装者を助けたらヤンデレ化してしまった……   作:タク-F

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ネフシュタンクリスちゃん第1戦です!


白の襲撃者

 特異災害対策機動部二課の地下指令室には、不吉な朱色の警報ランプが明滅していた。

 メインモニターを埋め尽くすバイタルデータと、市街地に勢力を広げるノイズの発生波長が映し出されていた。

 

「ノイズ! S2Aエリアに出現! 規模は中隊級、現在も急速に拡大中!」

 

「響君、詩音! 出撃してくれ!」

 

「詩音さん準備はいいですか?」

 

「ああ……遅れるないでね、響ちゃん」

 

 隣に並ぶ立花響の胸元で、ガングニールが光を放つ。僕もまた『アロンダイト』へ自身の意識を没入させた。

 

「響ちゃん、詩音君——両名、出撃しましたッ!」

 

 そして離れた場所に影が1つ揺れ……

 

「そろそろ頃合いね。有意義な結果を期待しているわ」

 

 司令室に残る静寂の裏では彼女の静かな暗躍が始まっていた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 現場は、まさに地獄絵図そのものだった。倒壊したビルの瓦礫が道路を塞ぎ、立ち上る黒煙の向こうではノイズが蠢いている。

 

「させないっ……はああぁぁッ!!」

 

 爆速で加速した響が、迷いなく地面を蹴り飛ばす。彼女の拳が踏み込みとともに空気を爆砕し、直撃したノイズの核を真っ直ぐに穿った。

 一瞬の破壊音の後、ノイズは黒い炭化物へと変わり、風に散っていく。

 

「詩音さん!」

 

「分かっている!」

 

 響の視界の死角、背後から迫る三体のノイズに対し、詩音の足元から蒼い衝撃波が放たれる。

 清烈な聖遺物の波動を纏う『アロンダイト』が一閃。真空を切り裂く一撃が空間を走り、ノイズの巨体を一瞬で両断した。

 

「背中は見ている、響ちゃんは前だけを見ていて!」

 

「へへっ、さすが詩音さんですね! 任せました!」

 

 互いの呼吸と足音が重なり合う。直情的な破壊力で正面を食い破る響ちゃんの拳と、その隙を寸分違わずカバーし、容赦なく群れを切り刻む僕の鋭利な剣技。

 数においては圧倒的優位に立つノイズ群だったが、僕達の絶妙な連携の前には、瞬く間に灰へと変えられていく。

 

「響ちゃん……油断は出来ないけどこのままいけば」

 

「って思ってる奴を動かすのは簡単だよなぁ?」

 

 ——勝てる。戦場を埋め尽くしていた脅威が去りかけ、響ちゃんが安堵の息を漏らそうとした、その時だった。

 

 空間の波長が、唐突に歪み妖しい声が聴こえた。

 

「——くっ……なんだ、この波長は……!?」

 

 僕の肌を、強烈な吐き気を催すような粘着質な気配が刺した。直前までただ無秩序に蠢き、目の前の獲物に群がっていたノイズたちの動きが一斉に停止する。

 それらは統率された兵隊のように整然と陣を再構築し、僕達を円状に取り囲むようにして整列し始めた。

 

「ノイズが……陣形を組んでいる……!?」

 

「…………違うよ響ちゃん。そんな可愛い状態じゃない。コイツら……制御されてる」

 

 ノイズを制御する完全聖遺物……ソロモンの杖とその使用者を僕は識っている。だけど……

 

「……来る!」

 

 異様な静寂が支配する戦場。

 その頭上、燃えるような茜色の空を背景にして、高所の手すりに舞い降りた影があった。

 

 深紅の装甲、禍々しくも洗練された重武装のフォルム。

 その少女の手には、ノイズを無制限に召喚・制御する『ソロモンの杖』が握られている。

 

「へっ……大層な連携ごっこだな、二課の威勢のいいヒヨッコどもが」

 

