9番ピッチャー そこのおまえ   作:Potoooooooo

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一年目の終わり

 初先発で黒星を喫したあとも、真英は先発ローテーションに残った。

 

 六回三失点という結果は、首脳陣にとって合格点だったらしい。次の登板でも六回を投げ、その次は七回までマウンドに立った。相手打線を圧倒したわけではない。走者を背負いながらもカットボールで芯を外し、チェンジアップでタイミングをずらし、どうにか試合を壊さずに投げ続けた。

 

 派手な奪三振も、百五十キロを超える速球もない。それでも真英が先発した試合では、六回を終える頃まで勝敗が分からなかった。

 

 気づけば、QS(クオリティ・スタート)*1は9試合連続まで伸びていた。

 

 しかし、9試合すべてで勝ち星がついたわけではない。七回一失点で勝敗がつかず、八回二失点で負け投手になった日もある。味方が先制した直後に追いつかれ、降板後に中継ぎが打たれたこともあった。

 

 地味な活躍だったが、『ピッチャー底ノ尾』の名前は同リーグの他球団ファンたちにもじわじわと認知されはじめていた。連続QS記録が10試合まで伸びるか――そんな声が地元新聞で取り上げられるなど、真英の扱いは入団当初からは考えられないほど大きくなっていた。というのも、真英の成績で一喜一憂するくらいしかファンの楽しみがなかったのもあるが。

 

 そんな空気の中、真英はシーズン最後のマウンドに上がった。

 

 一回表、先頭打者に初球のストレートをレフト前へ運ばれた。続く打者はカットボールをライト前へ打ち返し、一塁走者が一気に三塁へ進む。真英がまだマウンドの感触をつかみきれないうちに、無死一、三塁となった。

 

(まただ。ふぅ……)

 

 立ち上がりがよくないのは、これまでにも何度かあった。焦って三振を狙えば球数が増え、かえって傷口が広がる。真英は捕手から返されたボールを握り直し、まず一つずつアウトを取ることにした。

 

 三番打者に投じたカットボールは、狙いどおり内角で詰まらせた。打球は遊撃手の正面へ転がり、二塁から一塁へと送られて併殺が完成する。その間に三塁走者が生還し、神奈川BWは初回から一点を追うことになった。

 

 失点はしたが、二つのアウトを同時に取れた。真英は続く四番打者をチェンジアップで中飛に打ち取り、最少失点で初回を終えた。

 

 ベンチへ戻る途中、真英はスコアボードへ目を向けなかった。一点なら、いつでも取り返せる。そう考えていたのは、おそらく真英だけではなかった。

 

 二回以降は、立ち上がりの不安定さが嘘のように落ち着いた。ストレートを見せてから、カットボールでバットの芯を外す。踏み込んでくる打者にはチェンジアップを沈め、早打ちを狙う打者には初球から内角を突いた。相手打線を力でねじ伏せているわけではなかったが、打者が狙いを絞り始める頃には、その一歩先へ配球をずらしていた。

 

 敗戦処理を任されていた頃から球を受けてきたレギュラー捕手は、真英の持ち味も、苦しくなったときに頼る球もよく分かっていた。真英もそのリードを信じ、構えられたミットへ迷わず投げ込んでいく。そこからは、まるで相手打線を手玉に取るように、凡打の山を築いた。

 

 この試合を解説していたプロ野球OBは、『新人らしからぬ落ち着いた投球』と評したほどだった。

 

 二回から六回をすべて三者凡退に抑えた。一年の投球の集大成ともいえる登板となった。

 

 だが、打線は嘘のように湿っていた。相手先発の好投に内野安打一本に抑え込まれ、そのうち点が取れるはずと考えていたスタジアムの空気は、『もしかしてこのまま一点も取れずに終わるんじゃないか』という空気になり始めていた。

 

 球数も少なく進んでいたので、真英は七回のマウンドにも上がった。

 

 その七回、真英は先頭打者に左前打を許した。送りバントで一死二塁となり、再び得点圏に走者を背負う。それでも、次の打者を外角のカットボールで三塁ゴロに打ち取り、二死からは外に逃げていくチェンジアップを続けて空振り三振を奪った。

 

 奪三振は、この日まだ4つ目だった。球場が大きく沸いた。真英は柄にもなく、小さくガッツポーズをした。

 

 その裏、神奈川BWは一死から二塁打を放った。ようやく同点の走者が得点圏へ進み、ベンチも観客席もにわかに活気づいた。ところが、続く打者は浅い右翼フライに倒れ、代打として送られたベテランも外角の変化球を引っかけた。

 

