内戦終結後に訪れる風 作:匿名
私は直接取材を行い、彼と質問を交わした。
西部地域(西ベリトラルリンではなく東ベルトラルリンに属する国境地域)において有数の石油王として名を馳せる男、レミントン氏。
彼の経歴は、その出で立ちと同じくらい異彩を放っている。
「ま、この格好を見れば誰でもわかるけどね!」
と、快活に笑う彼の服装は、見事なまでにアラブ的な衣服──トーブであった。もっとも、足元には動きやすいスニーカーが合わせられているが、服装を見た者全員が石油王といえばコレだと即答できるほどの再現度だ。
世間が勝手に抱くパブリックイメージを、当事者である本人が自覚した上でエンタメとして楽しんで着こなす。
このステレオタイプの逆輸入とも言える自己演出に、他人の偏見をユーモアで上書きしてしまう彼の器の大きさが光っている。
本人曰く、猛烈な日差しから身を守るトーブは実用性も高く、着心地もなかなか良いらしい。
通気性が抜群で、日陰に10分ほどいて風が吹けばむしろ寒いくらいだと彼は語る。
海沿いや水辺の湿気には無力だが、乾燥したこの場所では非常に過ごしやすいという。
実用性を語りながらも足元はスニーカーで外す。完璧に型にハマりきらないところに、彼の愛嬌と人間味が滲み出ていた。石油王らしさを求める石油王という存在は、社会的な偏見が生み出したものの中で最もきらびやかで、それでいて贅沢な悩みなのかもしれない。
彼が石油王になった発端は内戦前、旧ボードリアの国策会社が、彼の所有する牧草地に眠る石油に気づいたことだった。近くの谷で原油が湧き出ており、彼の土地で地震波と磁力調査が行われたのが14年前。
完全に調査が終わったその時に貰ったというボーリングコアは、今も彼の家に誇らしげに飾られている。
ただの灰色の岩が連続した筒のようなもの、と語る彼の言葉には、表面上の謙遜がある。しかしその言葉に乗った感情から、それは本心ではなく、自慢したかったのだと思われる。
彼はfacebookにおいて数枚の写真しか投稿しておらず、SNS活動は非常に弱々しい。
この取材において彼の内面は多大に知れた。
大富豪になったとしても、オイルデリックが建設されるに伴い、家畜の多くは広大な牧草地を使えなくなったと彼は語る。
代わりの飼料は山のように届いたが、あまりにも酷い騒音のせいで、家畜たちは防音板の内側を歩くことになったと彼はこぼす。
オイルデリックを騒音と語る正直な性根が伺えるエピソードだ。
もちろん、この件についてレミントン氏は弁護士を雇い、旧ボードリアを相手取って訴訟を起こした。
結局のところ、オイルデリックの稼働制限という要求以外は全てボードリアに第三審の段階で確定させ、潤沢な補填によって妥協したという。
国策会社を相手に渡り合える強気な姿勢、そして記者からの質問にも気さくに答えるフットワークの軽さ。それはひとえに、石油から生まれる圧倒的な富による余裕に他ならない。
彼は私に向けて、身振り手振りを交えながらこう言い放った。
『ロイヤリティという仕組み、リースという仕組み、まあいろいろあるけど、これを思いついた人は天才だと思うね! 何せ30歳のオジサンがいまや40歳の石油王!
