9番ピッチャー そこのおまえ   作:Potoooooooo

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代わり映えの無い日々

 四年目から八年目までの五年間は、あとから振り返ってみると、不思議なくらい代わり映えがしなかった。

 

 春になればキャンプが始まり、真英は前年と同じようにブルペンで球数を投げた。新人投手が150キロを超える直球で報道陣を沸かせ、その年に獲得した外国人投手が『優勝への最後のピース』などと紹介される横で、真英は黙々とストレートとカットボールとチェンジアップを投げ込んだ。

 

 開幕すれば、六回、七回と試合を作った。調子がよければ八回まで投げ、悪くても大量失点する前にどうにか踏みとどまる。走者を背負っても慌てず、カットボールで芯を外し、チェンジアップでタイミングをずらした。

 

 味方が点を取れば勝ち投手になり、取らなければ負け投手になった。当たり前の話だ。しかし、ブルーウェーブズでは後者のほうが少し多かった。

 

 開幕前には毎年のように「今年こそは違う!」と言われた。若手が成長した。ドラフト一位が使えそうだ。外国人選手の評判がいい。故障していた主力も戻ってくる。監督が代われば采配が変わり、コーチが代われば練習方法も変わった。

 

 それでも梅雨が明ける頃には借金が膨らみ、夏場には首位争いよりも最下位脱出の可能性が話題になる。秋になると若手中心の起用へ切り替わり、来季につながる戦いという便利な言葉が紙面に並んだ。

 

 真英のすることだけは変わらなかった。登板日の数日前から食事と睡眠を整え、試合では一つずつアウトを積み重ねる。登板を終えれば身体の状態を確かめ、次の試合へ向けて調整を始めた。勝っても負けても同じように走り、同じように肩を動かし、同じ時間に眠った。

 

 故障もなく、ローテーションから外れることもない。毎年のように規定投球回へ到達し、防御率は三点台で安定した。二桁勝利を挙げる年もあったが、たいてい同じくらい負けた。リーグを代表する投手として名前を挙げられることはなくとも、年間を通して計算できる投手として、首脳陣からの信頼だけは年々厚くなっていった。

 

 ネット掲示板では、真英が七回二失点で負ければ「いつもの」と書かれ、九回を投げきっても勝敗がつかなければ『そこのおまえを救う会』が賑わう。たまに大量援護をもらえば、「次の分まで使った」と心配され、その予想はだいたい次の登板で当たった。

 

 投球内容に変化がなかったわけではない。オールスターでスター選手たちから教わった握りを試し、曲がりの異なるカットボールを使い分け、チェンジアップにも微妙な速度の濃淡をつけた。ストレートは相変わらず140キロそこそこだったが、意外と三振も取れる球だった。

 

 毎年、ほんの少しずつ真英の投球は進化していた。しかし、年間の成績表に並ぶ数字はあまり変わらないので、年俸はそこまで上がらなかった。

 

 私生活のほうは、野球ほど代わり映えがしなかったわけではない。四年目の春、小春は大学を卒業した。

 

 卒業後は法律事務所へ入り、スポーツ選手の契約や移籍に関わる仕事を目指して、実務を学び始めた。選手契約、肖像権、広告出演、税金、故障した際の補償。真英には馴染みのない言葉が並ぶ本を読み、仕事を終えたあとも資格試験や研修の勉強を続けていた。

 

 真英との婚約はすでに周囲へ伝えていたが、彼女は結婚を急ぐつもりはなかった。

 

「卒業したら結婚するって言ってなかったっけ」

 

 ある日、真英が何気なく尋ねると、小春は参考書から顔を上げた。

 

「……卒業した翌日に結婚するって意味じゃないからね?」

「そうなんだ」

「私にも準備があるの」

 

 いつの間にか、『小春ちゃん』はパリッとしたスーツの着こなしが似合う『小春さん』になっていた。試しに「小春……サン」と言ってみたら大爆笑されたが。

 

 五年目になると、小春は真英が球団から持ち帰る書類にも目を通すようになった。最初は契約書の分からない箇所を説明するだけだったが、そのうち前年の成績や他球団の年俸を調べ、代理人でもないのに契約更改の準備を手伝うようになった。

 