 三塁ゴロに倒れると、球場にはそれまでより重い沈黙が残った。得点圏で点が入らない? 見慣れた光景じゃないか――そんな冗談を言う気も起きない。このままでは新人ピッチャーの好投を見殺しである。

 

 八回は三人の打者を全員ショートゴロに打ち取った。ショートが軽快な動きでゴロを捌き、アウトを3つ取る。真英はベンチに戻る際に、ショートの選手とハイタッチした。

 

 真英がベンチへ戻ると、監督が近づいてきた。

 

「まだ投げられるか」

「いけますよ」

「そうか」

 

 身体が軽いとは言えなかった。踏み込むたびに太腿へ疲労がたまり、指先の感覚も登板直後ほど鮮明ではない。それでも、球威が落ちて打者に捉えられているわけではなかった。

 

 監督はしばらく真英の顔を見たあと、短くうなずいた。

 

「最後までいけ」

 

 九回にも真英がマウンドへ向かうと、観客はこの日一番の拍手で十八歳の新人を迎えた。完投を見る機会そのものが少なくなった時代に、プロ入りしたばかりの投手が初回の一点だけで最後まで投げようとしている。野手陣も気合を入れ直した。彼の好投に報いて、なんとか勝ちをつけてやりたい。

 

 一方の真英は、いつものように落ち着いていた。

 

 先頭打者には、初球のカットボールを三塁側へ転がさせた。続く打者はストレートを高く打ち上げ、右翼手が定位置で捕球する。最後の打者には二球続けてファウルで粘られたが、真英は捕手の構えた内角へストレートを投げ込んだ。

 

 詰まった打球が二塁手の正面へ転がる。一塁への送球を見届けると、真英はゆっくりとマウンドを降りた。初回に一点を失ってから、八イニング連続無失点。プロに入ってから初めて九回を投げきった。高校時代にも完投は何度も経験していたが、疲労も、打者一人を打ち取るために費やしたものも、あの頃とはまるで違っていた。

 

 ベンチに戻った真英は、味方の攻撃を見守った。

 

 しかし、九回裏はわずか七球で終わった。先頭打者が外角の球を引っかけ、続く打者は初球を打ち上げる。最後の打者が放った力のないゴロを二塁手が処理すると、一塁手のミットにボールが収まるより先に、真英はずっしりとした疲れが全身を覆うのを感じた。

 

 神奈川BWは0対1で敗れた。真英は10試合連続QSを達成したものの、九回一失点の完投負けでプロ一年目を終えたのだった。

 


 

そこのおまえ「俺は9回を投げて1失点だった」

 

[名無しの代走]

味方は負けてしまった

 

[名無しの代走]

どうすりゃいいんだ…

 

[名無しの代走]

援護がないという言い訳は

 

[名無しの代走]

底ノ尾さん今日も元気にQSを達成www

 

[名無しの代走]

9回1失点の炎上か

チッ次は0で抑えろよ

 

[名無しの代走]

打線はさぁ…

 

[名無しの代走]

いつものことだろ

0点で抑えないのがわるいよー

 

[名無しの代走]

そこのおまえを救う会を設立しなきゃ…

 

[名無しの代走]

地味に10試合連続QSして2勝ってやばいな

 

[名無しの代走]

2勝は派手にやばいだろ

 

[名無しの代走]

ムエンゴすぎる

 

[名無しの代走]

神奈川打線どうにかしろよ…

 

[名無しの代走]

グリーンウェルで遊んでる暇があったら大砲つれてこい

 

[名無しの代走]

9回裏の攻撃

遊ゴロ

捕邪飛

二ゴロ

7球で試合終了

 

[名無しの代走]

>9回裏の攻撃

>遊ゴロ

>捕邪飛

>二ゴロ

>7球で試合終了

うつくしい・・・

 

[名無しの代走]

芸術的だ

 

[名無しの代走]

神奈川は今すぐそこのおまえを解放しろ!

 

[名無しの代走]

次から自分でホームラン打て

 

[名無しの代走]

自分で打たないほうが悪いという風潮

 

[名無しの代走]

最後カメラに顔抜かれてたな

 

[名無しの代走]

味方打線が最大の敵

 

[名無しの代走]

新人王いける?

 

[名無しの代走]

>新人王いける?

無理かな・・・

 

[名無しの代走]

3割20本打ってる柏田が当確だろ

 

[名無しの代走]

結果論だけど柏田抑えてたあたりいいピッチャーだったんだな

なんか7位まで残ってたけど

 

[名無しの代走]

柏田は高校の頃からそこのおまえ打ててなくて対戦成績ひどいことになってるよな

だからそこのおまえが新人王ってことになりませんか?

 

[名無しの代走]

(2勝しかしてないやつには)与えられねーわ

*1
6イニング以上を投げて自責点3以下

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