クラスメイトは、自称私の騎士   作:クルスロット

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 両親が死んだ後、私は、偶然東京に訪れていた遠縁の親戚に引き取られた。見たことも聞いたこともない人たちに引き取られる。不安でたまらなかった。でもその人たちは、見知らぬ子供である私を優しく接し、受け入れてくれた。抱きしめてくれた。慮ってくれた。

 私は、涙が止まらなかった。最悪を味わって、私の人生はこれから最悪が続くと思っていたから抱きしめてくれた暖かさが心に沁みた。

 しかし、嘘だった。全部、全部。あの人の形に笑顔を貼り付けたゴミムシどもの目当ては、両親の遺産で、私は、そのための道具だった。

 優しさも寛容もあっという間に消え失せた。残ったのは、最悪だけ。

 その時の事は、思い出したくもない。

 ただ教訓だけは、残った——他人を信じるな。1人で生きろ。ごくシンプルな個人主義。

 私にとって教訓の枠に収まらなかった。これを成し遂げるように生きてきた。

 

 ……お笑い草だ。大爆笑ものだろう。

 

 叔父さんがいなくちゃ今日まで生きていられず、聖瑛を頼って金を稼ぎ、彼がいなければ死んでいた私がそんなことを口にするのは、あまりにもおかしい。

 叔父さんなら人は、1人では生きられないと言う。子供なのだから仕方がないと言う。実際、そうなのかもしれない。

 聖瑛は、騎士として当然。何よりアリスに関しては、巻き込んでしまっただけだとか言う。それもそう……というのは、癪だ。

 

 そういうことじゃない。そういう問題じゃない。

 

 魔法訓練用アプリがセットアップを完了して、視界に各種UIが表示された。まるで格ゲーみたいな体力ゲージとその下に魔力ゲージが表示される。制御用アプリがあるように、訓練用にもアプリがある。見ての通り、格ゲーみたいに訓練できる。魔法も訓練アプリを通せば余程特殊じゃなければ再現できる。ちなみに普通必要な代価はいらない。代わりに魔力ゲージを消費する。

 便利で、私が彼に唯一勝てるルールだ。当てさえすればアプリは、それをダメージと換算する。打ち倒す必要がない。当てればいい。

 彼とは、誰か。分かりきったことだ。

 今、私と目があった、難しそうな表情を綺麗な顔に浮かべたそいつだ。

 

「ルール、分かった? 繰り返すけど視界にある訓練用の体力ゲージ見えてるわね? これを2回削った方、つまり二本先取した方が勝ち。瑛は、訓練用の魔道具で攻撃すること。深澄さんも訓練用に魔法を切り替えること」

 

 白衣のポケットに両手を突っ込んだ三矢さんは、煙草をくゆらせながら私たちに、視線を配る。この場所を見て回ってきた私が頷くも三矢さんがどこからか持ってきた剣型の魔道具を持った聖瑛は、渋い顔で首を縦に振らない。

 

 私たちは、場所を移して、聖家からまばらな街路灯の照す道を10分ほど歩いたところにある人気が全くない建築現場に来ていた。

 ここを普段、訓練の場所に使っている聖瑛曰く、しばらく前から放置されている。囲いになってる高い柵の外にあった建築予定が書かれてる看板には、大まか3年前から手付かずであることが分かった。建築予定によればホームセンターが作られる予定だったらしい。作り始めたばかりで、ほとんど工事は進んでない。

 魔道具内蔵のドローンに照らされた工事用の資材や器具は、錆びつき、扉を失ったコンテナハウスの中にまで堆積した枯れ葉や泥が時間の経過を如実に伝えてくる。不自然に折れ曲がった資材や手作り感のあるサンドバックは、聖瑛の訓練道具だろうか。

 何より、こうして聖瑛と向かい合うには、十分すぎる広さがある。

 

「な、なあ、常夜原さん。本当にやるのか?」

「何度も同じこと言わせないで。言った通りよ。嫌なら私を倒していけばいい。それだけでしょ」

 

 眉を八の字にした聖瑛に、指鉄砲にした右手を向ける。

 

「いや、だが! そんなことやる必要がない!!」

「ある!!」

 

 抑えきれず、叫んでいた。臆面もなく、積み重ねたものが崩れようと関係なく。

 

「っ!!」

「あるのよ、私には!! あんたに無くとも私にはある! 貫かなきゃいけない……我儘があるの!」

 

 かっこいい言い回しはあった。けど私の口から出たのは、言い訳の余地もない心の叫びそのもの。

 

「あんたがどう思っているかは理解しているけど、それでも!! 戦いなさい!! 聖瑛!! 騎士とか言うなら主の我儘くらいどうにかして見せなさいよ!!」

 

 聖瑛に甘え切った言葉を恥ずかしげもなく私は、勢い任せに叫んだ。力一杯叫んだから喉が痛い。空咳まで出てしまう。

 

「……分かった。やろう。」

 

 すると聖瑛は、重く頷いた。最初からそうしなさいよ。

 

「話、まとまったみたいね。怪我は出来る限りしないように。私の魔法も治すには限度があるから出来るとしても大きいのはやめてね」

 