 六年目のオフ、二人は結婚した。式は大きなものではなかった。親族と親しい友人、それに球団関係者を何人か招いた程度である。真英はシーズン中のヒーローインタビューよりも緊張した顔で立ち、小春からは笑われていた。周囲は「ようやくか」と言った感じで、ホッとしていたようだった。

 

 それまで半同棲のような生活を続けていたため、結婚したからといって暮らしが劇的に変わったわけではない。冷蔵庫の中身も、洗面所に並ぶ歯ブラシも以前と同じだった。ただし、小春が真英の生活へ口を出すときの遠慮は完全になくなった。特に食事については厳しく、独身時代に何を食べていたのか聞き出すたびに、呆れた顔で注意された。

 

「よくそれで、ここまでやってこれたわね」

「スミマセン」

 

 その日から、小春ちゃんの真英肉体改造計画が始まった。婚約していた頃の小春は、大学の勉強や就職後の仕事、それに資格取得の準備で、自分のことで精いっぱいだった。時折泊まりに来てはいたものの、真英の生活を細かく見る余裕まではなかったのだが、今では深く関われる。

 

 肉体改造といっても、急に筋肉をつけて球速を上げようという話ではない。まず改められたのは食事だった。腹が満たされれば何でもいいという真英の考えは否定され、登板日から逆算して献立が組まれるようになった。肉や魚だけでなく、野菜を残さず食べさせられ、間食にも菓子パンではなく補食用のおにぎりや果物が用意された。

 

 真英も最初こそ窮屈に感じていたが、食事の量が増えたわけでも、嫌いなものを無理やり詰め込まれるわけでもなかったため、思ったより早く慣れた。むしろシーズン後半になっても今まで以上に調子の良い日が続いたため、小春のやり方が間違っていないことを認めざるを得なかった。

 

 睡眠時間については特に直されることはなかった。真英は映画館の一件以来、寝ることにかけては他の追随を許さない。遠征先のベッドでもグースカ眠れるタイプである。

 

 七年目、小春は必要な手続きと登録を済ませ、正式に真英の代理人となった。家庭では昔と変わらず「まさくん」と呼んでいたが、球団との話し合いでは「底ノ尾選手」と呼んだ。初めて聞いたとき、真英は思わず隣を見てしまい、小春から机の下で軽く足を蹴られた。

 

 そして、その年のオフに真英は国内FA権を取得した。思えば一年目、チーム事情で一軍登録されてからというもの、一度も二軍のマウンドを経験していない。ここまで投げ続けてきたご褒美だと思うと、なんだか感慨深いものがあった。他球団の評価も、聞いてみたい思いがあった。

 

 毎年ローテーションを守り、長いイニングを投げられる左投手である。派手な数字を残すタイプではないが、大崩れせず一年を通して計算できる先発投手という評価は高かった。FA権を取得すれば獲得に動く意思を示している球団も複数あり、優勝争いを続けるチームからも強い関心が寄せられていると、様々な媒体で報道されていた。

 

 小春にとっても、代理人として初めて任される大きな交渉だった。ブルーウェーブズとの下交渉を進める一方で、市場調査も行い、FA宣言した場合に見込める契約条件を整理していく。

 

 年俸だけではない。契約年数、起用法、トレーニング環境、出来高の内容まで、一つひとつ比較できるよう資料にまとめて真英へ説明した。ただし、どの選択が正しいかだけは最後まで口にしなかった。

 

「決めるのはまさくんだからね」

 

 真英は迷った末に、FA権を行使せず、ブルーウェーブズへ残ることを選んだ。球団はその決断に応え、それまでよりも大幅に条件を上げ、新たに二年契約を提示した。これまでの貢献が数字となって示されたことに満足した真英は、その契約にサインした。

 

 八年目も、真英は同じように投げた。

 

 開幕からローテーションを守り、夏場にも登板間隔を飛ばされず、秋までボールを投げ続けた。チームは序盤に少しだけ期待を持たせ、交流戦の頃には失速し、最後は見慣れた順位へ落ち着いた。

 

 家に帰れば小春がいた。試合を見ながら気になった場面を尋ね、真英が答えると、今度は契約や球団経営について難しい話を始めた。真英には半分も理解できなかったが、小春が楽しそうなので、相槌を打ちながら聞いていた。

 

 野球選手としての日々は、どこまでも変わらないように見えた。

 