 冷たい嘲笑とともに吐き捨てられた声。

 ネフシュタンの鎧を纏う少女がノイズを従え、眼下の2人を見下ろす少女の瞳には、一切の躊躇のない冷酷な殺意が宿っていた。

 

「アレは……ノイズ……じゃない?」

 

「うん。あの娘は人間……僕達と同じ聖遺物の力を引き出せる者。しかもバチバチの戦意を持ってる。戦う事は不可避かもしれないね……」

 

 シャリ、と無数の金属擦過音が響く。少女は鞭をしならせ僕達へと振るって来た。

 

「詩音さん……ッ!」

 

「……来るよ響ちゃん!!」

 

 夕闇を切り裂く一閃の火花とともに、新たな旋律と破壊の嵐が二人へ向けて解き放たれようとしていた。

 

NIRVANA GEDON

 

 詩音の声が飛ぶより早く、大気を引き裂く重低音が轟く。ネフシュタンの腕部から解き放たれた蛇腹状の鞭が、生き物のようにシナリを打ち光弾を生成して放って来る。

 

「ハァッ!!」

 

 響が地に拳を叩きつけ、我流の衝撃波で迎撃を試みる。だが、しなやかに空間を躍るネフシュタンの光弾が衝撃波ごと響の身体を撃ち抜いた。

 

「ぐっ……があぁっ!?」

 

「響ちゃんっ!」

 

 僕は腕のアロンダイトを滾らせ、背に負った蒼い粒子を爆発させて踏み込む。清烈な蒼い光芒を描き、アロンダイトの一閃を彼女の胴体へ叩きつけた。

 

「ッチッ……」

 

 しかし——響いたのは、虚しい金属性の打撃音だけだった。刃が触れた端からネフシュタンの装甲が禍々しく蠢き、アロンダイトの剣撃を容易く受け止めてみせる。

 

「なっ……傷が、瞬時に再生している……!?」

 

「生ぬるいなぁ!」

 

 冷酷な一言とともに、ネフシュタンから解き放たれた高圧エネルギーの奔流が僕と響を直撃した。

 装甲が砕け散る不穏な亀裂音。蒼と橙の粒子が砕け散り、僕達は瓦礫の街へと叩きつけられた。

 

「出力差が……ここまで違うのか……」

 

 血の混じった息を吐きながら立ち上がろうとするが身体が重い。膝が激しく震える過負荷を起こしたアロンダイトの光芒が明滅し、響の胸元に宿るガングニールの欠片も狂ったような警告音を響かせていた。

 

「そのまま寝てなぁ!」

 

 ふたりを押し潰さんと、頭上へ持ち上げられる極大の鞭。

 

(くそ……ここまでなのか……!?)

 

 そんな死の牙がふたりの頭上に振り下ろされようとした、まさにその瞬間だった。

 

「蒼の……斬撃!」

 

「これは——『天羽々斬』かッ!」

 

 夜空を切り裂き、一筋の蒼烈な閃光が降り注ぐ。

 けたたましい金属殺陣音とともに、振り下ろされたネフシュタンの鞭が強烈な一撃によって弾き飛ばされた

 

『翼! わかっていると思うがその反応はネフシュタンだ! 頭に血を上らせるなよ!』

 

 巻き上がる爆風と蒼い火花の中、ふたりの前に舞い降りたのは、脚刃を地に突き立てた風鳴翼だった。

 

「心得ています。遅くなったわ……無事よね、2人とも!」

 

「翼さん……!」

 

「翼……!」

 

 流血しながらも顔を上げる響と僕。翼はふたりに視線を送ることなく、鋭い眼光でネフシュタンの装甲を見据えたまま、天羽々斬の大剣を身構えた。

 

「厄介な事態に至っている事は理解したわ。でも……少々無茶が過ぎたようね詩音。ここからは私が引き受けるわ」

 

「落ち着け翼! こいつは今までのノイズと訳が違う……!」

 

