スキルの詳細は簡潔に!! 作:たまみ
編間学園高等部生徒会室に三人の生徒がいた。椅子に座っている白黒のツートンカラーの制服を着た少女が口を開く。
「それでミナト。ハイナという女の子を封印迷宮誘ったのか?外縁の”捨て子たち”を?」
「はい」
生徒会長 白山クロアの問いに、ミナトと呼ばれた暗灰色の髪の少年はそう答える。
すると、クロアの後ろに立っていた金髪の少女が会長の頭を軽く叩いた。
「だめですよ、クロア会長。”捨て子たち”は差別用語です」
「ああ……………すまない。それでその子は善人か?」
「はい。僕の事をメジナくんと呼ぶような変な人ですが。善人ではあると思います」
クロアは黙ってミナトの目を見つめた。数十秒見つめ合ったあと、クロアは小さくため息をついた。
「……………許可しよう。能力しだいでこの学園に入学することも視野に入れる」
「クロアちゃん!?封印迷宮に入れるだけじゃないの!??」
「ミナトの話では、食事中でさえ隙を見せなかったらしい。強者はこの学園に必要だ。それにハツネ。職務中は会長と呼べ」
クロアは目の前の書類に印鑑を押した。そして書類をミナトへ差し出す。受け取ったミナトは頭を下げ、生徒会室を出て行った。
「……………ハツネ。ハイナという少女を監視しろ。害をなす者なら殺してもいい」
「会長、嫉妬ですか?」
「うるさい。ミナトが騙されていることを考慮しただけだ。それにミナトは将来的に私の……………にやにやするな」
こうしてハイナは、編間学園の封印迷宮へ足を踏み入れる資格を得た。
円柱状の滑り台は寝具としては最適な遊具であると言える。段ボールを敷けば雨風を凌げる。
まあ、外縁の公園の遊具なんて廃材回収にされたから残ってないから意味はない知識だ。
軽く伸びをすると、この島の唯一の輸出入を行う軌道エレベーター『柱』が目に入る。軌道エレベーターはエレベーターと何が違うのか分からないけどラジオでそう言ってた。うん、今流れているニュースでやってる。
「あれ柱って言うのか。樹じゃなかったんだ」
子供たちの声が聞こえる。ラジオ体操でもするのか?そしてオレを遠巻きに眺める主婦らしき女性たち。
高級住宅街に合わない薄汚れた服。不審者という奴だ。メジナくんそろそろ来ないかな?あっ来た。
「ハイナさん。ごめんなさい少し遅れました。寝坊してしまって」
「オレも今起きた」
「僕についてきてください」
メジナくんの後ろに着いていく。風が吹く。髪が目にかかった。うん?髪が伸びたような?気のせいか。
しばらく歩いていると、塀の向こうにビルが幾つか見えた。ここが編間学園か。
「ここが編間学園第二学舎です。本校舎に比べたら小さいですけど、設備はいいです」
「へぇ~」
いや、広くない?なんかバス停がある。信号機もある。これで小さいのか。編間学園ってすごいんだな。
「あっ、バス来ましたね。無料で使えるので大丈夫です」
「あ、はい」
バスの中は案外空いていた。今日は日曜日だからか?
「しかし、よく許可下りたな。封印迷宮の素材は企業が奪い合ってると思ってたけど」
「会長が許可してくれました」
会長さんが許可してくれたんだ。外縁の子を信用するとかいろいろ変な人だな。
「会長さんはどんな人?」
「尊敬している人です。少し怖いですけど。クロア会長は僕がスキルを使えない時から、気に掛けてくれました」
オレを封印迷宮に入れる許可をくれた会長さんを語るメジナくんはどこか遠い目をしていた。
そして、急に周りを見回す。オレ達以外誰もいないぞ?
