世界の終わりに、何の話をしようか 作:獅子唐の遺跡
———目が覚めたな。
起こしたのは……保険は使えてない、と。それなら神か、世界か……。
どちらにしても、起こされたということは私が必要になったのだろう。
世界は望むだけで、神は言葉を発するだけでいいというのに、どうして私のような存在を必要とするのか。
はぁ……。
終着点より、虚無から魂を引きずり出す。
「生」を司る天使として、役目は果たさなくてはならないのだから。
ふと、保険すらも貫通し、私を葬った同僚のことが気になった。
「サリエル。君は今も囚われ続けているのかな?」
返事はなく、闇へと吸い込まれていく。
創造には時間がかかる。暇をつぶすためにも、与えられた記憶を振り返ることにした。
———
ふと零れたその言葉を拾ったのは自分だけだった。
「ははっ、どこかの
笑ったのも自分だけだった。
任された役目的にも、多くを見て擦り切れやすいのが「生」と「死」。
どちらとも神の権能にも一歩踏み入るものであり、ゆえに関わることも多かった。
「ふん、思わず笑ってしまうよ。君たちがその言葉にどれほど詩的で美しい幻想を抱いているのか、想像するだけで胸が痛むね。」
睨みつけてくる「死」を無視して続ける。
「私は生を司る天使だ。輝き、蠢き、溢れ出る命そのものを愛おしむ者だ。だからこそ、心底から否定させてもらうとしよう。君はその言葉を、努力の果ての美しい結末、苦難を乗り越えた価値ある変生だと疑いなく捉えているんだろう?」
不機嫌なのだろうが、一度だけ「死」は頷いた。
互いに司るものは相反するとはいえ、始まりを与える「生」と終わりを与える「死」では戦いにすらならない。
まさか殺すことはないだろうが、八つ当たりで翼や体の一部分を失うのは勘弁したい。
いくら神の作り上げたこの体は、必要のない痛みや疲れを感じる機能を持っているのだから。
「だが、それは命の躍動に対するただの欺瞞だ。」
一つ、指を立てる。
「まず、なぜ泥を這い、葉を食む毛虫が"醜い"などと断定されねばならない?弛まず努力し、苦労することだけが「生」の価値だとでも?冗談じゃない。命とは、ただ息をし、存在している瞬間ごとに輝きを放っているものだ。」
ここまでは理解できたか?と視線で問う。
頷いたのを見て続ける。
「泥に塗れた毛虫の生への執着、貪欲なまでの生命力—――それこそが「生」の最も美しく本質的な脈動。君はそれを"醜い"と蔑み、"苦労の過程"としてしか評価できないのか?そうじゃないだろう。」
「死」は愚かではない。
少なくとも、機械的に自分を殺して停滞する同胞より上に立っており、それを理解したうえで彼らを同胞と呼び、仲間意識を持っている賢者だ。
人間がすべて「死」のように在れるのならと思うこともあるが……無理な話と分かっている。
「硬い殻に身を包み、変わることを強制され、元の泥臭い生命力を捨て去って。———ただ誰かに愛でられるための優雅な羽を手に入れる。それは本当に「生きている」と言えるのか?」
「動きを止め、個を溶かし、ただ結果としての美しさだけを誇る姿は、私に言わせれば動く標本――そう、死の静寂、虚無と何ら変わりない。」
馬鹿げている。
変わること、消えること、完結して美しい思い出になること。
どうしてそうやって、命を綺麗な物語に纏めたがる?
生とはもっと醜悪で、無秩序で、終わりなく溢れ続ける泥臭いエネルギーの横溢であるべきだ。
「蝶になって羽ばたくことが生の頂点なんかじゃない。毛虫として葉を食い荒らし、泥にまみれて蠢き続けるその瞬間こそが、生の絶頂なのだと私は断言する。美しくなるために命を溶かすな。変化という名の死に逃げるな。君が毛虫であるなら、その醜さと生々しい生命力を抱えたまま、命を謳歌し続けたらどうだ?」
得意げに、言い切ったという満足感とともに「死」を見た。
「死」は、どこか悲しそうに、微笑を持って語りかけてくる。
語りかけているのは、果たして自分にだろうか。
怖気づく体を無理やり前へと送り、胸を張る。
「っ、そうだ。諦めるべきだ。手に入れたとしても、分不相応でしかないだろう。」
その目は開かれていない。
絶
今も尚笑みを浮かべ続ける「死」に興味が湧き、疑問を抱くのは不自然ではなかった。
「君は、何に縋っている。」
「……ははっ。なんだ、ちゃんと狂ってるじゃないか。」
その言葉が放たれると同時に、「死」の手には一本の剣が握られて。
「支、配と…戦争の……!」
神話にも語られる支配と戦争、飢餓と病を司る剣。
それが正確に自分の
末端から力が吸い取られていくような、独特で不快な感覚。
刃が抜かれた頃には、もう何も見えなかった。
そんな言葉が、耳に入った気がした。
———
「まさか、それで自分を不死にするなんてねぇ。」
虚無の海より魂を引き上げ終わり、大地をすくい取って掻き混ぜる。
神の御業には程遠く、しかし着実に空間が生まれていく。
これからは勝手に育っていくだろう。見届け、世界から預かった2つの魂を眺める。
「ま、結果として死を望んだらしいけど……。」
煌めく2つの魂は、互いに結びつき合っていた。
足りないものを補うように、求め合っている。
「はぁ〜あ、話し相手くらい作ってくれてもよかったのに。」
暗闇は今も変わらず、独り言を飲み込んでいた。
実は前準備のために結構やんちゃしてた人