『九番、ピッチャー、
入学してから三年の夏まで、
初めて名前を呼ばれたのは、一年生の秋だった。彼の所属する県立高校の野球部には、140キロを超える速球を投げる上級生が二人いて、入学したばかりの真英が公式戦のマウンドに立つ余地など、本来ならどこにもなかった。
ところが秋季大会を目前にして、一人は肘を痛め、もう一人は発熱で寝込んだ。さあ大変、というところで中学から投手一本でやってきた真英に声がかかった。練習試合では何度か登板していたから、急造ピッチャーを先発させるよりはマシだろう、という判断だった。
「おい、そこのおまえ。左の一年」
ブルペンで声をかけられたとき、真英は自分のことだと思わなかった。てっきり、隣でピッチング練習をしている強肩外野手の先輩が投げると思ったのだ。
「俺ですか?」
「ああ。おまえ投げろ」
「はい……」
こうして、翌日の先発が決まったのだが、柄にもなく胸が熱くなった。先輩たちから何を言われるかと思ったが、意外と彼らは優しかった。気負わず投げろ、と声をかけてくれた。それを真に受けて、真英はのびのびとマウンドに上がった。
真英のストレートは速くなかった。球場の表示では134キロが最速で、平均すれば130キロを少し超える程度だった。変化球も、横滑りするカットボールと、右打者の外へ沈むチェンジアップしかない。父親に教わった変化球である。MLBファンである父親が言うには、「変化球なんてカットボールとチェンジアップがあればいい」らしい。母親は呆れていたが、真英は信じた。
そんな地味すぎるピッチャーを、相手は中々打ち崩せない。五回に二点を失ったものの、六回以降も投げ、さらに七回に一点を失ったが、八回は三人で終わらせた。九回のマウンドにも上がり、最後の打者をカットボールでセカンドゴロに打ち取った。そんな感じで飄々と投げ続けていたら、いつの間にか試合が終わってしまった、という感覚だった。
結局、試合には四対三で勝った。殊勲の一打は肘を痛めたものの代打で出場したエースの逆転ホームランだった。
「やったなマサ!」
歓喜の輪の中心にいた先輩が、真英の頭を乱暴に撫でた。
ヒーローはホームランを打った彼であり、真英は歓喜の輪の外でチームメイトからささやかに祝福された。
なお、チームは次戦で県内有数の強豪校と当たり、完封負けを喫した。真英は9回4失点完投だった。
▼
二年生になると、真英はエースとして扱われるようになっていた。正直、こんな弱小県立校に彼以上の投手などいなかった。同時に、エースだからといって特別扱いもない。
「まさくん、また補習なんだ~?」
「うっ」
幼馴染で同級生の
野球ばかりしていたせいで苦手な歴史は平均点に届かず、見事に補習送りになっていた。
「少しは勉強しな?」
「いざとなったら小春ちゃんに教えてもらう」
「そういうこと言ってるから補習なんだよ」
「うっ」
彼は幼馴染に頭が上がらなかった。勉強は得意なほうではない。野球だけやっていればいい人生なら、どれだけ楽だっただろう。もっとも、野球に派手な才能があったわけではなかった。
ストレートの球速なら後輩にも負けていたし、三振を取る力もない。ささやかな強みといえば、安定感くらいしかない。彼のフォームは小学生の頃からずっとセットポジションだ。理由を聞かれても、「なんとなく」としか答えない。ランナーがいてもいなくても、同じ力感で投げ込む。それが真英らしい投球を形作っていた。
そして、出勤でもするかのように毎試合完投した。子供の頃憧れた甲子園の投手は、みんな最後まで投げていた。だから、彼にとってはそれは、特別なことではない。高校野球にも押し寄せる分業化の波など、彼はどこ吹く風だった。九回になっても球が変わらない。それだけが、彼の武器だった。
二年の春は県大会の三回戦まで進んだ。敗因は貧打。真英は元気に9回2失点で敗戦投手になった。
それでもチームは手応えを得ていた。そして挑んだ夏は、四回戦で負けてしまった。すべての試合で真英は最後まで投げぬいた。四回戦は延長15回の死闘となったが、最後はついにすっぽぬけたカットボールをフェンスの向こうへ運ばれて、サヨナラ負けだった。
再び三年生の卒業を見送り、秋。真英は悔しさを胸に、もっと体力を付けようと思った。体力、さらなる体力が必要だ。すっぽぬけた球に金属バットが叩きつけられ、ひしゃげたように形を変えて、弾かれたように自分に顔に飛んでくる――そんな夢を何度も見るようになった。
