シアトルはワイルドカード3位となり、第6シードでポストシーズンへ進出した。9月末から始まるワイルドカード・シリーズで対戦するのは、東地区を制し、地区優勝3球団の中で最も勝率の低かった第3シードのニューヨークである。三戦二勝制のシリーズは、全試合がニューヨークの本拠地であるブロンクス・スタジアムで行われる。
シアトルは初戦を落とした。ニューヨークの先発投手コールマンを最後まで攻略できず、一点を追う終盤には好機を作りながら、あと一本が出なかった。これでシアトルは、残る二試合を続けて勝たなければディビジョンシリーズへ進めなくなった。
負ければシーズンが終わる第2戦。監督のグリフィンは、そのマウンドを真英に託した。移籍当初にこそあった懐疑的な意見も、すでにこの頃にはほとんど聞かれなくなっていた。無類のタフネスでシーズンを投げ抜き250回に迫るイニングを記録した真英を、シアトルのファンは今では頼もしい先発として受け入れていた。
真英がポストシーズンのマウンドに立つのは、プロ人生で初めてだった。試合前の選手紹介から球場を埋め尽くす観客の声は途切れず、真英が投球練習を始めると、敵地のスタンドからさらに大きな騒音が降ってきた。
熱心なファンが多いなあ。と、真英は的外れなことを考えていた。
準備は普段と変わらなかった。ブルペンで決められた球数を投げ、ローズと最後の確認を済ませると、いつもの歩調でマウンドへ向かった。
初回、先頭打者に二塁打を許し、進塁打と犠牲フライであっさり先制された。球場全体が勢いづき、続く打者も早いカウントから振ってきたが、真英はそれ以上の得点は与えなかった。
一方、シアトル打線は3回に追いつき、5回には柏田の適時打で勝ち越した。さらにローズとデ・ラ・ロサの連続長打が飛び出し、2点を加えた。
その裏、真英はソロホームランを浴びたが、そこからはテンポ良く試合を進めていった。4対2とリードを保ったまま、試合は終盤戦に突入した。
長いシーズンを戦い抜き、前回登板でも九回を完投していたにもかかわらず、真英の投球は全くブレなかった。
ニューヨークの打者たちは、そんな真英の前に翻弄されていた。7回を終えても、ストレートの球速は初回と大きく変わらず、カットボールの変化も鈍らない。8回には二死から安打を許したが、続く打者を内野ゴロに打ち取った。ベンチへ戻っても呼吸を大きく乱す様子はなく、監督も投手コーチも真英を呼び止めない。次の回もマウンドに上がることを、ベンチも当然のこととして受け止めていた。
9回、先頭打者を外野フライに打ち取ったあと、次打者に安打を許した。代走が送られ、球場の歓声が再び大きくなる。ブルペンでは抑え投手が準備を続けていたが、グリフィンが動く気配はなかった。
真英はローズのサインにうなずき、セットに入った。続く打者にはチェンジアップを打たせ、ファウルフライに打ち取った。二死一塁。
打席に入ったのは、代打の右バッターだった。初球、真英はカットボールを投じた。右打者の内角ギリギリを抉る厳しいボールに、打者は踏み込んできた。そして、ボールは肘当てに当たって弾かれた。
デッドボールかと思われたが、球審は両手を振って死球を認めず、肘を出した打者を指さしてストライクを宣告した。
ストライクゾーンのボールに、自分からあたりに行ったという判定だった。自信満々で肘当てを外しかけていた打者は不服そうに肩をすくめて審判に詰め寄ろうとした。が、その時、ベンチから相手監督が飛び出してきて、選手の間に割って入った。
何やら怒号が飛び交った末に、相手監督は退場処分になった。観客席からは激しいブーイングと、監督を後押しするような歓声が飛んだ。しかし、真英には特に動揺もなかった。
その後2球続けてカットボールを投げ、空振り三振に仕留めた。試合終了――ところが、三振に倒れた打者はその場を離れず、ローズへ何かを言った。ローズもすぐに応じ、互いの胸が触れそうな距離まで近づく。球審が二人の間へ入ったときには、両軍のベンチから選手たちが一斉に飛び出していた。
真英も遅れてマウンドを降りたものの、何をすればいいのか分からないまま、選手たちの輪の外に立つことになった。ポストシーズン初勝利を挙げたはずだったが、歓喜に包まれる暇もなく、グラウンドは騒然としていた。
「ソコたん、ナイスピッチ」
「ありがとう、ムネ」
柏田に労われた真英は彼と並び、少し離れたところから両チームの揉み合いを眺めていた。
「えらい揉めとるなぁ」
「何言ったんだろ?」
「ソコたんが聞こえんかったら、俺にも聞こえへんよ」
ともかくシアトルは4対2で勝利し、シリーズを一勝一敗の五分へ戻した。真英は九回を投げ切った。初めて経験するポストシーズンであり、敗れれば終わる敵地での一戦だったが、その投球はレギュラーシーズンとほとんど変わらなかった。
打者も投手も長いシーズンの疲労を抱え、普段どおりの力を発揮することさえ難しくなる十月に、球威も制球も落とさず投げ続ける真英の特異性を、シアトルの選手や首脳陣、そしてファンは初めてはっきりと目にした。
【ワイルドカード】シアトルvsニューヨーク
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[名無しの代走]
勝ったでー!
