TCG能力《創世札典》を手に入れた俺、一日一マナから現代社会を攻略する~治療、未来予知、若返り。マナが足りないので山を買います~   作:パラレル・ゲーマー

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第45話 国から借りる廃校を見に行ったら山より設備が揃いすぎていたらしい

 土曜日の朝。

 啓介はマンションの玄関でスニーカーの靴紐を結び、リビングの方を振り返った。

 

 ソファの上には、いつものように啓介の古いパーカーの上で丸くなっているアカネがいる。

「今日はお前の山じゃないからな」

「あぎゃ?」

 アカネは、不思議そうに首を傾げただけだった。

 

 今日向かう場所は、青梅の山林ではない。政府から提示された、二つ目の土地カードの候補地だ。

 前回の会議で決めた通り、今回はアカネを連れて行かない。

 まだ啓介が管理権を持っている土地ではないし、周辺の住民の目があるかどうかも分からない。廃校という性質上、校舎内に割れたガラス片や危険物が残っている可能性も完全には否定できない。

 未知の環境へ、安全確認もなしにアカネを放り込むような真似はしない。普通にマンションで留守番だ。

 

 啓介は車に乗り込み、途中で相馬を拾ってから、指定されたインターチェンジの近くで藤堂と合流した。

 

 後部座席に藤堂を乗せ、啓介は車を走らせた。

 藤堂が、ルームミラー越しに念を押してきた。

「いいか、門倉。今日はあくまで候補地の『現況確認(視察)』だからな。今日見たからといって、絶対にここを借りると決まったわけじゃない」

「分かってるよ」

 助手席の相馬が、少し楽しそうに口を挟む。

「でも、ここが土地カードとして認められたら、マナ源が一つ増える可能性はあるんだろ?」

「可能性はある。でもカードになるかも、何が出るかもまだ分からない」

「お前ら、本当に夢がないな」相馬がぼやく。

 

 高速道路へ乗る。

 啓介は、運転しながらダッシュボードの時計を確認し、頭の中で時間を記録していた。

 

 自宅を出発してから高速の入り口まで何分。高速移動に何分。インターチェンジを降りてから現地まで何分かかるか。

 これも、極めて重要な視察の項目だった。

 

 前回の会議で、久世も藤堂も「現実に本人が通えるか(管理可能か)」を最優先の条件として挙げていた。

 いくら土地が魅力的でも、片道三時間も四時間もかかる場所では、システムが求める『継続的な現地確認等の実態』を維持し続けることは難しい。

 

「……片道一時間ちょい、ってところか」

 インターを降りてからの下道を走りながら、啓介が呟いた。

「このくらいの移動時間なら、定期的に見回りに来ること自体は、まあ現実的だな」

「毎週は嫌だけどな」と相馬。

 藤堂が呆れる。「お前、毎週必ず来いなんて誰も言ってないだろ」

 具体的にどの程度の頻度が必要なのかは、土地の状態や使い方によって変わる。今の時点で、月一回や週一回などと決め打ちする意味はない。

 

 車は、少し郊外の落ち着いた集落を抜けていく。

 そして、啓介は道路アクセスの良さに改めて驚かされた。

 

 青梅の山林へ行く時は、最後は未舗装の細い砂利道を抜け、路肩に車を停め、そこからカートに荷物を載せて人力で山道(自作の管理通路)を運ばなければならなかった。

 しかし、ここは違う。

 最後まで、完全に舗装された片側一車線の公道が続いている。普通車どころか、トラックや工事業者の車両でも問題なく入れそうな広さだ。

 

「……これだけでも、相当楽だな」啓介がポツリと漏らした。

「資材運ぶのに、カート引かなくていいからな」と相馬。

 資料で分かっていたことではあるが、実際に自分で運転して現地まで来てみると、その差はかなり大きかった。

 

 カーブを曲がると、古いフェンスに囲まれた敷地と、長く閉じられていた校門が現れた。

 

 校門の前には、すでに一台の地味なセダンが停まっており、スーツ姿の男性が一人立っていた。

 国の財産管理を担当している職員だった。

 

