デメテル・ファミリアの団長   作:Mr.♟️

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新規事業と屋台

 

今日から、ヘラとアルフィアには『じゃが丸くん』の屋台販売をお願いすることになった。

 

当然、僕も様子を見に一緒について行くつもりだったんだけど──リヴェリアに『お前は来なくてもいい』と言われてしまった。

 

そのため、僕は有難くファミリアの拠点に残ることにしたのだ。

 

それで、ポッカリと予定が空いた僕が執務室で何をしているのかと言うと、ファミリアの次なる新規事業の構想を練っている。

 

なぜこれほどまでに事業拡大を急ぐのかといえば、僕はギルドからあまり好かれていないから、できるだけオラリオ内での影響力を高め、足場を盤石にしておきたいからだ。

 

え、なぜ好かれてないのかって?

 

まあ、これまでギルドとは色々と揉めに揉めてきたからね。特例扱いの徴税額の件は言うまでもないけど、農地拡大のための土地購入については、本当に酷い有様だった。

 

オラリオの土地をあくまで貸与契約にして利権を握り続けたいギルド側と、完全に買い取って無駄な費用を抑えたかった僕。

 

互いの意見が真っ向から衝突し、交渉は完全に平行線を辿った。

 

最終的にあの時は、僕が『農地を拡大できないなら今の面積で生産を止めるだけなので、そこまで言うならもういいです』と席を立った途端、向こうが血相を変えて慌てて売ってくれたんだよね。

 

それでも、足元を見られて相場の倍近い金額を払わされたけど。

 

そういったことがあったからこそ、影響力を強める必要がある。自分の身を守るためにも、ファミリアの安全を確保するためにも。

 

「金貸し、カジノ、酒造、香水、魔導書販売。んー、次は何をしようかな」

 

机の上に羊皮紙を広げ、羽ペンを回しながら独り言をこぼす。

 

個人的には金貸しとカジノが圧倒的に利回りが良さそうでやりたいんだけど、どちらも人の破滅に密接に関わっている産業になる。

 

うちの主神であるデメテル様は、そういう血も涙もない搾取を嫌うだろうから、この2つは真っ先に除外しないといけない。

 

勿体ないけど。あー......本当に勿体ない。

 

僕がカジノをやらなくても、結局そういう人間はオラリオのどこかの歓楽街で勝手に破滅しているんだから、全体的にで見れば結果は変わらないんだけど......仕方ない。

 

デメテル様を悲しませてまでやることではないからね。お金よりも、デメテル様の笑顔の方がずっと大事だ。

 

となると、残ったのは酒造と香水、そして魔導書販売か。

 

いや、香水の調合と魔導書作成は、僕自身が全ての過程を行わないとクオリティが担保できないだろうから無しだ。

 

僕個人に負担が偏るのは組織として不健全すぎる。

 

そうなると、自然と酒造しか残らないけど......まあ、問題ないか。

 

お酒も野菜と全く同じシステムで等級をつけて売り出せば、間違いなくデメテル・ファミリアの新たな巨大な収入の柱になってくれる。

 

果実酒でも麦酒でも、既存の酒造ファミリアの製品など容易く駆逐できるはずだ。

 

幸いにも、最大の競合になり得るソーマ・ファミリアは、オラリオ内での素行も悪く、色々と黒い噂が絶えない。

 

彼らが何か問題を起こしたタイミングを見計らって、それを大義名分として原材料の卸売りを完全に停止してしまえばいい。

 

供給がなくなった市場にうちの酒を投入すれば、市場は一瞬でひっくり返る。

 

「──うん、いける。ソーマ・ファミリアができるだけ早く問題を起こすことを祈ってようーっと」

 

黒い笑みを浮かべながら、僕は羊皮紙に酒造計画の骨組みを書き込んでいく。

 

やろうと思った時に、すぐにいつでも動かせるように、先に任せる団員を選抜して、基礎知識を学ばせておこうか。

 

そんな風に、ファミリアの未来と莫大な利益に思いを馳せていた、その時だった。

 

バンッ!