「ハツネ先輩の気配がしたような……あっ、ハイナさん気にしないでください」
「会長さんに何か怖い思い出あるの?」
「朝起きたら封印迷宮に縛られていたことがあって。死にかけました」
封印迷宮ってかなりの死人でてなかったっけ?でも、生きているなら大丈夫か。
「次は第二編間封印迷宮入口、第二編間封印迷宮入口です」
「あっ。ここで降ります。ハイナさん武器は持っていますか?貸し出しもありますが」
「ある」
オレは軽く念じると『常春の枝』が手から生えてきた。持ち歩くのに便利だなコレ。
「……………それ、どんな武器ですか。聞いたことないですよ。体から武器がでるなんて」
「昨日、できるってなんとなく思って。やったらできた」
「そうですか……………固有武器か?いやハイナさんは外縁出身だ。ありえない」
バスが停車した。メジナくんがまだぶつぶつ言ってたので手を引いて降りる。
バスから降りるとメジナくんが何度もオレに頭を下げてきた。
「すみませんハイナさん。一度考え始めると止まらなくなって、すみません」
「まあ、無事についたし大丈夫」
大きな門の近くには二十人ほどの学生が集まっていた。
その中の一人がオレたちの方へ向かってくる。中性的な外見をしていて、ヒラムシみたいな服を着ている。
「遅いですよ、十分も待ったんですから今日の昼は奢ってください。その子は?」
「ごめんユウ。この人はハイナ、今日一緒に迷宮に潜ります」
声も中性的だ。体も服で隠されて性別が分からない。どっちだ?それに優しそうなのに、近寄ると嫌な感じがする。
「よろしくねハイナちゃん。私はユウ、ミナトの同級生だよ」
「ハイナだ。よろしく」
そしてヒラムシさんが手を差し伸べてきた。握手か。受け取りたくはないけど。仕方ない。
「…ああ、なるほどね。そりゃあ誘うわけだ。ハイナちゃん、どれだけ一日鍛えてる?」
「十分くらいだけど、何ですかヒラムシさん?」
「それでコレか。いやー才能ってやつは恐ろしいね」
ヒラムシさんがそう言って頷くと、不思議と嫌な感じが消えた。値踏みされていたのか。
他の生徒と話していたメジナくんがこっちを向き、青黒いリストバンドを差し出してきた。
それを受け取るとオレンジ色に変わった。変なリストバンドだ。初めて見るな。
「これは生体反応と位置を確認するためのリストバンドです。魔力で個人を識別しているので、人によって色が変わるんです」
「ぐちゃぐちゃになっても、誰か分かるようにね。見た目じゃ分からないことは、たまにだけどあるから」
「そうなんだ」
そんな機能があるんだ。付けてみよう。
手首に付けると意外とフィットする。違和感がないな。指でなぞってみると、ところどころに硬い部分があった。ここで識別とかしているのかな。
「じゃ、行こうか封印迷宮。ハイナちゃんは初めて?」
「はい。話くらいは聞いたことありますけど」
「あはは、誰でも最初はそうだよ」
メジナくんが門の横にある装置へ何かをかざすと、門がゆっくりと開く。奥にはライトに照らされた地下に続く階段があった。
「ユウ、ハイナさん。急いで入ってください」
「わかった」
「はいはーい」
門の中に入り、階段を下るとそこには青空が広がっていた。ここ地下だよね?
視線を下にずらすと、学生たちが袋を持って売店のような建物に並んでいた。よく見ると買取所と書いてある。
「ここは安全地帯といって、封印迷宮のモンスターが出た際に対処してくれる場所です。あそこは買取所で封印迷宮の素材の買取をしています。食べ物や飲み物も配布しているので取りに行きましょう」
メジナくんがそう言うと、買取所の方に向かっていく。食べ物って何があるんだろう。
乾パン、エナジーバー、缶詰など保存性の高いものが棚に並んでいた。カニ缶もあるんだ、しかも数が少ない。人気なのかな?
