——魔狩の話をしようと思う。
魔族を狩る現代のインフラにして、ろくでなしの集まり。それが魔狩だ。
10年前の最初の魔蝕から魔族は、現れ続けている。現れた魔族は、人を襲い、喰らう。だから魔狩という存在は、必要とされた。
魔族は、魔力を使った攻撃——人が持つ魔法や魔族を加工した魔道具を使った攻撃でなければ殺せない。
魔法は、才覚。ただの人のために魔道具は、必要とされた。作成のため、魔族を狩る必要がある。
魔狩が魔族を殺し、魔狩が手に入れた魔石をメーカーたちは、魔道具を作る。作られた魔道具は、流通に乗り、魔狩や人々の手に渡る。
そうして、魔狩は、社会インフラに組み込まれた。
その魔狩たちのグラデーションは、幅広い。最底辺は、無名の無登録だったり、まともな能力を持たない
格差が大きい。実力社会の結果ともいう。魔狩であることは、強くなくてはならない。実力がなくてはならない。
実力のない弱き魔狩は、魔狩たりえない。
そういう意味で、私はついてる。
魔法に目覚めることができたし、目覚めた魔法も対価が電子マネーと難があれど使い勝手はいい。
何より、運良くこれまで生きてこれている。その運もこの間尽きたかと思ったけど思わぬ形で補填された。
総合的についている。やや異議申し立てをしたいけどそれは、贅沢すぎるかもしれない。
……やっぱり、贅沢なのは理解してるけど文句は言おう。
もうちょっと人選どうにかならなかったんです?って、いもしない神様辺りに。
それは兎も角。私は、今日も魔狩らしく魔族を狩る。
九龍の《質屋》を出た私たちは、夕日に照らされながら新宿の隅っこまで徒歩で移動してきていた。
静かな住宅街のど真ん中に、目立つ黄色でキープアウトのテープが張られている。周囲には、警官が何人か不安げに立っている。通常の警察官に、魔道具は配備されていない。あるのは通常の銃器だ。魔族に、銃器などの通常兵器は効き目が悪い。警察に配備されているようなものでは、有効打にはならない。不安の理由はその辺りだろう。
「君、この一帯は立ち入り禁止だ。早く離れなさい」
「依頼を受注した魔狩です。通してください」
「え? 君が……?」
立ち塞がろうとして困惑する警官に、私は、J-M.A.S.の映ったスマホを見せた。魔狩の身分証は、J-M.A.S.を通じて提示できるし、警官がしているように、スマホのカメラで読み取ればJ-M.A.S.を通じて、それが偽物でないことも分かる。
認証を誤魔化してるだけで、身分証自体は本物。ノー問題。
「俺もです」
どやっと子供みたいに、聖瑛が私に続いて提示する。
「あ、ああ……、とりあえず確認はできた。しかし、君たち——」
「それじゃあいいですね。失礼します」
何か言いかけた警官を無視して、私は、キープアウトをくぐった。背中に視線と言いかけた声の欠片がぶつかってきたけど無視。どうせくだらない話だ。若過ぎるとか保護者はとかもう聞き飽きた。
「いいのかい、常夜原さん。何か言いかけていたが」
「いいの。それよりこれからの話。既に、私らは、魔族のテリトリーに入ってる」
キープアウトの先にあるのは、公園だ。都内の住宅地にあるにしては、かなり大きめだ。ブランコや大きめのアスレチックと複合した滑り台などの遊具も揃っているし、管理された木々や花壇、生垣といった適度な自然もある。日が暮れつつある公園の中は、影が多い。闇と光がないまぜで、単純に暗いのとはまた違った視認性の悪さ。
魔力感知とかできるならさっさと見つけ出して終わりなんだけどそうもいかない。
「一応復習するね」
「ああ、助かる」
「この公園で、魔族が確認された。目撃証言によると四足歩行の犬みたいなのが1体。後は、警報が鳴ったから避難したからこれ以上の詳細は無し。ランクは、公園内の魔力測定機からクラスE相当ってのは判明してる。クラスEで、四足歩行で犬のようといえばニードルウルフとかね。機動力はあるし、牙とか爪、硬化した体毛も怖いけどあんたには、簡単な相手かもね」
クラスE。昨日のアイアンバッドと同じ。大したことはない……と言い切りたい。昨日がハズレ値なだけだと。
「そんなことはないさ。心臓がバクバクしてる。普通に緊張している」
嘘くさ。隣を歩く涼しい顔の男に、つい、ジト目を向けてしまう。向けてから気づく。遠くの方に視線を投げた聖瑛が怪訝な顔で目を細めているのに。