 

執務室の扉が乱暴に開かれ、血相を変えた団員の一人が入ってきた。

 

「──ライ様!リヴェリア様と、アルフィア様が街中で一触即発の状況ですっ!」

 

「......」

 

団員の悲痛な叫び声を聞いて、僕は羽ペンを置き、深く、深い溜め息を吐いた。

 

なんでそうなるんだろうか。

 

ただじゃが丸くんを売りに行くだけで、どうして一触即発になるのか。

 

放置しておいたとしても、多分すぐに終わる。後衛魔術師のリヴェリアとアルフィアでは相性が悪すぎる。

 

 

はぁ。リヴェリアが無駄に傷つかないように急ごうか。

 

 

「......間に合うかな?」

 

僕は頭を抱えながら立ち上がり、重い足取りで執務室を後にした。

 


 

「説明は以上だ。分からないことはあるか?」

 

「問題ない。それで、ライ・フェンネルは後から様子見には来るのか?」

 

私の問いに対し、一瞬だけ口ごもり視線を逸らした。

 

「......来ない。彼は忙しいのだ」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥でチリリと不快な火花が散った。

 

せっかく、休憩時間にでも彼と一緒にこの騒がしい街を歩けると思っていたのに。

 

私がこの手で『じゃが丸くん』とやらを完璧に揚げる姿を彼に見せて、驚かせたかったのに。

 

「......そうか。お前が無理やり引き離したのだろう?余裕のない女だ」

 

確証はないけど、その可能性が高い。前に私とライ・フェンネルが仲つむまじくしている時にクワをへし折っていた。

 

私が鼻で笑うと、リヴェリアの瞳がスッと細められ、明確な敵意が宿った。

 

「なんだと?」

 

「事実を言ったまでだ。お前は彼が私に惹かれるのを恐れている。だから、姑息な手を使って彼を拠点に縛り付けた。余裕のない女と呼んで何が悪い」

 

「貴様......っ!」

 

リヴェリアが手にした杖を強く握りしめる。

 

そんな威圧で私が怯むはずもない。Lv.5に上がったばかりの魔法使いがどれほど吠えようと、私の前では児戯にも等しい。

 

「あやつが来ないのであれば、早々に売りきって今日の仕事を終わらせるまでだ。ハイエルフ、貴様はどことでも消えるがいい」

 

「売り切れるはずがないだろう。戦闘ならいざ知らず、料理まで完璧とでも言うつもりか。思い上がりもここまで来ると滑稽なものだな」

 

怒りを押し殺し、冷たい笑みを浮かべて私を睨み返している。

 

「ならば勝負するか?どちらがこの『じゃが丸くん』を多く売り上げるか」

 

「良いだろう。戦闘しかしてこなかったお前に、何事も思い通りに行くわけではないと思い知らせてやる」

 

「できるものなら──やってみろ」

 

こうして、私たちの間で行われる売上対決の火蓋が切って落とされた。

 

急遽屋台のすぐ向かい側に、もう一つの屋台を設置させた。

 

「存分にやるがいい、アルフィア。勝負事である以上、敗北は許さん。負けたら妾が選んだ服を着る1日人形になってもらうぞ」

 

ヘラは面白がって椅子を屋台の奥に持ち込み、足を組んで見物を決め込んでいる。

 

私は腕まくりをし、目の前に積まれた材料と調理器具に向き合った。

 

『才能の権化』

 

その二つ名は、戦闘においてのみ発揮されるものではない。

 

あらゆる技術、あらゆる動作を一度見ただけで瞬時に理解し、己のものとする。それが私の才能だ。スキルなんてものではなく、生まれ持った才能。

 

見本は先程1度見せてもらった。それで充分だ。

 

 

タタタタタタタタッ!

 

私の手元で包丁が目にも留まらぬ速さで踊り、ジャガイモが完璧なミンチ状になっていく。

 

「な、なんだあの速さは......!?」

 

「見えないぞ!手がブレている!」

 

通りすがりの冒険者たちが足を止め、私の調理風景を驚愕の目で見つめている。

 

沸騰する油の温度を肌で感じ取り、最適な瞬間に衣をつけたジャガイモを投入する。

 

パチパチという心地よい音と共に、きつね色に輝くじゃが丸くんが次々と揚がっていく。

 

外はサクサク、中はホクホク。ジャガイモのポテンシャルを120パーセント引き出した、まさに至高の逸品だ。

 

「完璧だ。さあ、買うがいい」

 

私は出来上がったじゃが丸くんを山のように積み上げ、集まってきた客たちに向けて冷徹な視線を放った。

 

