資格を手放した元先生の繰り返した世界線での願い 作:Thinker1714
今回本文にもう一つの特典書いてますが本格的に使うのははるか先になるかもです
カイザーとの一件や学園祭の嵐が過ぎ去り、ノイアンファングとアビドスを取り巻く環境は、かつての寂れた様子が嘘のように活気を取り戻していた。
そして――季節は巡り、学園都市としては目玉ともいえる入学シーズンがやってくる。
それはここアビドスでも例外ではなかった。アビドス高校の古びた体育館でも、ささやかながら温かい入学式が行われていた。
(アビドスの生徒でもないのになんで俺も在校生側で入学式を見守っているんだ……? ホシノからの視線がやけに痛い気がするんだが……)
待ちに待った入学式の日、俺は会場の飾り付けや準備を手伝い、ユメの願いでもある最高の門出を陰から支えていた。そして、いよいよ新入生としてのホシノが教室へと足を踏み入れてくる。
「…………なんで部外者がここにいるんですか?」
アビドスの制服を着た当時の鋭い目つきの、特徴的なピンクの髪とオッドアイの瞳をパチパチさせながら、小柄な少女――ホシノがこちらを厳しい目で見つめながらやってきた。
「晴れの日を邪魔して済まなかったな。君の先輩になるユメからどうしても見てほしいと頼まれてな……」
「??? どうしてですか?」
そこでホシノは疑問に思った表情を浮かべる。
そして、とうのユメは待ちに待った新入生のためにプレゼントを用意しに別室へ向かっていたのだが、バタバタとした足音とともに慌てて戻ってきた。
「お、遅れてごめんね〜! ホシノちゃん入学ありがとう〜! 私、アビドス高校生徒会会長の梔子ユメだよ! こっちは何でも屋のユウくんで、これからは私たちと一緒に……」
「おっと、いきなりエンジン全開だな。まぁ、そういうわけだが俺は何でも屋『ノイアンファング』の代表をしているユウだ。歳はユメと同い年だ。歓迎するぜホシノ。色々大変な学校だが、お前の居場所はちゃんと作ってやるよ」
ユメが嬉しそうにペラペラと学校の案内を始め、俺が軽く補足を入れる。それを見たホシノが「へぇ……先輩たち、なんだか面白そうな人たちですね」とどこか面白がるように目を細める。
その後、活動拠点がブラックマーケットだということでひと悶着あったが、現在のアビドスの砂漠化対策や特産品による復興事業を手助けしてくれていることを知り、ホシノの中でひとまずの信用を得た――というのが現状だった。
あの原作であれば、孤独と絶望、そして砂漠の過酷な影を纏うことになっていた少女。だが、俺が介入し、カイザーを叩き潰し、借金の重荷を和らげたこの世界では違った。彼女は温かい先輩たちに迎えられ、曇りのない表情で新しい一歩を踏み出している。
その光景を眺めながら、俺は「これで一つ、守るべき未来のピースがハマったな」と胸をなで下ろした。本来なら破滅へと向かうはずだった砂漠の箱庭は、確実に別の未来へと歩み始めていた。
――だが。
平穏な日常の歯車が回り始めたその裏で、別の世界を覗き見る「異端者たち」は、この歴史の歪みを静かに見逃していなかった。
その日の夜。
ブラックマーケットの拠点近くで一人、夜の冷たい空気を吸いながら歩いていた俺の前に、不自然なほど静かに、影が伸びた。
「夜分遅くに失礼します、死騎ユウさん」
振り返ると、そこにいたのは黒いスーツに身を包み、原作でも見覚えのある頭部が黒くひび割れ、ひびの間から白い光を漏らす男――黒服だった。その表情の隙間からは黒い靄が揺らめき、不気味な笑みを浮かべている。足音すら立てず、いつの間に背後に立っていたのか分からない。
「……お前は……ここ数ヶ月ずっと俺を見ていた視線の主か……」
ここ数ヶ月、どこからともなく気配を感じることはあったが、可能性として候補にあったゲマトリアが、ようやく直接接触してきたというわけか……。
「クックック……おや、私たちのことも存じてるようで光栄ですね。ただ……あなたという『面白いイレギュラー』に、ぜひ一度お目にかかりたいという方がいまして」
黒服が軽く手を振ると、その場の空間が歪むような感覚に襲われる。
気がつけば、周囲の景色は一変していた。無機質でありながら芸術的なまでに歪んだ、常軌を逸した空間――ゲマトリアの拠点へと、俺は引きずり込まれていた。
「ようこそ、死騎ユウさん。お待ちしておりましたよ」
部屋の奥では、まるで哲学の議論でもしているかのように佇む、トレンチコートとステッキを持つデカルコマニー。背を向けたハット帽のゴルコンダ。そして、仕立てのいいスーツを着て、頭が二つあるマネキンのようなマエストロが、それぞれの視線をこちらに向けていた。
