青い空、白い雲、文句なしの晴天ッ! 最高のお天気の下、歩き回っている平々凡々野郎こと八雲響夜ですどうも。今日はですね、先日三角さんと行った……行ってしまったカフェに足を運ぼうかと思ってるんですけども、どこにあったお店なのか全然思い出せないんですよね。半分以上記憶がないから。うん。それでまあ取り敢えず、中目黒まで来たんですわ。けど、どこに行っていいのか分からなくて
「どの辺だったかなあのお店……」
携帯のマップアプリと睨めっこしながら右往左往していくものの、一向に辿り着けそうな気配はない。当たり前っちゃ当たり前。これが所謂、残当って奴にあたるのだろう。僕が愚かなのは今始まったことではないけれども。
「あの」
「はい——」
「やっぱり響夜君だった」
「み、み、み、三角s……」
目の前の人物の名前を叫び掛けた僕だったが、咄嗟に両の手で口を塞ぎ己の声を強引に遮った。危ねぇ……叫んでたら周りの人たちに三角さんのことバラしちゃうところだったよ。そんなことになった日には土下座して自刃して晒し首にならないとだね。
「こ、こんな所で何を……?」
「カフェで一休みしようかなと思って。響夜君は?」
なんとか気持ちを飲み込んでから、ここで出会った理由を問いかけてみるとなんとまあびっくり、彼女の方もカフェに行こうとしていたそうです。なんてこったパンナコッタ。どうやら何か選択を間違えてしまったようですね。
「あ、えと、僕は先日行ったカフェにもう一度行きたいなと思って……」
「へー。奇遇だね」
驚きの色を携えながら返答してくれる三角さん。うん、今日も推しの顔がいい。冗談抜きで良い……じゃなくてさぁ、奇遇だって? 僕的には奇遇というより奇妙とか数奇だと思うんだけど? なんかこうさ、突然石仮面にまつわる冒険譚にぶち込まれそうな感じしない? しないよね、そうだよね……。
「そうかも、ですね。ただ……」
「ただ?」
「その、お店の場所が分からなくて……」
相槌を打ってから、自身が迷子であったことを打ち明ける。さっきも言ったけど、お店の場所が分からなくて詰んでたんですよね。今日の僕の
「なら、一緒に行かない?」
「はへっ……?」
「もう一度案内するよ」
推しの方から飛び出した『もう一度案内するよ』という提案。それ即ち、先日の出来事が夢ではなく現実であったということの裏付けであり、同時に推しがとても優しいことの証明でもある。ああ、こんな輩には勿体無いくらいのお言葉ですよ……是非とも純田さんとか他の方に向けて欲しいものですよ。ええ。
「けど……」
「私がそうしたいと思った事だから、そんな気にしないでよ?」
「あばばば……」
脳の処理が追いつかず変な声をこぼしてしまう。人としての尊厳は無くなったな……。僕には元々無い気はしてるけども。あー、何かの間違いで爆弾作れる
「ほ、本当に良いんですか?」
「良いよ」
戸惑い気味に投げた僕の問い掛けに即答する三角さん。間髪入れずって言うのは本当にこう言うことなんですね……ってそうじゃない!? 即答ですか? なんで即答しちゃったの!? 三角さんの決断が早い方って証明と言えばそうなんだけどさ!?
「で、では……お言葉に甘えて……」
「うん、行こっか」
柔い笑みを向けてくれた三角さんに心を射抜かれつつ、彼女と共に先日行ったカフェを目指していくこととなった。この状況、なんか変……節度なーい! 八雲ぉ! 節度
てな感じで内心にて大絶叫を決めている内に、カフェに辿り着きました。因みに今回は順路に関してはきっちり頭に収めることができました。いやー、こんなねなんぼもあったら困るような状況ですからね! 二度と繰り返さないためにも必要なことですから。ええ。
「無事に、着けましたね……」
「そうだね」
軽いやりとりをしながらお店の扉をくぐり、席へと案内される。なんかまた推しと同席している気がするけど、多分気のせい。これは夢。どこからどう見ても夢。結構リアルで長めの夢だよ。うん。
「私はコーヒーにしようかな。響夜君はどうする?」
「え、あー……紅茶にしようかな。この前来た時はコーヒーだったので」
先日飲んだものとは違うものを頼む、所謂『冒険』をしてみたいと思った僕は紅茶を所望していく。紅茶はいいよ……香りがいろんな感覚を刺激してくれる。後は味変なんかも結構しやすいからね。
「分かった。すいませーん」
こちらの注文内容を訊いた後、店員さんを呼んでくれる三角さん。その心遣いに僕が泣いた。泣きますよこんなの。ああ、推しの優しさが身と心に染みる……。
「このブレンドコーヒーを一つ。響夜君は?」
「僕は、アッサムティーをホットでお願いします」
「かしこまりました。ブレンドコーヒーとアッサムティーのホットでお間違い無いでしょうか」
店員さんが繰り返した注文内容を聞き、僕と三角さんは頷く。間違いがなかったのでね。そんな僕達の手前、一礼した店員さんはお店の奥へと消えていく。今の人、すごく綺麗なお辞儀してたな……感服してしまうといいますか、魅入ってしまうというか。
「今日、どうしてここに来たかったの?」
綺麗なお辞儀を思い返していたら三角さんから問いかけられました。どうしてここにって……ああ、そうか。三角さんには理由をお話ししていませんでしたもんね。
「この前頂いたコーヒーが美味しかったもので、他の飲み物も頂いたみたいなって思ったんです」
あとは雰囲気がとても良かったので、と付け加えるながら話していく。お店の雰囲気もとても良くて、窓際の席とかマジで良き。お外眺めながら優雅にティータイム的な感じで。
「気に入ってもらえたみたいです良かった」
そう言ってこれまた柔らかな笑みを浮かべる三角さん。ねぇ、こんなにファンサみたいなの貰っちゃってていいの? そろそろ体が耐えられなくて爆発四散するよ?
