——後日談というやつ。
アリスに捕らえられた? リソース源にされた? まあなんでもいいんだけど影の中に捕まっていた人は、何人か無事救出された。倒した瞬間、辺りの影の中から排出されたらしい。影に呑まれてそのままじゃなかっただけよかったと思う。
鷹咲さんも助かったみたい。最近はずっとオンライン授業だから顔も見ていない。けどもう少しすれば嫌でも見ることになる。
しばらく瓦礫の山だった学校が夏休み明け前の8月の末には復旧すると連絡が来た。次の学期からは、ちゃんと登校しないといけない。私としては、ずっとオンラインでもよかったんだけどそうもいかないらしい。頑張って起きる日々がまたやってくると思うと憂鬱。
「……あっつい」
現在は夏休み。今日も今日とてクソ暑い青空が広がっている。都内は、ごった返してる……これはいつも通りか。
しかし、働かなければならない。今日も今日とて魔狩である。なにせ私の貯蓄は、この前アリスに全部使ってしまった。後、魔族は熱中症で死なない。年中無休で活動中だ。
三矢さんから流石にと補填があったのを有難く受け取ったけど、それはそれで足りない。アリスの魔石を売っぱらえばかなりの値段がつくだろうけど……。
「私もそんな人でなしにはなれないっての」
ということでそれは、流石にやめた。今、アリスの魔石は、聖家預かりとなっている。ただ保管するのか、どこかで区切りをつけて魔道具にするのかは知らない。
もうそろそろ来るかしら。待ち合わせ5分前。冷静に考えたら喫茶店辺り入っておけばよかった。ハンカチで汗を拭って、やや後悔。
「すまない! 待たせた!!」
改札の方を見れば聖瑛が走ってくるのが見えた。声がでかい。
「ここが秋葉原か! 来るのは初めてだ! 新宿や渋谷に比べてシンプルで分かりやすいな!」
キョロキョロするの目立つからやめてほしい。
「あんなところと秋葉原駅も比べられたくないわよ。ていうか意外ね。趣味の割にこういう所に来たことがなかったんだ」
「本なら学校近くの大型書店で事足りるからな。ここまで来る必要はないぞ」
オタク趣味があるというわけでないならそんなものか。
「ふぅん、そ。ほらさっさと行くわよ。私の騎士様。今日も私のためにお金を稼いで」
くるっと踵を返して、歩き出す。すると聖瑛が追従してくる。横目で見上げるとやや不服な顔。
「君が騎士と呼んでくれるようになったのは、素直に嬉しいが……なんだか扱い方が騎士っぽくなくないか? 俗っぽすぎないか?」
「嫌なの? 嫌ならやめるけど」
信号の変わった横断歩道を渡りながらジト目で見上げると即座に聖瑛が真顔になった。
「嫌ではない。問題ない」
即答する聖瑛がなんともおかしくて、つい吹き出した。
「冗談。冗談よ。ほら、さっさと連れてって。歩いていくよりあんたが走った方が早いでしょう」
差し出した手が取られる。いつものように抱えられ、片手を首にかけてバランスを取った。ぎょっと左のおじさんが驚き、後ろのカップルもわっと驚いた。そりゃそう。ちょっとしまったなと思う。慣れすぎた。自戒しないと。
「御意!」
直後、聖瑛が跳躍。吸い込まれるような夏空の下から驚いた視線が追いかけてくる。スマホを向けられる前に、聖瑛は、素早く建物の屋上に登った。
まとわりつくような夏の空気を振り払うように、聖瑛は、走り出した。風が気持ちいい。髪が乱れるけどこれはご愛嬌。陽射しは、きついけど。日焼け対策はしてるし大丈夫。
「この先、真っ直ぐよ」
「了解した——うん? あれは……? 主、あれ、もしかしなくてもそうだよな?」
「あれ? え? は? なんで?」
言われて前の方に目を凝らしたら夏の陽射しで熱く揺らぐ大気の向こう、雑居ビルの屋上に知っている顔がいるのに気づいた。
「見つけたわ! 聖くん! 後、ついでに常夜原さん!」
汗だくの鷹咲紫亜が腰に手を当てて、こっちにピシッと指を向けていた。ついでに肩で息をしている。しかしメイクはいつも通りバッチリ。汗に負けていない。
「私も混ぜなさい!!」
何をどう混ぜるのか……と鷹咲さんをよく見たら八咫製の防具で身を固めてるし、腰には魔道具がぶら下がっている。どれも真新しいが目立つ傷もある。下し立てというわけではないみたい。てか全部ハイエンドじゃない! この金持ちめ!!
混ぜるというのは、仲間にしなさいという意味らしい。
ついこの前、魔族に食われて死にかけたとは思えない。凄まじい逞しさ、生命力の強さを感じた。
「……どうする? 主。流石にクラスメイトが来ているのだし止まろうか」
尋ねられて、溜息。こういう所は、変わらないわね。決まってるじゃないそんなこと。
「スルーよ」
「あ!! 止まりなさいよ!!」
びゅんと横を通り抜けると鷹咲さんの声が後ろから聞こえてくる。相手してられるか。こっちは仕事があるの。
「こらー!! 止まれー!!」
……あれ、遠のいていかない。怪訝とした顔で振り返ると同じように屋上を伝って追いかけてきていた。どうやら防具の傷は伊達じゃないらしい。
「どうする?」
笑みを浮かべた聖瑛が問いかけてくる。何笑ってるのよ。首にかけた手で後頭部をぺしぺし叩くとまた笑う。なんなのよ。
「目的地まで着いてこれたら考えてもいい。ほらもっと速度出しなさいよ」
「了解」
全く、もう。
「本当になんなのよ」
風に遊ばれる髪を押さえる。口の端が勝手に持ち上がった。なんだか笑いたい気分になってきた。どうしてかは……分からなくもない。
ポケットの中で、スマホが振動した。取り出してみるとLINEが一件。叔父さんから。
『最近、どうだ?』——いつも通りの簡素な一文があった。
どう打つか一瞬迷って。
『楽しいよ、割と』
私は、正直に打つことにした。
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