TCG能力《創世札典》を手に入れた俺、一日一マナから現代社会を攻略する~治療、未来予知、若返り。マナが足りないので山を買います~   作:パラレル・ゲーマー

54 / 62
第54話 三百万円の魔法カードを完成した保管庫に入れたら厳重すぎたらしい

 土曜日の午前。

 啓介は車を走らせ、国から借り受けた《静かな旧校舎》へと向かっていた。

 

 今回は、青梅の山林を巡回した時のような泥臭い作業着ではなく、ごく普通のカジュアルな服装だ。

 そして助手席には、いつものキャリーケースはない。アカネはマンションで留守番である。

 今日この廃校で行われるのは、新たに完成した『外部カード保管区画』の初回正式運用と、それに伴うカードの製造と保管だった。

 

 また、今回は相馬も三崎も来ていない。

 カードの価格や医療側の運用方針は、すでに決まっている。医学的な適応判断も、病院側にいる桐生が済ませていた。

 今日は、必要な人間だけで手順を回す。

 

 旧校舎の正門に到着する。

 車を停めると、警備詰所から制服姿の警備員が出てきた。

 

「おはようございます。門倉様ですね」

「はい、おはようございます」

 

 啓介は、手慣れた動作でダッシュボードから身分証を取り出し、提示した。

 警備員がタブレット端末と照合し、確認を済ませる。

「入館確認いたしました。お通りください」

 

 啓介は、ゆっくりと車を敷地内へ進めながら、誰もいない助手席へ向かって独り言のように呟いた。

「……俺が管理してる土地のはずなのに、俺自身が一番自由に出入りできない気がするな」

 

 別に不満があるわけではない。

 むしろ、今日からここへ実物の外部カードを置く以上、このくらいでちょうどいい。

 

 車を停め、旧職員室へ向かう。

 そこには、藤堂と、今日から保管業務を担当する政府側の職員が二名、すでに待っていた。

 

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

 藤堂が短く応じた。

「完成したぞ」

 啓介は首を傾げる。

「何がですか?」

「保管庫だ」

 

 藤堂に案内され、四人は一階の廊下を奥へ進んだ。

 以前来た時には、養生シートが張られ、作業員の工具の音が響いていた区画だ。

 

 今日はもう、養生も工具もない。

 

 藤堂が立ち止まった部屋の前に、真新しい扉が設置されていた。

 

 啓介は、その扉を見て少しだけ拍子抜けした。

「……なんか、思ったより普通ですね」

 藤堂が振り返る。

「何を期待してたんだ?」

「銀行の地下金庫みたいな、ダイヤルが何個もついた分厚いやつとか」

「カード一枚を保管するために地下を掘る気か」

 

 見た目だけなら、少し頑丈な企業のサーバールームか資料室に近い。

 

 だが、扉は防盗・防火を前提とした強化仕様。

 壁も補強済み。

 廊下には監視カメラ。

 扉の横には入退室管理端末。

 火災検知設備と非常電源も用意されている。

 

「じゃあ、入るぞ」

 

 藤堂に促され、啓介は扉の前へ進んだ。

 

 先日、啓介のスマートフォンにも入館証用の認証が設定され、生体認証も登録されている。

 今日から、啓介自身も保管区画の認可者だ。

 

 啓介は端末へ顔を向け、スマートフォンをかざした。

 

 ピッ。

 

 認証成功。

 

 そのままドアノブを引いた。

 

 開かない。

 

 啓介はもう一度引いた。

 やはり動かない。

 

「……開かないんですけど。エラーですか?」

 藤堂がため息をつく。

「一人じゃ開かないようにしてある」

 

 保管区画への入室には、認可された二名の確認が必要だった。

 

 啓介が顔をしかめる。

「俺が、そのカードを作る本人なのにですか?」

「お前一人でいつでも開けられたら、二人確認にした意味がないだろ」

「……それはそうですけど」

 

 藤堂が保管担当職員へ視線を向ける。

「次」

「はい」

 

 職員が端末へ顔を向け、ICカードをかざした。

 

 ピッ。

 

 ガチャン。

 

 重いラッチが外れる音がした。

 

「よし、開いた」

 

 啓介がドアノブへ手を伸ばそうとしたところで、藤堂がポケットから物理鍵を取り出した。

 

 カチリ。

 

 啓介が顔を引きつらせる。

「……まだ鍵あるんですか?」

「電子系統が死んだ時のためだ」

「念入りだなあ……」

 

 ようやく扉が開いた。

 

 四人は保管庫の中へ入る。

 

