クラスメイトは、自称私の騎士   作:クルスロット

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「あんたが一番動けるのに、そのあんたを置物にしてどうするのよ。さっさと全員狩ってきなさい」

「了解した」

「お兄ちゃん、行っちゃうの……?」

「ああ。でも大丈夫だ。俺の主……友達が、あのお姉ちゃんが守ってくれる」

 

 ……言いたいことがあるけど、今はいいでしょう。許容します。

 

「だから安心してくれ。俺よりずっと強い人だから」

 

 どこから出てくる自信よ、それ。

 

「……うん、分かった」

「よし。ありがとう。おまたせした、常夜原さん!」

「はいはい。さっさと行って片付けてきて」

 

 立ち位置を入れ替わり、そのまま聖瑛が丁度、動き出した最も近くの眼前に移動。ニードルウルフが反応するより早く剣を叩きつけた。頭部粉砕。地面の染みになったニードルウルフは、即座に霧散した。

 分かってはいたけど早すぎる。私の視界では、ほぼ消えたように見えた。

 続けて、砂煙を上げた聖瑛が駆けていく。隙ありとばかりに私たちの方へ走ってくるニードルウルフを蹴り飛ばし、距離があると見れば盾と剣を投げて、牽制どころかトドメを刺す。

 あいつ1人でいいじゃない……と思わなくもないがそういうわけにもいかない。

 聖瑛の手をすり抜けたニードルウルフがこちらへ来る。

 

 魔法の話をしようと思う。

 

 魔法は、基本原則として代価が必要だ。あらゆる魔法には、代価が存在し、その代わりに魔法は出力される。

 私は、電子マネー。今日は、どこでも使ってないので余裕がある。カラオケ代は、聖瑛持ち。移動費は、定期。

 ちなみに、縦横無尽に暴れ倒してるあの男が何を代価にしているかは知らないけど。本人が何を代価にしてるか分からないんだからしょうがない。疲労感があり、魔力消費があるらしいからその辺りだろうという予測はできる。

 生活に関わらないものが代価で羨ましいことこの上ないのは、勿論言っていない。弱みを見せる趣味はない。

 あーもう、こっちは、家計にダイレクトアタックなのに……!!

 魔法の内容は、代価とイコールだ。捧げるものと繋がりを持つ。

 私の場合は、代価に使用する金額だ。金額に応じた規模の魔法が使える。

 

 例えばこの電金魔弾。命名は、AI任せ。厨二くさいけど流石に慣れた。いかにもな名前の方が覚えやすい。

 両手の人差し指を起点に、銃のように撃ち放てる——それだけと思われると心外。中指を揃えれば弾数倍!! 連射速度も倍!!

 電金魔弾、モード:二本指(マシンガン)

 私の先で、ニードルウルフたちの身体が踊る。四肢を胴体を頭を射抜かれて、デタラメに踊る。

 

「……リロード」

 

 設定した5000円(リミッター)までの魔弾が一瞬で消費された。撃ちすぎだ。音声認証で装填。

 魔法は、説明書はないが有志の作ったスマホアプリを使えばAIによる解析ができ、使用により情報を蓄積させればある程度カスタマイズを行えるし、今みたいに魔法の補助をしてくれる。有志にはめっちゃ感謝。

 魔法の説明書がないなら自分で作ればいい。

 これは、私のスタンスであって、皆が皆そうじゃない。感覚派もいる。私は、感覚で済ませられるものじゃないからこうやって外付け管理装置も作っている。

 私は、私なりにやって私なりに魔族を狩る——思考のトリガーを引き絞り、迫るニードルウルフに、私は、魔弾を放った。

 

 

 ——数分後。

 

 

 その場に、動く魔族はいなかった。いくらなんでも多すぎる。緊急発生した依頼の癖に、しばらく放置されたテリトリー並みの物量だった。

 そんなものに引っかかってしまう私の運勢もおかしい。

 明らかに昨日からおかしい。人生で発生する不運全て今、列を成して襲いかかってきている気がする。

 

「……1万で済んだのは、良かったとしましょう」

 

 クラスEだから一体につき、数発で良かった。ただ無駄弾が多くなってしまった。遊具とか木とかに隠れられたし、相手も素早かったし、しょうがない。しょうがないで飲み下すしかない。

 てか、絶対今回の依頼料だと割合わないでしょ。ハズレ引いた。舌打ちを思わずこぼして、小石を蹴る。

 

「あ、あの……。もう、大丈夫、です……?」

 

 …………忘れてた。いや、完全に忘れてはないんだけどつい。

 ちらりと視線を向けると怯えたように、女の子がびくんと身体を震わせて、手元のだぴだぴだぴょぴょがぐにゅりと潰れる。 私、そんなに目つき悪かったかな。

 子供は、苦手。というかあんまり関わったことないし、分かんないのが正しいかも。

 

「2人とも、無事か!!」

 

 とんと、聖瑛が上から着地した。特に疲労という疲労は見えない。汗ひとつかいていない。

 『もう大丈夫。見て、お兄ちゃんも帰ってきた』などと気を使って言おうとした時、女の子が私の横をだっと勢いよく通り過ぎていった。

 

