G編……原作要素どのくらい残ってるかな……
「——私を庇って傷つくなッ!!」
胸の奥から湧き上がる怒りと悲痛の咆哮が、街の静寂を吹き飛ばした。
「ひび……き……?」
立花響の身体を包み込んだ黄金の光——聖遺物『ガングニール』の鎧が、彼女の華奢な全身を覆っていく。
激動する歌声とともに解き放たれたエネルギーは、親友を脅かし、そして目の前で自分を庇って血を吐いた青年へと迫るノイズ群を、一瞬にして光のチリへと穿ち払った。
ドォンッ……!
「…………嘘だろ……? 暴走……してるのか……?」
圧倒的な破壊。だが、ノイズが消え去り、周囲に静けさが戻った瞬間、響の視線は敵の残骸など1ミリも見ていなかった。そして彼女の瞳は僕を映している。いや……
「やっと会えたんだ! やっとお礼が言えるんだ! 邪魔を……するなぁ!」
彼女はガングニールの装甲を軋ませて駆け出していた。
向かう先はただ1人——崩れ落ちそうになりながら、両腕の黒鉄アーム『アロンダイト』を地面に突き立てて身体を支えている、黒タートルネックの青年——詩音のもとへ。
──-
「お兄さん……ッ! 大丈夫ですか、お兄さんっ!?」
響は僕の肩を力任せに抱き寄せた。手に触れる体温が高く熱い。けれど、その胸元を覆う黒いタートルネックは、内側から溢れ出た大量の赤黒い血でずっしりと重く湿っていた。口元からも、顎を伝って温かい血液がボタボタと地面にこぼれ落ちている。
「あ……っ、血が……血が止まらない……! 誰か……誰か助けて……っ!!」
「響! 落ちついてよ響!」
パニックを起こし、涙で視界をグチャグチャにしながら叫ぶ響。恐ろしいことに今の響には親友の声さえも届いていない。何があった……? 僕は何かを見落としているのか……? そんな彼女の震える頬に、血に汚れた僕の手がそっと触れた。
「……はぁ、……ふぅ……。大丈夫だよ……。こんなの僕にとってはいつものこと。じきに血も止まるし頼れるドクターもいるから心配しないで」
呼吸を荒げ、視界も焦点が結んでいないはずなのに。
「ッ!」
「何を……言っているんですか……?」
響の視界での青年は、自分の命が削れていることなど欠片も気にしていないかのような、どこまでも穏やかで、優しく、そして狂気的なまでに歪んだ笑顔を浮かべた。だが
「よかった……。君が……怪我をしなくて……本当に、よかった……」
「……っ!?」
響の息が止まった。
「響……この人おかしい! あの日から変わった響よりもおかしいよ! 壊れてるよこの人!」
(なぜ? どうして?)
響の頭の中で疑問と恐怖が駆け巡る。
(一度も会ったことがない、名前すら知らない私のために)
親友の小日向未来もこの場の出来事を理解出来ずに混乱している。
(自分は全身の骨が砕けるような傷を負い、血を吐き、今にも死にそうな顔をしているのに)
「さて……君のおかげで予定よりも早く凌げた…………」
(どうしてこの人は、そんな「自分が役に立てて嬉しい」と言わんばかりの顔で笑えるの——!?)
「笑わないでくださいよ……っ!!」
響の胸の奥で、猛烈な感情が渦を巻いた。その感情は恐怖でもない。ノイズへの憎しみでもない。目の前で自分をゴミのように捨て駒にし、笑顔で壊れていこうとするこの青年に対する、狂おしいほどの怒りと、激しい救済の感情。
「笑わないで……! 自分の体ですよ!? なんでそんな……私なんかのために血吐いて笑ってんですかッ!!」
響が僕の胸ぐらを掴み問いかける。
「………………ごめん」
だが僕はその答えとすべき言葉を紡げないまま時間が過ぎていった。
◆◆◆
キィィィィッ!!