別の棚にはビタミン剤や亜鉛サプリなどが鍵付きの棚に入れられている。棚の下の方を見ると鎮痛剤があった。薬もあるから鍵が付いているのか。
「ハイナさん。飲み物は何にします」
「オレは飲めれば何でもいい」
「スポーツドリンクにしますね」
オレはエナジーバーをいくつか掴み、服のポケットに入れる。後ろを見ると、皮鎧のようなものを着たメジナくんがいた。見たことない素材だ。ヒラムシさんは何も変わっていなかった。
「今日は五階から行きましょうか」
「五階?十五階に行きましょう。私とミナト、それにハイナちゃんなら、いけるいける」
「危険じゃないですか?それに僕は十階までしか。だからユウは────」
何か二人が言い争っている。そんなんだから成長しないとか安全マージンがどうのとか。らちが明かないな。
二人の肩を掴み、軽く押して転ばせる。ビックリしているけど、後ろに人いるからどいたほうがいいと思う。
「後ろ、人待ってるよ」
「………あ、ごめんなさい」
「騒いでごめんね」
そして買取所から離れ、机とベンチがあるところで二人は話していた。なんか仲間外れされた気分。
「二十階まで一人で行けそうだね、ハイナちゃん」
「そうですね。まさかあそこまでできるとは思っていなかったです……………十五階まで行きましょう」
「そうだね。私もいるし何事も経験だよ、ミナト」
終わったみたい。そういえば、初めてスキルを使って戦うのか。蘇ったあそこで戦うような気がしたけど、まあいいか。
「ハイナさんすみません、身内同士の喧嘩に巻き込んでしまって…………今日は十五階に行きます」
「うちの不出来なミナトがご迷惑を掛けました」
「十五階か、わかった。どうやって十五階まで行くの?歩き?」
話を聞くと、十五階には転移門と言うものがあるらしい。十五階まで安定して到達できる人には、その転移門を利用する資格が与えられるらしい。ヒラムシさんが見せてくれた学生証に「三十階まで利用可」と刻印されていた。
転移門はここから少し遠い所にある。なんでも階が高いほどモンスターが強くなるらしい。もし転移門から出てきても被害を抑えるためとメジナくんが教えてくれた。
転移門に歩いて行くときヒラムシさんがオレと肩を組んできた。歩きにくくないのかな?オレは大丈夫だけど。
「ハイナちゃん。私の名前わかる?」
「ヒラムシさん」
「ユウね。仲間なんだしちゃんと名前で呼んでね。救難信号を送るとき、名前分からなかったら大変だから。それと、あいつはメジナくんじゃなくてミナト。漢字で港って書くの」
名前で呼んだほうがいいのか?でも名前を覚えると死んだとき心が苦しくなるだろう。
でも、なんとなくだけどこの人たちは死なないと思う。
「ユウさん。助言ありがとう。ミナトくん、港って漢字なんだね。オレの好きな漢字だ」
「どういたしまして」
「そうなんですか」
これでいい。それに次に会うことは多分ないと思うから。
そう考えていると白い直方体が見えた。あれが転移門なのか?ユウさんが学生証をかざすと、白い直方体は脈打つように形を変え、アーチ状になった。
「ささ、入って。モンスターがこっちに来る前に」
「行きますよハイナさん」
「わかった」
アーチに飛び込むと、湿気と寒さが肌を刺す。湿った土の感触が足の裏から伝わってきた。思わず、空を見上げると、緑色の満月と青色の三日月があった。見知った星座は一つもない。
「嘘でしょ、オーバーダウン?」
「……………え。ここ五十七階ですよね。なんで」
「────まずい。隠れるよ」
ユウさんがオレとミナトくんの手を引き、近くの洞窟に飛び込む。そしてヒラムシのような服が入口を隠した。光が消え、暗闇がオレたちを包む。
ミナトくんが何かを探す音がする。カチッと言う音と共にランタンが灯った。電気式だ。
「何が起きてるの?」
「オーバーダウン。たまにある転移事故。目的より必要以上の階層に転移しちゃうことがあるの。年に一度起きるかどうかの事故なのに、よりによって今?」
