9番ピッチャー そこのおまえ   作:Potoooooooo

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10勝しても10敗する投手はいらない

 九年目のシーズンも、真英は最初から最後まで先発ローテーションを守った。

 

 防御率は例年どおり三点台に収まり、投球回も190を超えた。勝ち星と負け星はまた同じくらい並び、主要な数字だけを見れば、これまで何度も繰り返してきたシーズンと大きな違いはなかった。

 

 例のノーヒットノーラン未遂事件(通称『名古屋の悲劇』あるいは『喜劇』)は、ネットニュースやテレビスポーツニュースの話題を掻っ攫ったが、試合直後のコメントで真英自身がライトの選手を庇ったので、目に見えてスタンドから浴びせられる野次は多くなかった。ただし最後のあのプレーは、珍プレー特集で向こう十数年は語り継がれるだろうことは間違いない。

 


ノーノー目前でまさか…快挙消滅も底ノ尾「宇田野くんにはあとで寿司奢ってもらいます」

 

 神奈川ブルーウェーブズは、先発・底ノ尾が9回2死までノーヒットノーランの快投。大記録まであと一死に迫るも、守乱からまさかのサヨナラ負け。シーズン80敗目を喫した。試合後、味方のエラーで大記録を逃したことについて問われた底ノ尾は「特に気にしていない。負けは負けなので。最後は三振を取ろうとしたが、少し甘く入ってしまったのが反省点。宇田野くんにはあとで寿司奢ってもらうので大丈夫です」とコメントし、味方を気遣った。

 

 試合後、報道陣の前に姿を表した大畑監督は、「あのプレー自体は完全にボーンヘッド。プロなんだから、あれは捕らなきゃいけない」と厳しい口調で振り返った。一方で、「ただ、宇田野は今日は急なスタメンだったし、慣れない環境でよく3安打打ってくれた。切り替えてまた頑張ってほしい」とエールを送った。


 

 また、この年は二年前に結んだ契約の最終年だった。

 

 七年目に国内FA権を取得した際、真英は権利を行使せず、ブルーウェーブズと二年契約を結んでいる。当時も他球団から関心を寄せられていたが、高校を卒業したばかりの自分を指名し、敗戦処理から先発へ引き上げてくれた球団を離れる気にはなれなかった。

 

 その契約が切れるのと同時に、今度は海外FA権を取得した。

 

 シーズン最終戦から数日後、小春は真英の代理人として球団事務所を訪れた。正式な契約更改ではなく、来季以降について球団の方針を確認するための話し合いだった。

 

 応対したのは、その年から編成部門を任されている新しい本部長だった。

 

 プロ野球選手としての経歴はない。大学卒業後は経営コンサルタントとして企業再生に携わり、その後は経営難に陥ったプロスポーツクラブの再建を成功させた。直近では独立リーグ球団の編成責任者を務め、限られた予算で優勝チームを作ったうえ、何人もの選手をプロへ送り出している。

 

 球界の外から連れてこられた改革者ではあったが、実績のない素人ではなかった。

 

 就任後は長年の慣習に手を入れ、スカウト部門と分析部門の再編を進めていた。査定方法も見直し、伸びしろのある若手や、奪三振能力の高い投手を積極的に集める方針を打ち出している。低迷の続く球団を変えてくれるのではないかと、ファンからの期待も高かった。

 

 小春も、その経歴や考え方を事前に調べていた。少なくとも、感情だけで選手を切り捨てる人物ではないと考えていた。

 

「底ノ尾選手が長年チームへ貢献してきたことは、十分に理解しています」

 

 編成本部長はそう前置きし、真英の登板数や投球回が並んだ資料へ目を落とした。毎年ローテーションを守り、180回前後を安定して投げられる。大きな故障もなく、年間を通して計算できる。そこまでの評価に、不当なところはなかった。

 

 しかし、球団は現在、選手構成を根本から見直している。限られた予算を真英一人へ大きく割けば、若い先発候補や救援投手の獲得に使える資金が減る。そのため、現在と同程度の年俸を維持したまま、複数年契約を提示することは難しいというのが球団側の結論だった。

