スキルの詳細は簡潔に!! 作:たまみ
五十六階に着いた。森の木々にロープが張ってあり、それに板を括り付けただけの橋にオレは立っていた。橋板の隙間からは太陽と雲が見える。落ちたら死ぬな。ミナトくんとユウさんはまだ五十七階に続く道にいた。
風が吹き、橋が大きく揺れる。アスレチックでありそうだな。
「五十六階は”反重力の森”と情報ではありましたが、そういう意味ですか。……………ハイナさんは何で普通に歩けるんですか?」
「ミナト。聞いても無駄だと思うよ。「なんでできないの?」って顔してるから」
「ミナトくんにもできると思うよ。怖く感じるのは分かるけど。……歩けないならロープで体を結べばいい。いや、ロープないか」
橋から滑っても枝に引っかかるだろうし、すぐには落ちない。まあ、足の下に空があるなんて体験したことないから怖いのか。
で、モンスターはどこにいるのかな。多分下を飛んでいる鳥だと思うけど。
鳥の鳴き声がする。モンスターの鳥が口に咥えていた木の実を離すと、オレの斜め上にあった石に落ちた。そして爆発。なんてこった。
「うわっと。危な」
爆発は木を吹き飛ばし、張ってあったロープが一本切れた。当然、土台を失った橋も上下に揺れる。オレは急いで五十七階に続く道へと走った。
「ハイナちゃん、なんですかあの爆発?橋が傾いているんですけど」
「……………他の部分の橋が壊れていなければいいんですが」
爆発の跡地を見ると、鳥が何事もなかったように何かをついばんでいた。
オレが見た一部始終を説明すると、ユウさんは何かを思いついたようだ。
「私のスキルは着ている服を固くして操るスキル。でも固くしなくても操ることはできるの。だから細長くしてロープ代わりにできるんだ。ハイナちゃんの刀は木に刺さりそう?」
「……………うん」
手が届く位置にあった木に刀を突きたてると、拍子抜けしたようにすんなり入った。それを見たユウさんはミナトくんに何かの指示を出した。そしてミナトくんの周囲に鉄の鎖でできた網が現れ始める。
「投網みたいに使って、あの鳥を捕まえる」
木に刺さった鉄板に立ち、オレは鉄の網を構えていた。下のほうに旋回する鳥のモンスターが五体。同じように待機しているミナトくんとユウさんと目が合う。
「いくよー。三、二、一、投げる」
鉄の網が空に向かう。鳥が避けようとするが遅い。網が鳥を包む。そして口に持っていた木の実が爆発した。鉄の網がちぎれ、空に消えていく。
……………嘘でしょ。
爆発が収まると、上の地面へ木の実と鳥の足だけが転がってきた。倒せはしたからいいのか?
鳥の足が消え、金属を編み込んだ小さな巣が現れる。どうやって取ろう。
「……………倒せましたね」
「あれぇ~。おかしいな」
「何か来る」
爆発音を聞きつけたのか、いくつかの気配が森の中から近づいてきた。それは長い手をもった豚の鼻を持つサルの群れだ。枝から枝へと飛び移りながら一直線に近づいてくる。
「Uhoooooo」
「UHOOOOoo」
「uHoOuHOo」
木に刺してあった刀を抜いてサルに切りかかる。首を軽く切ることはできたが浅い。毛皮までしか切れなかった。
「uHouHHOOO」
「オレが対処する。二人は自分の身を守って」
サルの腕の薙ぎ払いを枝から飛び降りて避ける。枝を掴み鉄棒をするようにくるりと回って、サルの背後を取る。そして首の後ろを突く。サルは上の地面に落ちて、動かなくなる。横の木を見るとごっそり抉れている。喰らったら死ぬな。あと七体か。サルが一体を残して他が距離を取った。ビビってんのか?
