突然だが推しに認知されると言う事象をご存知だろうか? 物事的には読んで字の如く多い憧れ的存在から認識されているといった状況を示す。
さて、なんでこんな話をしたかと言えば、現行系で僕がそうなっているからですね。
推しがね、お渡し会やるって言うからいつも通りニコニコしながら参加して、いつも通り麗しい推しを拝んで、タジタジに感想伝えて、ホクホクしながら会場を後にしたんですよ。
そんで、近場のファミレスでご飯食べてからいざお家に帰ろうとしたら、イベント終わりの私服の推しとバッタリ会っちゃったんですよね。この時点で死罪なんですけども、なんと言うことでしょう。目が合った瞬間『あ、今日来てくれてたよね?』と笑いかけながら言われたんですよ。これは、極刑と、言わざるを、得ない……ね。全国百万いるかどうかは定かでは無いが同志諸君、本当に申し訳ない……石でも罵声でもロンギヌスでも何投げてもいいよ。それくらいのことだとは理解しておりますので。あ、こら! 手札誘発を投げるんじゃあ無い! チェーンしてう○ら投げるぞ!
……とまあ、一旦それは後回しにして。今現在のこの状況をどう打開するかを考えなくてはいけない。え、どんな状況かって? 真っ隣を推しが歩いてるよ。
「キミ、今日みたいなお渡し会以外にも良くsumimiのイベントとかも来てくれてるよね?」
視線だけを推しの方に向けていたらいちげきひっさつ級の台詞が飛んできました。え、なに? 僕は今日殺されるの? 推しの手で? やめろぉ、死にたくない……死にたくなーい! 死んじゃったら、
というか、そこまで認知されてるの? 本当に死ぬしかなくなってしまったのだが?
「そう、ですね……」
「まなちゃんの事が好きなの?」
不思議そうに尋ねてくる我が……否、我らが推しこと『
「な、なんて言ったら良いんですかね……sumimiが好きというか、
答えに困った僕の返答がこれ。歯切れが悪過ぎる。流石に自分自身でもドン引きするレベルよ? 一歩間違えば不審者よ……もう不審者だった。ドナドナされないか怖くなって来たよ。
「そっか。ありがとう」
「いえ、そんな……」
「あの、さ。悪いなとは思うんだけど、もう少し訊いてもいい?」
「……な、何をでしょうか?」
神妙な面持ちで尋ねてくる三角さんを前に固唾を呑む。一体、どんな質問をされるんだ。想像がつかな過ぎて怖いです。とりあえず身構えておこう。死神もう来てるけど。
「sumimiの何処が好き?」
薮から
「好きなところですか。そうですね」
問われたことについて思考を切り替えていく。sumimiの好きなところね……。いざ問われてみると言語化するのが難しいな。好きって感情を『好き』で一括りにしちゃっててあまり紐解いたこととかないから余計にそう感じる。
「純田さんの明るく三角さんを引っ張っていってるように見えるところとか、三角さんの引っ張られているように見えて、しっかりと純田さんのことを支えているところとか……なんて言えば良いのかな。互いに互いを支え合って、自分達を表現しているところ、ですね」
言の葉を紡ぎながら合わせて自身の思考を整理していく。結果としてとてもくどい答えが出ました。推しを前でなんてことを……この後家じゃなくて海に行って入水しよ。あ、sumimiっていうのは三角さんと純田まなさんが組んでる音楽ユニットの事です。ビジュもお歌もお強くて、ね。『Sweet Escape』って曲が僕のオススメです。
「お互いに支え合っているところ、か」
「すいません、なんか
居た堪れなくなった結果、謝罪の言葉を口にした僕。本当にどうしてこんなことになってしまったのか。しっかりと答えを纏めきれなかった所に原因がありそうですね。
責任を取って腹を切りますので、どなたか介錯をしてくださる優しいお方はいらっしゃいませんかね? 居たらお声がけいただけますと……報酬はご用意しますので。
「ううん。そんな事ないよ。こうして意見をもらえるだけでも貴重だから、ありがとう」
切腹の覚悟をしている手前、三角さんが謝意と共に笑顔を向けてくれる。ああ、お止めになってくださいまし。そんな素敵な笑顔を向けられたら、僕の情緒が焼き切れてしまう! ……ゴッド○ェニックスされてる気分なんだよね実際。それから、その笑顔は僕単体じゃなくてsumimiとか三角さんのこと好きな人達全員に向けて欲しい。はい。
「いえ、そんな……」
「そう言えばキミの名前、聞いてなかったね」
「な、名乗る程の者では……」
三角さんの言葉に咄嗟にそう返していた僕。推しに名乗るなんてとんでも無いし、名前を知られないままで生きて行きたいんだけど? ここから入れる保険とかどっかにありやせんか? 無い? だったら僕が作るしかないようですね……どうやって?