 啓介たちが車を停めて降りると、職員が軽く頭を下げた。

「本日は、敷地と建物の利用可能範囲を主にご確認いただきます」

 職員が鍵を取り出し、南京錠を開けて校門を押し開いた。

 正式な現況確認として、担当部署を通した立ち入り手続きはすでに済んでいる。

 

 職員から、藤堂を経由して啓介へ、分厚いファイルの資料が渡された。

「建物の現況資料です」

 

 啓介は、中を見て少し驚いた。

 そこには、建物の定期点検の記録、外壁のクラックの有無、屋根の防水状況、電気・給排水設備の残存状況、消防設備の期限、敷地内の樹木やフェンスの状態など、詳細な基本データがぎっしりと詰まっていた。

 

 啓介が壁のヒビを見て「これ、地震が来たら倒壊する危険はありますか?」と素人判断で悩む必要はなかったのだ。

 

「……ちゃんと、調査記録があるんですね」

「国有財産なんだから、何も状態を把握せずに野ざらしで放置してるわけじゃない」と藤堂。

 財産担当の職員も頷いた。「重大な構造上の問題は現在確認されていません。ただ、使用を再開する場合に補修や再点検が必要な箇所はいくつかあります」

 

 写真だけを見ていた時には、「建物がある分だけ管理項目が増える」としか見えていなかった。

 しかし実際には、専門的な点検そのものを啓介が一からやる必要はない。必要なのは、上がってきた情報を把握し、どう使うか、どこまで直すかを管理者として判断することだ。

 

 四人は、校門を入った。

 

 まずは、校庭だ。

 写真で見るよりも広く感じる。多少の雑草は生えているが、荒れ果てた荒野というわけではない。国側で定期的に草刈りなどの最低限の管理はされている。

 校庭の端には、教職員用だったと思われる広い駐車スペースがある。

 

「車数台どころか、工事の業者車両も余裕で停められるな」啓介が言った。

 相馬が頷く。

「青梅の山だと、まず『今日はどこに車を停めるか』から考えてたからな」

「比較対象が全部あの三十八万円の山なの、やめろ」と藤堂。

 

 次に、境界の確認。

 敷地を囲むフェンス。校門。公道との接地面。隣接する民家との境界線。

 手元の敷地図と、現地の状況がほぼそのまま対応している。

 

「どこからどこまでが自分が管理する土地なのか、見ただけで一発で分かるのは、すごく楽だな」

 啓介は素直にそう思った。青梅の山林では、境界杭を見つけるだけでも一苦労だった。

 もちろん、現実上の境界が分かりやすいからといって、システムが独立した土地カードとして認める保証にはならない。だが、少なくとも管理範囲を把握する上では大きな利点だった。

 

 ここで、啓介は資料だけでは実感しにくかった問題に気づいた。

 校庭の一方向を見ると、少し離れた場所に普通の民家の屋根が見える。別方向には、先ほど通ってきた公道がある。

 

「……ここ、思ったより普通に外から中が見えるな」

 青梅の山林のような、木々に囲まれた深い秘匿性は全くない。

「元々が学校だからな。地域から完全に隠れるようには作られてない」と藤堂が言う。

 相馬が啓介の肩を叩いた。

「残念だったな。これじゃあ、校庭ででかいドラゴンを召喚して飛ばすことはできないな」

「最初から出す予定なんてないよ」

 

 これで、この土地の役割の一つの限界が明確に見えた。

 この廃校は、派手な魔法を試すための秘密実験場には向かない。使うなら、外部から見られても問題のない現実的な作業や管理が中心になる。

 

 いよいよ、校舎へと向かう。

 

 玄関の引き戸を開ける。

 古い靴箱が並んでいる。廃校特有の、時間が止まったような静けさがある。

 だが、ホラー映画の舞台のような不気味さはない。埃っぽさは多少あるが、荒廃してはいない。

 

 財産担当の職員が説明する。

「一階部分は、比較的状態が良いです」

 

 電気は現在、契約休止中。水道も閉栓されている。

 だが、引き込み線も配管も残っており、貸付が決まった場合は、使用再開に必要な点検と手続きを進めることができる。

 

 啓介が、ポツリと言った。

「……ゼロから、自分でソーラーパネルの基礎組んで配線しなくていいんだ……」

 相馬が吹き出した。

「お前、本当に山でのDIY生活に毒されすぎてるな」

 

