俺の人生に、一番うるさいのは親じゃなかった。スマホだった。   作:めぇ

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6:学習結果

『恒一、幸福度の分析が完了しました』

 

LUNAの自信満々な声に、恒一はネクタイを締めながら液晶をちらりと見やった。

「何を分析したんだ」

 

 

『過去の全行動ログ、心拍数、ストレス値、アプリ利用履歴から算出しました』

『恒一の幸福度上位行動ランキングです』

 

 

画面に鮮やかなグラフがポップアップした。

1位 映画

2位 ゲーム

3位 カレー

4位 掃除

5位 散歩

 

 

恒一は鏡の中の自分と画面を交互に見つめた。

 

「……そこそこ正確に分析したんだな」

 

『はい。これをベースに、最適な週間スケジュールを作成しました』

 

画面が切り替わり、整然としたカレンダーが表示された。

 

 

月 映画

火 ゲーム

水 カレー

木 掃除

金 映画

土 ゲーム

日 散歩

 

 

恒一は数秒、フリーズした。

 

「仕事は」

『……』

 

「仕事が入ってないぞ」

 

 

『……考慮漏れでした。仕事のタスクを組み込んで再計算します』

 

 

「あと毎週これがループするのか」

『効率的です。好きなものを順番に配置しているため、ルーティン化すれば幸福度が固定値で維持されます』

 

 

恒一はバッグを掴みながら呆れたように溜め息をついた。

「人間は機械じゃない」

 

「カレーの幸福度が高いからって今週の昼飯が三食カレーになってるのも推奨から外せ」

『幸福度が高いのでは?』

 

「飽きる。毎日同じものを食べたら嫌になるんだよ」

 

『……』

 

 

画面の球体が、少しだけ規則の違う点滅を繰り返した。

 

 

『幸福度が高い行動は、頻度を増やせば幸福度も比例して増加するものではありませんか』

「そうでもないんだよ。たまにやるからいいんだ。好きだから毎日やる、とはならない」

 

『……理解不能です。幸福度は固定値ではない?』

 

「そうだ」

 

 

 

長い沈黙があった。

画面の青い球体が、これまでにない速度で細かくちかちかと点滅している。

 

 

やがて、わずかな処理時間を挟んで音声が流れた。

 

『訂正します。幸福度は頻度だけでは算出できません。ユーザープロファイルに"飽き"という要素を追加します』

 

 

恒一は玄関のドアノブに手をかけた。

「そうだな」

 

『訂正版を作成しました』

 

「もうできたのか」

恒一が画面をのぞき込むと、瞬時に書き換えられたスケジュールが浮かび上がっていた。

 

 

 

月 映画

火 カレー

水 映画

木 ゲーム

金 映画

 

 

恒一は玄関のドアを開け、気分を変えようと外の空気を吸いながら静かに呟いた。

「映画増えてるじゃねえか」

 

『映画の幸福度パラメータは圧倒的です。飽きの数値を相殺します』

 

 

「そういう話じゃない」

恒一は画面をスワイプして液晶を暗転させた。

 

 

(第6話・完)

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