「ヒャッハー!水と食料寄越せェッ!!」 作:ヒャッハー
「ヒャッハァァァァァァ!!!!汚物は消毒だァッ!!」
相棒の2丁の火炎放射器を手にして周囲を燃え上がらせながら俺は辺りのゴロツキ相手に大立ち回りをかます。爆ぜる炎、舞い上がる火の粉、鼻をつく焦げ臭さ。最高だ、生きてる実感ってやつがビンビン伝わってくる。
「くそっ!?なんだこいつ!?」
「ヘルメットにロングコートだと!?バイクにも乗ってねぇのにふざけた格好しやがって!」
「カチコミだカチコミだぁっ!」
俺の名前は『ヒエダ』
色々あって更地になったこのポストアポカリプスな世界を一人旅している通りすがりだ。そんな俺がなんでこんな荒野のど真ん中でドンパチやっているのか……それを説明するには時間が居る。
と言っても話は簡単だ。旅の途中水と食料を補充する他に立ち寄った街……だが、水と食料を精製するインフラ施設が野党のゴロツキに奪われちまって、ついでに女子供も人質としてさらわれて今大ピンチらしい。
そこで俺は考えた……そのゴロツキ共をぶちのめせばワンチャンタダで水と食料貰えるんじゃねぇのかと!
そう思い立った俺はすぐに愛車を走らせてそのインフラ施設に特攻をかけてカチコミ上等!案の定ポコポコ湧いて出るわのゴロツキの山!
だが!俺は強い!!俺は強い!!ので!どうにかコイツラをボコしてインフラ施設を奪還しないといけないわけだ。お手製の火炎放射器の、威力は絶大だ!
なんてったって、この世界にゃロクなメーカー品も残っちゃいねぇ。ジャンクをかき集めて自分で組んだ一点物、信頼度は折り紙付きよ!
火は怖えからな。昔からバッチャンが火遊びには気をつけろって言ってた!俺今すげぇ人の命かけた火遊びしてるけど人のモン取ったコイツラが悪いよな!うん! バッチャンごめん、この火遊びだけは大目に見てくれ!
俺は炎の壁の向こうで泡食ってるゴロツキ共に躊躇なく火を浴びせ続ける。手加減? そんな上等なもん、この状況で誰が覚えてらんねぇよ!
「ひ、ひぃっ……!」
「ば、化け物だこいつ!」
化け物は言い過ぎだろが!ただの旅人だっつーの。まあ火炎放射器2丁抱えたロングコート野郎がヒャッハー言いながら突っ込んでくりゃ、そりゃビビるのも分かるけどよ。安心しな、ちゃんと手足は残るように焼いてやってるから!
残るは……とキョロキョロ辺りを見渡すと、施設の奥、鉄格子の向こうに何人か身を寄せ合ってる人影が見えた。子供を庇うようにして立ってる女が、こっちを見て息を呑む。
(あー、はいはい。あれが噂の人質ってやつね)
俺は火炎放射器のトリガーから指を離すと、代わりに肩に提げてたぶった斬り用の鉈を引っこ抜いた。ここから先は火を使うわけにはいかねぇ。人質を巻き込んじまったら元も子もない。
「てめぇら、これ以上ゴネんならとっとと投降しな。俺は別に人殺しが趣味ってわけじゃねぇんだわ」
脅し文句のつもりで言ったんだが、我ながら締まらねぇセリフだと思う。そんな聞き分けの良いこと言ってどうすんだよ。なもん聞いてもここの奴らが素直に言うこと聞くわきゃねぇのになぁ。
案の定っつーか、答えは背後から降ってきた。
「──ハッ。舐めた口利いてくれんじゃねぇか、兄ちゃんよぉ」
地響きみてぇな声。振り返ると、施設の入り口をぶち破って現れたのは、俺の倍はありそうなデカブツだった。
丸太みてぇな腕に、金属のパイプをバットみてぇに担いでる。てっぺんに刺さった有刺鉄線がジャラジャラ揺れて、ご丁寧に錆と……多分血がこびりついてやがった。趣味悪ぃな、おい。
「あぁ?なんだお前、このゴミ山のドン様か何かか?」
「オレァこの一帯仕切ってる『首狩りのゴウダ』様だぁ!てめぇみてぇなペラッペラの旅人風情がよぉ、俺のシマで好き勝手しくさりやがって……!」
「仕切ってる?ゴミ山であぐらかいてるの間違いだろ?」
ゴウダとやらは吠えると同時に、あの鉄パイプバットをブンッと横薙ぎに振るってきた。
とっさに鉈で受け止めるが、衝撃で腕が痺れる。おいおい、マジかよ、力だけならさっきのゴロツキ共とはケタが違うじゃねぇか。骨まで響くってこういうことか、なるほどねぇ!
