内戦終結後に訪れる風 作:匿名
インド洋の灼熱の陽光が、トタン屋根とコンクリートの家屋を容赦なく照りつける。その熱気はアスファルトの地表からゆらゆらと立ち上り、遠景の景色をすべて歪ませていくように見える。
ダストボックス島の中央を東西に切り裂くように引かれた、不可視の国境線。その境界のすぐ脇に立つ物流検問所では、かつて同じ言語を話し、同じ市場で日々の糧を融通し合ってきた人々が、それぞれのポケットから異なるパスポートを取り出し、列をなしている。
今や当然の光景のように、無機質なコンテナを積んだトラックたちがハイウェイの国境検問所へと吸い込まれていく。
分断の象徴かと国外メディアが騒いだ検問所の設置も、現地住民らは面倒に思いつつも受け入れているようだ。
物流トラックのドライバーに取材したところ、ハイウェイの物流検問所は『うざったい』と述べるものが多い。
しかし、だからといって兵士に往来が妨げられるわけでもなく、ドライバーの大多数はパスポートを電子化し、ETCなどの料金所で機械がコンピューターを通行したという証明を済ませていると言う。
第一帝国の最中、この海域を測量したイギリス人の貴族が、英語で記したその侮蔑的な呼称は、皮肉にも現代の地政学的混乱の中で奇妙な現実味を帯びて結実している。かつての平穏な日常は、いまや分断の歴史の傷跡としてこの地に深く刻み込まれていた。
「昨日の夕方までは、あそこのガソリンスタンドまでが生活圏だったんだよ」
そう語るのは、国境線にほど近い場所でカフェを営むアラン・マクラミン氏(54)だ。日に焼けた肌と、使い込まれたシャツの袖が、この土地で長年生き抜いてきた男のタフさを物語っている。
ガソリンスタンドはありとあらゆる乗り物に必須のインフラストラクチャーであり、島内の物流と生活の足は完全に車に依存している。しかし、突如として導入された『観光地税制』によってガソリンの価格が高騰。
マクラミン氏によれば、この複雑な税制の格差を狙って、隣接するエリアから、マクラミン氏の利用していたガソリンスタンドへレンタカーが連日押し寄せるようになり、結果として日常的に車を必要とする自ら、ひいては現地住民の利用が著しく困難になっているという。
「島の人間にとって、車は足そのものだ。それが観光客の買い占めによって燃料すら満足に手に入らない。これじゃあ、生活そのものが立ち行かなくなるよ」
マクラミン氏の苦悩はそれだけにとどまらない。なんと彼の営む店舗そのものが、図らずも国境線の真上に位置してしまっているのだ。テラス席の一部は東側、厨房やカウンターは西側へと綺麗に二分され、実生活のみならず、日々の営業活動においても前代未聞の弊害が発生している。
国境線上にある店舗は、その敷地面積のうちどれだけ東側か、どれだけ西側かという比率によって、納税先の政府が決定されるという結論が出され、法曹界が困惑する複雑怪奇なシステムが敷かれている。
「東側の政府が発行する通貨と、西側の発行する通貨では、物価の感覚が同じでも本質が全くもって違う。客はどちらのコインで支払えばいいのか、レジの前でいつも迷っている。俺が東側の通貨で払えって直接言っても、西側のコインで払ってくるようなやつは多いし、市役所に相談に行ったら『レジがある場所が基本だ』なんて、まるで他人事のような返答が返ってきたよ。しかも迷惑なやつらは、支払いが現金のみだって言ってもクレジットカードが対応してないからって評価を1にしてくる」
そう言って肩をすくめ、乾いた笑いを浮かべるマクラミン氏が指さす先には、美しくも残酷なまでに青い島の沿岸部が広がっている。水平線まで永遠に続くような白砂のビーチは、観光地としても非常に栄えており、マクラミン氏の店舗も現在はまさに繁盛期の最中であるはずだった。
しかし、その賑わいの裏側で、明確な国境線の齎した歪みが人々の日常を静かに蝕んでいる。
約13万平方キロメートルという、大陸並みの広大な面積を誇るこのダストボックス島は、周囲の無数の島々を結ぶ物流の要衝であり、内海と外海を決定づける地政学的な要所でもある。
立地としても東アフリカ諸国と面するばかりか、アジアに向かう物流網はダストボックス島の港を利用していたりする。その広大かつ重要な土地において、国と国の境界線の画定は非常に注意すべき事項だった。
マクラミン氏曰く、これは現場の生活実態を一切無視した机上の空論で行われたもので、首相と大統領が合意したからと言って俺は合意していないと言う。
ダストボックス島のビーチに店を構えるマクラミン氏は、両政府の拙速な政策運営を直接的かつ鋭く批判した。
かつて島民たちが自由に行き来し、豊かな恵みを分け合ってきた伝統的な漁場は、突如として排他的経済水域(略称:EEZ)に細分化された。外海に漕ぎ出して漁を続けてきたベテランの漁師たちは、今や次々と廃業の危機に瀕しているとマクラミン氏は厳しい表情で語る。
現在、複雑に入り組んだEEZを意図せず跨いでしまい、密漁者として逮捕される漁師が後を絶たない。マクラミン氏は、最新の海図やナビゲーションシステムが更新されていないことや、突如引かれた境界線の正確な位置を把握していなかったことを理由に挙げつつも、「そうした行政の不備に付け込んで、あるいはそれを言い訳にして積極的に違法操業を行う者たちのせいで、真面目にやっている漁業者全体に深刻で理不尽な規制の網がかけられている」
と、声を大にして漁業の矛盾を突いた。
国境はただのインクの線ではない。それは、ここで暮らす人々の絆、経済活動、そして確かな人生そのものを引き裂く鋭利な刃物と化している。
しかしマクラミン氏の言葉には欠如している観点も多く、中立的ではないことには留意したい。
今回の取材においてマクラミン氏が終始語るのは、東西両政府がどれほど現地住民との合意形成が不十分かということにある。
しかし、西ネーズビー州(イギリスに由来するがイギリスの地名ではない)が東側の連邦政府と、そして東ネーズビー州が西側の連邦政府に対し、
国境線から9マイル以内はそれぞれの連邦政府を主体とする共同統治に協定していることから、現地住民が感じる合意形成の不十分さと、現実的な法理は別であるということについて確認したい。