たとえ世界が地獄だとしても 作:Alter
西暦――。
世界は人智を超えた存在《ノイズ》の脅威に晒されていた。現在ノイズに唯一対抗出来る手段は日本の考古学者である櫻井了子が開発した、歌によってのみ起動する対ノイズ兵装《シンフォギア》。
「唯一……か。嫌な言葉だな」
そう……今の人類に残された唯一の切り札。だが。【唯一】という単語に甘んじる程科学者という人間は甘くない。すぐに第2第3の兵器を作ることは想像に難くない。そしてこの研究所でもまた人体実験が行われていた。
「適合率、依然として低迷。」
「装者候補の確保も困難ですね。」
「このままでは戦力不足は避けられません。」
薄暗い会議室に、重苦しい空気が流れる。
一人の研究員が資料を机へ置いた。
「歌に依存する限り、人類はシンフォギア装者の数だけしか戦力を得られません。」
「ならば歌わずともノイズを討てる兵装を造るべきです。」
その一言で、室内は静まり返った。
「確かに……理論上は可能だ。」
「しかしフォニックゲインをどう扱う?ノイズに対抗出来る唯一の要素がフォニックゲインという所までは判明しているがただ搭載された兵器ではノイズを撃破出来ないのは確認済だ」
「装者自身が歌えなければ起動できない。」
「だからこそ我々は研究するべきだ!」
「歌に依存しない兵器を!日本のシンフォギアに匹敵する兵装を!そして我々がその第一人者としての地位を取り戻すのだ!」
研究者達の手に持ついくつかの資料の表紙には、新たな計画名が刻まれていた。その中で一際異彩を放つプロジェクトが存在した。名を……
**Project Blade Gear**
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同時刻 F.I.S研究施設・居住区の無機質な部屋の中で、子どもたちが肩を寄せ合っていた。その年代に幅はあるがこの区画には10代の少年少女が集められていた。世界から集められたレセプターチルドレンと言われる子供達。
「未来の装者候補……ね。本当の所はただのモルモットか別の目的で集められているとしか思えない。でもどんな目的で?何の為に集められた?」
僕は静かに窓の外を見つめて現状を嘆きながら拳を握る。そして今日も研究所に悲鳴が響いていた。
「成功するはずの無い実験が……始まった。こんな地獄いや、地獄と形容するのも烏滸がましい環境か」
だからこそ、僕は拳を握った。
「誰1人死なせない。なのに僕には力が無い。僕にもシンフォギアみたいな力があれば彼女達の負担を分散出来て……いや、無いものねだりをしても仕方無い。せめて彼女達を……僕の家族を守れる力が欲しい」
その決意だけは、この地獄へ来た日から1度も揺らいでいない。
「お兄ちゃん!」
振り返ると、この研究所でも比較的幼い年齢な切歌が笑顔で手を振っていた。
「やぁ切歌ちゃん……今日も明るくて嬉しいよ。君の笑顔は間違いなく僕達の希望の1つだからね」
僕は切歌ちゃんの頭を撫でながら彼女を労う。
「えへへぇ〜……お兄ちゃんに褒められちゃったのデス!」
【暁切 歌】……このレセプターチルドレンで僕と同じ年長者な【彼女達】を除いて唯一のムードメーカー。切歌ちゃんの明るさが無ければ僕達の雰囲気はもっと暗かったのは想像に難くない。そしてシンフォギアの1振りであるイガリマに適合したシンフォギア装者だ。
「ところで切歌ちゃん……調ちゃんは?」
「あっちデス!」
切歌ちゃんの視線の先では調ちゃんが支給された本を読んでいる。
「調子はどうだい調ちゃん?」
「………お兄さんですか?私は最近求める数値に近い結果を出せたらしくしばらくは自由を貰えました。お兄さんやマリア達の為に私も頑張るから……」
「それは凄く嬉しいことかもしれない。でも僕は調ちゃん達よりも年上だ。調ちゃんも切歌ちゃんみたいに甘えてくれても良いんだからね?」
「ん……わかった」
【月読 調】……切歌ちゃんとは対照的に大人しく控えめな女の子。だけど人一倍優しく僕や【彼女達】に甘えたいのに他の子供達にその権利を譲って1人で過ごそうとしている。その結果調ちゃんは切歌ちゃんと共に過ごすことが多く、シャルシュガナの聖遺物に適合したシンフォギア装者だ。これは後から識ることだがイガリマとシャルシュガナは【2つで1つ】のシンフォギア。彼女達の絆を守りたい……そう思える。