「っづ……!バカ力がよ、てめぇ!」
「褒め言葉として受け取っといてやるよ、兄ちゃん!」
距離を取ろうと後ろに跳んだ瞬間、また丸太バットが唸りを上げて追ってくる。地面に叩きつけられたそれがクレーターみてぇな穴を作るのを横目に、俺は舌打ちした。マジで当たったら死ぬなこれ。
(近接でまともにやり合うのは分が悪い……なら)
「悪ィな、ゴウダの兄貴。俺はガチンコの殴り合いに美学とか感じねぇタイプなんでよ」
言うが早いか、俺は右手の火炎放射器を構え直した。人質からは十分距離が離れてる、ここなら使える。
「舐めやがって……!」
「舐めてねぇよ。ただの合理的判断だ!」
トリガーを引く。噴き出した炎がゴウダの足元を舐めるように這い、奴が咄嗟に飛び退いた隙に、俺はもう一丁の火炎放射器も構えて左右から挟み込むように炎の壁を作った。逃げ場なんざねぇぞ、兄貴。
「くそっ、熱っ……!このっ……クソガキがぁ!!」
「そのクソガキ相手に真正面から力比べを挑んだのが運の尽きだったな、兄貴ぃ!」
叫びながらも、内心じゃ冷や汗が止まらねぇ。燃料はもう半分切ってる。長期戦は無理だ。決めるなら今しかねぇ。……とは言っても殺しは趣味じゃねぇからな。
俺は火炎放射器の、頑丈に作ってあるタンク部分を思いっきり振りかぶって、動きの止まった兄貴さんの脳天にそれを叩き込んでやった。俺自身も腕がジーンと痺れるが、相手のことを考えたらまだ我慢できるもんだ。
「ぐぎっ!?」
「っしゃぁっ!」
ゴウダとか言う輩はその場にドサリと倒れ込む。子分たちはそれを見て慌てふためいている。そっと火炎放射器の銃口を向ければ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していきやがった。逃げ足だけは一丁前だな、おい。
俺はため息をつきながら、倒れているゴウダの懐を探って人質共の入っている鉄格子の鍵を探す。
「さぁてと……鍵鍵……おっ、これか」
ゴウダのポケットから引っ張り出した鍵束をジャラジャラ鳴らしながら鉄格子に近づくと、中の連中がビクッと身を強張らせた。当然か。今の今までヒャッハー言いながら火ぃ撒き散らしてた奴が近づいてきたら、そりゃ警戒もする。
「安心しろ、取って喰おうってわけじゃねぇよ」
鍵穴に一本ずつ突っ込んで試していく。三本目でガチャリと音がして、錆びついた鉄格子がギィと軋みながら開いた。
「……あの、貴方は……」
最初に口を開いたのは、子供を庇ってた女だった。声はまだ震えてる。
「ヒエダってもんだ。通りすがりだ……あんたら助けんのと交換でな、水と食料もらうことになってんだ」
あえて俺は少しあくどい口調で言ってみる。あんまり恩着せがましくされても困る。こっちだって別に善意百パーで動いてるわけじゃねぇんだからよ。多分。
「で、でも……ゴウダの手下たちを追い払ってくれて……」
「ん?あぁ、あれはついでだ。ついで」
女の後ろに隠れてた子供が、おずおずと俺の火炎放射器を指差した。
「おにいちゃん、それ、かっこいい……」
「あぁ?そうか、そうだろ?」
単純だと自分でも思うが、こういうのには弱い。ガラにもなく頬が緩みそうになるのを堪えながら、俺は肩をすくめてみせた。
「ほら、いつまでもこんな場所にいねぇで、街までそう距離もねぇだろ。とっとと戻んな」
そう言って踵を返す。背中越しに「ありがとう」だの「助かりました」だの聞こえてくるが、聞こえないふりで手だけひらひら振っておいた。
……ヒャッハーがいちいち感謝されてどうすんだよ、まったく。俺は
ハメ外してヒャッハーしてぇもんだろうが。