「ヒャッハー!水と食料寄越せェッ!!」 作:ヒャッハー
「その……ヒエダさん?さっきっから気になってたんですけど、なんで室内なのにヘルメットを……?」
「お前今この場で全裸になれって言われてなれるか?」
「えっ!?いやっそのっ……」
「それと同じだよ」
マジでこのヘルメットの奥は見せらんねぇ。前に知り合いに見せたときはSAN値削れるから二度とヘルメット取るなって言われて喧嘩になったからな……まぁ俺も正直鬱陶しいが仕方がねぇ。
「け、怪我ですか?そ、そんなに酷いんですか……?」
「酷いなんてもんじゃねぇよ。あんたのメンタルヘルスのためにも黙って隠しといてやってんだから、感謝しろ」
半分本気、半分冗談で言うと、アヤは怖々といった顔でこっちを見た。
「じゃ、じゃあ一生ヘルメット姿のままなんですか……? お風呂とか、寝る時とかも……?」
「風呂は……まあ、そこはさすがに外すこともあるけどよ。基本は人前じゃ外さねぇって決めてる」
実際のとこ、顔がどうこうってのも大いにあるが、より前世の記憶がちらついちまうのが厄介なんだよな。あの気弱でペコペコしてた頃の面ぁ、鏡で見るだけで気が滅入る。ヘルメットは言うなれば、あの頃の自分と今の自分を切り離すための装備でもあるわけだ。
(……なんて話、こいつに聞かせる義理はねぇけどな)
「じゃあ、もしかして……素顔、見た人はほとんどいないんですか?」
「片手で数えられるくらいだな。んで、その全員が見た後に微妙な顔すんの。傷つくからやめてほしいわ、あれ」
「そ、そうなんですね……」
アヤは何か言いたげに口をもごもごさせてたが、結局は「そうですか……」とだけ呟いて、それ以上は突っ込んでこなかった。空気読める女で助かる。変に興味本位で「見せて見せて」ってせがまれてたら面倒だったからな。
「……にしても、あんた度胸あるな。人質から解放されたばっかで、流浪の野郎の部屋に一人で乗り込んでくるとかよ」
「あ……そ、それは、その……」
急に話題を振られて、アヤは分かりやすく狼狽えた。
「べ、別に深い意味は……ただ、お礼を伝えたかっただけで……!」
「あぁそう。ならまあ、いいけどよ」
これ以上突っ込むのも野暮な気がして、俺はそれ以上聞かねぇことにした。パンの残りを頬張りながら、窓の外に視線を移す。
夕暮れの空が、燃えるみてぇなオレンジ色に染まってた。
「……とにかく、飯はありがたく貰った。もう遅ぇし、あんたも戻んな。街の連中、まだ不安だろうしよ」
「は、はい。それでは、また明日……!」
慌てたように一礼して、アヤは部屋を出て行った。ドアが閉まる音を聞きながら、俺はベッドに深く沈み込み、誰もいなくなったのを確認してからそっとヘルメットを取る。
ヘルメットを取った俺の顔は偉いグロテクスが状態だった。顔全身大火傷した上でクレーターができたみたいにデコボコしてる……おれぁデッ○プールじゃねぇんだぞこちとら。
もちろんこの顔になったのにも理由がある。
……あれは若かりし頃、スラム街でチァイニーズマフィアとマッドサイエンティスト集団の争いにプラスして政府機関の『統制局』って呼ばれる場所までしゃしゃり出てきた大乱闘に巻き込まれて、色々あって被験体の子供を拉致って逃げるようになった時にこうなった。
あの時は死ぬかと思ったぁ……おかげで各方面に名前と顔を覚えられたし。今はヘルメットで顔を隠してるけど。
本当はこの街もすぐに出たいんだけどな。まぁインフラ奪還してすぐに元通りってわけにはいかねぇだろうし、少しくらいは様子をみてから食料と水、ついでに燃料も頂戴しよう。
ひとまずのプランを考えて俺は再びヘルメットを手に取りかぶると、そのまま眠りに落ちる……ヘルメット被ったまま寝て危ないのかって? 人間はな、慣れる生き物なんだよ。
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翌日になってまず始めにすること……それは身支度だ。愛用の火炎放射器2丁に、近接得物の鉈、携帯食料にetcを用意して俺は街へ繰り出すことにした。
目的地はこういう街に良くあるジャンク屋だ。案外いいパーツが売ってるかもしれないという淡い期待を込めてみる。
少し道を聞けばジャンク屋までの道のりはすぐに分かった……俺はその道のとおりに進むと、路地裏にいかにもって感じのガラクタの積まれた、切れかけの蛍光灯が特徴的なジャンク品売り場に辿り着く。店構えだけ見りゃ、いかにも小汚ねぇ親父が出てきそうな雰囲気だ。
俺は軽く声をかけてみる。
「すいませぇん!誰かいませんかぁ?」
するとドタドタと足音が聞こえてくる……出てきたのは、そんな店構えのイメージとは打って変わって小綺麗な女の子だった。そしてその顔にはよく見覚えがある。早すぎる再会だ……昨日、俺の宿にパンを届けてくれた女の子だ。名前は……
「あっ……ヒエダさん……!」
「アンタぁ、たしか……えっと……名前………」
「アヤです!一日と経たずして忘れないでくださいよ!?」
いやぁ俺一度寝ると人の名前わけわかんなくなるんだよな。記憶容量がファミコン並みだから、いろいろ上書きされやすくて……んで、そんなことよりも、だ。
「なんでアンタここにいるんだ?実家か?」