[名無しの代走]
俺は信じとったでおまえ!
[名無しの代走]
6回持たないとか言ってすんませんでした
[名無しの代走]
10月にも完投してて草
[名無しの代走]
またそこのおまえロボット説が深まってしまった…
[名無しの代走]
体力バケモンすぎるなこいつ
[名無しの代走]
なんだどうした
[名無しの代走]
おっ乱闘か?
[名無しの代走]
乱闘の時間だああああああああ!
[名無しの代走]
ご覧いただきありがとうございます
[名無しの代走]
やめろやめろやめろーっ!
[名無しの代走]
シアトルブルペン遅いよー!
[名無しの代走]
>シアトルブルペン遅いよー!
おまえが鍵かけといたからな
[名無しの代走]
おまえ「あ、あのっ」
[名無しの代走]
あーもうめちゃくちゃだよー
[名無しの代走]
>おまえ「あ、あのっ」
ごめんおもしろい
[名無しの代走]
乱闘はおもしろいからね
仕方ないね
[名無しの代走]
両チーム一緒におまえの勝利を喜んでくれてるな!
[名無しの代走]
>両チーム一緒におまえの勝利を喜んでくれてるな!
本人は蚊帳の外なんですがそれは
[名無しの代走]
やっぱりカシ×ソコキテル…
続く第三戦は、延長までもつれ込む死闘となった。
前日の乱闘騒ぎの余波なのか、球場は異様な雰囲気に包まれていた。完全アウェーの空気の中、シアトルの先発は立ち上がりから制球を乱し、早々にノックアウトされた。
しかしシアトルは先制を許しながらも中盤に集中打で追いついた。終盤には一度勝ち越されたものの、九回にニューヨークのクローザーを攻略して、再び試合を振り出しへ戻した。前日の完投によって温存されていた救援陣を次々と投入し、ニューヨークの攻撃をしのぎながら、勝ち越しの機会をうかがった。
しかし、あと一本が出なかった。延長十二回、シアトルの救援投手が二死から四球と安打で一、二塁のピンチを招くと、続く打者の打球が三遊間に飛ぶ。柏田が懸命にグラブを伸ばすも、打球はその先を掠めてレフトへと転がっていった。
左翼手が前進しながら捕球し、バックホームすると、際どいクロスプレーとなった。わずかに一塁側へ逸れた送球をローズが捕り、振り向きざまに走者へミットを伸ばす。しかし、ランナーはヘッドスライディングでそのタッチを掻い潜り、本塁を陥れた。サヨナラの走者が生還し、ブロンクス・スタジアムが揺れるような歓声に包まれた。
前日に九回を投げ切った真英に、登板の機会はなかった。ベンチの最前列で、左翼手の返球が本塁へ届き、走者の手がベースへ触れるところまでを黙って見届けた。
シアトルは競り負け、ワイルドカード・シリーズで敗退した。こうして、真英の初めてのポストシーズンは、わずか一試合の登板で終わったのだった。