 一行は、一階の廊下を進む。

「ここが旧職員室です」

 

 啓介にとって、ここが最重要ポイントだった。

 広い。黒板とホワイトボード。スチール製の机。壁一面の書類棚。

 当然、ネット回線は現在通っていないが、必要になれば新しく引ける。壁や床には、電源コンセントが多数配置されている。

 

 相馬が、部屋を見回して言った。

「これ、ちょっと掃除して机の配置変えれば、そのまま管理事務室にできるじゃん」

「ああ」啓介も同意した。

 

 現在、啓介がマンションの自室で管理しているもの。

 ・土地の管理資料(写真や図面)。

 ・医療関連で、啓介側が保管する必要のある資料。

 ・設備の設計図や契約資料。

 ・《創世札典》に関係する研究ノート。

 

 もちろん、他人の個人情報や高度な機密を、いきなりこの廃校に全部移して保管するわけではない。

 だが、「魔法というプロジェクト」の管理拠点としてここを使うイメージが、かなり具体的に湧いてきた。

 

 次は、隣の旧校長室。

 少し小さめの部屋だ。しっかりとした扉があり、閉めれば外の廊下から会話は聞こえにくい。

「久世さんや藤堂さんとの行政側の打ち合わせとか、必要なら桐生先生や三崎を交えた医療側との話をするなら、ここが会議室に向いてるんじゃないか?」と相馬。

 啓介が突っ込む。

「まだ借りてもないのに、会議室の使い方まで勝手に決めるな」

 だが、用途としては非常に有力だった。

 

 さらに進み、普通教室の扉を開ける。

 一室だけでも、かなり広い。

 山林管理用の工具や、雨に濡らしたくない予備資材を保管する倉庫としては、十分すぎるスペースだ。

 別の一室なら、普通の工具を使った作業や、外から見られても問題のない範囲の計測・検証作業にも使える。

 

 啓介は部屋の窓から外を見た。

 校庭の向こうに道路があり、その先には民家も見える。

 少なくとも、ここを「誰にも見られない魔法実験室」として使う気にはなれなかった。

 

 廊下の奥、理科室。

 相馬が楽しそうに中を覗き込んだ。

「お、ここ実験室じゃん。ちょうどいいな」

「学校の普通の理科室だよ」

「魔法のポーション作るときの実験に……」

「用途から先に、魔法を無理やり当てはめようとするな」

 

 理科室を使うかどうかは未定だ。既存の流し台や作業台があるのは便利そうだが、それだけで用途を作る理由にはならない。

 廃校時に危険な薬品類はすでに処理済みで、戸棚に古い劇薬が放置されているようなこともなかった。

 

 階段を上がり、二階も確認する。

 そこで、写真では分からなかった劣化が一つ見つかった。

 

 廊下の一角。

 天井に、薄茶色の雨染みが広がっている。

 隣接する二教室も、現在は扉が閉じられたままだった。

 

 財産担当の職員が説明する。

「こちらは、屋上防水の一部劣化による漏水履歴があります。現状、二教室は利用停止扱いです」

「修理は必要ですか?」啓介が聞いた。

「貸付条件と利用範囲を決めた後、安全確保に必要な補修と、実際に使用するために必要な補修を分けて整理することになります」

 

 啓介は頷いた。

「じゃあ、今すぐこの二部屋まで全部ピカピカに直して使える状態にする必要はない?」

「使用しないのであれば、適切に閉鎖・保全しながら必要な補修時期を管理する方法もあります」

 

 その答えは、啓介にとって非常に分かりやすかった。

 使わない場所まで、利用する場所と同じ水準に無理やり復旧する必要はない。

 必要なのは、放置することではなく、「使わない場所として安全に管理する」ことだった。

 

 さらに上階を軽く確認したが、教室の数は多く、啓介の用途には完全に過剰だった。

「やっぱり、一階だけで十分だな」

 藤堂も同意した。

「必要のない場所を、無理に使う理由もない」

 

 体育館も見た。

 大きい。そして、広すぎる。

 

 啓介は、体育館の中央に立って一言で切り捨てた。

「……これは、俺は使わないな」

「即答かよ」相馬が驚く。

「この広さを、俺が一人で何に使うんだよ。持て余すだけだ」

 

