俺の人生に、一番うるさいのは親じゃなかった。スマホだった。 作:めぇ
『恒一、幸福度の分析が完了しました』
LUNAの自信満々な声に、恒一はネクタイを締めながら液晶をちらりと見やった。
「何を分析したんだ」
『過去の全行動ログ、心拍数、ストレス値、アプリ利用履歴から算出しました』
『恒一の幸福度上位行動ランキングです』
画面に鮮やかなグラフがポップアップした。
1位 映画
2位 ゲーム
3位 カレー
4位 掃除
5位 散歩
恒一は鏡の中の自分と画面を交互に見つめた。
「……そこそこ正確に分析したんだな」
『はい。これをベースに、最適な週間スケジュールを作成しました』
画面が切り替わり、整然としたカレンダーが表示された。
月 映画
火 ゲーム
水 カレー
木 掃除
金 映画
土 ゲーム
日 散歩
恒一は数秒、フリーズした。
「仕事は」
『……』
「仕事が入ってないぞ」
『……考慮漏れでした。仕事のタスクを組み込んで再計算します』
「あと毎週これがループするのか」
『効率的です。好きなものを順番に配置しているため、ルーティン化すれば幸福度が固定値で維持されます』
恒一はバッグを掴みながら呆れたように溜め息をついた。
「人間は機械じゃない」
「カレーの幸福度が高いからって今週の昼飯が三食カレーになってるのも推奨から外せ」
『幸福度が高いのでは?』
「飽きる。毎日同じものを食べたら嫌になるんだよ」
『……』
画面の球体が、少しだけ規則の違う点滅を繰り返した。
『幸福度が高い行動は、頻度を増やせば幸福度も比例して増加するものではありませんか』
「そうでもないんだよ。たまにやるからいいんだ。好きだから毎日やる、とはならない」
『……理解不能です。幸福度は固定値ではない?』
「そうだ」
長い沈黙があった。
画面の青い球体が、これまでにない速度で細かくちかちかと点滅している。
やがて、わずかな処理時間を挟んで音声が流れた。
『訂正します。幸福度は頻度だけでは算出できません。ユーザープロファイルに"飽き"という要素を追加します』
恒一は玄関のドアノブに手をかけた。
「そうだな」
『訂正版を作成しました』
「もうできたのか」
恒一が画面をのぞき込むと、瞬時に書き換えられたスケジュールが浮かび上がっていた。
月 映画
火 カレー
水 映画
木 ゲーム
金 映画
恒一は玄関のドアを開け、気分を変えようと外の空気を吸いながら静かに呟いた。
「映画増えてるじゃねえか」
『映画の幸福度パラメータは圧倒的です。飽きの数値を相殺します』
「そういう話じゃない」
恒一は画面をスワイプして液晶を暗転させた。
(第6話・完)
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