「そう、ですね……」
「ふふっ。かく言う私も、ここにくるのは二回目だけどね」
「……そうなんでしたっけ?」
飛び出してきた三角さんの言葉に思わず反応する。え、あれ、三角さんも二回目なんだっけ? そうなんだっけ? そもそも前回来た時なんて言われたっけ? ダメだ、何も思い出せない……。
「うん。前々から気になってたお店だったんだけど、前回響夜君と一緒に来たのが初めてだよ」
「そう、でしたか」
返答をもらった僕は内心項垂れる。なんてこったい……前回一緒に来たのが初来店だったのか。で、その初来店の場のみならず二回目の来店でも同席してしまったのか僕は。どうしてくれようかこの愚か者を。全国百万の同志諸君、煮るなり焼くなら好きにしてくれたまえ。何事であろうと甘んじて受け入れる所存ですから。
「あ、そうだ。響夜君、連絡先交換しない?」
「……へっ?」
自身への糾弾を行なっていたところ、三角さんから爆弾発言が飛び出ました。今なんて言いましたこの方? 連絡先を交換しようって言わなかった? 気のせいだよね? 気のせいだな。
「連絡先、ですか?」
「うん。無理にとは言わないけど、交換できたらなー、と思って」
三角さんの返しを聞いて内心で額を抑える。アッ、スゥー……聞き間違いじゃなかった。と言うかその聞き方されたら断れないよ三角さん? どうしたら良い本当に? なんで答えたら良い? あとどうしたらこの状態から助かりますか? え、助からない? そうだよね。オタワ。
「僕は構わないどころか、嬉しくはありますけど……い、良いんですか?」
「うん。QRコードでいい?」
「あっ、はい……」
頭の回転がストップしてしまった僕は、そのまま流れに身を任せて三角さんと連絡先を交換した。何を四天王? 本当に何をしてくれちゃってるの? 明日以降の僕の人生は無いなってしまいましたよ?
「お待たせしました。ブレンドコーヒーとアッサムティーのホットです」
やらかしへの詰問をしていると、店員さんが飲み物を運んできてくれ、三角さんの前にコーヒーカップが、僕の前にはポットとからのティーカップが置かれた。ティーポット方式、なのか。
先までとは打って変わって内心にて感嘆しつつの僕は、ティーポットの中身をカップへと移していく。途端、カップから上がってくる甘い香りが鼻腔をくすぐる。とても良い。
「いただきます」
感謝の意を呟きながら、カップを口元に運ぶ。直後、口腔内にアッサムティー特有の渋みの少ない味わいが染み渡っていく。美味い……紅茶特有の香りの中に
「ねぇ、少し貰ってみてもいい?」
「あ、はい、どうぞ」
紅茶の味わいを堪能していたら、三角さんから飲んでみたいとご要望が飛んで参りました。推しからのお願いって基本的に断れないんだよね。今日はそれを死ぬ程身に染みて感じているんですけど。
なんて考えていたら『ありがとう』と言って、三角さんが僕の手元にあるカップに手を伸ばしてくるではないですか。はて……?
疑問に思いつつも反射的にカップを差し出したところ、受け取った三角さんがそのカップの中身に口をつけました。……はい?
「……ッ」
目の前で起こった光景に脳の理解が追いつかなくなってしまう僕。今、何が起こった……。三角さんが僕の使ってたカップにお口をつけた? まさかまさか……まさかね?
「あ、これ美味しいね」
「そう……ですね」
なんとか相槌を打った僕であったが、相変わらず思考も視点も定まらない。本当に何? 何なのこれ? どうなってるの? もう何もわからないんだけど? アレだな、一旦場を離れよう。
「あの、すみません、少しお手洗いに行って来ます」
「うん、いってらっしゃい」
軽いお見送りを受けながらお手洗いへ向かう。そうして個室に滑り込んだところで大きく息を吐く。ヤバい、とにかくヤバい。鼓動が異常に速くなってるぐらいにはヤバい。あとは変な汗も吹き出してきた。なんなんだ……本当にどう言うことなんだ。何がどうしてああなった。
「もう助からないゾ……」
自問自答の末、己が助からないことを悟り言葉を漏らす。……はぁー。どうやって死のう。どうやったら周りに迷惑かけないで死ねるだろうか。もう入水するしかないかな。神田川でいいかな。うん。大きく項垂れた僕は、この後入水しようと固く誓うのであった。
因みにここから後の記憶は全くなくて、気がついたら自室のベットの上で横たわっていたのはここだけの話。
閲覧ありがとうございました。
(恐らくあるであろう)次回の更新でお会いしましょう。