「ヒャッハー!水と食料寄越せェッ!!」 作:ヒャッハー
「こ、この度はなんとお礼を申し上げればいいか……」
「申し上げなくていいから水と食料出せや。その為に俺ぁ働いたんだからよ」
街の町長と話をする頃には、街には女子供が戻ってきていた。勿論すぐに水と食料も頂戴できねぇだろうから、少しの間世話になる予定だ。
ここも街なら俺みたいな『ヒャッハー野郎』でもできる日雇い仕事はあるだろうしな。
目の前でペコペコ頭下げてくる町長は、見るからに気の弱そうな爺さんだった。こんな人の良さそうな爺さんが仕切ってる街だから、ゴウダみてぇな野盗に目ェつけられたんだろうな。ちょっとは同情する。
「し、しかし本当に助かりました……ゴウダの一味には長年悩まされておりまして、まさか旅の方お一人であれをどうにかしていただけるとは……」
「別に大した話じゃねぇよ。デカブツ一匹ぶん殴っただけだ」
実際はもうちょい死にかけたけどな、とは口が裂けても言わねぇ。
「せめてもの……と言ってはなんですが、水と食料の準備が整うまでの間、街の宿をお使いください。もちろん無料で」
「へぇ、話が早くて助かるわ。じゃあ遠慮なく」
断る理由もねぇ。旅の醍醐味は野宿かもしれねぇが、それはそれ、これはこれだ。屋根とベッドがあるならありがたく使わせてもらう。
この世界にゃクリーチャーじみた化け物が夜になると出てきたりもするからな。全くどこまでコテコテのポストアポカリプスやってんだか知らねぇや。
「宿までご案内します」
町長の後ろについて歩いてると、道端で遊んでる子供たちの視線を感じた。先程助けた子とはまた別の連中だが、噂はもう広まってるらしい。
「あ、あん時の兄ちゃん!!……」
「かっこいい……!」
「火炎放射器2丁とか漫画みてぇ!」
(お、おう……なんか思ってたより歓迎ムードだな)
ヘルメット越しで見えねぇが悪党面してるつもりだったんだが、子供たちにゃそういうのは通じねぇらしい。素直にキラキラした目で見られると、こっちの方が居心地悪くなってくる。
「……なんだよ、見世物じゃねぇんだぞ」
ぶっきらぼうに言い放ちながらも、まんざらでもねぇ自分がいるのは秘密だ。
宿に案内されて部屋に転がり込むと、久々のまともなベッドに全身が沈み込んでいく。ここ最近ずっと荒野を野宿続きだったからな、この柔らかさが天国みてぇに感じる。
(さて……水と食料が揃うまで、何日かかんだろうな。せっかくだし、日雇いでも探して小遣い稼ぎでもすっか)
窓の外を見れば、夕暮れの街に少しずつ活気が戻ってきているのが見えた。さっきまで恐怖に怯えてた連中が、今は普通に笑って歩いてる。
まあ、悪くねぇ光景だ。
俺は寝転がったまま、天井に向かって小さく呟いた。
「……ま、たまにはこういうのも、悪くねぇか」
俺らしくもねぇセリフだと自分でも思うが、聞いてる奴もいねぇ部屋の中じゃ、素直になったって誰にも文句は言われねぇだろ。
……俺に漠然と前世の記憶ってやつがある。俺じゃない俺の記憶ってのは気味が悪いが、その記憶の中で俺は兎に角あらゆる人間にペコペコしながら不自由そうに過ごしてた。
上司にペコペコ、取引先にペコペコ、なんなら後輩にすらペコペコしてた気がする。何のために生きてたんだか、今となっちゃもう朧げにしか思い出せねぇが、とにかく「自由」ってやつとは縁遠い人生だったのは確かだ。
そんな自分が嫌で嫌で、ならいっそ悪党だろうがヒャッハーだろうがなってやろう……そう思い立ってから何年経ったろうか。
最初は正直、勢いだけだった。誰にも頭下げねぇ、誰の言いなりにもならねぇ、そう決めただけで、実際何すりゃいいのかなんてろくに考えちゃいなかった。
いろいろひどい目にあってヘルメットで顔隠すハメになるわ、このポストアポカリプスの(一応の)政府機関に目をつけられるわ散々だ。