なおもう一人、あの厄介な女性がいるらしいが――彼女……ベアトリーチェは、「あんなくだらないイレギュラーなど興味の対象外ですわ」と鼻で笑い、姿を見せてすらいないらしい
見た目は化け物たちの巣窟。一歩間違えば、こちらの存在そのものが解体されかねない空間の中で、俺は微動だにせず、彼らを真っすぐに見据えた。
「――ふむ。あなたのその肝の据わり方、実に興味深い。あなたの持つ『神秘』と、この世界を書き換える法則性について、少しばかり診させてもらえませんか?」
黒服が不敵に笑いながら、研究者としての狂気を孕んだ提案を投げかけてくる。
「……世界を書き換える、ねぇ」
俺は冷ややかな視線を返す。本来の歴史、本来のキヴォトスであれば、あのアビドス高等学校は破滅の淵にあり、ホシノはカイザーや黒服たちに騙されてすべてを諦めかけ、先生たちによって救われるはずだった。だが、俺が介入したことで、その因果律は完全に書き換わった。
「ほう、ご存かしかもしれませんね。あのアビドス高等学校という名の『滅びるはずの箱庭』が、あなたのせいで見事に狂い始めている。本来なら、あの生徒会、そして光耀のオシリスたる少女も、悲劇の物語の中に消えゆく運命だったはずですが……あなたというイレギュラーが、あまりにも綺麗な『ハッピーエンド』を強引に描き出してしまった」
黒服の眼鏡の奥の瞳が、面白がるように怪しく光る。
「常軌を逸した借金返済、カイザーに対する圧倒的な武力制圧、そして何より――生徒たちに向けられるあなたの異常なまでの執着。……いったい、どこから導き出された因果律なのですか? 私たちの『探究心』や『神秘』とは異なる、その泥臭い奇跡の正体を、ぜひとも紐解いてみたかったのですがね」
常人であれば恐怖で冷や汗を流す場面だ。しかし、俺の態度は微動だにしない。
静かに息を吐き出すと、凄みの効いた低い声でこう言い放った。
「俺を研究材料にするなら、好きにしろ。いくらでも診させてやる」
「ほう……?」
「だがな――」
一歩、威圧感を持って踏み出すと、ゲマトリアの面々の雰囲気がわずかにピリッと緊張を孕む。
「俺の生徒たち、あの学校の子どもたちやウチの部下たちに指一本でも触れてみろ。お前たちがどんな理不尽な法則を持っていようと、俺は全力でお前たちのすべてを叩き潰して、その研究室も、作り上げたものもすべて、無価値なスクラップの山に変えてやる。……そこだけは絶対に間違えるなよ」
静寂が走る。
化け物たちの好奇の視線と、生徒を守るためなら己の身など惜しまないという圧倒的な「覚悟」がぶつかり合う。
少しの間があった後、黒服は満足したように、しかしどこか不気味に目を細めて笑った。
「――素晴らしい。狂気ではなく、濁りのない愛着と防衛本能ですか。……いいでしょう、死騎ユウさん。あなたの条件、喜んで呑ませていただきます」
「――ふむ、実に素晴らしい気概だ。では……せっかくの機会です。私たちの『探究』として、少しばかりあなたの身体や神秘に似た力の構造を診させてもらってもよろしいですかね?」
黒服が不気味な笑みを浮かべ、淡々と提案という名の要求を口にする。
完全に拒絶することはできないと悟りつつも、俺は低く息を吐いて椅子に座り直した。
「……別に俺に神秘はないがな……軽く診る程度ならいくらでもやるさ。だが、余計な真似をしたら……どうなるかわかるな?」
「えぇ、もちろん。荒事は私たちの本意ではありませんからね」
黒服に案内され、無機質でどこか悪趣味な実験室のような部屋に入る。用意された様々な異質な検査機器に身を任せると、隣の部屋のガラス越しに、マエストロやデカルコマニー、そして黒服がこちらを伺いながら、機器をもたらすデータを基に話し合っているのが見えた。概念的な観測や身体の微細なスキャンといった軽い「身体検査」が続いていく。
数分後、俺の生身の身体から漂う繝輔ぉ繧、繧セ繝ウ繧ィ繝阪Ν繧ョ繝シの揺らぎやデータの採取を終えると、黒服は満足げに眼鏡の位置を直した。
「――ふむ、興味深い。あなたの存在そのものが、このキヴォトスの理から微妙に外れた『特異点』であることを裏付けるデータが取れました。ご協力感謝します、死騎ユウさん」
「用事が済んだなら、さっさと元の場所に戻してもらおうか。そちらが気になる時には話をするのもいいが、できないときはできないとはっきり言わせてもらう」
「クックック……えぇ、いいですよ。それに、面白いデータが取れたので、あとでお礼を出しておきますよ」
「君には美的センスもあると感じている。近いうちに私の個展に招待するとしよう」