 僕の制止を制するように、翼は静かに脚を引く。

 

「防人が剣を抜いた。2度も後輩に背中を預けさせはしないわ!」

 

 剣を抜いた翼がネフシュタンの少女へ駆け出した。彼女の反応は翼の速度と比較すれば遅い。確かに翼なら勝機を見出だせる。後は……

 

「のぼせ上がるなよ人気者! 誰もかれもがテメェを好くと思うなぁ!」

 

 僕が隙を見て大剣化した1撃をクリスちゃんに叩き込めば翼に絶唱させなくても済むかもしれない。

 

「ハアァァァッ!!」

 

 翼が疾走する。音速を超える一閃がネフシュタンの装甲に幾重もの斬痕を刻み込んだ。千ノ落雷のごとき高速連撃。二課のトップ装者としての圧倒的な剣技が、一瞬で戦場を支配したかに見えた。

 

「確かにアンタは速え。だが……無駄だぜ?」

 

 しかし——ネフシュタンの彼女は嘲笑うかのように、自らに刻まれた斬痕を即座に修復させていく。

 

「なっ……なにっ!?」

 

「無駄だと言ったはずだぜ?」

 

 ネフシュタンの装甲から無数の針と蛇腹の鞭が全方位へ放たれた。幾重にも重なる広範囲攻撃。翼は疾風のごとく空中を舞い、攻撃を撃ち払い、刃で受け止めるが、完全聖遺物が誇る無限のスタミナと異常な自己再生能力の前には、徐々に防戦一方へと追い込まれていく。

 

「蛇腹鞭はともかく針攻撃……ネフシュタンの攻撃が原作と違う……?」

 

 これがクリスちゃんの才能なのか……僕が装者達の運命に介入したせいか……そんな考えをしている間に戦況は動いていた。

 

「くっ……!?」

 

 ネフシュタンの鞭を防ぎきれなかった一撃が翼の胸甲を捉え、彼女の身体が激しく瓦礫へと叩きつけられた。

 

「翼さん!」

 

 響が叫び、僕もまたアロンダイトを杖代わりに立ち上がろうとするが、傷ついた肉体と過負荷に思うように動かない。

 

「あの傷……不味い!」

 

 翼の装甲からも蒼い粒子が零れ落ち、血が頬を伝う。

 

「どうした人気者! 威勢の割にもう終わりかぁ?」

 

 ネフシュタンの装甲が禍々しく膨れ上がり、街一帯を呑み込むほどの極大エネルギー球を充填し始めた。

 この攻撃を受ければ、動けない響と詩音はもちろん、周囲の避難区域まで一瞬で灰燼と化す。

 

「…………原作を本当になぞっても良いのか?」

 

 トップ装者である翼の介入をもってしても、致命的な戦況は何一つ覆らなかった。そんな時に原作をなぞって良いのか別の不安も頭を過る。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 盤面はクリスちゃんが押し続けている。僕達3人は徐々に追い詰められて満身創痍になるのは時間の問題だ。

 

(この攻撃を受ければ……二人どころか、この一帯が消滅する……!)

 

 翼は血を拭い、静かに立ち上がった。だけどその瞳には、恐怖も迷いもない。ただ、防人として大切なものを護るための、静謐で苛烈な覚悟だけが宿っていた。

 

「2人とも……退いて。これは命令よ」

 

「え……? 翼さん、何を……」

 

 響が目を見開く。僕は、翼が背中に纏うエネルギーの()()に気づき、息を呑んだ。

 

「待て……! 待ってくれ、翼! まさか……それを使う気か!?」

 

「防人の命は、護るべきもののために投じるもの。……我が身を剣となし、この邪悪を討つわ!」

 

 僕の制止の声すら届かない。翼は静かに瞳を閉じ、胸の『天羽々斬』に宿るすべての命とエネルギーを極限まで燃え立たせる。

 口唇から零れ出すのは、奏者の命を削り取る死の旋律——『絶唱』。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal〜」