「お兄ちゃん!!」

 

 言わなくてよくなった。良かった。あいつをお兄ちゃんとか言ったら私は、アナフィラキシーショックを起こしていた。間違いない。

 

「良かった。無事だな……」

 

 走ってきた女の子を屈んで受け止めて、私の方に、心底安堵したような顔を向けた。

 

「あんたは、ちゃんと仕事してきたでいいのよね」

「勿論だ。ちゃんと殲滅してきた」

「そう。それはありがとう」

 

 できて当然という言葉が喉元まで登ってきかけたけど腹の中に叩き落とした。私だって、空気の一つや二つくらい読める。

 

「これで採用がまた一歩近づいたということでいいか……いや、俺が悪かったからそんな顔しないでくれ」

「どんな顔よ」

 

 私って、そんな顔に出る? ちらりと見た女の子が素早く、聖瑛の後ろに隠れた。どうやら出てるらしい。遺憾である。

 

「ともかく、報告もいるし、その子連れて出ましょう」

 

 やれやれ。後は、警察に預けて、はいおしまい——と、私はするつもりだった。

 

「こっちでいいのか?」

「うん!」

 

 あの女の子、鷹咲 輪音(タカサキ リンネ)が聖瑛から離れたがらない。お陰で警察に引き渡すこともできなくて、こうして近くにあるという家まで送り届けることになってしまった。

 

「……全く」

 

 今日何度目になるか分からない溜息が前を楽しげに歩く二人の背中を前にして、零れ出た。

 私は、必要ないから後はお願いと押し付けようとはした。失敗。高校生男児が小学生女児を送り届けるのは、やや世間体的にまずいという聖瑛の一般論を論破できなかった私の失態が原因。

 そんなこともあり公園近くの住宅街を私たちは、歩いている。

 閑静な住宅街。東京の真ん中に、庭付き一軒家を持てるのは、それなり以上の努力や稼ぎがなくては不可能だ。一軒家じゃなくていいから私も自分の城が欲しい。誰かの力ではなく、自分の力で手に入れたものが。

 そう思っていると漂ってきた夕飯の匂いが鼻を擽る。多分、カレーだ。きゅうと腹の虫が鳴って、切ない。

 ここのどこかに住んでいるであろう子供たちが楽しげに、私たちの行く道と反対向けて、夕暮れの帰路を駆けていく。

 普通の日常があった。あまりに普通の日常が。

 そんな日常がついさっきまで非日常に、頭の天辺まで浸かっていた私の奥深くにある柔らかくて脆い部分を刺激した。そこから零れたもの何かが胸の中心からじんわりと染みるように広がってきて、鼻の奥を微にツーンとさせた。

 こんなよくある風景を見ただけなのに。いつもならこんなことにはならない。何故か今、急に、感傷的になってしまった。

 夕焼けか、夕飯の香りか、無邪気な子供か。それとも前を歩く大小の2つの影か……分からない。

 ああ、もう……。感傷に浸るな。息を吸って吐いて、唇を横に引き締める。こんなところ、誰かに見られたらどうするのよ。

 

「どうかしたか。常夜原さん」

 

 いつの間にか立ち止まった背の高い影が私を気遣う。こっち見るな。

 

「……なんでもない」

「輪音!!」

 

 しかし、と聖瑛が言葉を続けようとした時、それを遮るように、女の声がした。

 視線を向ける。私たちの行く先に、声の主はいた。私と同じ制服を着崩している、見たことのある顔の女だった。

 そういえば鷹咲という苗字がクラスに居たのを私は、遅まきながら思い出した。

 

「って、聖くんとあっ……」

 

 茶髪を綺麗に伸ばしていて、クラスの中心にいて、クラスメイトに笑いかけたり。

 

「常夜原さん」

 

 最近の鷹咲紫亜(シア)といえばつい先日まで興味なかったはずの私を睨んだりしていた。

 理由といえば分かりきっている。

 

「鷹咲さん! こんばんは、かな?」

 

 この光り輝く、(ヒジリアキラ)に、焼き焦がされたから。

 

 

+++

 

 

 闇の中。薄暗い場所。隙間。道の間。排水溝の隙間————外を、覗き見る目があった。

 人間をじっと見ている。視線の先にいる少年少女を見ている。

 耳をそばだてて、彼らの会話を一つとして漏らさないようにしている。

 獣は、獣のような何かは、そこに渦巻く感情とその感情を発するもの、感情の向けられるものを見て、唇の端と端を持ち上げた。

 そして、じっとしている。

 じっと待っている。

 

 

+++

 

 

 一瞬、私に向けていた鋭い視線が聖瑛に向けられるとあっという間に、柔らかく蕩ろけた。態度も同じく弛緩している。当然と言えば当然。

 クラスの……いや、学校の女子は、大体こういう感じか、話しかけられて挙動不審になるかだ。見ての通り聖瑛は、女子に非常に人気がある。異性として、男性として。

 それはそれとして怒ったように、しかして眉を下げて。

 

「聖くん、今日、どこへ行ってたの? 避難した時にも見当たらなかったし………。みんな心配してたんだよ?」

 

