正月、実家に帰っていた真英は、同じく帰郷した小春と一緒に、地元の小さな神社へ初詣に出掛けた。
小春は県外の大学の法学部に通っている。高校時代から成績はよく、教師にはもっと上を目指せると言われていた。だが本人は大学の名前よりも、将来やりたい仕事に必要なことを学べるかどうかで進学先を決めたらしい。
「小春ちゃん、弁護士になるんだ」
「いいえ?」
法律といえば弁護士だ、と短絡的に考えた真英は、すぐに否定を食らうハメになった。
「まさくんは相変わらず単純ね」
「悪かったね」
へそを曲げた真英の腕に、小春は笑いながら自分の腕を絡めた。
「それにしても、ずいぶん身体おっきくなったねえ」
「親戚のおばさんみたいなこと言うじゃん」
「だってテレビでしか見てなかったし。会ってみると全然違うね。筋肉の感じとか」
「そうかなあ?」
言われて自分の腕を眺めてみたものの、毎日見ている真英には、入団前とそこまで変わったようには思えなかった。
やがて、賽銭箱の列に並んでいた二人に、自分たち番が回ってきた。
「今年の目標は?」
「無病息災かな」
「まさくんらしーねえ」
野球のことを聞いたつもりが、返ってきたのは神社で願うことそのものだった。小春は呆れるでもなく、どこか納得したように微笑んだ。
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二年目、真英は開幕から先発ローテーションに入った。
一年前のように、投手陣の故障が重なった末に一軍へ押し出されたわけではない。キャンプ初日から先発組に加えられ、オープン戦でも決められた間隔で登板し、そのまま開幕ローテの中に名前を残した。
ただし、投手として何かが劇的に変わったわけではなかった。
ストレートは相変わらず百四十キロ台前半で、カットボールとチェンジアップのコンビネーションで打者を淡々と打ち取っていく。
前年の活躍もあり、真英に対するマークは激しくなっていた。しかし、彼は他球団のスカウト泣かせだった。ずっと同じフォームで投げるものだから、クセも何もない。なにせ、小学生の頃からずっと変わっていないのである。
そして、試合を壊さずに投げ続ける能力も、二年目になっても変わらなかった。
開幕三戦目、真英は七回を二失点に抑えた。対して、味方打線はホームラン一本のみの一点に抑えられ、八回から登板した中継ぎがさらに二点を失い、試合は一対四で終了した。真英には、早くも今季最初の黒星がついていた。
神奈川BW開幕三連敗 二年目・底ノ尾が七回二失点の好投も…
底ノ尾真英投手は七回を投げ、被安打六、二失点と先発の役割を果たした。打線は相手先発を攻略できず、得点は六回に新外国人ウッドが放った第3号ホームランによる一点のみ。正岡監督は「底ノ尾はよく投げた。打線が応えなければならない」と語った。
その試合は、その年の神奈川BWを象徴していた。開幕から打線は湿り、四月を終えた時点でチーム本塁打はリーグ最少だった。助っ人外国人のウッドはその打棒をいかんなく発揮していたが、ウッド以外がとにかく打てない。得点圏に走者を進めても一本が出ず、先制しても中継ぎが守れない。守備では記録に残る失策だけでなく、併殺を取れたはずの打球を一つのアウトで終わらせるような、小さな綻びが毎試合のように生じた。
その中でも先発陣は気を吐いていた。前年からのカムバックを目指すエース・若狭、ベテランの安藤、そして二年目の底ノ尾。この三人が好投を繰り返すも、チームは点が取れず、エラーや怠慢守備で足を引っ張り続けた。
気づけばチームは開幕10連敗を喫し、その後勝ちを挟んで、最初の10カードをすべて負け越していた。
この間、先発3本柱にはとにかく負けが嵩んでいく。安藤が味方の守備に鬼の形相で怒鳴り散らしたことは二度や三度ではない。ベンチの雰囲気は悪いなんてものじゃなかった。
そして5月の頭に、監督は休養になった。代わりにヘッドコーチが昇格して指揮を取ることになったが、チームの起爆剤にはなりえなかった。交流戦に入った後、チームは六連敗を二度記録し、六月半ばには自力優勝の可能性が消滅した。まだシーズンの半分も終わっていない時期だった。