 黙って私たちの様子を見守っていた三矢さんは、そう言い、紫煙を吐いた。

 治癒魔法:紫煙(ブリギッド:スモーク)。代価は、今、三矢さんが口元で揺らめかせる紫煙の元、つまり、喫煙らしい。私の傷もあの魔法で治してくれた。

 

「じゃあ、アプリが開始の合図を出すから。聞き逃さないようにね」

 

 緊張が高まる。思考を巡らせる。聖瑛のスペックは、ここ1か月でよく理解している。よーいどんして勝てると思うほど私は自惚れていない。

 

『ROUND1——』

 

 ここに来るまでに、会話の中でも魔法のセッティングは進めていた。ギリギリまで考えた。聖瑛が挑発に乗らないとは思っていなかった。乗ってくるように頑張った。演技なんて初めてだったけど迫真だったと思う。

 ……嘘。半分以上、かなり本気を乗っけて叫んだ。

 まずは、あの速度をどうするかから始まる。付き合う必要は勿論無い。無いけれど今回はよーいどんだ。めちゃくちゃ私に不利。不利なんてものじゃない。基礎で大負けしてる上で、場所でも負けてる。けどわざわざ障害物のある私に有利な場所を用意する時間も土地勘もない。だからここで我慢するしかない。

 ここでどうにかできるようにする方法をいくつか考えた。

 プラン1、フライング。なんて情けないプラン名だろう。

 

『FIGHT!!』

 

 開始の宣言をする電子音を合図に、私は、待機状態にしておいた魔法を起動した。

 ここの建設現場を見て回る段階で、私は、そこら中に魔法を待機状態でばら撒いておいた。これは聖瑛には、見せたことがない。当然だ。待機状態からの起動とかいう小細工、彼が居たら必要がない。

 電金壁盾で、自分と聖瑛の間やそこら中に壁を生やして、擬似的な障害物を作る。高さは、2mちょい。彼が跳ばないと見通せない高さ。

 ずるいとかなんとでも言えばいい。私が勝つには、これくらいしないといけない——急速に、喉が干上がった。乾き切っていない泥を蹴って、バックステップ。さらに身を翻し、電金壁盾の森に身を潜める。心臓がバクバクと跳ねている。落ち着け、落ち着け。呪文みたいに内心で唱えて、努めて自分を鎮める。

 目の前に生やした電金壁盾に斬線が走ったのが見えた。崩れた向こうに、訓練用の剣型魔道具を携えた聖瑛が真剣な顔で立っていたのが見えた。いざやるとなれば真剣なのは、聖瑛らしい。ただ彼と戦いの場で向かい合うことが想像を遥かに超えて、

 

「怖い……!!」

 

 思わず口から出ていた。

 電金壁盾と電金壁盾の隙間から、電金壁盾が聖瑛の手や剣で叩き切られて消滅するのが見えた。ズンズンと障害物が障害物の体を成していない。その様は、まるでホラー映画。ヴィランを超えて、クリーチャー。私は、犠牲者? いいえ。いいえ。絶対に違う。

 電金魔弾、モード:二本指(マシンガン)。隠れているだけでは勝てない。人差し指と中指を揃え、壁から飛び出た。間髪入れず放った控えめな金光を纏った魔弾が疾る。電金壁盾を切り裂いた聖瑛と視線が合う。彼の驚いた顔が視界に映った。

 

「これはっ!!」

 

 私に驚いたのではない。地面から斜め飛び出てきた電金壁盾が彼の肩と横腹を打ったからだ。動きが止まる。訓練用アプリによる再現の結果、薄まった金の輝きを纏う魔弾が疾駆する。

 

「凄いな! だけど!!」

 

 剣を構え直す。それだけで電金壁盾が砕かれた。魔弾が空中で即座に迎撃された。ふざけてる。電金魔弾は、実弾と遜色ない速度が出ている。それを撃ち落とす反射とコントロール。ありえなすぎる。けれど聖瑛は、そういう生き物だ。このまま撃ち続けても無意味なのをすぐに悟った私は、足元から電金壁盾を生やす。

 

「ひっ」

 

 つい悲鳴が出た。立ったばかりの電金壁盾を剣が貫いたからだ。丁度、私の鼻先三寸。もう少しで当たる。ビンッ!と剣が着弾の衝撃で震えた。

 

「遅かったか!」

「遅かったじゃないわよ!?」

 

 向こう側から聞こえる惜しそうな雰囲気を滲ませた聖瑛に、思わず怒鳴り返した。訓練用魔道具だから死にはしない。けどよ!

