9番ピッチャー そこのおまえ   作:Potoooooooo

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開幕一軍

 開幕戦、真英の姿はなぜか一軍にあった。

 

 キャンプは最初から最後まで二軍だった。オープン戦で投げたのも二試合だけで、合わせて五イニングを無失点に抑えたとはいえ、首脳陣へ強い印象を残したわけではない。球速は百四十キロを少し超える程度で、打者を圧倒する決め球もなかった。

 

 本人も、開幕は二軍で迎えるものだと思っていた。

 

 ところがオープン戦の終盤になって、投手陣から離脱者が相次いだ。先発陣の救世主となるはずだった外国人が肩を痛めて緊急帰国し、左の中継ぎが体調を崩し、投手陣のまとめ役だったベテラン先発が怪我で開幕アウト。ロングリリーフをするはずだった選手が、急遽先発に回ることとなった。

 

 その結果、長いイニングを投げられる左投げという理由だけで、真英に一軍昇格の声がかかった。

 

 役割は敗戦処理だった。先発が早い回で崩れた場合に登板し、勝ち継投の投手を使わずに済むよう、できるだけ長く試合をつなぐ。一軍の戦力として期待されているというより、投手陣の穴を埋めるために置かれた予備要員に近かった。

 

 それでも一軍は一軍である。家族と小春に連絡したら、開幕戦に来るという。「多分出番ないよ」と率直に言った真英だったが、ついでに観光をするつもりらしい。というか、そちらが本命に違いない。なお、ブルーウェーブズのチケットは簡単に取れていた。開幕戦でも埋まらない客席が、暗黒期を象徴していた。

 

 ブルーウェーブズの開幕投手を任されたのは、前年にチーム最多の九勝を挙げた右腕だった。五年連続最下位に沈んでいる球団にあって、紛れもなくエースと呼べるファンの希望である。あだ名は『唯一の希望』。

 

 しかしその唯一の希望は、儚くも初回から崩れた。

 

 先頭打者に初球を弾き返され、続く打者には四球を与えた。つづく三番には甘く入った変化球をスタンドまで運ばれ、試合開始から十分も経たないうちに、スコアボードには三点が刻まれた。それでもまだ球場のファンは応援を続けていた。

 

 しかしそれで攻撃は終わらなかった。安打と四球で再び走者を背負い、暴投まで重なった。ようやく一つ目のアウトを取ったあとも連打を浴び、点差はさらに広がっていく。

 

 真英はブルペンのベンチに座り、外野フェンス越しにマウンドを眺めていた。スタンドからは観客の溜息が聞こえる。今年もまたダメそうだな――そんな諦観の雰囲気が漂っていた。

 

 やがて彼は、ブルペンコーチに促されて立ち上がる。まだ初回だった。球場を揺らしていた歓声は、いつの間にか重苦しいざわめきへ変わっていた。アウトが増えないまま失点だけが積み上がり、初回のスコアはすでに0対6になっている。

 

 真英が肩を作っている間にも、エースは一死満塁のピンチを招いていた。そして、ほどなくして投手交代が告げられた。

 

 開幕戦の初回。ファンの希望は無惨に打ち砕かれていた。追加で満塁ホームランを打たれ、塁上を綺麗に掃除されたエースが、マウンド上で項垂れている。0対10。場内アナウンスと観客のざわめきを背中に受けながら、真英はそのマウンドへ向けて外野のブルペンから走っていった。

 

『選手の交代をお知らせします。ピッチャー、若狭に代わりまして、底ノ尾。ピッチャー、底ノ尾。背番号、70』

 

 聞き慣れない名前が告げられると、スタンドからは小さくないざわめきが起こった。エースが初回を終えられず、代わって現れたのは背番号の大きな高卒新人である。開幕一軍に登録されていることすら知らなかった観客も多く、球場の大型ビジョンに表示された経歴を見て、ドラフト七位の新人らしいと初めて知る者がほとんどだった。

 

 真英はマウンドで監督からボールを手渡された。

 

「すまんなこんな場面で。とりあえず3回は投げてくれ」

「わかりました」

 

 真英はプレートに左足を沿わせ、腰にグラブを構えた。高校時代から変わらない、セットポジションだった。投球練習を終え、ついにプロで初めての一球を投じる。

 

 最初の打者に投じたのは、外角低めへのストレートだった。球速表示は137キロ。打者を驚かせるような速さではなかったが、ボールは捕手が構えた場所へ収まった。二球目も同じコースへ投げ込み、つい手を出して引っかけさせた打球を一塁手が処理する。続く打者は内角のカットボールで詰まらせ、浅いセンターフライに打ち取った。

 