 中は空調が効いていた。

 

 そして。

 

「……広いな」

 

 壁沿いには、金属製の個別保管キャビネットが並んでいる。

 中央には記録用端末を置く小さなデスク。

 

 啓介は、室内を見回した。

 

「中身、完全にゼロだけど」

 

 本当に何も入っていない。

 

 藤堂が一番手前のキャビネットを指した。

 

「今日、そこに一枚目が入る」

 

 小さな引き出し。

 識別プレート。

 

『A-01』

 

 啓介は、これから作るカードの大きさを思い浮かべた。

 

「……今日、この部屋の何割くらい使います?」

 藤堂が真顔で答える。

「体積なら、ほぼゼロだな」

「三百万円のカード一枚のために?」

「将来一枚で終わる前提の設備じゃない」

 

 四人は保管室を出て、旧職員室へ戻った。

 

 ここからが啓介の仕事だ。

 

 デスクへ座り、《創世札典》を呼び出す。

 

 藤堂が、病院側の状況を確認する。

 

「桐生先生のところで、第三症例の適応確認は終わっている」

 

 条件は、これまでと同じ。

 

 病理診断済み。

 単発の早期胃癌。

 病変位置は明確。

 転移所見なし。

 標準治療としてESDが可能。

 患者本人への説明と同意も済んでいる。

 

 啓介が確認する。

「前と同じ条件ですね」

「意図的にな」

 

 まだ対象を広げる段階ではない。

 同じ条件で症例を積む。

 

 啓介はバインダーを開き、現在のマナを確認した。

 

 任意2。

 生命1。

 知識2。

 物資1。

 生命または物資1。

 境界1。

 

 合計8。

 

 これから作る《局所悪性腫瘍の除去》の外部カード。

 

 生命3。

 知識2。

 境界1。

 外部固定化に任意1。

 

 合計7。

 

 生命は、《生命樹の苗床》から1。

 《名もなき雑木地》から生命1。

 任意1を生命へ。

 

 知識2は、《思索の計数盤》と《静かな旧校舎》。

 

 境界1は、《アカネの守り巣》。

 

 残った任意1を外部固定化へ回す。

 

 使用後に残るのは、《小さな工房箱》の物資1だけ。

 

 啓介はバインダーを見ながら呟いた。

 

「……本当に七マナ綺麗に持っていかれるな」

「だから気軽に量産するなと言ってる」

 

 啓介は、小さく息を整えた。

 

「《局所悪性腫瘍の除去》を、他者使用可能な実体カードとして外部固定化」

 

 生命の緑。

 知識の青。

 境界の紫。

 

 三色の光がページから立ち上がり、啓介の手のひらへ集まった。

 

 数秒後。

 

 一枚の物理カードが残る。

 

 外部固定化カードを作ること自体は、もう初めてではない。

 《衣服の身だしなみ》を使った基礎試験も、二例目の癌治療用カードも経験している。

 

 だが。

 

 正式な保管台帳へ登録し、保管・搬送の手順に乗せるカードとしては、これが最初だった。

 

 啓介は手元のカードを見つめる。

 

「……こうやって見ると、本当に普通のカードなんだけどな」

 

 藤堂が、小さな透明の硬質ケースをデスクへ置いた。

 

 啓介が見る。

 

 ケース外側のラベルには、すでに管理情報を記入する欄が作られていた。

 

 カード本体には、何も貼らない。

 

 管理番号もバーコードも、すべてケース側で管理する。

 

 啓介がカードをケースへ入れた。

 

 パチン。

 

 蓋を閉じる。

 

 藤堂が、ケースの合わせ目へ改ざん確認用の封緘シールを貼った。

 

 担当職員二名が番号を確認する。

 

「管理番号、C-0001」

「C-0001、確認」

 

 ラベルが完成する。

 

【管理番号:C-0001】

【種別:医療用外部固定化カード】

【供給対価:3,000,000円】

【状態:未使用】

 

 啓介はラベルを見て、顔を引きつらせた。

 

「カードには値段書いてないのに、ケースには思いっきり三百万円って書いてある……」

 藤堂が答える。

「管理上必要だからな」

 

 職員が電子記録へ入力していく。

 

 ・製造日時

 ・製造者:門倉啓介

 ・カード種別:《局所悪性腫瘍の除去》

 ・管理番号:C-0001

 ・予定使用先:指定医療機関

 ・予定使用日:月曜日

 ・保管場所:旧校舎・A-01

 ・状態:【保管待ち】

 