 

 用意されていたのは単年契約で、年俸も現状維持が上限だった。

 

「底ノ尾は、まだ二十七歳です。直近七年間、規定投球回を割っていません」

 

 小春は真英の稼働率と、他球団の先発投手に提示された条件を示したが、編成本部長の姿勢は変わらなかった。彼が今後もそうであるという保証はどこにもないだろう、と言わんばかりだった。

 

 それに、真英が180回を投げても、チームは勝てなかった。ならば、一人の投手を引き留めるために大きな予算を使うより、その資金で複数の選手――例えば外国人選手を補強した方がいい。編成本部長の判断は、一貫していた。ずっと一軍にいて投げ続ける真英は、ブルーウェーブズ暗黒時代を象徴する選手ではあったから、スケープゴートとまではいかないにせよ、責任の一端があるという言い分には一定の根拠があった。

 

 理屈は通っているように思える。小春も、それを理解できないわけではなかった。だからこそぐっとこらえて感情的に反論することはせず、提示の内容と球団の方針を確認すると、正式な回答は後日すると告げて席を立った。

 

 その日の夜、真英は自宅のリビングで話を聞いた。単年契約で、条件は現状維持が上限。球団側は残留を望んではいるが、最優先で引き留めるつもりはない。

 

 真英は小春がまとめた資料へ目を通したあと、「そっか」とだけ答えた。新しい編成が大規模な改革を進めていることは、選手の間でも知られていた。すでに何人かのベテランが構想外を告げられ、コーチ陣の入れ替えも決まっている。真英を見出し、その後スカウト部門のトップになった恩人も、退団が決定している。知り合いがどんどんいなくなっていく。自分だけが例外として扱われるとは思っていなかった。

 

 それでも、少しくらいは違う答えを期待していたのかもしれない。高卒一年目から一軍で投げ、先発へ転向してからは毎年のように長いイニングを背負ってきた。成績だけを見れば、球界を代表するような投手ではない。タイトルを取ったこともなく、二桁勝利を挙げた年でさえ、それに近い数だけ負けている。

 

 だが、簡単に代わりが見つかるほど軽い仕事をしてきたつもりもなかった。小春は国内の他球団からよりよい条件が提示される可能性と、海外FA権を使う選択肢があることだけを伝えた。真英はその場では何も決めず、もう少し考えたいと答えた。

 

 ブルーウェーブズを離れる自分を、まだ現実のこととして想像できなかった。

 

 そして数日後、その記事が出た。

 


「10勝しても10敗する投手はいらない」新編成本部長が進めるブルーウェーブズ大改革


 

 朝、携帯電話を開いた真英は、ニュースサイトに並んだ見出しをしばらく眺めていた。

 

 記事によれば、編成本部長は親会社の幹部を交えた会議で、今後の契約方針について意見を求められたという。そこで、高額な複数年契約を提示すべき選手について話が及び、次のように発言したとされていた。

 

『十勝しても十敗する投手へ、エース級の契約は出せない。そういう選手に頼ってきたから、この球団は変われなかった』

 

 記事の中に、真英の名前は一度も出てこなかった。それでも、誰のことを指しているのか分からない者はいなかった。毎年180回前後を投げ、防御率三点台で、勝ち星と負け星が同じくらい並ぶ投手は、ブルーウェーブズに一人しかいない。

 

 記事が出て間もなく、球団から小春へ連絡が入った。発言の一部だけが切り取られていること、真英個人を名指ししたものではないこと、球団としては長年の貢献を評価しており、残留交渉を続けたいと考えていることが説明された。

 

 どれも、完全な嘘ではなかった。発言には前後の文脈があり、編成本部長なりの球団再建に対する考えもあったのだろう。真英を侮辱するためだけに、会議の場で言葉を吐いたわけではない。

 