後ろからのサルの蹴りを半歩前に進んで躱す。そして後ろ手で心臓の部分を突く。あと六体。
刀の周囲に花弁が舞い始めた。これはオレのスキルか。攻撃かジャストガードをすると何かが溜まるとか言ってたな。やってみるかジャストガード。
「UhoUhoUHOOOO」
「これくらいはできるから気にしないで!!」
一番後ろにいたサルだけが、枝を蹴って二人へ向きを変えた。それはミナトくんとユウさんに任せるとして、囲まれたな。
枝を掴み振り子のように飛んできたサルの体を踏み、弧を描く腕を避けた。そして体を捩り、刀を振るいサルの片目を抉る。
「HooooUHO」
「……………よし」
怒り狂ったサルが突進してくる。腕も足も枝から離れた。今だ。勢いを受け止め、その力を横へ流す。サルの巨体は制御を失い、そのまま上の地面へと吹き上がった。
何かが開くような感覚が走る。オレから出た何かがあふれ、周囲へと広がっていく。それに合わせてオレンジ色の花が橋に、木に、石に、咲く。
花から散った花弁が、その数と勢いを増してオレの体を包みこんだ。そして、オレが着ていた服と花弁が混じりあい、改造した和服のような、それでいてどこか戦う人の装いのような服を作り出す。
体が全能感で満たされていく。まるでこの世界がオレのためにあるみたいだ。思うままに刀を振るう。サルの胴体を両断する。橋に咲いていた花が枯れ、実を結ぶ。
「ハイナちゃんが変身した!」
「こっちの方を見てください。このサルまだ生きてます」
あっちの方は大丈夫そう。視線をサルに戻すと、俺から逃げようとしている。追うか。
舞う花弁を見ていると、不思議と歩ける気がした。
「
この花の名前も知らないのに口からそう漏れた。花弁が集まり花いかだのように道を作る。
二歩で、サルへもう追い付いた。オレの動きに合わせて木々に冬不知花が咲く。
「UHOoo」
「UHHHOO」
「uho」
刀の軌跡をなぞるように花弁が舞い、サル三体をまとめて袈裟に斬った。サルの死体が薄れ、黒い岩のような木の実が残った。花弁を小船のような形に整え、木の実を回収する。
木々の合間からサルが二人を襲っているのが見えた。ミナトくんが小さめの鉄の杭を放つ。大きすぎると橋や木を傷つけてしまう。だから小さめなのだろう。サルが鉄の杭を軽々受け止め、笑う。ムカつく顔だな。
今立っている花弁を傾けさせ、二人の方へ跳ぶ。投げ返された鉄の杭を受け流し、木へ飛び移り、その側面を蹴ってサルの首を刎ねる。
「大丈夫?」
「綺麗だ………」
「わぁ~お。これは大変なことになったな。スキルヲタクの血が騒いでる」
鳥とサルの素材を回収が終わり、五十七階に続く道で休憩することにした。服は元に戻ってはいない。なんかフリフリしてて落ち着かないな。
周囲を見ると、花が咲く領域は狭くなり、刀に咲く一輪を残して消えた。
「素材は15個。一人五個か」
「ほとんどハイナちゃんが倒したんだけど。本当にいいの?」
「オレだけ生き残っても意味が薄いから」
何かぶつぶつ言ってるミナトくんを放置して、ユウさんと話し合う。二人は少しケガをしていた。「いつものことだから大丈夫」と言っていたが不安だ。
「これって食えるのかな……………あむっ」
金属を編んで作られた巣を口に入れる。持ったときは岩みたいに固かったのに、歯を立てた瞬間、簡単に砕けた。……いや、噛み切ったんじゃない。自分で千切れた?胃から熱が広がり、全身にしみわたる。
サルが落とした黒い岩のような木の実を齧る。土と鉄の味がする。拍動が強まり、血が指先まで押し出される感覚がした。
ユウさんが木の実を一つ摘まみ、意を決して口に放り込む。
「私も食べるか………マズっ……………うえっ。素材薬って味がマシだったんだ。ハイナちゃん、よくこんなの食べられるね」
「食えるなら食べれる」
「そうなんだ…………効果薄いな。ハイナちゃんに上げるよ」
ユウさんから貰った素材を口に詰め込んだ。全身に力がみなぎる。刀を手に取り振るうとさっきより軽やかに扱える。ちゃんと強くはなっているな。
「迷宮の素材による能力の上昇幅は使えば使うほど低くなっていきます。……………あ、すみません考えすぎてました」
「うん。だから私が一番素材薬使ってるはずだから。素材は二人で分けて」
そうなのか。だったら、ありがたくいただくとしよう。