「オーバーダウンは先月起きましたよね。同じ迷宮では半年は間隔が開くはずなのに」
そうなん────地面が揺れた。何か近づいてくる。二人の口に手を当てる。ユウさんも気付いたようだ。
ユウさんの口から手を放す。ミナトくんはまだ気付いていない。オレは『常春の枝』を構えた、後三秒。二、一、今。
「ふんっ」
「Gro」
入口を隠していた服を突き破り、獣みたいなモノが飛びかかってきた。大きさは三メートル弱。その首に刀を突き刺す。硬い、でも骨は貫通できた。
「GROOOOOOO」
「マズい。動くのか」
ユウさんがオレに振るわれた爪を服で弾く。少し遅れてミナトくんが獣みたいなモノの首を掴み、無理やりに動かす。紐を切れたような感触がして、獣みたいなモノは動かなくなった。
「……………モンスター死んだんですか?」
「多分。少しずつだけど素材化してる」
「なんだコレ?水晶玉?」
獣みたいなモノの死体は空間に沈むように消えていく。暗い紫色をした水晶玉だけが残った。これが封印迷宮の素材か。オレが見たことある素材よりも圧力を強く感じる。
「これいくらするの?」
「まずは生きて帰ることでしょ」
「五十階の素材が一つ八百万円で売れた記録はありますが、これは売れないでしょうね。”呪いの素材”です」
ミナトくんの説明によると、ここ五十七階は大規模探索くらいでしか行くことはないらしい。そしてこの階層の素材は”呪いの素材”と呼ばれている。スキル持ちが使うと精神がおかしくなるらしい。
「────それでも、裏社会では流通しています。僕たちが使うような素材よりも強力かつ、時折スキルが強化されることもあります」
「素材を使うってどうやって?使うと強くなるのは知ってるけど」
「製錬して飲みクスリの様に使います」
「味はまっずいよ。効果が強いほど嫌いになる味をしてる」
マズいのか。腐ったスープとどっちがマズいのかな。まあ、使うことはないだろうけど、覚えておこう。
ユウさんがまた服で洞窟の入口をふさぐ。ミナトくんが自分のリストバンドを操作した。
「救難信号を送りました。これで助けが」
「こないよ。会長でも転移門を使えるのは四十五階まで。そもそも転移門があるのは五十階までしかない」
「五十階の転移門は使えないの?」
オレがそう尋ねると、ユウさんが眉間にしわを寄せる。ミナトくんは地面を見た。その顔は何かを後悔しているようだった。
「うん。ボスモンスターが根城にしちゃってるから、封鎖中になってる」
「半年前に前生徒会長が五十階で命を落としました」
「それ以降、五十階より上は半年間討伐が行われてない。だからモンスターがわんさかいると思う」
なんか雲行きが怪しくなってない?会長さんが四十五階まで転移門を使える。ユウさんが三十階まで。前会長さんが五十階で死んじゃって。半年放置されたモンスターがいっぱいいる。
「もしかして死にます?」
「……………はい。その可能性は高いです」
「……………うん。いや~、スイ天行けばよかったなー」
今のモンスターがいっぱいいるとして、先手は取れると思う。でも力が足りない。三人がかりで奇襲を成功させて、ようやく一体を倒せた。
……………この素材使えないのかな?製錬しないとダメなのか?
「これ使えない?強くなれる?」
「ハイナさん?そもそも素材は製錬しないと使えませんよ……………いや。製錬技術が確立される前はそのまま使っていたという噂話があります。あくまで噂です」
「それって何百年も前の噂でしょ。でも、それにすがるしかないか………」
なら使うか。オレがこの中で一番身体能力が低い。錯乱しても取り押さえられる。でもどうやって使うんだ?かじってみるか。
「マズい」
「ハイナさん?」
「ハイナちゃん!」
二人が慌てるがオレはそれを無視してまたかじる。力が満ちて行くのを感じる。
何でも壊せそうだ。壊せ 壊せ 壊せ
これが”呪いの素材”の影響か。誰の声だ?聞いていて神経が沸きだす。昔に聞いたな。でもどこで?
