装者を助けたらヤンデレ化してしまった……   作:タク-F

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ステージとその裏の攻防は激化して……


歪んだ聖域の破綻

 ドームの中央、煙を上げる主中継装置の残骸を背にした詩音の前で、マリア・カデンツァヴナ・イヴが悲しげにけれど皮肉めいた笑みを浮かべて肩を揺らした。

 

「……くす、ふふふ……っ」

 

「何がおかしい、マリア?」

 

 破れた衣服から覗く肌には擦り傷一つ無い詩音の冷ややかな問い。マリアは『黒いガングニール』の槍を静かに引き下ろすと、愛おしむような、そして絶望を突きつけるような眼光で詩音を見つめ返した。

 

「哀しいわ、詩音……。神のような力を手にしても優しい貴方は『私たちを守る』ということだけに縛られて周りが見えなくなっているのね……」

 

「何が……言いたい……?」

 

「あなたが今壊したその中継機器……。本当に私たちがそれを使って世界へ配信していたと思うの?」

 

「どういう……意味だ……?」

 

 マリアの言葉に、詩音の思考が凍りついた。自身の原作知識から当時の狙いを読んで動けたと思っていた。にも関わらずその対応をしたのに全く動じない。それどころか自分の行動全てがマリアの手の中とさえ感じている。

 

「中継配信なんて……最初から一秒たりとも行われていないわ」

「……は?」

 

「カメラの赤いランプも、送信シグナルの明滅も……すべて私たちがシステムをハッキングして仕掛けた、ただの点灯演出よ。外部への映像送信なんて、最初から一バイトも存在しなかったのよ」

 

 マリアはせせら笑うように、ドームの天井を仰ぎ見た。

 

「目的は決まっているわ……世(・)界(・)中(・)に(・)正(・)体(・)が(・)バ(・)レ(・)る(・)という恐怖の虚構をあなたたちに植え付けること。そうすれば、風鳴翼は世間の目を恐れてギアを纏えなくなる。他の装者は護送作戦で離れ離れ……分断されたあなた1人だけがこのドームに縫い止められる……。ドームの機材なんて、最初からあなたを踊らせるためのただの囮(ブラフ)だったのよ?」

 

「……っ!?」

 

 詩音の無機質だった瞳に、激しい戦慄が走った。敵の手の上で弄ばれていた完全な罠だったのだと突きつけられる。

 

「しまっ——っ!」

 

 詩音は即座に踵を返し、翼と奏が逃げた関係者通路へ向かって地を蹴ろうとした。しかし、その目前にマリアの黒い槍が突き刺さり、爆風と共にその進路を強引に遮断した。

 

「行かせないわ詩音……あなたはここで……私と踊りましょう?」

 

「退け、マリアッ!!」

 

 ——激しい焦燥が暴発し冷や汗が伝い落ちる。

 

「やってくれたな……マリア!」

 

 生身で戦うことを強いられた翼や奏が、外で牙を剥くF.I.Sの罠に晒されている——。痛みを失ったはずの男の胸を、酷虐な焦燥感が激しく締め上げていった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「ハッ……ハッ……っ!」

 

 地下の避難通路で、生身のまま仕込み刀を構えていた風鳴翼は追い詰められていた。その眼前に立ちはだかるのは、シンフォギアを纏った月読調と暁切歌の二人だった。

 

「がっ……」

 

『イガリマ』の大鎌と『シュルシャガナ』の大鋸が容赦なく襲いかかり、生身の翼の衣装を切り裂き、コンクリートの壁を破壊していく。

 

「チョロいデスね。お兄ちゃんに纏わりつく害虫の癖に手応えもなさすぎデス」

 

「仕方無いよ切ちゃん……コイツらはシンフォギアを纏って無いとお兄ちゃんに守って貰うしかないか弱い女の子なんだよ?」

 

「言わせておけば……」

 

 歯を食いしばり悔しさを噛みしめるしかない現状に打ちのめされる翼は意思に反して膝をついてしまう。

 

(くっ……中継が生きている以上ギアは纏ない……! 生身でこの2人を食い止め、奏を逃がすしか……っ!)