しかし。

 

「............」

 

「............」

 

誰一人として、買おうとしない。

 

冒険者たちは私の凄まじい包丁捌きと、美しく揚がったじゃが丸くんに生唾を飲み込んではいるものの、なぜか一歩引いたまま近寄ってこないのだ。

 

「......なぜ買わない。味が怖いのか?」

 

私が少しだけ眉をひそめて問いかけると、最前列にいたドワーフの男がヒィッと短い悲鳴を上げた。

 

「い、いや!その、ヘラ・ファミリアの幹部が作った料理は、めっちゃ怖くて......毒とか入ってそう......!」

 

「なんだと?」

 

「す、すいません!命だけは!」

 

ドワーフの男は脱兎の如く逃げ出し、他の客たちも蜘蛛の子を散らすように去ってしまった。

 

......馬鹿な。私の完璧な調理技術をもってしても、接客というものがこれほど難しいとは。

 

いや、私が悪いのではない。オラリオの住人どもの肝が小さすぎるのだ。誰が毒など入れるか。

 

一方、向かい側のリヴェリアの屋台は、異様な熱気に包まれていた。

 

「リヴェリア様が、芋を揚げている......!?」

 

「おお、なんという神々しいお姿!王族たるあの方が、我々のために自ら額に汗して......!」

 

「私に!私に10個売ってください!」

 

「俺は20個です!リヴェリア様の揚げた芋なら、何個でも買います」

 

どこからともなく聞きつけたのか、オラリオ中のエルフたちが大挙して押し寄せ、屋台の前に長蛇の列を作っていた。

 

リヴェリアは引きつった笑顔を浮かべながらも、必死にじゃが丸くんを袋に詰めて渡している。

 

「あ、ありがとう.....」

 

狂乱とも呼べるエルフたちの崇拝ぶりにより、リヴェリアの屋台のじゃが丸くんは飛ぶように売れていく。

 

彼女の調理技術は私の足元にも及ばないというのに、血筋と威光だけでこれほどの売上を叩き出すとは。

 

「くっ......姑息な真似を」

 

私がギリッと奥歯を噛み締めていると、背後から深いため息が聞こえた。

 

「ええい、もどかしい!アルフィアの完璧なじゃが丸くんが売れぬとは、このオラリオの住人は節穴か!」

 

椅子から立ち上がったヘラ様が、苛立たしげに腕を組んで屋台の前に出てきた。

 

「アルフィア、お前は調理に専念しろ。客引きは妾がやってやる」

 

「ヘラ......?客引きなど出来るのか?」

 

「案ずるな。妾なりの『営業』というものを見せてやろう」

 

ヘラはそう言うと、通りを歩いていた人の良さそうな男神をガシッと鷲掴みにした。

 

「ひゃんっ!?な、いきなり......って、へ、ヘラ!?」

 

「おい、そこの小神。見慣れぬ顔だが、どこのファミリアだ」

 

「えっ、あ、私は.....私はただの通りすがりの......!」

 

「どうでも良い。あそこのじゃが丸くんを10個......いや、100個買え。さもなくば、お前のファミリアを明日この街から物理的に消し去ってやる」

 

ヘラ様は美しい顔に極上の笑みを浮かべながら、その細い腕で男神の首をギリギリと締め上げた。

 

「ひぃぃぃっ!?か、買います!買わせていただきますぅぅ!」

 

「よし、現金で払え。ツケは許さんぞ。お前のファミリアに資金があるのは知っている」

 

男神は涙目で革袋から大量のヴァリスを取り出し、じゃが丸くんを受け取るなりすぐ、私の屋台に叩きつけるようにして逃げていった。

 

「ふふん、見たかアルフィア。これが商売の基本だ。さあ、次だ次!」

 

ヘラ様は次々と通りすがりの神々や、身なりの良い冒険者たちを捕まえては、笑顔で死の宣告を行い、強制的にじゃが丸くんを売りつけていく。

 

「そこのお前!買わねばバベルの窓から叩き落とすぞ!」

 

「買いますぅぅ!」

 

「おい貴様!まさか、買わぬというのか!」

 

「全額出します!許してくださいぃぃ!」

 

前代未聞のチート営業。

 

オラリオの頂点に君臨する最凶の女神に脅されて、断れる者などいるはずがない。

 