「えぇ、私の家です……経営してるのは私の祖父なんですけど。ヒエダさんこそ、何か御用ですか?」
「いや何、軽くジャンクパーツ漁りに来たのと……こいつをな」
そう言ってこの間使った火炎放射器を取り出す。
「この間あのデカブツとやり合った時に思いっきりたたいたせいで地味に調子悪くてな。直せねぇかなと思って聞きに来た」
「あぁ……ビックリしましたよ、普通に殴り倒したんですもん」
「俺ってば博愛主義だからなるべく人は燃やし殺したくないのよね」
俺なりのジョークを飛ばしてハッハッハと笑ってみるとアヤからの反応はいまいち……ユーモアセンスはもっと磨きをかける必要があるな。
「兎に角、そのおじいちゃんに話を通してもらえねぇか」
「分かりました!……でも、これショックで中の配線が外れただけっぽいので私でも直せますよ?」
「マジでか?機械強いのか?」
「えぇ、おじいちゃんから色々教わってきましたから……兎に角、中へどうぞ」
そう言って俺は案内されるがままにジャンク屋の中に入ることになるのだった。
中に入ってまず目に飛び込んできたのは、天井まで積み上がったガラクタの山と、その隙間を縫うように張り巡らされたコード類だった。素人目にゃただのゴミ山にしか見えねぇが、よく見りゃ部品ごとにちゃんと仕分けされてる。
(へぇ……こりゃ思ったよりまともな仕事してんな)
「おじいちゃーん!お客さんだよー!」
アヤが奥に向かって声を張ると、しばらくしてガラクタの山の向こうから、白髪頭に丸眼鏡をかけた小柄な爺さんがひょっこり顔を出した。手にはドライバーを握ったままだ。
「客……?客かぁ。あん。そのヘルメット……あんさんが噂のあのゴロツキ共をぶちのめしたっていう人か。」
「あぁ?もう俺の噂広まってんのか、この街」
「そりゃもう。あのデカブツをぶちのめした武勇伝、今朝方から酒場でも大盛り上がりだったよ」
爺さんはガハハと快活に笑うと、俺の手にある火炎放射器に目を留めた。
「ほう……こりゃまた面白ぇ作りしたもん持ってきたな。素人仕事にゃ見えねぇが、既製品でもねぇ」
「荒野じゃメーカー品なんざ滅多に手に入らねぇからな。自作を少しずつ街のジャンク屋にいじってもらってきた。」
「なるほどなるほど……こいつぁ見させてもらう価値がありそうだ。アヤ、工房のテーブル空けとけ」
「はーい」
爺さんの目の色が明らかに変わった。職人ってのはどこの世界でもこういう顔すんだな、と俺は妙に納得しながら、工房の奥へと案内されていった。
テーブルに火炎放射器を置くと、爺さんは早速工具箱を引っ張り出して蓋を外しにかかる。
「ふむふむ……あぁ、やっぱ配線が根元から断線してるな。強い衝撃与えたろ、これ」
「デカブツの脳天に思いっきり叩きつけたからな」
「そりゃ壊れるわ。これ、燃料噴射のコアユニットだぞ」
爺さんは呆れ半分感心半分といった顔でこっちを見た。
「よくこんな精密な部品、破損させずに殴打の衝撃だけで済ませたな。作りが余程頑丈なんだろうが……こんな無茶な使い方する奴、初めて見たわ」
「褒めてんのか貶してんのかどっちだよ」
「両方だよ、両方」
爺さんはガハハとまた笑いながら、慣れた手つきで配線を繋ぎ直していく。その横で、アヤが工具を渡したり部品を仕分けたりと、なかなか手際よくサポートしてる。
(へぇ……本当に手伝い慣れてんだな、この子)
「なぁ、アヤちゃんよ。あんたも普段からこういう修理すんのか?」
「はい、簡単なものなら。おじいちゃんの弟子みたいなものなので。」
「言わせてもらえりゃもう一人前なんだがなぁ、」
言いながら、アヤは少し誇らしげに胸を張った。ジャンク屋の跡継ぎってやつなんだろうな、たぶん。
「へぇ、意外だな。昨日のパン持ってきた時とは大分印象違うわ」
「ど、どういう意味ですか、それ」
「いや、なんつーか、か弱そうな見た目してっけど中身は結構しっかりしてんなって話だよ」
「そ、それ褒めてます……?」
「褒めてる褒めてる」
軽口を叩き合ってる間にも、爺さんの手はテンポよく動き続けてる。十分もしねぇうちに、俺愛用の火炎放射器はすっかり元通りになってた。
「よし、直ったぞ。試し撃ちは外でやってくれよ、店ん中は勘弁だ」
「あぁ、それは重々承知してる。世話になったな」
手元に戻ってきた愛用の武器を眺めながら、俺は妙に満たされた気分になった。荒野を旅してっとロクな出会いもねぇが、たまにはこういう街で腕のいい職人と気の合う相棒に恵まれることもあるんだな。
「いくらだ?」
「5000で良い」
「オーケー。安くねぇか?」
「街の恩人にふっかけられねぇからな。」
そう言ってカッカッと笑うじいちゃん……恩人じゃなかったらふっかけるつもりだったのかとか思わなくもないがあえて口にしないでおく。
「他に調子見てほしいやつはあるか?』
「あー、あるにはあるけどよ。」
んじゃ、次は………ここまで来た『
「俺の愛車の様子を見てくんねぇか?」
「あぁ。なるほどな……生憎俺ぁ工房から出たくねぇからアヤぁ、任せたぜ。」
「えぇ……おじいちゃんいい加減日の光浴びなよ」
「つかなら何で態々聞いたんだよ……」
俺は思わず肩を落として呆れる……まぁ、兎に角。最近メンテサボってあんまジープの調子良くないからな。ここはプロに任せよう。