「花に乗って移動するのは初めてですね。……………移動にも応用が利くのか。でも、ハイナさんが攻撃か相手の攻撃を受け流さないと使えないって、そしたら────」
「ミナトのことは気にしないで。…いや~ハイナちゃんのスキル超当たりじゃん」
オレたち三人は木々の合間を花弁で作った小船に乗って進んでいく。サルを攻撃したときの様に何かが減っていく感覚がないな。一応、橋の上を飛んでいるが落ちることはないだろう。
「───しかも服まで変わるのか。ということは?……………ハイナさんのスキルについてなんですが、いわゆる伝承系のスキルだと思います。伝承系のスキルは神話や物語の人物や怪物、神の力を身に宿すスキルの総称です」
「そうなんだ。強いのが多い?」
「はい。非常に強力なスキルが多いですね。そうでなくても厄介なスキルもあります。『神隠し』なんかが一番知られているスキルです」
『冬不知花姫』は伝承系のスキルなのか。じゃああのクソ長い説明は伝承を説明していたのか?じゃあ伝承自体を話してほしかったな。今度調べてみるか。
鳥が下でさえずりながら飛んでいる。サルが子供を抱いて木の洞で眠っていた。向こうに青い宝石のようなもので作られた丸い扉が見えた。あそこが五十五階へ進む道か。
「もう少し、素材を得てから五十五階に行こう。次は楽に狩れるとは思わない」
「そうですね。僕たちは鳥を担当します。ハイナさんはサルをお願いできますか?」
「わかった」
二人を五十五階への道に置いて、オレは花弁と木々を飛び移りながら、さっき見えたサルの群れへ向かった。
木の頂点で木の実を食べていたサルの首を刎ね、寝ていたサルの頭に刀を突きたてる。そしてひときわ大きいサルが吠えた。遠くから遠吠えがいくつも帰ってくる。招集か?
「UHOOOOO」
「HOOOOOUHO」
「数が多いけど、向かってくる数はそこまでか」
飛び掛かってくるサルを刀で両断する。内臓が飛び散り服にかかった。剣先に花弁を集め突きを放つ。三体まとめて処理。木に穴が開き、メキメキと音を立てながら倒れる。別の木に飛び乗り、投石をスライディングして躱した。
「HOOOOOAHOOOOO」
「UHOOOO」
花が枯れ、実を結ぶ。サルを斬るたび、周囲の花が一輪、また一輪と枯れていく。周囲の花が大体枯れると、実が熟して落ちた。また何か変わったらしい。実が渦を巻きオレの近くに集まる。
「これなんだ?うわっと、しゃらくせえ」
「UhOOo」
襲い掛かったサルの頭に兜割を食らわせ、木から蹴落とす。視線を移すと集まった実が融け、一つの球体になった。それを見ていると、あと六個同じ球体が集まれば、何かが使えるような気がした。
「しまった落ちる」
周囲に咲く花が無くなり、舞っていた花弁も消えた。踏み台にしていた花弁も無くなり、俺は空に落ちる。
でも、それを壊すと花が咲く、そう理解できた。落ちながら刀を振るう。だが、球体にはあと僅か届かない。
「ダメか。いや届かせる」
刀を投げ球体にぶつけると割れた。球体の中からオレンジ色の波紋が広まり、木々が一斉に冬不知花で覆い隠された。そして、オレの中で減っていた何かが満たされていく。
何か今ならあんな事ができる気がする。刀を構えると、花弁が刀へと集まり続ける。刀身は見る間に厚みを増し、大剣のような姿へ変わっていく。自然と、この技の名前が口から零れた。
「塗炭の旅路を終わらせましょう。『
無数の花弁が渦を巻き、オレンジ色の津波となって木々を飲み込み破砕する。残ったのは、一面に咲き誇る冬不知花と、その中へ転がるサルの木の実だけだった。
「なんかえらいことになったな」
オレから見れば頭上の花畑に転がる素材を拾う。見えていなかった場所にも木の実が散らばっている。サルの援軍がいたらしい。もう手に持てないな。花弁で包めるかな?できた。二人は────
「有命の者は何をなさっているのでしょうか。……………ん?オレ何か言った?まあいいか。ミナトくんたち大丈夫かな?」
これで最後の素材かな。よし、二人の方に戻るか。花弁でできた船に乗る。なんだかさっきより素早くできるようになってない?慣れたからか。
景色が流れるどころか、木々が線のように後ろへ消えていく。そして二人がこちらに手を振っていた。何か煤汚れてない?