 

 翼が歯を食いしばり、防人の技だけで死線を潜り抜けようとした、その時だった。

 

『——翼! 翼、聞こえるかッ!?』

 

 耳元の通信インカムから、二課司令・風鳴弦十郎の雷鳴のような怒号が響き渡った。

 

『騙されるな! 調べた結果中継配信など最初から行われていなかった! 敵の映像送信はすべて虚構……完全なブラフだッ!!』

 

「な……何と……!?」

 

『ドーム外部の回線も、衛星回線も一切使用されていない! 世間の目などハナから存在しないんだ! 翼……シンフォギアの装着を許可する! 敵を殲滅しろッ!!』

 

 弦十郎の言葉が、翼の脳内で弾けた。自分たちは「正体の露見」という偽(・)り(・)の(・)鎖(・)に縛られ、生身で逃げ惑い詩音に庇われ、奏を一人で走らせていたのだ。すべてはF.I.Sが仕掛けた策略によって受けた攻撃に翼は立ち上がった。

 

「おのれ……F.I.Sッ!! 我らを……詩音を謀ったかぁぁぁぁッ!!」

 

 翼の瞳に、激怒と覚悟の炎が燃え上がった。懐から取り出したペンダントを掲げ、魂の底から絶唱のフレーズを解き放つ! 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron〜」

 

 通路全体を揺るがす青き聖なる光臨。まばゆい閃光と共に、風鳴翼の全身に聖遺物『天羽々斬』のシンフォギアが装着された。

 

「なっ……ギアを纏ったデスか!?」

 

「中継のブラフを見破られた……っ?」

 

 驚愕する切歌と調に対し、解禁された防人の剣技が爆発した。

 

「我が道を阻む不遜の刃……薙ぎ払うわ!

 

蒼ノ一閃

 

 青い大剣の一振りが空間そのものを引き裂く。凄まじい衝撃波が狭い通路を駆け抜け、切歌の大鋏と調の大鋸の連撃を力任せに粉砕し、二人を後方へと吹き飛ばした。

 

「ぐっ……!?」

 

「調……ッ!」

 

「邪魔よ!」

 

 翼は倒れ込む2人を一瞥もせず、圧倒的な推進力で床を蹴り、奏が向かった地下駐車場へと疾風の如く爆走を開始した。

 

(奏……っ! 詩音……っ! 今行くわ……絶対に誰も奪わせはしないッ!!)

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 同じ頃、地下駐車場の暗がりパニックを起こした観客たちが避難経路へと殺到する中、天羽奏は押し寄せ群衆の誘導に奔走していた。その雑踏の中には小日向未来の姿もあった。

 

「落ち着いて! 順番に非常口へ進んでくださいっ!」

 

 奏が声を張り上げていた、その時だった。

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

 静寂を突いて響いたのは、清廉で美しく、けれど冷徹な聖遺物の音色。

 

「……え……?」

 

 奏が振り返った瞬間、地下駐車場の天井を突き破り、白銀の光臨が降り立った。『アガートラーム』のシンフォギアを全身に纏った少女——セレナ・カデンツァヴナ・イヴがその場に立っていた。

 

「標的を確認……行動に移します」

 

 Dr.ウェルがソロモンの杖と共に岩国へ2人の装者を、マリアがドームで詩音を引きつけ、調と切歌が分断された翼を足止めしたこのタイミング。F.I.Sは次の1手を打ってくる。

 

「ごめんなさい、天羽奏さん」

 

 セレナの澄んだ瞳には、深い哀しみと揺るぎない決意が宿っていた。

 

「あなたたちが詩音お兄ちゃんを愛しているのは分かります。だってそれは私達も同じだから……でもあなたたちの存在があの人の戦う動機になってしまう。もうこれ以上お兄ちゃんをあなたたちの盾にはさせない為にも……ごめんなさい」

 

「何を……言ってる?」

 

 生身の奏が身構える。だがギアを持たぬ奏にセレナの速度とシンフォギアの力へ抗う術はなかった。

 

「解き放たれなさい……『アガートラーム』っ!!」

 

 セレナの振るう結晶鎖が、疾風のごとき速度で空間を駆け抜けた。

 

「はやっ——!?」

 

 抵抗の間すら与えられなかった。白銀の鎖は奏の四肢を瞬時に縛り上げ、その身体を宙へと引き揚げた。

 

「くっ……あぁぁぁぁぁっ!!」

 

「奏えぇ!!」

 

 その瞬間、通路の扉を破って飛び込んできたのは、ギアを解禁した風鳴翼だった。青い大剣を構え音速の如き踏み込みでセレナへと肉薄する。

 