真英自身は、六回四失点で負ける日もあれば、八回二失点で負ける日もあった。味方が先制した直後にあっさりと追いつかれてしまうなど、自分の投球で勝ち星を逃した試合もある。すべてを打線の責任にできるほど、完璧に投げていたわけではない。
前半戦を終えた時点で、真英は十二試合に先発して三勝八敗と、大きく負け越していた。
若狭と安藤も、貯金はつくれなかった。彼らも大きく負け越した。そしてチームにとってさらに悲惨なことが起きた。安藤の故障離脱である。これで、開幕からローテを守っているのは、若狭と真英の二人だけになった。
その若狭もだんだんと投球内容が焦げ臭くなってきており、そのしわ寄せは真英に降りかかることになった。後半戦に入ると、真英の登板するイニングはさらに長くなったのである。
中継ぎ陣は前半戦からの登板過多で疲弊していた。僅差で勝っている試合だけでなく、大差で負けている試合にも同じ投手を投入せざるを得ず、八月には二軍から昇格させたばかりの新人まで勝ち継投へ組み込まれた。
そしてついに若狭も爆発炎上。7月までなんとか3点台で保っていた防御率が、8月半ばには4点台半ばにまで急上昇した。チームは泥沼の連敗を12にまで伸ばした。そんな中で、真英は本拠地のマウンドに上がった。
試合前のスタンドには、連敗中のチームに特有の重苦しい空気が漂っていた。声援は飛んでいるが、どこか弱々しい。少しでも嫌な流れになれば、また今日も駄目なのかという諦めが、すぐに球場全体を覆ってしまいそうだった。
初回、真英はいきなり出鼻をくじかれた。先頭打者に二塁打を許し、続く打者の送りバントで走者を三塁へ進められ、犠牲フライで先制点を奪われる。三回にも二死から三連打を浴び、二点目を失った。ここのところの課題である、立ち上がりの悪さが、よりによって出てしまった。
それでも、そこで粘りの投球を見せた。走者を背負いながらも後続を断ち、四回以降は得点を許さないままイニングを重ねていった。
打線も、この日は珍しく食らいついた。四回に一点を返すと、六回にはウッドの適時打で同点に追いつく。さらに七回、相手の失策から得た好機で二点を奪い、ついに試合をひっくり返した。
八回を投げ終えた時点で、真英の球数は百球を超えていた。ベンチへ戻ると、投手コーチが真英の前へ立った。
「行けるか?」
「はい」
真英は迷わず答えた。呼吸は乱れておらず、腕にも足にも、投球を続けるうえで気になるところはない。アドレナリンが溢れ、十二連敗を止めるために、試合を締めることだけを考えていた。
九回、先頭打者に安打を許した。続く打者の打球が三遊間を破る。無死で一、二塁。先ほどまで勝利を確信しかけていたスタンドが、たちまち不安げなどよめきに包まれた。しかし監督は動かない。中継ぎよりも、おまえのほうが信頼できると、その目は語っていた。投手コーチがちらちらと監督を見たが、ブルペンには鍵をかけておけ、と言わんばかりの態度だった。
真英もその期待に応えようとした。
(一点はやってもいい)
真英はマウンド上で深く息を吐き、捕手から返されたボールを握り直した。次の打者には内角のカットボールを続け、詰まらせた。力ない打球がセカンドに転がる。しかしゲッツー崩れで、ランナーは一塁と三塁に残ってしまった。あとアウト二つ。
再びゴロを打たせることができれば、併殺打でゲームセットを狙える。しかし、そう上手くは行かなかった。次の打者には、低めにコントロールされたチェンジアップを拾われ、センターにフライを打ち上げられてしまった。
犠牲フライでランナーが帰り、1点差。なおも同点のランナーが一塁に残る状態で、迎えたのはこの日すでに二本の安打を許している打者だった。このバッターも、いつも通り、打たせて――
(それじゃダメだ)
真英はその考えを振り払った。気迫を込め、腕を振る。
初球のチェンジアップで空振りを奪い、続くカットボールをファウルにさせて追い込んだ。しかし、そこから際どい球を二つ見送られ、さらに一球を粘られて、カウントはフルカウントになった。
真英がボールを受け取ると、スタンドの観客が次々に立ち上がった。捕手が要求したのは、外角へのストレートだった。