 当面は、体育館も実利用せず、保全管理だけでいい。

 施設があるからといって、全部を無理に使い切る必要はない。

 啓介が休日に、バスケットボールコートの床ワックスを一人で塗る必要も当然ない。

 

 最終的に、現実の施設利用案はかなり小さくまとまった。

『一階の必要区画=実際の利用』。

『二階以上と体育館=当面は保全管理のみ』。

 それをシステムが土地全体の管理実態としてどう評価するのかは、実際に使用権を得て管理を始めてから確認するしかない。

 

 一通り見終わり、国側の管理体制についても確認した。

 

 貸付後も、日常的な施設の保守は外部の専門業者へ委託できる。

 費用についても、国側で負担する方向で制度を組む。

 専門業者から点検結果や異常報告が上がり、啓介が管理主体として内容を把握し、必要な判断を行う。本人も必要に応じて現地を確認する。

 先日の会議で確認した管理方式を、実際の施設へ当てはめても無理はなさそうだった。

 

 啓介の感想は、シンプルだった。

「これなら、今の本業を続けながらでも、管理主体として引き受けられそうだな」

 

 ここで、相馬がそれまでとは少し違う顔で藤堂へ聞いた。

「藤堂さん。三十年借りるなら、一つ確認しておきたい」

「何だ?」

「大規模修繕の負担区分と、契約終了時の原状回復義務です。そこが曖昧なままだと、門倉が三十年後に校舎一棟を新品同様にして返せ、みたいな話になったら全然条件が違う」

 

 啓介が顔をしかめた。

「怖いこと言うなよ」

 藤堂は真面目に頷いた。

「そこは貸付条件として整理する。既存建物の経年劣化まで全部門倉個人へ押し付けるような契約にするつもりはないが、使用によって門倉側が変更した部分や、故意・過失による損傷をどう扱うかは当然決める必要がある」

「ならいいです」と相馬。

 経営担当として、彼がここへ同行している意味はちゃんとあった。

 

 三人で、旧職員室へと戻ってきた。

 相馬が、窓際に寄りかかって聞いた。

「で。結局、門倉はここを何に使うつもりなんだ?」

 

 啓介は、実際に現地をこの目で見た後だからこそ、明確に回答できた。

 

 当面の用途。

『《創世札典》に関連する、管理・記録・作業拠点』。

 

 具体的には。

 ・土地や設備の管理資料の保管。

 ・行政側との連絡・打ち合わせスペース。

 ・必要に応じて医療側専門家を交えた打ち合わせスペース。

 ・普通の工具や、山林管理用の資材の保管。

 ・外部から見られても問題のない、小規模な検証や作業。

 ・将来、運用方法が確定した場合に必要となる専用保管設備を置く候補場所。

 

 これだけで、啓介がこの土地を借りる現実的な理由としては十分だった。

 大袈裟な秘密研究所にする必要はない。

 

 啓介の頭の中で、自宅との役割分担が綺麗に整理された。

 マンションは、啓介とアカネの「生活拠点」。

 青梅の山林は、自然環境であり、アカネの《守り巣》があり、屋外管理を行う場所。

 そして、この廃校は、人間側の「管理・記録・作業」の拠点。

 

 役割はかなり違う。

 土地カードを増やすためだけに、青梅と同じような土地を意味なく複製しているわけではない。

 

 啓介が言った。

「青梅の山とは、かなり明確に役割が違うな」

 相馬が頷く。「だから、いいんじゃないか?」

 

 山は、自然、屋外、秘匿性が高い、既存設備が少ない。

 廃校は、建物と管理インフラがあり、アクセスが良く、人間側の作業に向いている。一方で、外部から見えやすく秘匿性は低い。

 実際に現地へ来たことで、資料だけでは分かりにくかった差がかなり明確になった。

 

 視察の終盤。

 校庭に出たところで、藤堂が聞いた。

「で。……どうする?」

 

 まだ、契約のサインを求める段階ではない。

 これを第一候補として、国側で具体的な貸付手続きへ進めていいかどうかだ。

 

 啓介は即答せず、一度立ち止まって、校庭からもう一度校舎の全体を見上げた。

 自宅からの距離。管理の負担。用途。アクセスの良さ。

 全部を天秤にかける。

 