 真英の視点では、あっさりと方がついた感覚だったが、試合開始から見守っていた観客はそうではない。ようやく初回が終わったかと、スタンドからまばらな拍手が送られた。十点を失った直後だけに、残り二つのアウトを取ったというだけでも、観客には救いだったらしい。ベンチに戻った彼を、投手コーチとキャッチャーがねぎらってくれた。次の回もこの調子で頼む――そんな感じだった。

 

 その期待に応え、真英は二回以降も同じように投げ続けた。

 

 ストレートに球速があるわけではなく、空振りもほとんど奪えない。それでも低めに集め、カットボールで芯を外し、タイミングを変えたいときにはチェンジアップを混ぜた。走者を出しても投球の間は変わらず、いつものセットポジションから淡々と打たせて取った。

 

 安打は許したが、守備にも助けられながら得点は与えなかった。十点のリードを得た相手打線が早いカウントから打ってきたこともあり、試合は異様なほど速く進んでいった。三回を終えたところで、監督から求められていた仕事は果たしたはずだったが、真英は四回もマウンドへ上がった。ブルペンでは誰も肩を作っていない。すでに勝敗が決した試合で、これ以上ほかの投手を使いたくないということらしい。

 

 真英もまだまだ余裕はあった。体力には自信がある。四回、五回もベンチから送り出されて、スコアボードにゼロを並べた。対する味方打線も相手エースの前に散発3安打に抑え込まれ、二回以降は速いテンポの進行になっていた。初回を除けば見ごたえのある投手戦に見えなくもなかった。現実逃避とも言う。

 

 六回、真英は先頭打者に二塁打を許した。

 

 高めに浮いたストレートを左中間へ運ばれ、続く内野ゴロで走者は三塁へ進んだ。そこから犠牲フライを打ち上げられ、プロ初失点を喫した。後続を打ち取り、5回と3分の2を投げて1失点。高卒ドラ7ルーキーの初登板としては十分すぎる内容だった。ベンチに戻った真英は、監督からここまでだと告げられる。

 

 まだ行けそうな感覚はあったが、監督と握手してベンチ裏へ。そこで、真英はこれまでに感じたことのない疲れを感じた。淡々としているように見えて、やはり緊張していたのだった。

 


 

開幕戦実況スレまとめ

 

[名無しの代走]

若狭を信じろ

 

[名無しの代走]

頼むぞ若狭

 

[名無しの代走]

いけー!唯一の希望ー!

 

 

※ヒットと四球でいきなりノーアウト1・2塁のピンチ

[名無しの代走]

あっ

 

[名無しの代走]

あっ…

 

[名無しの代走]

ダメみたいですね

 

[名無しの代走]

まあまあまああああままm

おちつけまだあわてあわあわ

 

 

※3ランHRを浴びる

[名無しの代走]

いったぁああああああああああ

 

[名無しの代走]

逝きましたー

 

[名無しの代走]

はい試合終了

 

[名無しの代走]

まだ諦めるなよ!

 

[名無しの代走]

悲報 唯一の希望、逝く

 

※さらに連打で3点を失ったあとグラスラ

[名無しの代走]

終戦

 

[名無しの代走]

グラスラ逝ったぁあああああああああ

 

[名無しの代走]

あーもうめちゃくちゃだよ

 

[名無しの代走]

まだ1アウトしかとれてないってマジ?

 

[名無しの代走]

さすがに交代か

 

[名無しの代走]

虎ノ尾ってだれやねん

 

[名無しの代走]

底ノ尾な

 

[名無しの代走]

>虎ノ尾ってだれやねん

猛虎魂を感じる

 

[名無しの代走]

あーそこのおまえな

そういえばいたなこんなの

 

[名無しの代走]

いけー!そこのおまえー!

 

[名無しの代走]

監督「ピッチャーそこのおまえ!」w

 

 

※そこのおまえが6回まで1失点でまとめる

[名無しの代走]

おまえやるやんけ

 

[名無しの代走]

【朗報】そこのおまえ、当たり

 

[名無しの代走]

>【朗報】そこのおまえ、当たり

まだ早いわ

 

[名無しの代走]

ようやっとる

 

[名無しの代走]

先発の底ノ尾よかったな

5回2/3を1失点

これは期待が持てますよ

 

[名無しの代走]

>先発の底ノ尾よかったな

ちょっとここ消えてますね

 

[名無しの代走]

・5回を投げる←いいね

・1失点←大炎上

・四球0←神

 

[名無しの代走]

そこのおまえが1点で押さえたのに中継ぎの若狭が大炎上したの酷かったね

 

[名無しの代走]

>そこのおまえが1点で押さえたのに中継ぎの若狭が大炎上したの酷かったね

やはり課題はリリーフだな(白目)

 

 

 

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