「調ちゃんもコレ……大好きだもんね?」
切歌ちゃんと同じく頭を撫でてあげると僕を抱きしめる力が少し強まる気がした。
「調ちゃんと切歌ちゃんがここにいるなら彼女達は……あそこか」
「あっ……お兄さんも行かないといけないよね……」
服の袖を名残惜しそうに掴む調ちゃんだったが次を察して離れてしまう。
「ごめん……っと今日も人気だねセレナ」
「あっ……お兄さん……もぅ……調ちゃんを放っておくなんて悪い人ですね」
【セレナ・カデンツァヴナ・イヴ】……数少ないこの研究所の年長者の1人。彼女の優しさ無くしてこの地獄を耐えられ無かった。誰よりも優しくあろうとするその姿は年少組の確かな支えだ。そして彼女はアガートラームのシンフォギアに適合したこの研究所で唯一の【正規適合者】だ。
少しセレナが鼻歌を口ずさみその歌を子供達が楽しみにしている。
「あとの子達は……マリアの所だね。ちょっと様子を見てくるね」
そして子供達が1番集まってマリアが年下の世話をしている。
「1番人気だよねマリア。今日も実験で疲れてるだろうに無理するんじゃ無いよ?」
「無理……ね。貴方に言われると少し複雑ね」
彼女……【マリア・カデンツァヴナ・イヴ】が僕と並ぶこの研究所の最年長。適合した聖遺物ガングニールを扱うシンフォギア装者だ。マリアが僕達で1番の心の支えで1番の人気者。セレナはマリアの妹で研究所では珍しい実の姉妹だ。
まだ幼い子供たちは自分たちに待ち受ける運命を知らない。だから僕は穏やかに笑みを返した。
「みんな揃ったか?」
「うん!」
「今日も勉強?」
「その前にご飯!」
他愛もない会話。それでも僕にとってはそれが何より守りたい日常だった。
「この笑顔を失わせない。そのためなら、俺は何だってする。」
その数日後僕は1つの聖遺物適合実験を受けた。
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そして実験から更に数日後、僕はF.I.S.中央研究棟でナスターシャ教授に呼び出されていた。
机の上には一振りの黒い剣が置かれている。刀身は細く装飾は最低限で完成品とは思えないほど無骨な姿だ。そしてその聖遺物には覚えがあった。
「教授自ら僕を呼び出す……先日の実験はよほどお気に召さない結果でしたか?」
「話の理解が速いのは感心しますが結論は早計ですね。ですがまずは前提から確認しましょう」
教授は僕の目の前に1つの資料を示した。
「これが……」
「そう。」
ナスターシャは静かに頷く。
「Project Blade Gear……歌に頼らず、ノイズを斬るための試作兵装。しかし……」
教授ほ一瞬だけ言葉を詰まらせつつも続けた。
「完成には程遠い欠陥品です。」
「欠陥品?ならば何故僕を呼び出したんですか?貴女は無駄な時間を使いたがる人では無いと思っていましたが……」
僕は剣を見つめる。しかし教授の言葉は僕の想像を超えてきた。
「結論が早計だと言ったはずですよ?」
教授が言葉を続けようとしたその瞬間、研究員が慌ただしく部屋へ飛び込んできた。
「教授!適合試験の準備が整いました!」
「被験者は?」
「もう分かってる筈ですよ?」
研究員は主人公へ視線を向ける。
「レセプターチルドレン識別番号――」
その言葉を合図に僕は2度目の適合実験を行うことになった。そして……
♢♢♢
「やはり……前回の数域と類似を確認!間違いありません!唯一の適合候補です。」
2度目の実験は数値を確認すると驚く程あっさりと終了した。
「ならば……恐らく間違いは無いでしょう。喜びなさい……貴方の願いは叶うと言うことです」
「どういう意味ですか!」
「Project Blade Gear 02 【アロンダイト】貴方が適合した聖遺物にして、求めて止まなかったノイズを討伐可能にする兵装です。」
「02……」
その単語は既に自分と同じ実験を受けた人間がいることの証明であり、僕だけが呼ばれた……それが何を意味するか想像するのは容易だった。
「でもこの力があれば……」
僕はゆっくりとアロンダイトへ手を伸ばした。その選択が、原作とは異なる未来への第一歩になることを、この時の彼はまだ知らなかった。
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