「ほう? それは楽しみだ」
空間が再び歪み、ブラックマーケットの夜の路地裏へと押し戻される。
冷たい夜風が頬を撫でる中、目の前には相変わらず不気味な笑みを浮かべたままの黒服が立っていた。どうやら見送りも兼ねて、まだ言い足りないことがあるらしい。
「おや、そう急かさないでください。最後に、あなたというイレギュラーと対話できた記念として……私たちからのメッセージを……」
「何かね?」
振り返り、鋭い視線を向ける俺に向かって、黒服は愉快そうに目を細めた。
「私たちはこのキヴォトスのことを一つの研究材料としています。ですが、あなたが今後何を成し遂げるのか……非常に気になりますので、私たちゲマトリアは、あなたをいつでも見守っていますよ」
(原作のエデン条約や対策委員会編の裏で暗躍するゲマトリアだが、生徒ではなく俺に興味を持たせることができたか……。あの『先生』に向けたような言葉を自分に移し替えて向けられていると思うと、顔には出さないが少し複雑な気分だな)
この時点ですでに計画が進んでいるかは分からないが、念のために釘を刺しておくのも悪くない。俺はあらかじめ懸念していたあるものの製造をやめさせようと、黒服に一歩近づいた。
「……ほう。俺のことを見てるのか。そいつは光栄だ。なら、こちらからも一つ言わせてもらう。『ヘイロー破壊爆弾』――それの製造を、今すぐ止めてもらおうか」
――瞬間。
不気味に余裕を保っていた黒服の仮面のような笑みが、わずかに、しかし冷たく凍りついた。
「っ……!? ……なぜそれを……?」
しかし、すぐに冷徹な知性が宿る目を細め、黒服はいつもの不敵な態度へと戻る。
「……いえ、私たちはあくまで『美学』と『真理』、そして『崇高』の探求者です。あのような無粋で、生徒たちの持つ『神秘』が闇雲に消失することを私たちも望みませんからね。――いいでしょう、その要求は呑みましょう」
「ほう?」
「それに――」
黒服は不気味に微笑み、夜の闇へと溶けるように体を反転させた。
「あなたがどれほどこのキヴォトスを……あの砂漠の箱庭を愛し、守ろうとしているのか。私たちにとって、これほど興味深い『観測対象』はありませんからね」
「……そうか。言い残したことはそれだけか?」
「えぇ。それでは、死騎ユウさん。あなたの描くハッピーエンドが、私たちの予想をどれほど裏切ってくれるのか、せいぜい楽しませてください」
黒服の姿がかき消えるように完全に闇に溶け込み、周囲には静寂だけが残された。
夜空の下、俺は拳を強く握りしめる。
「ヘイロー破壊爆弾の製造は一旦止まるだろうが……あの女(ベアトリーチェ)がみすみす計画を引き下がるとは思えないし……まったく、面倒な連中だよ……」
平穏な日常の裏で、確実に次の嵐の足音が近づいている。
だが、怯える必要など最初からない。生徒たちの平穏を脅かすモノは、すべて叩き潰してやればいいだけの話だ。
――もっとも、その頃の古都トリニティでは。
「――ちょっと待ってよ! なんでユウくんはアビドスの入学式になんて行ってるわけ!? 私たちトリニティの可愛い可愛いお姫様たちを差し置いて、あんな砂漠の学校にかかりっきりなんて不公平すぎない!?」
何でも屋『ノイアンファング』の事務所兼自宅のソファにどっかりと腰掛け、ミカが不満タラタラといった様子で大きなロールケーキをヤケ食いしながらブーブーと文句を垂れていた。
「……ミカ、あまり騒がないでください。それに、ユウさんにも色々事情がおありなのですから……」
その隣で、紅茶のカップを両手で持ったナギサが、どこか寂しげに、そして少しだけ潤んだ瞳を伏せながら小さくため息を吐く。いつもの優雅な紅茶の香りも、このときばかりは少し切なげに漂っている。
――そんな風に、遠い場所で誰かさんが盛大に拗ねていることなど知る由もなく。
新たな決意を胸に、俺は夜のブラックマーケットを歩み出すのだった。
ここまで書いてお気に入り登録やUAもすごい数字になってて驚いてますが……感想がないのが少し怖い……批判くるのも怖いけど
今の文章量で良いのか読み足りないのかわからないので皆さんの意見を参考にします
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今の4千〜5千字くらいの目処
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5千〜1万字くらいの目処
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1万以上を目処