 同じ球場へ向かい、同じマウンドへ上がり、同じように七回前後を投げる。防御率は三点台。勝ち星と負け星はほぼ同じ。チームは下位に沈み、シーズンが終われば来年こそはと繰り返す。

 

 けれど、その間にも真英は年齢を重ね、小春と家庭を築き、球団にとって簡単には手放せない選手になっていた。変わらない日々の中で、変わっていないものなど、本当は一つもなかった。

 

 二年契約は、あと一年。

 

 九年目もまた、これまでと同じシーズンになるはずだった。開幕投手を務め、7回3失点としたが、リリーフが打たれてチームは敗れた。ああ、今年もいつも通りだな。ファンたちはそう感じていた。

 

 真英は投げ続けた。支配的な投球ではない。だが、少ない球数でイニングを進める能力にかけては球界ナンバーワンと言ってもよかった。

 

 悲劇が起きたのは、シーズン終盤のこと。

 

 敵地でのシリーズで、相手チームは5位。シーズン順位が確定した、いわゆる消化試合。相手打線には若手有望株が並んだ。この年、真英の登板試合では、レギュラーキャッチャーではなく、2年目キャッチャーとバッテリーを組んだ。昨年のドラ1で、甲子園でも大活躍した強肩強打の大型捕手・細田だった。いつの間にか、真英には若手捕手を育てるという役目が回ってきていた。

 

 そして、それは上手くいっていた。この時期になると細田は完全に一軍に順応し、メキメキとその才能を覚醒しつつあった。来年は彼がレギュラーだろう。ファン、そして真英もそう感じていた。

 

「ソコさん、球走ってますね」

「そうだね」

 

 プルペンで細田が評した通り、この日の真英は調子がよかった。打ち気に逸る相手打線を翻弄し、スイスイとイニングを進めた。チームは中盤に細田のタイムリーで一点を上げ、1対0のまま9回裏に突入した。

 

 ここまで真英が許したランナーはエラーによる1人のみ。ノーヒットノーランが目前に迫っていた。大記録を目の前にしても、真英は変わらない。いつものようにセットポジションから、打者に向かっていく。

 

 先頭打者にはストレートを外角一杯にビタビタと決めて二球で追い込むと、最後は内角をえぐるカットボールで三振にしとめた。今日6個目の三振だった。いつもよりも三振が多いのは、真英の調子の良さの証明か、あるいは相手打線に力がないのか。おそらく、そのどちらもだった。

 

 次の打者には、初球のチェンジアップを泳がせて、ピッチャーゴロ。丁寧にファーストへ送球し、これでツーアウト。偉業まであと一人に迫った。

 

 球場がざわめいていたから、さすがの真英も完全に落ち着いてはいなかった。何度か深呼吸をしてから、プレートを踏んだ。キャッチャーとサインを交換し、投球動作に入る。足を上げ、キャッチャーミットめがけて投げ込んだ。

 

 内角ギリギリに投げ込まれたボールに手を出したバッターは、鋭く手元で変化するカッターに対応できず、完全に差し込まれた。鈍い音とともにバットが根元から折れ、力のないゴロが三塁側へ転がった。

 

 三塁手が前へ飛び出し、素手に近い形でボールを拾った。だが、焦りからか、うまく握れていない。握り直せば、一塁には間に合わない――そう判断した三塁手は、中途半端な握りのまま腕を振った。

 

 そして送球は、一塁手のはるか頭上を越え、ベンチに飛び込む大暴投になった。ボールデッドが宣告され、ランナーは二塁へ。サードのエラーが記録され、ノーヒットノーランは継続した。

 

 三塁手は申し訳なさそうに真英の方を見たが、真英は手を上げるだけで、何も言わなかった。新しいボールを受け取ると、軽く手の中で転がしながら、再びマウンドへ戻った。

 

 そのとき急に、胸の内に小さな不安が生まれた。

 

 自分よりも、チームメイトのほうが浮足立っている。そんな雰囲気を感じた。ボールを受け取り、再びセットポジションへ。

 

 次の打者へは、初球からカットボールを投げ、二球続けてファウルを打たせた。これで追い込んだ。キャッチャーのサインは、外角低め、右打者の外へ逃げていくチェンジアップ。真英の持ち球の中でも、三振を取れる公算の大きい球だ。

 

 真英は小さく頷き、いつも通り、初回から変わらないフォーム、腕の振りで、その日の100球目を投じた。

 