 それでも、言っていないことにはならなかった。真英は記事を閉じたあとも、しばらく携帯電話を手にしたまま座っていた。十勝して十敗するという評価は、数字だけを見れば間違っていなかった。自分の失点が原因で落とした試合はいくつもあり、もっと上手く投げていれば勝てた試合もあった。援護や守備に恵まれなかったからといって、すべてを他人の責任にするつもりはない。

 

(おれがしてきたことは……)

 

 先発が足りなければ登板間隔を詰め、救援陣が疲れていると聞けば、球数が増えても一つでも多くアウトを取ろうとした。点が入らない日も、失策で走者を背負った日も、マウンドを降りたあとは次の登板に向けて身体を整えた。

 

 勝てないチームで、勝てないなりにできることを続けてきた。その九年間を、球団が変われなかった理由の一つとして扱われたことが、思っていた以上に苦しかった。最初は、自分が低く評価されたから腹が立っているのだと思った。

 

(ちがう)

 

 もし何の思い入れもない球団なら、条件が合わなければ去ればいい。失礼な言葉を聞かされても、縁を切ってしまえば終わる。わざわざ過去の登板を思い返し、胸を痛める必要などない。

 

 自分を指名してくれた球団だった。敗戦処理だった自分に先発の機会を与え、勝っても負けても使い続けてくれた。最下位が続いても球場へ足を運び、真英がマウンドへ上がるたびに声を張り上げるファンがいた。名前の読み間違いから始まった『そこのおまえ』という呼び名も、いつの間にか自分の一部になっていた。

 

 勝てるようになってほしかったし、そのときも自分がブルーウェーブズのユニフォームを着ていたかった。

 

「俺、ここが好きだったんだな」

 

 向かいに座っていた小春は、すぐには答えなかった。真英自身も、口にして初めて気づいていた。

 

 好きだったから残った。好きだったから、負けが続いても、別の球団へ移った方がいいと言われても投げ続けた。そして、好きだったからこそ、自分の九年間を否定されたような言葉が、これほど深く刺さったのだ。

 

「どうしたい?」

 

 しばらくして、小春が尋ねた。

 代理人として必要な情報は、すでにすべて渡してある。そのうえで決めるのは、真英自身だった。

 真英はすぐには答えず、テーブルに並んだ資料へ目を落とした。国内には、ブルーウェーブズよりも勝てる球団がある。条件もよく、先発として必要としてくれるチームも見つかるだろう。

 

 しかし、別のユニフォームを着て、ブルーウェーブズと戦う自分を想像すると、どうしても気持ちが動かなかった。残れば、来年も同じように投げられる。球場も、ロッカールームも、応援席の声も変わらない。

 

 だが、もう以前と同じ気持ちでマウンドへ上がることはできそうになかった。

 

「海外……」

 

 真英はぽつりと呟いた。多分、この気持ちをどうにかするには、それしかない。

 

「海外に行ってみたい」

 

 真英がそう告げると、小春は一度だけ確かめるように彼の顔を見た。

 

 メジャー契約が得られる保証はなく、マイナー契約からの挑戦になる可能性も高い。環境も言葉も変わり、結果を残せなければ一年で帰国することになるかもしれない。

 

 それでも真英の気持ちは変わらなかった。ブルーウェーブズを嫌いになったから、海を渡るのではない。好きだった球団と、国内で敵同士になりたくなかった。

 

 小春は短くうなずき、その日のうちに海外の球団との交渉へ向けて動き始めた。

 

 九年間着続けたユニフォームを脱ぐ決断は、こうして下された。

 

 十勝しても十敗する投手を必要としないというのなら、自分を必要としてくれる場所を探すしかない。

 


 

編成本部長「10勝しても10敗するピッチャーはいらない」

 

[名無しの代走]

は?

 

名無しの代走]

ファーーーーーwwwww

 

[名無しの代走]

そこのおまえ、怒りのFA宣言

 

[名無しの代走]

そこのおまえ「あったまきた!」

 

[名無しの代走]

ええ…

 

[名無しの代走]

そうか

そうきたか

 

[名無しの代走]

???「携帯電話会社と同じ」

 

[名無しの代走]

そこのおまえ「神奈川だけはやめておけよ」

 

[名無しの代走]

底ノ尾くん!東京で我々とともに優勝を目指さないか!?