「風鳴翼さん……2人を凌いでここに辿り着いたみたいですが手遅れです!」

 

 セレナは囚われた奏を白銀の光で包み込むとそのまままばゆい光の中に跳び込み、翼の剣先が届くより早く姿を消した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ドームのステージ上でマリアと対峙する詩音の目の前に、空間の歪みから白銀の光と共にセレナが降り立ち、その足元に束縛された天羽奏が叩きつけられた。

 

「何だ……!?」

 

「くっ……あ……っ、詩音……っ!」

 

 白銀の鎖に全身を縛られ、苦悶の声を漏らす奏。

 

「……奏だと!? どうしてだ……確実に避難させた筈じゃないか! しかも翼も避難してた。中継がブラフだったなら合流出来た筈なのに……どうして!?」

 

 詩音の顔がついに強張る。激しい焦燥と信じがたい打撃によって歪む。

 

「これが答えよ詩音」

 

 マリアは愛おしそうに、そして可哀想なものを見る目で、凍りついた詩音を見上げ、黒い槍を引き上げた。

 

「あなたが1人で傷つかない不壊の存在になっても……中継という嘘に騙されてこのドームの中に縫い付けられてしまえば、大切な人一人救えない。……あなたが彼女達を庇う意味はなかったのよ」

 

「奏を……離せッ!!」

 

 詩音が激昂の声を上げた。かつてアメリカのF.I.Sで血を吐きながら少女たちを守っていた頃の生々しく泥臭い人間性が、皮肉にも「守るべきものを眼前で脅かされる絶望」によって詩音の胸に蘇っていた。

 

「ダメよ……あなたを繋ぎ止めるこの絆を断ち切らなければ、あなたはいずれあの二課の少女たちの『傷つかない防波堤』として死んでいく……! だから、奏さんは私たちが連れて来たの!」

 

 マリアの手元で、Dr.ウェルが起動した『ソロモンの杖』の空間歪曲信号が展開される。ドームの空間が大きく歪みマリア達の退路が開き始めた。中継というブラフに完璧に踊らされ、自分の目の前で奏を囚われ、何も防げなかった焦燥。

 

「さて……仕上げを……っ!」

 

 完璧だったはずの不壊の神威に、決定的な破綻と亀裂が刻まれた、その時だった。

 

 

「土砂降りの……10億連発だぁ!」

 

BILLION MAIDEN! 

 

 ドームの天井を突き破り、豪快な爆炎と共に二つの人影がステージ上へと殴り込んできた! 

 

「勝手に……1人で諦めてんじゃねぇぞ、自爆野郎ぉぉぉぉぉッ!!」

 

「詩音さん……っ! 追いつきましたっ!!」

 

 立ち込める煙を切り裂いて現れたのは、ガングニールを纏う立花響と、イチイバルを纏う雪音クリスの2人だった。

 

「響ちゃん……! クリスちゃん……!? なぜここに……っ!?」

 

 詩音が息を呑む。岩国の基地で『ソロモンの杖』の護送をしてたの2人が詩音たちの危機を察知して現場へ強行突入してきたのだ。

 

「詩音さんがピンチだからです!」

 

 血を吐くような訓練で傷ついた手首を固く握りしめた響が、そして詩音のジャケットの袖を握りしめていたクリスが、破綻しかけた詩音の前に立ち塞がる。

 

「あたしたちを安全な場所に遠ざけて……自分はこんな冷たい不壊の神様みてぇになって……! それで守った気になってんじゃねぇよッ!!」

 

 クリスが叫び、イチイバルの大型ガトリングをマリアとセレナへ向けて構える。

 

「詩音さん……私、言いました! 私も、絶対に詩音さんの隣に立つって……! 1人でどこにも行かせないってっ!!」

 

 響の瞳に朱色の狂熱が宿り、朱色の血が滲む拳を固く握りしめた。後ろからは、追いついた風鳴翼が天羽々斬を閃かせてステージ上へとなだれ込んでくる。

 

「やはり揃ってしまうのね……」

 

 奏を捕らえたマリアとセレナたちF.I.S。完璧な不壊が崩れ去った男を中心に少女たちの狂愛と絆が交錯する。

 

 




装者集結!え……切歌と調があっさり負けてる?本作の翼さんは既に深淵に魅入られてるから……

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