視界が黒く染まる。白い部屋に同じ緑の服を着た子供たちがいる。オレは誰かに抱かれていた。とてもやさしい手つきで、少し困った顔をしていたような。そして白い服をきた男が────
「ハイナちゃん!ハイナちゃん!」
「大丈夫……………なんだ今の記憶?」
何を見ていたオレは?でもどこか懐かしかったような。
────今何をオレは考えていた?そうだ”呪い”。「壊せ」か。意外と大丈夫だ。製錬していないからこそ”呪い”の濃度が薄いと考えていいな。
「大丈夫ですか?反応がありませんでした」
「うん。”呪いの素材”は別階層にもあるの?」
「二十二階と八階の素材もそうです。この迷宮で確認されている"呪いの素材"は、その三つだけですね」
なら五十六階の素材は大丈夫か。五十六階の素材を使ってオレたちを強化する。
「五十六階に行こう。そこで素材を集めて使う。素材だけでも少し強くなれる」
「”呪いの素材”を、しかも五十七階の素材を使って少しだけ強くなった?ハイナさんは素材を使ったことがないはず。製錬ってそこまで効率が違うのか。だから素材をそのまま使っても身体能力は少ししか上がらなかった。でも効果がゼロじゃない。これは学会に」
「こら、ミナト。考えすぎ。すっごいお金の無駄だけど生きるためか……………」
そうと決まれば行こう。でも、ここからどうやって行く?しらみつぶしに探せるほど、オレたちは強くない。
すると、ミナトくんのリストバンドが振動し、マップのホログラムのようなものが映し出された。
「会長から?ええと「五十階まで死ぬ気でこい。マップは与えるが保存したら記憶を消す」。五十階以降のマップは破棄されたはずでは?」
「多分クロアちゃん来る気だよ。あのボスモンスターに復讐する機会をずっと待ってたし」
「……………アズサ会長と仲良かったですもんね」
五十階まで行けばいいのか。まあどっちみち通る必要はあったけど。マップを見たらオレたちがいるとこは、五十六階への道に結構近いな。戦闘が起きても二回くらいか。
「行く前に何のスキルを持っているか把握しよう。オレは戦っていると強くなるスキル」
「そうですね。それは把握しておいたほうがいいです。僕のスキルは想像したものを作り出すスキルです。戦闘では僕自身の限界で鉄しか作れません」
「私は着ている服を固くして操れるスキルだよ。あんま強くないんだ」
オレが一番早くモンスターの襲撃を感じ取れるからオレが先頭のほうがいいな。ミナトくんは真ん中で必要に応じて鉄の槍衾────地面から鉄の槍を並べて足止めをしてもらおう。ユウさんは後ろを警戒してもらえばいい。
それを説明したら、二人も納得したみたいだ。封印迷宮初体験のオレの考えに賛同するのはどうかと思うけど。
「じゃあ行こう」
「はい」
「うん」
五十六階までは運良く戦闘することなく行けた。五十六階に行く道は暗闇の穴。光も届かないし、本当にあってるのか?刀を軽く突き刺す。何も感触がない。
「ここであってます?」
「一応、鉄杭打ち込んでみますね」
ミナトくんがそう言うと、オレの背丈より少し大きいくらいの鉄の杭が暗闇の穴に勢いよく消えた。何かが潰れる音がして暗闇が晴れた。
緑色の小さな手が一本と、脚が二本だけ鉄杭から突き出ていた。胴体部分は鉄の杭の下にあると思われる。頭は病気にかかったハクレンみたいだ。それらがだんだん消えていき、草の球が残った。モンスターだったのか。
「これは……………なんでしょうか。迷宮目録でも見たことがありません」
「私も初めて見る」
「いただきます」
薬草の灰汁の味と言われたら信じてしまいそうな酷い味がする。飲み込むと体の芯が少し暖かくなった。軽くジャブを打つとキレが良くなったような気がしないこともない。
「ハイナちゃん?なんで食べたの?」
「素材になったから」
「確かにそう決めていましたけど。躊躇いとかは?」
何で詰められているんだオレは。素材を食べて強くなろうと決めたじゃないか。
……………分けなかったのが悪かったのか?
「ごめん、次からは三等分にする」
「そうじゃなくて」
「………ユウ。強くなる方が先決です。だか────っ」
ミナトくんが急に黙った。オレの斜め後ろを見ている。なんだ?
後ろから大きな生暖かい風が吹き、オレの服を揺らす。振り向くと一軒家くらいの大きさのモンスターがこちらを見下ろしていた。
フゴオオオオオ
そう鼻を鳴らし、去っていく。去っていく背中は大きいのに、最後まで足音だけは聞こえなかった。
「…………………………もしかして、僕たちが倒したのは幼体?」
「多分そうだと思う。私が弾いた爪はまだ綺麗だった。確かに幼体なら綺麗よね」
「初めての封印迷宮探索ってもっとこう牧歌的だと思ってた」
まいったなあ。ミナトくんの話聞いたお礼の探索で命掛けるとは思っていなかった。ミナトくんには悪いから言わないけどさ。