そんな秋は悪天候の影響でダブルヘッダーが組まれ、真英は二試合とも完投した。そして次の試合で、嘘のように打ち込まれて敗退が決まった。疲れが抜けなかったのだ。チームメイトは慰めたが、真英はショックだった。体力が足りなかったのだ、と思った。
「まさくん、少しは休んだら? 遊びに行こうよ」
「えー」
「えー、じゃない」
ある日、小春に誘われて映画館に連れて行かれた。そして映画が始まって十分もしないうちに眠り、エンドロールが流れるまで一度も目を覚まさなかった。ぐっすりと。真英は休むということを覚えた。
「ありがとう小春ちゃん!」
休むのって大事なんだな、とわかった真英はときどき投げない日を作ることにした。
「あ、うん……」
小春は微妙な顔をしていた。
▼
三年生になった真英は成長していた。ストレートはコンスタントに140キロを超えるようになり、もはや高校入学時のへなちょこストレートではなかった。
春は進化したストレートを引っ提げて挑んだが、四回戦の壁に跳ね返された。最速155キロを投げ込んでくる相手ピッチャーを前に、打線は三振の山を築いた。当然、真英も例外ではなく、自動アウトと化した。
やっぱストレートじゃ勝負できねえよ。そう考えた真英は、夏までの数か月を制球力と変化球を磨くことに費やした。
そして三年生最後の夏がやってくる。
一回戦の相手は、前年の甲子園出場校だった。相手打線にはプロ注目のバッターである柏田が四番に座り、下馬評は圧倒的不利。それでも、不思議と負ける気はしなかった。
試合が始まると、真英は緩急を巧みに使い、強豪打線に的を絞らせない。両チームともスコアボードに0が並ぶ白熱の投手戦になった。
試合が動いたのは七回。真英は先頭の走者をヒットで許すと、盗塁を決められ、送りバントで三塁へ進まれる。続く打者の内野ゴロの間に、その走者がホームへ還った。
失点は、その一点だけだった。
味方打線もまた、前年の甲子園出場校の投手を最後まで攻略できず、試合は0対1で終了した。
こうして、真英の最後の夏はあっさりと終わりを告げた。しかし、この一敗は無駄ではなかった。対戦相手のプロ注目の四番を視察に来ていたスカウトの目に留まったのである。
▼
真英を指名したのは、神奈川
セントラルリーグ6球団中圧倒的最下位に沈むチームは、そこそこの破壊力の打線と壊滅的な投手陣で、5年連続で100敗を記録し、球界最弱の名を欲しいままにしていた。
ローテーションは固定できず、防御率5点台のリリーフ陣が脇を固める。来る日も来る日も炎上を続ける投手陣と、同点に追いつかない程度の反撃を続ける打線。
そんな調子では当然、FAで有力投手を獲得できるはずもない。ならば数を集めるしかない――そう考えたのか、ドラフト会議でブルーウェーブズは一位から七位まで、すべて投手を指名した。
潔いまでの投手乱獲ドラフトだった。
その七巡目で、真英の名前が読み上げられた。救世主として期待されていたわけではない。無名の高校生にも一縷の希望をかけないといけないくらい、このチームは火の車だったのだ。
【カナ専】ドラフト実況スレまとめ
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[名無しの代走]
6位まで全員投手wwwww
[名無しの代走]
お...お前
変なクスリでもやってるのか
[名無しの代走]
こ、これはタダのにんにく注射じゃ…
[名無しの代走]
>こ、これはタダのにんにく注射じゃ…
ムスビうそをつけっ!
[名無しの代走]
次も投手だろこれ
[名無しの代走]
まじ
ふざけんな
よ・・・
[名無しの代走]
投手なんてなんぼいてもいいですからね
[名無しの代走]
今年のドラフトで投手乱獲は無理があるって!
一位一本釣りの時点で嫌な予感はしてたけど!
[名無しの代走]
>今年のドラフトで投手乱獲は無理があるって!
おまえそれ神奈川でも同じこと言えんの?
[名無しの代走]
7位指名くるぞくるぞ
[名無しの代走]
はい解散
[名無しの代走]
また投手
[名無しの代走]
そこのお・・・?
[名無しの代走]
底ノ尾ってだれ?
[名無しの代走]
そこのおまえい?
[名無しの代走]
そこのおまえ!
[名無しの代走]
1位 怪我持ち大卒左腕
2位 本格派即戦力社会人
3位 大学日本代表
4位 MAX155キロ高校生
5位 独立リーグのライアン
6位 謎の大学生左腕
7位 そこのおまえ←New!
[名無しの代走]
>7位 そこのおまえ←New!
草生える
[名無しの代走]
知らん高校の知らん謎の高校生か…
[名無しの代走]
やっぱGMへんなクスリやってるって
[名無しの代走]
【悲報】神奈川1~7位まで全員投手指名wwwww