響の問いかけからどれほどか時間が過ぎた後に聞き慣れた音が聴こえた。
『詩音! 無茶はしてないでしょうね! さっきから動いて無いわ! まさか貴方……戦闘なんてしてないでしょうね!』
通信機から声が聞こえて程なくして激しいブレーキ音が響いた。そして1台の蒼のバイクが現場へ滑り込んできた。バイクから飛び降りてきたのは、青い髪をなびかせ、天羽々斬のシンフォギアを纏う少女——私立リディアン音楽院の高等部生徒であり、二課の装者である風鳴翼だった。
「そこまでだノイズ! ……なっ!?」
戦場に足を踏み入れた翼の目が、驚愕に見開かれる。
ノイズは全滅していた。そしてその中央で、覚醒したばかりのガングニールの装者と——血まみれになって膝をつく、見知った二課の青年がいた。
「し、詩音……ッ!? なぜ貴方その傷は……ッ!!」
『翼ちゃん! 詩音のバイタルが極限まで低下しているわ! すぐに回収して!!』
翼の通信機から、主治医である櫻井了子の悲鳴のような怒号が響き渡る。僕が応答しない為に翼に回収させようということだろう。
『あいつ、また点滴を引き抜いて脱走したのよ! アロンダイトのバリアもない生身で衝撃を受けたらどうなるか……ッ! 早く、早く処置しないと本当に死ぬわ!!』
「櫻井女史!? どういうことですか!? まさか詩音は治療の完了前にこの場に出てきたと言うつもりですか!?」
翼は刀を収め、焦燥感を剥き出しにして3人へ駆け寄ろうとした。
「詩音! すぐに応急手当を——」
「——来ないでくださいッ!!」
バリバリッッ!!
咆哮とともに、響の身体から激しい黄金の衝撃波が弾け飛んだ。その行動に驚いた翼が思わず腕で顔を覆い足を止める。
「響が翼を拒絶してる……? 響に何が起こってる……?」
混乱する事態に僕自身もまた混乱している。もう1度振り返るがそもそも響のガングニールが覚醒する経緯すら
響は、血を吐いて意識を失いかけた僕の身体を、まるで宝物か何かのように固く、固く抱きしめていた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、二課の防人である翼を睨みつける響の瞳には、かつてないほどの激しい拒絶と決意が宿っていた。
「来ないでください……! 貴女達はいったい何なんですか! 傷ついたこの人をどうするつもりなんですか!」
「ち、違う! 私は……私達は彼はもちろん貴女にだって危害を加えるつもりは——」
「うるさいッ!!」
(ヤバい……強がってはみたけど……意識が……落ちそう……)
「っ! 詩音!」
響は耳を塞ぐように叫んだ時……意識を失って自分の腕の中に倒れ込んできた僕の顔を、愛おしそうに、けれど絶対に逃がさないと言わんばかりの力で抱きすくめた。
「もう……誰にも渡さない……! この人は……私が守る!!」
「響……? 何を言ってるの……? おかしいよ響……?」
「二度と……二度とこの人に、自分の体を粗末にさせたりしないんだから……ッ!!」
知識に無い展開に困惑する僕、訳の分からないままに自分に宿る力と感情に飲まれる響、親友の豹変に混乱する未来、そして僕が身体に重度の負荷がある状態で響の元に駆けつけて無茶をしていたことを知った翼はそれぞれが互いへの不安と怒りが渦巻いていた。
◆◆◆
腕の中で、小さく息を吐く詩音。
首元の黒タートルネックに広がった血の温もりを感じながら、響は自分の胸の奥で固く、固く誓っていた。
(名前も知らない、バカで、優しくて、壊れかけたお兄さん。自分が傷つくことで誰かを救おうとする、世界で一番可哀想な人。だけど何故かあの日の記憶にある私を助けてくれた人を想起する。この人を守れと胸の内側から意思を感じる)
「絶対に……」
(私が……この人を守らないと)
響はボロボロと涙を流しながら、詩音の冷たくなりかけた頬に自分の頬を寄せた。
(強くなって……ノイズも全部倒して……この人さんを、二度とこんな目に遭わせない)
「じゃないと……」
(誰のために血を吐くことも許さない……。私が……私が絶対に、主人公さんを救ってみせるから……ッ!)
遠くから近づいてくる二課の救急車両のサイレン。
その赤色灯の光の中で、覚醒したばかりの少女・立花響の「ヒーローとしての第一歩」は、目の前の青年を二度と血を吐かせないための、過保護で激重な誓いとともに踏み出されたのだった。その想いが何処からもたらされたモノなのかは今は誰にも分からない話だ。
響の様子がおかしい理由は二課の本部に連行された後で判明しますので次回の更新をお待ちください。
よろしければ感想・評価・お気に入り登録お願いします!