 ………色々ありすぎて忘れてたけどそういえばそういう日だった。

 

「あっ、いや、それはだな……。丁度、外に出ていて……常夜原さんと一緒に外のシェルターに避難したんだ」

「それに、LINEで連絡入れたのに反応ないし……」

「へ? あっ……すまない。気づかなかった」

「とりあえず無事でよかった。すごく心配したんだから……」

 

 心底安心したように、鷹咲紫亜は、胸を撫で下ろす。丸く収まったらしい——と思った矢先。

 

「それで、どうして輪音と聖くんが一緒なの?」

「え、あー。いや、ちょっと色々あってね」

 

 ちらちらこっちを見ないで。誤魔化しくらい一人でやってよ。私、あんたたちの間に入りたくない。

 けど仕方ない。話が進まない。私は、今すぐにでも帰りたい。

 

「……そこの公園で、その子が困っていたから助けたの」

 

 しょうがないし、埒が明かないので会話に挟まる。

 

「ふぅん……。そうなの? 輪音」

「うん。だぴだぴだぴょぴょが取れなくなったんだけど、お兄ちゃんが助けてくれた」

 

 子供ができて大人ができないの恥ずかしすぎる。正直すぎるのか単純に腹芸が下手くそすぎるのか。知ったこっちゃないか。

 

「そうなんだ。ありがとうね、聖くん」

「いやいや、なんてことないよ。当たり前のことをしただけだ」

「ふふ、そっか」

 

 なんとか丸く収まった。これで。

 

「それで——」スッと僅かに、鷹咲紫亜の瞳が細められた。「どうして、常夜原さんと一緒なの?」

 

 そうなるわよね。ええ、無事に帰れるとは思っていない。絶対聞かれるだろうな。なんて答えよう。

 

「それは、ほら前言ったじゃないか。最近同じアルバイトをしているって」

 

 私が思考を巡らせて、言葉を作るより全然反応が早かった。

 なんだできるじゃない。っていうなんだか拍子抜けになる感想とそういう言い訳してたのね。という納得。

 

「へえ。そうなんです?」

「大体そんなところですね」

「ふうん……、それってどんなアルバイトです?」

 

 ああ、続くんだ。面倒くさい……という感情をおくびも出さないように言葉を選ぶ。嘘と嘘でそれっぽく作る。

 

「機密事項が多くて、話せないんです。政府関連で、うちの叔父に紹介してもらったので」

「ほら、鷹咲さん。この前も言ったじゃないか。話せないって」

「うん、聞いたけど私も聖くんと同じバイトしたいし……。どうしてもダメ?」

「そう、言われてもなあ…………」

 

 視線でヘルプを伝えてくるな。助け舟は出し切ったわ。と無下にしたいところだが私もそろそろ帰りたい。うんざりよ。だからこれは、そのついでね。

 

「私、もうバイトの時間は終わってるし、そろそろ帰らないといけないから失礼するわ」

「あ、そうだったな! 送るよ、常世原さん!!」

 

 そう言い残して、踵を返した私の方に、渡りに船とばかりの聖瑛が飛びついていてきた。

 

「じゃあ、鷹咲さん! また学校で!! 輪音ちゃん、また今度! 今度は、遊ぼう!!」

「あ、聖くん! もう、また学校でね」

「うん! またね!! お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!!」

 

 ほんと大変すぎる1日だった。よくわかんない騎士志望に絡まれるし、立て続けにイレギュラーが現れるし、さっきみたいにクラスメイトに絡まれるし。もうあげればキリがない。本当に疲れた。早く帰ってお風呂に入りたい。

 

「お姉ちゃんもありがとう!!」

 

 ————けどこれは、悪くはないかも。うん。

 

 

 +++

 

 

 なんなのよ、あいつ——紫亜の中には、怒りとか苛立ちが満ちていた。その向き先は、勿論、常夜原深澄。

 背の高い彼をまるで子分みたいに引き連れながら澄ました顔で、何のトリートメントを使ってるのか気になるくらいの艶のある黒髪ボブをサラサラ揺らしてるあの女。

 最近、何故か聖くんにアタックされてる、よく分からない女。いつも迷惑そうに聖くんをあしらってる。折角、聖くんが話しかけてくれているのに、あんな態度とってるの本当にムカつく。イライラムカムカする。

 紫亜の指がイライラをぐねぐねと髪にぶつける。唇が尖って、表情に出てしまう。

 聖くんは、あんな女のどこがいいのよ。ちょっと可愛いだけじゃない。私の方が……身長高いし。

 

「ねえ、お姉ちゃん、帰らないの?」

 

 去っていく深澄の背中を見つめていた紫亜は、不思議そうに見上げる輪音の声で、ハッと我に返った。

 

「ごめん。帰ろっか」

 

 苦笑いした紫亜は、年の離れた妹の手を握って歩き出した。

 日が暮れていく。夕日が地平の彼方に消えていく。日の時間が終わる。光が這い回る闇にこそぎ取られていく。

 そうして、夜が来た。

 だから妹の手を引く紫亜は、闇に紛れた何かが静かに自分の影へ入り込んだのに気づかなかった。

 

 

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