「そんなこと言わずにさ。これも何かの『縁』だろうから」
助かる方法がないか模索していたら三角さんから追い討ちいただきました。その言い方されちゃうと、断りようが無くなってしまうんですよ。うん。腹を括るか。
「
意を決して自身の名前を告げる。なんか、推しに名乗るってとても変な感覚ですね。なんだこの気持ち悪りぃ感覚は……と、僕の中にいる戦争大好きな傭兵さんも言ってますからね。はい。実際に推しから対話を仕掛けられている様な状況なので、対話空間にいた向こう方とシチュエーションとかも似通ってるよなって錯覚してみたり。
「キョウヤ君、か。どんな字書くの?」
「苗字は数字の八に空の雲と書いて八雲。名前は響く夜で響夜です」
名前の記し方まで問われたので嘘偽りなく答えました。個人情報ってこんなポンポン開示して良い物だったのだろうか? いや、ダメじゃ無いかな……。
「カッコいいね」
「ありがとう、ございます」
何故か推しに名前がカッコいいと褒められました。やっぱ夢だろこれ。推しが僕の名前を褒めるわけないだろ良い加減にしろ。じゃあそろそろ夢から醒めてもらって……起きろ起きろ。起きないなぁ? やっぱ首を切らなきゃダメかしら?
そんな風に思慮に耽っていたら、三角さんが不思議そうな表情を浮かべながら、覗き込むようにしてこちらを見ていました。
「どうかしたの?」
「いえなんでも」
首を横に振りながら彼女からの問いに答える。考え事しすぎて何かあったのかと聞かれちゃったじゃないですかちょっと。だから推しの前で軽率なことはするなとアレほど……。
「ねぇ、この後って何か予定ある?」
「よ、予定……ですか?」
「これと言ったものはありませんが……」
「じゃあ、ちょっとお茶でもしていかない? 呼び止めちゃったお詫び、って言うと変かもだけど」
微笑しながらの推しがもたらした提案に僕の意識、情緒、思考、感覚、その全てが停止してしまう。そう、錯覚したくらいには驚愕した。ホンマに、ホンマになんで? どうして推しがこんなに構ってきてくれるの?
「それは、全然、構わないのですが……寧ろ良いんですか? プライベートのタイミングなのに……」
「プライベート、だからだよ?」
「……それは、どういう?」
三角さんの口から飛び出した言葉を受け思わず足を止めた。プライベートだからって……どう言う意味なんだ? 自身のファンを語る人間に、
すると、数歩先へと進んでいた三角さんが足を止めたかと思えば、こちらへと振り返り、言の葉を紡ぐ。
「私個人の時間なんだから、私がどこで誰と何をするのも私の自由、でしょ?」
その言葉と共に眩く笑う三角さん。ああ、推しの満面の
「それは、確かに……三角さんの言う通りか、と」
「でしょ? 私はプライベートでキミとお茶をしたいなと思ったから誘った。これで納得……してもらえたかな?」
少し恥ずかしそうに問いかけてくる三角さん。あら、三角さんの恥じらった様な表情って初めて見たかもです。うん、記憶を消すために己の生を断とう。最速で墓場に持ち込む必要が出てきたみたいだから。
「納得……は、しました。本当に僕で、良いのですか?」
「響夜君だから誘ってるんだよ?」
「はわわわ……」
殿堂入り不可避の返答をいただき慌てふためく僕。三角さん、それは禁止カード。オタクって生き物は推しからのファンサですら死ぬ存在だってのに、その一言は死を超えて塵になっちゃうよ?
というか、さ。ここまで言われちゃったら引き下がれないよね……断っちゃうのも凄く申し訳ないし。教えてくれ団長……僕はあと何回皆に謝罪すればいい……僕はあと何回、己の命を差し出せばいい? ゼロは何も答えてはくれない……。はい。
「そ、そういうことなら、是非喜んで……」
「ありがとう」
本日何度目かの眩い御尊顔を前に網膜が焼かれたような感覚になる。激しい光による失明の時って、こんな感じなのかな。でもこれ、どっちかっていうと目潰しの呪文喰らった赤スーツの大佐殿なのでは……?
「気になるカフェがあるんだけど、そこでもいいかな?」
「全然全然。どこへでもお供致します」
最大限謙りながら応答した僕は三角さんと共に、彼女の行きたいというお店へと向かっていくのだった。因みにこの後、推しとサシで、しかも向き合ってお茶した結果、いつどうやって帰ったのかも分からないぐらいには脳死してしまったのだが、それはまた別の機会にでも……。
閲覧ありがとうございました。
以下オリキャラのプロフィール↓
名前:八雲響夜
所属:私立音羽学院
学年:高一
身長:164cm
音羽学院に通う一年生。sumimiの大ファンであり、初華及びまなの追っかけをやっている。
音羽学院の校則が少し緩いこともあり、アルバイトをいくつか掛け持ちしながら追っかけのための資金を作っている。
ひょんなことから初華とプライベートであってしまい関わりを持つことに。
SNSや活動の際に用するハンドルネームは『ヒビキ』。
豊川祥子の父方の従兄弟。