 

[名無しの代走]

底ノ尾から猛虎魂を感じる

 

[名無しの代走]

どうすんのこれ

 

どうすんのこれ?

 

[名無しの代走]

大畑「え?」

 

[名無しの代走]

>大畑「え?」

監督…おかしいですよ…

 

[名無しの代走]

>>大畑「え?」

>監督…おかしいですよ…

おかしいのはおまえのところの編成だよ

 

[名無しの代走]

大畑「・・・(キュラキュラキュラキュラ」

 

[名無しの代走]

毎年180イニング投げて怪我しない左の先発投手

欲しい?

 

[名無しの代走]

>欲しい?

くーださいwwwwwwww

 

[名無しの代走]

ほーしいwwwwwwww

 

[名無しの代走]

でも勝てないよ?

 

[名無しの代走]

勝てないのは打線のせいだろ

 

[名無しの代走]

でもね?そこのおまえもわるいんですよ

せっかく点を取ってもその裏ですぐに吐き出して!

 

[名無しの代走]

まあ圧倒的エースって感じではないけどさあ

言い方ってもんがあるだろ

 

[名無しの代走]

なんかもう30歳くらいのつもりだったけどまだ27なんだよな

 

[名無しの代走]

まあこんだけ酷使無双してたんだからこれから落ちていく可能性もあるし

というかその可能性が高いし

 

[名無しの代走]

>まあこれから落ちていく可能性もあるし

むしろ指標はずっと良化しつづけてるんだよなあ

 

[名無しの代走]

そこのおまえの放出が(他球団にとって)最大の補強

 

[名無しの代走]

おお…もう…

 

[名無しの代走]

これ出てくだろ

 

[名無しの代走]

FA使わず残ってくれた結果がこれかよ

 

[名無しの代走]

かなしいなぁ

 

[名無しの代走]

本部長「やべっ今年FAなのわすれてた」

 

[名無しの代走]

大畑監督かわいそう

せっかく若手が育ってきたのに

 

[名無しの代走]

>せっかく若手が育ってきたのに

言うほど育ってるか…?

 

[名無しの代走]

こいつタイタンズかジャガーズのスパイだろ…

 

[名無しの代走]

優秀なコストカッターっていう噂は本物だったか

 

[名無しの代走]

カットする場所が違うんだよなぁ

 

[名無しの代走]

最悪だ

 

[名無しの代走]

いやぁ敏腕だなぁ

 

[名無しの代走]

つらいです…ブルーウェーブズが好きだから…

 

[名無しの代走]

>つらいです…ブルーウェーブズが好きだから…

ほんとうにつらいのはやめろ

 

[名無しの代走]

失望しました

神奈川のファンやめます

 

[名無しの代走]

>失望しました

>神奈川のファンやめます

おう、また明日な

 

[名無しの代走]

ところでおまえってさすがにAランクだよな?

 

[名無しの代走]

>ところでおまえってさすがにAランクだよな?

そのはず

 

[名無しの代走]

なら人的補償あるな

むしろこれが狙いか?

 

[名無しの代走]

海外移籍されたらもらえないんですがそれは

 

[名無しの代走]

>海外移籍されたらもらえないんですがそれは

あっ

 

[名無しの代走]

そこのおまえみたいなタイプがメジャーで活躍できるビジョンが浮かばんのやが

そこんとこどうなのメジャーに自信ニキ

 

[名無しの代走]

>そこんとこどうなのメジャーに自信ニキ

先発はどこも欲しがってるぞ

しかもイニング食えるならなおさら

まあコンテンダーはないだろうけど再建中のチームのマイナー契約なら十分ある

候補はラスベガス、アナハイムあたり

大穴でタンパベイってとこか

 

[名無しの代走]

それってつまり弱いところですよね?

 

[名無しの代走]

>それってつまり弱いところですよね?

まあ、はい

 

[名無しの代走]

シアトルで柏田と共闘してくれたら胸熱なんだがなあ

 

 

 

 

 

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