顔がバレたら面倒なことになる相手が何人かいるってのもあるが、素顔代わりとR18級にグロいことになってるのも理由だ。腐ったアボカドみたいになってるからな。
動きにくいコートに無骨なヘルメット、我ながらセンス皆無な出で立ちだが、機能性は保証する。
多少のインプラントで肉体強化してるとは言え、義肢になってないのは幸運だな。
あのときゃマジで死ぬかと思った。腕一本持ってかれかけて、たまたま拾ってくれた流れの医者が藪じゃなかったから今こうして両腕揃ってるだけの話だ。運が良かったで済ませていい話じゃねぇが、生きてりゃそれで良しとするしかねぇ。
(つっても、前世の記憶があるからって別に達観してるわけでもねぇんだよな、俺)
なんでこんな世界に、なんでこんな記憶付きで生まれ直したのか。理由なんざ知らねぇし、知ったところでどうにもならねぇ。だったら考えるだけ無駄だ。
今の俺にできんのは、ただ目の前のことに首突っ込んで、好き勝手しながら生きてくことだけ。
それでいい。多分、それでいいんだと思う。
窓の外じゃ、さっき助けた街の連中がまだ笑い声を上げてる。あの声を聞いてるとよ、悪党ぶるのもたまには悪くねぇ気がしてくるから、我ながら現金なもんだ。
窓の外を眺めながらそんなことをつらつら考えてたら、部屋のドアがコンコンと控えめにノックされた。
「……あ?誰だ」
「あ、あの……先程はどうも……」
顔を出したのは、さっき鉄格子の中で子供を庇ってた女だった。手には布に包んだ何かを抱えてる。人質だった時とは違って、少し落ち着いた顔つきになってる。
「あんた、確か……」
「アヤと申します。あの、これ、よかったら……」
差し出された布を開くと、中には焼いたパンと干し肉、それに水筒が入ってた。この世界にしちゃ上等な部類の軽食だ。
「うちにあったもので大したものじゃないんですけど……お礼にもならないかもしれませんが」
「いや、十分すぎるくらいだけどよ。あんたも今日大変だったろうに、いいのかよこんなもん」
「街からのお礼の水と食料は、まだしばらく届かないでしょうから……せめてこれくらいはさせてください」
真っ直ぐな目で見られると、なんかこう、居心地が悪くなる。俺はヒャッハーだぞ、こういう素直な感謝の視線に慣れてねぇんだよ。
「……ま、ありがたく貰っとくわ」
パンを一口齧ると、素朴な味が口の中に広がった。ここ最近ロクなもん食ってなかったから、これだけで泣きそうになる自分がちょっと情けねぇ。
「美味しいですか……?」
「あぁ。上出来だ」
素直に言うと、アヤは少しだけ表情を緩めた。
「……あの、聞いてもいいですか。どうしてあんな危険なことを? あなたには何の得もなかったはずなのに」
「別に。水と食料が欲しかっただけだ。タダ飯にありつけるチャンスは逃さねぇ主義でな」
適当な答えを返しながら、パンをもう一口。
「……それだけには聞こえませんでした。あの子を助ける時、あなた凄く必死になってくれてましたから……」
「……けっ。』
図星突かれて、俺は思わず視線を逸らした。くそ、この女、意外と観察眼鋭いな。
「気のせいだろ。ガキ助けるのに必死になるかよ、普通」
「そう、でしょうか」
アヤはそれ以上突っ込んでは来なかったが、その口元には小さな笑みが浮かんでた。全然信じてねぇ顔だ。くそ、なんか負けた気がする。
「……ま、なんだ。困ってる時に手ぇ差し伸べるくらい、俺みたいな流れ者でもすんだろ、たまには」
誤魔化すみたいにそう言うと、アヤは小さく頷いた。
「はい。ありがとうございます、ヒエダさん」
名前呼ばれると、なんか妙にくすぐったい。俺はそれを誤魔化すように、水筒の水を一気に呷った。
夕暮れの光が差し込む部屋の中、俺はそんなくだらねぇことを一人考えながら、久々にまともな飯を味わってた。