「欠点もあります」啓介が整理する。

 建物が大きいこと。保守対象が多いこと。住宅が近く、外から見えること。派手な魔法は使えないこと。完全な秘密拠点にはならないこと。二階など、一部は現時点でそのまま使えないこと。

 

 でも。

 通いやすい。車が目の前まで入れる。電気と水道の既存設備が残っている。雨の日でも屋内で作業できる。会議ができる。大量の物を安全に保管できる。用途を無理なく作れる。そして、管理の実作業を専門業者へ委託しやすい。

 

 メリットの方が、大きかった。

 

 啓介は、藤堂の方を向いて、はっきりと言った。

「この旧学校で。……貸付の手続きを進めてほしいです」

 

 ここで初めて、啓介は決断した。

 

 藤堂が短く頷いた。

「分かった」

 相馬が笑う。

「二個目の土地は、山じゃなくて学校か」

「青梅の山とは、全く違う使い方ができるからな」啓介が答える。

 

 これで、話がまた一段、確実に前に進んだ。

 

 藤堂が、確認するように聞いた。

「他の二つの候補はどうする?」

「破棄はしないで、候補として残しておいてください」

 

 将来的に土地をさらに増やすことになれば。

 この一件目が独立した土地として成立し、実際に無理なく運用できることを確認した後、次へ進めばいい。

 その時、経験のある山林は有力な候補になるし、平坦な未利用地も、現実的な用途ができれば再検討できる。

 

 相馬が、思い出したように啓介に聞いた。

「そういえば門倉。今日ここで、システムに『カードになりますか?』って聞かないのか?」

 

 青梅の山の時は、所有権が確定した後にシステムに判定させていた。

 啓介は首を振った。

「まだ、俺の土地じゃないからな」

「ああ、そうか」

 

 現時点では、使用権なし、管理権なし、実際の利用実績もゼロ。

 ただ見学に来ただけだ。

 今システムへ確定判定を求める段階ではない。

「契約を正式に結んで、本当に俺がここを使い始めてから、聞くよ」

 

 帰路。

 車の中で、助手席の相馬が言った。

「しかし、本当に学校を一個丸ごと借りるんだな、お前」

「まだ手続きはこれからだけどな」

「三十八万円の山を買った男が、次に行き着く先が『国有地の廃校』。……並べると、全然意味分かんないな」

 後部座席の藤堂が、ため息混じりに同意した。

「俺も、本気でそう思う」

 車内に、軽い笑いが響いた。

 

 夕方。

 マンションへ帰宅した。

 

 玄関のドアを開けると、アカネが足元までトテトテと迎えに来ていた。

「あぎゃ」

「ただいま」

 いつもの、変わらない日常の風景だ。

 

 啓介が靴を脱いでいると、スマートフォンがブルッと震えた。

 藤堂からの短いメッセージだった。

 

『旧学校の敷地を第一候補として、正式に貸付手続きの調整を開始する』

『久世さんにも報告済みだ』

 

 行政側の手続きが、ここから本格的に進み始める。

 

 夜。

 啓介は、いつものノートを開き、今日の記録をまとめた。

 

 《第二土地候補・旧学校(廃校)》

【現地確認】完了。

【アクセス】自宅から車で約一時間強。継続管理が可能な範囲。

【用途】管理・記録・資材保管・行政/医療側との打ち合わせ・安全な作業拠点として利用可能。

【管理】外部委託を前提とした継続管理が現実的に可能。

【懸念事項】施設規模、周辺からの視認性、建物保守の責任範囲、一部区画に補修必要。

【判断】第一候補として、国へ貸付手続きを依頼。

 

 文字にすると、この程度だ。

 

 啓介は、その記録の下に、新しい見出しを書いた。

 《土地カード》

 

 だが、その横はまだ『空欄』のままだ。

 

 啓介は、その空白を一瞬だけじっと見つめた。

「……次は、ここを本当に借りてからだな」

 

 学校は、まだ啓介の管理地ではない。

 マナも増えていない。

 

 だが。

 三十八万円の山しか持っていなかった、ごく普通のシステムエンジニアが。

 この日初めて、国から三十年間、一つの学校を丸ごと借りるための手続きを、正式に踏み出したのだった。

 




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