私の屋台の売上も、リヴェリアに負けず劣らずの凄まじい勢いで爆発的に伸びていった。

 

「......商売とは、これほどまでに野蛮なものだったのか」

 

私は無心でじゃが丸くんを揚げ続けながら、オラリオの闇の深さを実感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夕刻。

 

両者の屋台に積まれていた膨大な量の食材が、ついに完全に尽きた。

 

私たちは屋台を閉め、互いの売上が入った袋を前にして睨み合った。

 

「結果発表だ。数えるがいい」

 

どこから呼んだのか、デメテル・ファミリアの団員がヘラの言葉に従い数え始める。

 

チャリン、チャリンという硬貨の音が響き渡り、やがて計算が終わった。

 

「......報告します。リヴェリア様の売上、200万ヴァリス!対するアルフィア様の売上......200万ヴァリス!同額です!」

 

 

 

「......引き分けだと?」

 

私は自分の耳を疑った。

 

「互いに売りきったのだから、そうなるのは当然だろう」

 

リヴェリアは冷たく言い放つが、その表情にも明らかな不満が浮かんでいた。

 

「だが......引き分けとは、不愉快極まりない」

 

「奇遇だな。私も全く同じ気持ちだ」

 

バチッ、と。

 

私とリヴェリアの視線が交錯し、目に見えない火花が散った。

 

このまま終わるわけにはいかない。

 

「このまま終わるわけにはいかないな。決着は、別の方法でつけるべきだろう」

 

私は一歩前に踏み出し、威圧するように立ちはだかる。

 

「──やると言うのなら、応じよう」

 

リヴェリアも愛用の杖を構え、瞳を鋭く光らせた。

 

Lv.7の私と、Lv.5のハイエルフ。

 

私が負けるはずがない。できるだけ街を傷つけぬように終わらせてやろう。

 

「【福──】」

 

「【母なる大地の──】」

 

互いの唇が詠唱を紡ぎ始め、まさに魔法が放たれようとした、一触即発のその瞬間。

 

「ストォォォォップ!!」

 

耳を劈くような絶叫と共に、黒い影が私たちの間に割って入った。

 

大鎌を背負い、地面を砕きながら登場したライ・フェンネルが、両手を広げて立ちはだかっていた。

 

「勘弁してください。何がどうなって、戦闘になるんですか。リヴェリアも、応じたらダメでしょ」

 

ライの姿を見た瞬間、ドクン、と。胸の奥で、大きく鼓動が跳ねる。

 

 

 

 

「......ふん。お前が遅いから、少し退屈しのぎをしようとしていただけだ」

 

表面上はツンと顔を逸らし、冷たい態度をとってみせる。

 

「退屈しのぎで街を吹き飛ばさないでください。リヴェリアも、いつまで杖を構えてるの!」

 

「......っ、ライがそう言うなら、仕方ない」

 

ハイエルフ──リヴェリアも舌打ちをして杖を下ろしたが、私へ向ける牽制の視線は決して緩めていない。

 

「はぁ......ヘラ様も、止めてくださいよ。こんな騒ぎになったら、明日からここで屋台が出せなくなります。それどころか、じゃが丸くんの屋台全店舗不許可とか言いかねないんですから、ギルドは」

 

ライがヘラに抗議するが、ヘラはどこ吹く風とばかりに笑っている。

 

「良いではないか、活気があって。それに、売上は上々であったぞ。妾の営業手腕に感謝するのだな」

 

「え、そうなんですか?それは凄い」

 

近くにいるデメテル・ファミリアの団員が告げ口をしている。

 

「......後でギルドにクレームが行ったらどうするんですか。やっぱり、僕が最初からくるべきだったか.....」

 

頭を抱えてしゃがみ込むライを見て、私は思わず口元をほころばせた。

 

困っている姿も悪くない。他にも色々な表情を私に見せてくれるだろうか、ライ・フェンネル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラ〜イっ、明日は私とデートしましょうか」

 

「デートですか?まあ、デメテル様が望むのなら」

 

「あら、よかったわ。ライってば、最近全然構ってくれないから寂しかったのよ」

 

(明日もヘラとアルフィアのじゃが丸店舗が心配ではあるけど、リヴェリアが今度はしっかりとやってくれると信じよう)

 


 

アルフィアさん

 

 

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