 啓介は画面を見ながら呟いた。

 

「……俺、魔法使いっていうより工場の製造担当みたいになってない?」

 藤堂が即答した。

「お前は製造担当だろ」

「そこは、ちょっとくらい否定してほしかったんですけど」

 

 啓介は記録画面を見ていて気づいた。

 

「あれ? 患者さんの名前は入ってないんですね」

 

 表示されているのは、使用予定先と予定日まで。

 

 藤堂が答える。

 

「保管と搬送をする人間に、患者の氏名や病歴は必要ない」

 

「なるほど」

 

 カードを使う患者の医療情報は、医療側で管理する。

 保管側は、指定されたカードを指定された医療機関へ正しく届ければいい。

 

「よし。保管庫へ移すぞ」

 

 四人は再び廊下へ出た。

 

 先ほどと同じ。

 

 二人認証。

 電子ロック解除。

 物理鍵。

 

 扉が開く。

 

 四人で中へ入る。

 

 監視カメラが記録している。

 

 ケースを持つのは啓介。

 

 藤堂がA-01を開けた。

 

 啓介は、封緘されたケースを小さな引き出しへ置く。

 

 引き出しを閉める。

 

 施錠。

 

 担当職員がタブレットへ入力する。

 

『状態:【保管中】へ変更』

 

 啓介は、空になった自分の手を見る。

 

「……終わり?」

「終わりだ」

「これだけ認証して鍵開けてカメラに記録されて、やったことカード一枚を棚に入れただけですよ」

「そうだ」

 

 啓介は保管庫を見回した。

 

 並ぶキャビネット。

 

 ほぼ全部空。

 

 A-01だけに、小さなケースが一つ。

 

「……写真で見たら、すごいシュールだろうな」

 藤堂が即座に言う。

「撮るなよ」

「あ、はい」

 

 担当職員が、現在庫の画面を表示する。

 

【現在の保管中在庫:1】

 

 啓介が、その数字を見る。

 

「……一」

「一だ」

「本当に、この一枚のためにここまで?」

「一枚目を机の引き出しで管理する組織が、在庫百枚になった途端にまともな管理を始められると思うか?」

 

 啓介は少し黙った。

 

 それから、もう一つ聞く。

 

「これって、三百万円だからここまで厳重なんですか?」

 

 藤堂は首を横に振った。

 

「それだけじゃない」

 

 A-01を指す。

 

「仮にあのカードの価格が十万円でも、同じ程度の管理は必要だ」

 

「何でです?」

 

「現金三百万円なら、盗まれても最悪、同額を補填すれば帳簿上は戻せる」

 

 藤堂は続ける。

 

「でも、あのカードを今日なくしたら、お前は代わりをもう一枚作れない」

 

 啓介の表情が変わった。

 

「外部固定化枠をもう使ってるから……」

 

「ああ」

 

 月曜日に予定されている患者への提供も、その時点で一件飛ぶ。

 

 啓介はA-01を見る。

 

「……なるほど。それなら、三百万円の現金より面倒ですね」

「そういうことだ」

 

 保管作業を終え、四人は退出した。

 

 扉が閉じる。

 

 施錠。

 

 旧職員室へ戻った啓介は、《創世札典》で外部カードのおおよその位置を確認した。

 

 反応は旧校舎の敷地内。

 

 それだけだ。

 

「旧校舎にあることまでは分かる」

 藤堂が頷く。

「細かい位置はこっちの管理記録で追う」

 

 啓介はバインダーを閉じた。

 

 その日の夜。

 

 マンションへ帰宅。

 

 アカネは、啓介を見ると「あぎゃ」と鳴き、その後いつもの古いパーカーへ戻って丸くなった。

 

 啓介は、藤堂から送られてきた管理記録をスマートフォンで見る。

 

『管理番号:C-0001』

『状態:保管中』

 

 啓介は、ソファへ背中を預けた。

 

「……俺の魔法が、初めて『在庫』になったな」

 

 日曜日。

 

 啓介は普通に休日を過ごした。

 

 旧校舎のA-01には、C-0001が保管されたままだった。

 

 そして。

 

 月曜日の朝。

 

 旧校舎の保管区画。

 

 啓介も藤堂もいない。

 

 認可された担当職員が二名、保管庫の前へ立つ。

 

 二人の認証。

 

 電子ロック解除。

 

 物理鍵。

 

 A-01を開ける。

 

 ケースを取り出す。

 

 封緘シールに異常なし。

 ケース破損なし。

 管理番号一致。

 