 

「翼! 早まるな!」

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

「コイツまさか絶唱を!? おいおいマジかよ……ッ!」

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

 翼の絶唱体勢に気付いたクリスちゃんは退避を試みて失敗していた。その影には短刀が刺さっている。

 

「Emustolronzen fine el zizzl」

 

「クソっ! それならぁ!」

 

 ドクンッ! と、大気が激しく震えた。

 翼の身体から解き放たれたのは、これまでの戦闘とは次元の異なる、眩いばかりの純白と蒼の絶対光芒。

 

「翼さん! やめてぇぇッ!!」

 

「翼ぁぁぁッ!!」

 

 響と僕の悲痛な叫びを背に受けながら、風鳴翼は全霊の歌声を高らかに響かせる。

 生命を燃やす蒼い暴風が渦を巻く。クリスちゃんも対抗してネフシュタンで極大の光弾を生成するもあっさりと押し返し始めた。命を賭した一閃が、夜の戦場を蒼白の光で染め上げていく——。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「ぐっ……があぁぁぁぁぁっ!?」

 

 直撃を受けたクリスちゃんの悲鳴が響き渡る。

 ネフシュタンの強固な装甲を容易く突き破り、絶唱の超高密度フォニックゲインがダイレクトにクリスちゃんの肉体を苛む。内臓を焼き裂かれるような激痛と圧倒的な衝撃波に、ネフシュタンの装甲自体が激しいスパークを散らし、悲鳴を上げた。

 

「ガハッ……! くそっ……こんな、威力が……ッ!」

 

 血を吐き出しながら、膝をつくクリス 。ネフシュタンの再生能力すら追いつかないほどの深手。全身の骨が軋み、視界が急速に赤く染まっていく 。これ以上の戦闘継続は不可能——生き残るための本能が撤退を告げていた。

 

「覚えてやがれ……ッ!」

 

 クリスは吐血しながらも、ネフシュタンの影へと逃げ込むようにして、命からがら後方へと撤退を開始した 。

 

「翼……どうしてここまで……」

 

 光が去り、暴風が収まった戦場には、恐ろしいほどの静寂が訪れていた。

 

 敵は去り、戦闘は終了した。だが、そこに残された爪痕はあまりにも凄惨だった。

 周囲の建造物は粉砕され、地面は巨大なクレーターとなって赤く焦げ付いている。大気にはいまだに過剰なフォニックゲインの残光が静電気のように弾けていた。

 

「翼ぁ!」

 

 司令の声が聞こえる。恐らく戦闘開始時には既にこちらに向かっていたのだろう。そして、その破壊の中心地。

 

「……ッ……カハッ……!」

 

 風鳴翼が、一人立ち尽くしていた 。だが、その身を包んでいた天羽々斬の装甲はひび割れ、ガラスのように儚く砕け散っていく。次の瞬間、翼の口から、皮膚から、過剰負荷に耐えかねた鮮血が噴き出した。

 

「医療班急げ! 絶唱のフィードバッグだ!」

 

 絶唱の代償。命を燃やし尽くした反動が、容赦なく防人の肉体を壊していく。

 激しい吐血と共に膝から崩れ落ちる翼。天羽々斬の大剣だけが、彼女の身体を支えるように地面に突き刺さったまま立っていた。

 

「……これで……邪魔者は消えたわ……」

 

 深手を負いながらも後退していくクリスちゃんの気配を感じ取りながらも、翼は深く深く息を吐き出した 。後方から響たちが涙を浮かべて駆け寄ってくる足音を聞きながら、翼の視界は急速に暗転していく。

 

 後輩たちを守り抜いた防人としての誇りと、壊滅的な爪痕だけを戦場に残し、蒼い防人は静かに倒れ伏したのだった。

 

 

 

 

 




実はこのネフシュタンクリスちゃんは原作よりも強いです。多分正攻法では勝てなかったかと……

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