「大丈夫?汚れているけど」
「爆発に巻き込まれてしまって」
「ミナトが守ってくれたからケガはしてないよ」
二人の足元を見ると、かなりの数の金属の巣があった。オレもサルから得た木の実をそこに積み上げる。素材の山の体積が五倍くらいになった。こんなに狩ったっけ?
オレは素材を半分に分け、自分の山の前へ座る。地面に座るとオレの視線より少し低いくらい、食べきれるかな?
「いただきます」
「僕もいただきますね………ふぅ、これがあとこれだけ。キツイ」
「あの轟音。ハイナちゃんがやったんだ………」
素材は食べても腹にたまらないな。ただマズい味だけが口に広がり、全身に活力が沸く。そういえば、エナジーバー持ってきたんだったな。これを食べ終えたら食べよう。サルの遠吠えと鳥のさえずり、爆発音を聞きながら素材を食べる。金属の巣と木の実では、まずさの方向性まで違う。
身体能力はかなり上がったな。体感じゃ二倍くらいか。ミナトくんはまだ半分も食べていないみたいだし、慣らしをやる。
自分の思うままに動く。こうしたいと思ったらすぐに体が動くな。動きのタイミングを調節しないと。
「ハイナちゃんご飯食べないとダメだよ?素材薬って栄養がないから多分素材も栄養ないと思う」
「あ、わかった」
エナジーバーを一口齧る。チョコの味は意外と優しいな。でも歯にくっつく。ミナトくんを見ると、何か泣きそうになってる。
「あと、まだこれだけあるのか……………」
「がんばってミナト。強くなりたいんでしょ」
「…………………………はい」
ミナトくんが黙々と素材を口に運ぶ。口に無理やり食べ物を詰め込まれた顔をしてる。
ユウさんは服を緩めて休んでいた。オレもそうするか。
第二編間封印迷宮の四十九階は穏やかな草原のはずであった。だが平らに均され、素材と化したモンスターの形の穴だけが残っていた。
そこを闊歩するのは一人の少女である。白山クロアはいら立ちをぶつけるように足を踏み鳴らす。モンスターはまるで油圧プレスに押し潰されたように地面へ埋まり、素材だけを残していた。
「ああ、まだ許可は下りていないのか?」
『はい~。クロア会長を失いたくないんでしょう』
第二編間封印迷宮の五十階以上の探索は理事会の許可が必要である。本来なら理事会にとってハイナたち三人は、助ける価値がないとして見捨てられるはずであった。
だが、クロアには三人、特にミナトを助ける理由も五十階に行く理由もあった。
「アズサ会長、ようやく貴女の仇を討てる」
理事会がクロアに取り付けた条件は二つ。誰か一人でも五十階に到達すること。五十階のボスモンスターとの戦闘は可能な限り避けること。
クロアは後者は守る気は微塵もない。しかし、前者を満たさなければ五十階へ向かうことすら許されない。
「いい加減上がってこいミナト。ハツネ、三人はどこにいる」
『えっとね五十二階?さっきまで五十五階にいたのになんで?』
「そうかもうそろそろだな」
クロアは笑う。ようやくあの屈辱の敗走の記憶とも、思い上がっていた自分とも決別できる。そう信じて。