「C-0001、確認」

「確認」

 

 担当者が搬出処理を行う。

 

 行政側の管理システム上で表示が変わった。

 

『状態:保管中 → 【搬送中】』

 

 ケースは、さらに施錠できる搬送用ケースへ収納される。

 

 指定された担当者が受領。

 

 そのまま医療機関へ向かった。

 

 その頃、啓介はいつものシステム会社にいた。

 

 午前九時前。

 

 スマートフォンが短く震える。

 

『C-0001、旧校舎より搬出完了』

 

 啓介は画面を見る。

 

「おお……本当に、俺がいなくても出ていったな」

 

 そしてスマートフォンを伏せ、目の前の仕事へ戻った。

 

 午前十時半過ぎ。

 

 指定医療機関。

 

 搬送担当者が、桐生のいる医療チームへケースを持ち込んだ。

 

 管理番号。

 

 C-0001。

 

 封緘異常なし。

 

 桐生が受領確認を行い、電子署名する。

 

 行政側の管理システム上で状態が変わる。

 

『状態:搬送中 → 【医療機関受領】』

 

 処置室。

 

 第三症例となる患者の状態確認と、病変位置の再確認はすでに済んでいた。

 

 桐生が封緘を開ける。

 

 透明ケースからカードを取り出す。

 

 《局所悪性腫瘍の除去》。

 

 桐生はカードを保持し、落ち着いた声で言った。

 

「《局所悪性腫瘍の除去》、使用」

 

 魔法が発動する。

 

 生命の緑。

 知識の青。

 境界の紫。

 

 三色の光が患者へ流れ込む。

 

 数秒。

 

 桐生の手にあったカードが、光の粒子となって消えた。

 

 直後の内視鏡確認。

 

 指定病変は見えない。

 

 明らかな出血なし。

 急性の異常所見なし。

 

 サポートに入っていた医療担当者が、空になった透明ケースを確認する。

 

 驚くことなく、タブレットへ入力した。

 

「対象物消費。使用済み、確認しました」

 

 処置室には、C-0001のラベルが残る空のケースだけが残った。

 

 病院側から、行政の管理システムへ使用報告が送られる。

 

『管理番号:C-0001』

『状態:【使用済み/消費】』

 

 C-0001そのものの管理履歴は、そのまま保存される。

 

 製造日時。

 保管日時。

 搬出。

 搬送。

 病院受領。

 使用。

 

 すべて記録に残る。

 

 現在庫からだけ、C-0001が外れる。

 

 旧校舎の管理端末。

 

【現在の保管中在庫:0】

 

 夕方。

 

 啓介のスマートフォンへ、藤堂から報告が届いた。

 

『C-0001、使用完了。短期的な内視鏡所見はこれまでと同様。保管・搬送手順上の異常なし』

 

 啓介は帰宅途中、その文面を見る。

 

 返信。

 

『……もう保管庫の在庫ゼロ?』

 

 少しして返ってくる。

 

『ゼロだ』

 

『あんな厳重な保管庫作って、一枚だけ入れて、二日後にはまた空っぽじゃん』

 

 藤堂から返事。

 

『それが、正常運用だ』

 

 啓介は、その短い文章を見て少し笑った。

 

 しばらくして、相馬からもメッセージが来た。

 

『初在庫、もう売れた?』

 

 啓介。

 

『売ってない。医療資源として使った』

 

『三百万円相当が二日で消費か。回転率いいな』

 

『だから商売の言い方するな』

 

 夜。

 

 マンションのリビング。

 

 アカネは、いつもの古いパーカーの上で眠っていた。

 

 啓介はノートを開く。

 

 《外部カード正式保管運用・初回》

 

 ・製造:成功。

 ・保管:成功。

 ・搬出:成功。

 ・病院受領:成功。

 ・使用:成功。

 ・紛失:なし。

 ・盗難:なし。

 ・封緘異常:なし。

 ・管理履歴:保存。

 

 啓介は、最後に一行加えた。

 

『現在庫:0枚』

 

「……在庫ゼロ、か」

 

 アカネの頭を軽く撫でる。

 

「三百万円のカード、あの立派な保管庫に二日しかいなかったぞ」

 

「あぎゃ?」

 

 寝ぼけた声。

 

 啓介は少し笑った。

 

「まあ、飾るために作ったんじゃない。使うためなんだから、それで正しいんだけどな」

 

 ノートへ視線を戻す。

 

『現在庫:0枚』

 

「……正常運用なんだけど、やっぱり何か、もったいなく見えるな」

 




ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。