまりにも露骨な買収工作だった。

 

 アビドスのことも、ノイアンファングのことも、すべてを自分たちの都合の良い歯車の一つに組み込もうとする悪徳資本家の発想。

 

 俺は鼻で笑い、即座に首を横に振った。

 

「断る」

 

「……おや?」

 

「俺についてきてくれる部下たちや、仲間たちを……お前らのような連中の都合の良い駒にする気は毛頭ない。ノイアンファングは俺たちのものだ。お前の会社の犬になるつもりはねぇよ」

 

 その瞬間、プレジデントの仮面がわずかに歪んだ。

 

「……なるほど。せっかくの好意を無駄にするおつもりか。ルールも法も、力を持つ者が決めるこのキヴォトスにおいて、我がカイザーを敵に回すことがどういう意味か、お分かりか?」

 

 プレジデントの声音から丁寧さが消え、地を這うような冷たい脅しに変わる。

 

 それに呼応するように、ジェネラルが椅子から立ち上がり、全身から圧倒的な殺気と威圧感を放った。

 

「生意気な口を利くなよ、ガキが! 我々の軍事力の前では、お前の組織など一瞬で壊滅させられるんだぞ!! 今すぐその場でひれ伏し、土下座して命乞いをするなら——」

 

 ——その時だった。

 

 部屋の空気が、まるで物理的に凍りついたように感じたのは。

 

 ジェネラルの威圧感など子供の遊びに見えるほどの、理不尽で、重力そのものがねじ曲がるような圧倒的な「圧」が、俺の身体から突如として解き放たれた。

 

 全身の血管を巡る転生特典のナノマシンが微かに起動し、表面に形成された装甲が微かにひび割れて空間そのものを震わせる。さらに、隠し持っていたもう一つの転生特典が感情の激化によって活性化し、ひび割れた装甲の間から眩い青白い光が溢れ出す。その圧倒的な重圧は、重力波の如くVIPルーム全体を押し潰した。

 

「ぐっ……!?」

 

 ジェネラルが、気圧されるように一歩、二歩と後じさる。額から冷や汗が流れ落ち、彼の誇り高い軍人としてのプライドが、本能的な死を想起させる恐怖の前にガタガタと震え始めていた。

 

 いつもは余裕を崩さないプレジデントも、手元のワイングラスを取り落としそうになり、青白い顔で俺を凝視している。

 

 呼吸をするのすら困難なほどの重圧の中、俺は静かに立ち上がり、二人に冷ややかな視線を向けた。

 

「……潰す、ねぇ。できるもんならやってみろよ。お前らの持っている兵力も、その汚い金も、俺がその気になればすべて文字通り『塵』に変えてやれるんだが?」

 

 圧倒的な「力」の差を目の当たりにし、部屋の主導権は完全にこちらに握られた。

 

 ここで真っ向から敵対して無用な遺恨を残すのは得策ではない——というか、向こうが勝手に自滅しかけている。俺はわざとらしく息をつき、トーンを落として言った。

 

「……まあいい。お前らとしても、俺たちを真正面から敵に回すのは割に合わないだろ。落とし所をつけに来てやったんだ。感謝しろよ」

 

 プレジデントは荒い息を整えながら、かろうじて震える声をしぼり出した。

 

「……っ、では……どのような……条件を……?」

 

「そうだな。買収の話は白紙にする。その代わり、ウチの戦闘部隊や精鋭たちと、お前のところの民間軍事会社の兵士たちで定期的な『模擬戦(訓練相手)』の業務提携を結んでやる。もちろん、それ相応の報酬(メンテナンス費用や物資)は払ってもらうがな。それに、ウチの部下たちの今の実力を知ってもらうのもいいかもしれない。ジェネラル氏からすれば、どうやら私の部下たちは、ウチに所属する前のチンピラだったときの実力でしかないと思い込んでいるようなのでね……最初の模擬戦はそちらの部隊への制限は設けませんが、こちらからは上位15名の精鋭を出します。それでご判断いただければ……」

 

 買収ではなく対等な「業務提携」、しかも実質的にカイザーの兵士をサンドバッグや訓練用にするという条件。

 

 プライドを傷つけられながらも、これ以上の怪物と敵対するリスクを恐れたプレジデントとジェネラルは、引きつった笑みを浮かべてそれを受け入れるしかなかった。

 

「……フッ、いいでしょう。その条件、飲ませてもらいますよ……ノイアンファング代表殿」

 

 冷や汗まじりの苦渋の決断を勝ち取り、俺は用済みとばかりに背を向けた。

 

「あぁ……それと、近いうちに貴方達のその認識を改めるために『学園祭』でも開こうかと思いますので、ぜひご参加を検討してください……」

 

 カイザーの頂点を冷や汗まみれにし、逆に手玉に取り返したこの一件は、裏社会におけるノイアンファングの格をさらに跳ね上げる決定打となったのだった。

 

 ——組織を大きくし、守るべき場所を守り、アビドスの未来に確かな希望の芽を植えていく。

 

 トリニティの面々が勝手に遊びに来ては騒ぎ、予期せぬ再会を経て、ユメと並んで借金の山を削り、カイザーを冷や汗じじいに変えた日々。

 

 転生者である俺が作り上げたこの「例外だらけの日常」は、間違いなくキヴォトスの常識を少しずつ、しかし確実に書き換えていた。

 

(……まあ、これから先も面倒事は絶えそうにないが、悪くはないさ)

 

 本日何度目か分からない溜め息の代わりに、俺は少しだけ口元を緩め、青空を見上げる。

 

 様々な出来事を起こし、乗り越えてきたおかげで、時の流れは存外早く感じられた。

 

 そして、胸の奥で静かにカウントダウンの針が進む。

 

 ——彼女の入学まで。

 

 もう、すぐそこまで迫っていた。




Tips 今回出てきた特典の2つ目はコントロールしないとやべぇものです。
皆さんはプライムシリーズやってればわかるかと思います。

それではまたお会いしましょう

今の文章量で良いのか読み足りないのかわからないので皆さんの意見を参考にします

  • 今の4千〜5千字くらいの目処
  • 5千〜1万字くらいの目処
  • 1万以上を目処
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