 ボールは狙いどおりに外角低めへ沈んでいった。しかし、打者は身体を泳がされながらも、辛うじてバットの先を届かせた。

 

 ふらふらっと、打球がライトに上がった。平凡な外野フライ。ライトが捕球し、ゲームセット。誰もがそう思った。

 

 ファールライン際、ライトの選手はすぐに落下地点へ向かい、ファウルラインの手前で十分に追いついた。足を止め、両手でグラブを構える。

 

 しかし彼は、最後の最後で目測を誤った。

 

 ボールはそのグラブをすり抜け、選手の頭に命中した。跳ね返り、ファールグラウンドの奥へと転々としていく。球場に悲鳴とどよめきが広がり、それがすぐにホームファンの大歓声へ変わった。

 

 ライトの選手がグラウンドに倒れ込む。しかし急いで立ち上がろうとして、脚をもつれさせて転んだ。中堅手がようやくボールへ追いついたときには、二塁走者が同点のホームを踏み、打者走者も三塁を回っていた。

 

 中継へ返された送球は間に合わなかった。

 

 ベースカバーに走っていた真英の目の前で、打者走者がホームベースへ滑り込み、二点目が入る。

 

 サヨナラ負け。

 

 真英はしばらくの間、呆然とスコアボードを見上げていた。細田に肩をたたかれるまで、その場から一歩も動けなかった。

 

 

 


 

そこのおまえ「俺は9回を投げて被安打0自責点0だった」

 

[名無しの代走]

チームは1対2で敗れ、俺は敗戦投手になってしまった

 

[名無しの代走]

???

 

[名無しの代走]

どうして・・・

 

[名無しの代走]

 

[名無しの代走]

かわいそう

 

[名無しの代走]

そこのおまえ「」

 

[名無しの代走]

9回二死から怒涛の2エラーでサヨナラは草

 

[名無しの代走]

解説の安藤さんも絶句しとったわ

 

[名無しの代走]

細田すげえ顔してたな

あれはマジギレだった

 

[名無しの代走]

遠征民ワイ

泣く

 

[名無しの代走]

>遠征民ワイ

>泣く

現地おつ

気をつけて帰るんやで…

 

[名無しの代走]

残留したの後悔してそう

 

[名無しの代走]

原田監督「あれは・・・そこのおまえ?!」

 

[名無しの代走]

>原田監督「あれは・・・そこのおまえ?!」

その薄汚い手をどけろ

 

[名無しの代走]

自分で全部三振取らないそこのおまえが悪い

 

[名無しの代走]

8回2/3を被安打0自責点0←なんで降ろしたの?

2失点で敗戦投手←おお…

 

[名無しの代走]

FA権とったとき残留してくれたのはマジで嬉しかったけど二年契約も今年で終わりだろ

さすがに今回は出ていくかもな・・・

 

[名無しの代走]

出たほうがいいよこんな球団

 

[名無しの代走]

でも残ってほしい

心が二つある~

 

[名無しの代走]

今年はチャンスあると思ったのになぁ…

 

[名無しの代走]

>今年はチャンスあると思ったのになぁ…

これ毎年言ってんな

 

[名無しの代走]

フロント刷新したし期待してる

 

[名無しの代走]

遅いんだよなぁ…

 

[名無しの代走]

言うて毎年180回投げて全然壊れずに防御率は3点台で安定してるまだ27歳のピッチャーなんて必要か?

いるに決まってんだろ

 

[名無しの代走]

 

[名無しの代走]

ここまでタイトルなしなのが信じられん

 

[名無しの代走]

新しい編成部長敏腕らしいけど大丈夫かな・・・野球関係ないところから引っ張ってきたんだろ?

 

[名無しの代走]

>新しい編成部長敏腕らしいけど大丈夫かな・・・野球関係ないところから引っ張ってきたんだろ?

経営立て直しのプロらしい

一応他のスポーツと独立で実績はあるから的外れってわけでもない

俺は期待してる

 

[名無しの代走]

最初の大仕事はそこのおまえの残留交渉だな

頼むから残ってくれ

 

[名無しの代走]

(FAしちゃ)いかんのか?

 

[名無しの代走]

>(FAしちゃ)いかんのか?

(でていかれちゃ)いかんでしょ

 

 

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