現代じゃ需要はいくらでもある。たとえば石油が無くなるかもっていうパニックで商品は買い占められるし、国は石油があればいくらでもほしい。
そんな時に、この私に向けて東ベルトラルリンの国策会社がこう言ったんだが……』
『ああ、簡潔に言うとだな……あんまり専門用語を使ってもアレだろ? 要約しまくれば、新しい契約を結ぶってことだ』
『従量のロイヤリティに従価のロイヤリティが合わさって、もう笑いが止まらなかったね! いやあ本当に太っ腹なことで、もう億万長者さ!』
採掘量に応じた従量と、市場価格の高騰に連動する従価。この二つが合わさった契約は、資源ビジネスにおいてまさに無敵の組み合わせである。
巨万の富を築いた彼が、自己演出のジョークやこだわりを堂々と楽しめるのも頷ける話だ。
そんな彼はいま、慈善事業として北部地域に広がる大平原に道路をさらに建設している。
『大富豪になったからにはやはりコレ』
今後の事業計画をそう語る姿には、慈善事業家という看板の裏にもやはりステレオタイプな富豪像を楽しむ影響が見て取れた。
北部地域の復興は、山間部の再開発都市において多く見られる。
山体崩壊を受けなかったがゆえに比較的無事で、建物の大部分はバブル期に建てられたものであるが故に、倒壊もわずか23軒のみ。
一方で被害が大きかった地域もある。山体崩壊によって山間部の古都は完全に消滅し、土の下へと隠れた。
大平原を通る道路網は非常に細く、都市を離れれば背の低い草が地平線の果てまで広がるような過酷な環境だ。鉄道が並行して南北に建てられているものの、北部地域において駅の周辺以外に都市は存在しない。
古都付近は盆地の地形であったことも災いによって最悪の欠点に変わり、多くの歴史的建造物が失われた。
古都すら離れ、駅から離れたそんな大平原のど真ん中に、彼は私財を投じ、特殊車両すら通行できる頑丈なアスファルトの私設道路を建設し、維持管理していた。
事業としては呆れるほどに採算が悪いが、もとより採算を求めていないのだろう。
ある種の予知能力すら疑うほどのそのタイミングの良さこそが、今回彼に国家からの勲章が授与される決定的な要因となった。
北部地域を襲った未曾有の大震災の被害は凄惨を極めた。
北限の都市では128万人近くが間接的な被害を受け、現在確認できた限りでも1.6万人が直接的な被害を受けている。水道網や電気ガスなどのライフラインは寸断され、都市は深刻な物資不足に陥った。
ありとあらゆる舗装道路は通行を妨げられ、山体崩壊によって高速道路は地滑りで転倒し、大量の土砂に埋もれた。唯一の交通網と言える鉄道網すらも、トンネルの崩壊によって完全に機能不全に陥っていたのである。
倒壊した家々から這い出した数万の市民たちは、生き延びるために、100kmを優に超える長い鉄道のすぐ側をひたすら歩き続けるしかなかった。しかし、彼らの行く手を完全に土砂で埋まったトンネルが非情にも塞いだ。
進むことも戻ることもできない絶体絶命の窮地である。
火災の煙が平原を焼き払いながら鉄道のすぐ側を通り、周辺の地面がコンクリートによって舗装されていなければ生命の危機にさえ陥っていた可能性がある。
だが、市民らが最低限の安全しか保証されぬまま、その崩落したトンネルに直面したとはいえ、奇跡が起きた。
まさにその場所は、レミントン氏がたまたま鉄道から2マイル付近に私有している土地の目と鼻の先だった。
そしてそこには、たまたま彼が大富豪の道楽として敷いた、重機も大型トラックも通れる完璧なアスファルトの道路が存在していたのである。
彼は要請を受けると直ちにその私設道路を公共のために解放したし、それを本人は誇らしげに語った。
災害対策本部が一般市民に対して強権的という批判もあるが、本人曰く、この道路が災害救助のために使われるのなら本望だと言う。
完全に分断されていた大規模な救助と物資輸送のルートが確保されたのである。ステレオタイプをなぞった大富豪の自己演出が、結果として百万人の命綱となったのだ。
大型バスなどの車両は、鉄道のすぐ側に行き、人々を満載して避難所へと連れて行った。この光景は撮影班がカメラに収めている。
レミントン氏は現在進行形で道路を建てており、私有地全体に道路を広げるつもりだと述べた。
これは元々自己満足に過ぎなかったが、人を救った後の食事は何よりもうまい、とコメントしてくれた。
この一連の発言を元に記事を書いてもいいか彼に聞いてみたところ、快諾された。さて、どうしようか。大スクープだけでも編集部とかが、まだまだ悩んどるし……
一刻も早く公開しなければならない情報が沢山あるが……
よし、あと6ヶ月以内にインターネット記事でもいいから記事に仕立てて、これも公開しろと急かそう!まずは情報を整理するか……