【公園】
ある日のこと…
夢現(うつつ)野中ぼんやりとしたビジョンが映し出される。
それは、ごく普通の家庭に生まれた、ごく普通の少年が、ごく普通の休日を過ごしていた光景であった。
その中で、男の子とそのお父さんは、どうやらかけっこをしているようだ。
男の子
「あははは!わーい!」
男の子のお父さん
「はぁ、はぁ、お、お~い…!ちょ、ちょっと待ってくれよ~…!」
男の子
「やーい!お父さんののろまー!」
男の子のお父さん
「な!なんだと~?お、お父さんだって、本気を出せば…!」
男の子のお母さん
「ほら、あなた、あまりはしゃぐとまたぎっくり腰になりますよ。」
男の子
「あはは!お父さんのぎっくり腰ー!のろまでぎっくり腰なんだー!」
男の子のお父さん
「うっ…そんなんじゃへこたれないぞ~!待てー!お父さんが捕まえちゃうぞー!」
男の子
「わー!のろまにつかまる~!逃げろ~!」
男の子のお母さん
「ちょ、ちょっと!もう…これじゃあどっちが子供なんだか…。」
男の子は、満面の笑みを浮かべながら、お父さんを茶化しつつも、でも、とても幸せそうにかけっこをしている。
男の子のお父さん
「はぁっ…!はぁっ…!まっ、待てーい!」
それに対するお父さんも、若干の疲労の様子が伺い取れるものの、まるで童心に帰ったかのように男の子を追いかけることに夢中だ。
その様子は、自身の悩みなどを伺わせないほどに幸せそうである。
男の子のお母さん
「ふふふ、もう。」
そんな二人を傍観しているお母さんも、呆れつつも微笑ましそうに二人を見ている。
何気ないひと時ではあるが、これが一般的な幸せ。
…すごく羨ましい。
そして、どこか懐かしささえ感じる。
男の子
「あはははは!」
男の子のお父さん
「あっ!ちょっ!こら!?そっちは危ないぞ~!」
しかし、あれからしばらく様子を伺っていると、どうやら男の子が公園から飛び出して公道に出て行ってしまったようだ。
男の子のお母さん
「こら!あまり遠くに行かない!戻ってらっしゃい!」
すると、男の子はお母さんから注意を受けてしまう。
男の子
「え~、はぁ~い…。」
あちゃ~…怒られちゃった。と言わんとばかりに男の子は卑屈そうに返事を返し、公園の方向へ歩き出す。
男の子のお父さん
「捕まえちゃうぞ~!」
男の子
「わぁ~!捕まっちゃうぅ~!」
そして、お父さんに追い詰められた男の子は、そのままお父さんに捕まる…
…はずだった。
ブオォォォォォン…
男の子
「んぇ?」
トラックの運転手
「zzz…ん…?うわっ!うわあぁぁぁあ!?」
男の子のお父さん
「っ!?」
男の子のお母さん
「っ…!?」
突然ごく普通の幸せな光景に、大きな鉄の塊が突っ込んでくる。
そして、一瞬のうちに鉄の塊は男の子とぶつかり、どんっと鈍い音があたりに響く。
男の子のお母さん
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
…。
ーーー
ーー
ー
【来人宅】
来人
ガバッ!!「うわあぁぁぁぁぁぁ!?」
僕は驚いた拍子で飛び起きた。
しかし、まもなく先ほどのビジョンは夢であったと理解するまでにはそう時間がかからなかった。
来人
「またあの夢か…。」
“また”と出たように、僕は先ほどの夢を定期的に何度も見ては毎回こんな風に目を覚ます。
夢の結末は分かっているはずなのに、なぜかいつもこの夢を見るときに至っては驚いて目が覚めてしまう。
毎日見るわけではないにしろ、決して良い目覚めではない。
この夢は、果たして僕に何を伝えたいのか、僕とどのような関わりがあるのか。
全ての真相は、未だ分からぬままである。
しかし、そんなことを考える間もなく、時は朝の支度の時間を指していた。
来人
「6時20分か…。学校に行く用意をしないと…。」
そして、僕は時計を確認するなり体を起こして洗面所へと向かい、顔を洗って寝ぼけた頭を目覚めさせる。
来人
「…よしっ。」
やがて頭の寝癖をくしで整えると、制服に身を包み、朝ごはんの用意を始める。
今日の朝食の献立は焼いたトースト2枚にバターを塗ったものと、目玉焼きとパックで売っていたキャベツの千切り、
そして焼いたベーコンと、何ら映えない至って普通の朝食である。
来人
「…いただきます。」
やがて、作った朝ご飯を食べ、歯を磨き、僕は誰もいない空間に挨拶を交わす。
来人
「…行ってきます。」
無論、僕の声には誰も応えない。
それはそうだ、この3LDKというただっぴろい空間に住まう者は僕一人だけなのだから。
そうして、僕は玄関の扉を開き、学校へと向かった。