 

「すまない!! けどほら! 君を止めるには手を尽くさないと!! 君は凄腕の魔狩だから!!」

 

 調子のいいことを言って! と電金壁盾の向こう側に言葉を返そうとして寸前で止めた。喉の途中まで出かけたのを飲み込んだ。

 聖瑛ならこちらの声から正確に居場所を探れる。わざわざ声を張り上げるのは、狙ってくれって言っているのと同じ。

 口をつぐむ。足音に気をつける。こっちが劣っているのだからこれ以上、聖瑛に情報を与えるな。

 さて次はどうしよう。撹乱はできている。けれどそれも時間の問題だ。電金壁盾を仕掛けながら移動してはいるけどこれもあいつがその気になれば障子紙が如しだろう。容易く引き裂かれて、私の体力ゲージは一瞬で消え失せる。

 それに魔力ゲージは、無限じゃない。既に半分を下回って、3分の1に差し掛かっている。電金壁盾の大量るのが響いている。

 ネタがバレた2戦目は、移動すらさせてもらえないに違いない。向かい合って、合図をされたら最後。だからこれを最終戦と思った方がいいまである。

 

「負けた後のことを考えるな……!!」

 

 出た言葉は、蚊の鳴くような声で、掠れて震えて発され。ビビってる。ビビるに決まってるでしょうが。でもビビるな。

 プラン1は、別に全部失敗じゃない。ダメージは与えられた。聖瑛の体力ゲージは、確かに削れている。障害物も作れた。

 

「プラン2よ」

 

 電金魔弾、モード:四本指(ライフル)。生やした電金壁盾を土台に腕を乗せて、隙間から先端を出す。照準(レティクル)が視界に浮かんだ。標準がどうしようもなく揺れる。正直、練習が足りない。突発的に使うものじゃない。通常の銃器による狙撃よりも断然簡単になってるとはいる。というよりしている。

 けどやるしかない——照準が合った。思考のトリガーを引く。

 

「!!」

 

 当たった!! 喜びのあまり飛び跳ねそうになった。照準の向こうで、聖瑛の身体が斜めるのが見えた。下手だけどこれだけ狙撃として距離が近けれ——うわ、こっち見た。即、私は駆け出した。

 狙撃の難点が速攻出た。相手が馬鹿の機動力をしているから余計に裏目った。

 体力ゲージは、確かに減ってる。けどこれをもう一回使うのは、無理がある。

 プラン3に移行する。プラン3は、1と2と真逆。だけどこうなると使えないから1と2を続行するしかない。繰り返し、或いはパターンを変えて聖瑛を混乱させながら追い詰め、倒す。

 

「常夜原さん!!」

 

 私を呼ぶ声が空を揺らす。電金壁盾の隙間から覗き込むと曇天を見上げて、剣を下に向けた聖瑛の姿があった。距離はある。視線をこちらには向けない。場所は察知されていない。何のつもり? 舐めてるの? 怪訝に思う私に気づいていないであろう聖瑛は、言葉を続ける。

 

「答えなくていい——なんて必要ないか。俺は、君を俺の自分事に巻き込みたくない! と言っても無意味だろう! 君の決意は硬いだろう! けど俺の気持ちも変わらない!! 君を連れてはいけない!!」

 

 折れない、砕けない鋼鉄のような意思を聖瑛を見せつける。

 

「1本で終わらせよう。2本も要らない」

 

 舐め腐って、と思った。

 

六躰解放(フィジカルリリース)律参(サード)

 

 カッという快音が明瞭に聞こえた。直後、衝撃が身体を打つ。吹き飛ばされて、泥の上を転がった私が見たのは、転がっている資材が私みたいに吹き飛んで転がる様、電金壁盾が揃って、ずるりと斜めに切り落とされる様。

 そして、私の体力ゲージが9割消えていく様。

 立たないとと身体を持ち上げたところ、長い足が目の前に現れた。見上げれば、見下ろしているやつと目があった。

 ……何よその顔。

 

「ちょっと痛いと思うけど、許してくれ」

「……絶対やだ」

 

 悲痛な顔で、剣を落としから拳を握った聖瑛に、ベッと舌を出した。同時に伸ばした指を私は、自分の顎に、突き立てた。バンと私の体力ゲージが消え失せた。

 

「残念だけど、2本目よ」

『YOU LOSE……』

 

 敗北を示す電子音が聞こえた。けど私は、まだ絶望しない。二本先取なんだから。

 

「……なるほど。それは、考えてなかった」

「このアプリがどれだけ真剣に訓練させようとしてるかによったけどね。真剣でよかった」

 

 してやられたと困った顔をする聖瑛に、私は、不敵な笑みを返してやった。

 とはいえ。そうとはいえね。

 私の体力は、結構限界。聖瑛のさっきの一撃、結構響いてる。どうやったのよ、あれ。結構身体がガクガク。強気に振る舞って、立っているので精一杯。足を折って、休みたい。

 

「常夜原さん。まだやるのか? 立っているので精一杯だろう?」

「……そんなことないわ」

 

 本当に目ざとい男。言い換えすのもこっちは大変なのよ。

 

「深澄ちゃん、まだやれる?」

「大丈夫です。問題ない。全然元気です」

「……そう。無理はしないように」

 

 早口な私の空元気を汲んでくれたらしい。三矢さんは、それ以上追求してくれなかった。敗戦濃厚どころじゃない。聖瑛に至っては、心配そうな顔をしている。

 本当にふざけた男だ。大きく息を吸って、吐いて。パシンと顔に気合いを入れて。

 

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