真英はセットポジションから足を上げ、最後まで指先をボールの後ろに通した。投じられたストレートは外角へと糸を引くように伸び、そのまま捕手の構えたミットへ吸い込まれた。
打者のバットは動かなかった。乾いた捕球音が響き、球審の右腕が勢いよく上がる。
「ストライク! バッターアウッ!」
真英は右の拳を強く握り、グラブを叩いた。普段なら勝っても大きく感情を表に出さない彼が、十二試合分の重苦しさを振り払うように、マウンドの上で声を上げた。
本拠地のスタンドから歓声が上がった。
神奈川BW、泥沼脱出! 底ノ尾が三失点完投で連敗を12でストップ
最下位に沈む神奈川が、二週間ぶりの勝利を挙げた。先発の底ノ尾は九回を投げて被安打九、三失点。137球の熱投で今季六勝目を手にした。
中馬監督は「今日は底ノ尾に尽きる。最後まで投げてくれて助かった」と称賛した。
しかしその翌日から、神奈川は再び大型連敗をはじめた。その荒波に真英もなすすべなく飲まれ、黒星がうず高く積み上がっていった。
九月に入る頃には、順位を気にする者はいなくなっていた。話題になるのは、球団ワースト記録をどこまで更新するのか、ということばかりだった。
真英は最後までローテーションを守った。シーズン最終登板では五回を二失点に抑えたが、打線は無得点に終わった。
神奈川BW、屈辱の百敗 底ノ尾はリーグ最多15敗
神奈川ブルーウェーブズは0対2で敗れ、シーズン100敗を喫した。
先発の底ノ尾真英投手は5回2失点と試合を作ったが、打線は最後まで得点を奪えず、今季15敗目。底ノ尾は今季24試合に先発し、174回⅓を投げて防御率3.42を記録したものの、勝ち星は8勝にとどまり、リーグ最多敗となった。
中馬監督は試合後、「底ノ尾は今日も十分に役割を果たしてくれた。19歳の投手にこれだけ投げてもらいながら、勝たせてやれなかったのは我々の責任」と報道陣に語った。
球界がプレーオフに沸く中、真英は秋季キャンプで汗を流していた。夜、居残り練習でトレーニング場から球団施設に戻ると、食堂では選手たちがテレビを見上げていた。画面の中では、ドラフト同期で、神戸で活躍する柏田が打席に立っていた。
コップ一杯の水を片手に真英も席に座る。すると、近くで見ていた若狭が声を上げた。
「おっ」
柏田が打った。確信歩きのホームラン。マウンド上では、投手が膝をついてガックシと項垂れてる。サヨナラ勝ちで、神戸の日本シリーズ進出が決まった。若狭が振り返る。
「おまえ、柏田と同期だっけ?」
「はい」
「やばいよな」
「やばいですね」
柏田半端ない。若狭が他の選手たちと口々に、柏田について話す中、真英はテレビを見上げて思う。自分もいつか、プレーオフの舞台に立つことができるだろうか。
その後、二年目を終えた真英は、最多敗投手として契約更改の席に着いた。それでも年俸が上がったのが、なんだか不思議だった。
そこのおまえ 174.1回 防御率3.42
[名無しの代走]
15敗8勝
[名無しの代走]
ん?
[名無しの代走]
逆だろ?
[名無しの代走]
嘘だといってよ
[名無しの代走]
>嘘だといってよ
ところがどっこい夢じゃありません…これが現実…!
[名無しの代走]
19歳の成績か?これが…
[名無しの代走]
投げすぎでは
[名無しの代走]
本人がいけるっていうから…
[名無しの代走]
>本人がいけるっていうから…
おは監督
[名無しの代走]
神奈川の勝利の2割をそこのおまえが稼いでいるという事実
[名無しの代走]
15/100もこいつだぞ
[名無しの代走]
若狭…安藤…おまえたちは今どこで戦っている…
[名無しの代走]
安藤さん引退だって
悲しいね
[名無しの代走]
>安藤さん引退だって
うそやろ…
[名無しの代走]
1年目のスーパー若狭はどこいったんだ
[名無しの代走]
おなじみの経験値リセットですかね…
[名無しの代走]
若狭序盤は良かったんだけどなぁ
[名無しの代走]
>若狭序盤は良かったんだけどなぁ
収束しただけや
[名無しの代走]
来年は西郷が戻ってくるから
お前ら見とけよ
[名無しの代走]
西郷とおまえでWエースや!
[名無しの代走]
そこのおまえってもしかして地味に当たりなのでは…
[名無しの代走]
>そこのおまえってもしかして地味に当たりなのでは…
派手定期