「当たり前だが公園の中には、俺たち以外いないよな」
「そりゃ既に避難させてるでしょ——」
と言いながらその視線の方を見て、私は、思い切り顔を顰めた。小さな影が1つ、子供用の壁登り遊具の影から辺りを窺っている。
「……あれは、子供だろうか」
「分かんない。近づいてみたら実は魔族っていう可能性はある」
ちょっと距離があるのとそもそも物陰だから目視できていない。安易に近づくのは危険。だけど。
「こういう時こそ俺の出番だな。常夜原さん」
「ああ、そうね。まことに遺憾ながらね。存分に盾として扱ってあげる」
「ご命令とあらば」
そう言いながら聖瑛は、ウキウキで私の前に出て、先を行く。それはもうずんずんと。便利といえば便利ね、歩く肉盾。
「こうやって有用性を積み重ねていかないとな」
「はいはい」
呆れるくらい前向き……と、この男のことばっか考えてちゃダメね。辺りに視線を配る。あれが人なら魔族は他にいるはずだし、あれ
「あっ! あった!!」
甲高い声が茜の空に響いて、私たちが見つけた小さな影が夕日に駆け出して、子供になった。なんだと私が嘆息を吐いた、直後。
「主!!」
聖瑛が叫んで、前に跳んだ。呼び方の指摘より早く、私は、彼が叫んだ理由に指を向けていた。
私の耳に虚しさを響かせて、金の螺旋が私の指と視線を媒介に、飛翔する。
螺旋の先端は、子供に飛びかかろうとした黒い影を撃ち抜いた——減速した。跳躍が失敗した。けどまだだ。黒い影は、4本足の影は、暗い灰色の体毛を針のように逆立てたニードルウルフは、諦めていない。
再び足に力を込める、寸前。
聖瑛がニードルウルフの上に、着地した。盾をニードルウルフとの間に置いて、体重と落下で潰す。
地面と盾に挟まれたニードルウルフは、即死だった。一瞬で霧散した。魔石は、望めなそうね。Eランクなんて二束三文。惜しがる必要もない。
「……よし」
ふうと息を吐いた聖瑛は、振り返ると驚いて尻もちをついた女の子に、彼女が探していたであろう恐ろしきコアラ風味悪魔Vtuber、だぴだぴだぴょぴょのぬいを差し出していた。
いい趣味してるじゃない。私は、手渡されるぬいを見て、気が抜けたことを思った。。
「これ、君のか?」
「あ、う、うん……。ありがとう、お兄ちゃん」
「ああ、どういたしまして」
受け取って、笑顔を浮かべた女の子の頭を聖瑛がポンポンと軽く頭を撫でた。
避難した時に落としたぬいを取りに来たというところだろう。警察は、何やってるんだか。こういうのを中に入れないのが仕事でしょうに。苛立ちが止まらない。
「これで終わりか? 常夜原さん。俺のオブシリアが出番がなくて残念がってるよ」
そう言い、聖瑛は、ポンポンと腰にぶら下がった剣ことオブシリアを叩く。そういう名前になったらしい。なんでもいいけれど。
「……そういうつもりで私は、この依頼選んだけどね」
遊具の影、木々の間、続々とニードルウルフが姿を見せ、私たちに牙を剥いて、威嚇を放ってきていた。少なくない数だ。
「ほら、あんたのお望み通りになったわよ。ニードルウルフは、テリトリー拡張を進めているみたいね」
「魔族は、出現場所から離れられないが土地を魔力で汚染することで活動範囲を広げ、その数を増やす。それをテリトリーの拡張と言う、だったな」
「へえ、ちゃんと暗記できてるじゃない」
行きがけに授業をした介がある。
「暗記科目は悪くないんだ。しかし、言っておいて難だが嬉しがっていいのかイマイチだな」
眉間に皺を寄せた聖瑛は、怯えるその子を庇うように前に立った。私は? と一瞬、思考にノイズ。振り払う。
「そうね。あんたは、前に出なさい。私が援護する」
「しかし、主——常夜原さんとこの子から離れるのは……」
グダグダうるさいわね。
ニードルウルフは、増え続けている。多い。クラスEとはいえ、それなりの機動力と数があるこの魔族は、脅威に値する。私のような遠距離メインでソロの魔狩をしている人間には、特に。
そもそもこんなに大量にいる魔族が今まで気づかれなかった? 都心の、住宅街のど真ん中で? テリトリーを拡張されるまで誰も気づかなかった? おかしいでしょ、そんなの。
いや、今考えることじゃない。今は。
「あんたが一番動けるのに、そのあんたを置物にしてどうするのよ。さっさと全員狩ってきなさい」
「了解した」