TCG能力《創世札典》を手に入れた俺、一日一マナから現代社会を攻略する~治療、未来予知、若返り。マナが足りないので山を買います~ 作:パラレル・ゲーマー
平日の夜。
啓介はマンションのリビングで、スマートフォンを開いて藤堂から送られてきたPDFの資料を眺めていた。
ソファの上では、アカネがいつものように啓介の古いパーカーの上で丸くなっている。
資料の表紙には、『第三国有地候補 旧資材保管施設』と書かれている。
今回の施設の概要。
・元国有地。
・以前は、国や行政の施設維持、あるいは災害対応等で使用する資材や予備の部品などを一時的に保管するために使われていた。
・現在は物流拠点の統合により、用途廃止となって空いている。
・敷地内には、平屋の倉庫棟が数棟。小規模な管理事務所が一つ。
・大型トラックが余裕で入れるゲートと、広く舗装された荷捌き場。
・境界を囲む外周フェンス。
・電気の引き込みあり。水道は管理棟にのみあり。
・敷地の大部分がコンクリートやアスファルトで舗装済みであり、草地は極めて少ない。
・境界は明確。独立した一体の管理地として認識可能。
・道路へのアクセス良好。
啓介の第一印象は、非常にシンプルなものだった。
「……なんか、前の農業試験場より圧倒的に管理が楽そうだな」
草刈りが必要な面積が、桁違いに少ない。
建物がいくつかあるが、学校のように複雑な教室がいくつもあるわけではなく、基本的には『ただの箱(倉庫)』だ。「基本は閉めておく」という運用にするなら、管理の難易度は低い。
啓介は、相馬を含めたグループ通話でこの資料を共有した。
資料を読んだ相馬が、即座に言った。
「おい門倉。これ、絶対に『物資』だろ」
啓介は顔をしかめた。
「もういい加減にしろよ、お前」
「だって、資材倉庫だぞ? 過去の用途も完全に『物資』の保管だ」
「農業試験場で一回『生命』が当たったからって、調子に乗るな」
相馬は引かない。
「農業で生命。倉庫で物資。めちゃくちゃ分かりやすいじゃん。システムも絶対そう考えてるって」
「だから、土地カードの属性はそんな単純なガチャ(確率)で決まるわけじゃないんだよ。土地の実態とか俺の意味付けとか……」
啓介が反論しようとした時、藤堂からメッセージが入った。
『今週の土曜日に、現地確認へ行く。予定を空けておけ』
三崎は今回は同行しない。「ただの倉庫の下見に医者は不要だろ」という理由だ。
参加者は啓介、相馬、藤堂。そして施設管理側の実務担当者だけだ。
土曜日。
啓介の車で現地へと到着した。
『旧資材保管施設』。
ゲートの向こうに見える景色は、かなり地味だった。
広々とした無機質な舗装スペース。背の低い、飾り気のない倉庫棟。小さなプレハブのような管理棟。何本かの古い街灯。それらを囲む金網のフェンス。
学校のようなノスタルジーもなければ、山林のような自然の息吹もない。
相馬が、車を降りて周囲を見回した。
「……なんか、ほんとにただの『倉庫』だな」
「資料に倉庫って書いてあっただろ」啓介が答える。
だが、啓介の管理者としての最初の印象は、かなり良かった。
前回の旧農業試験施設と比べる。
あちらは、どこまでも続く草地、水が詰まる可能性のある排水路、倒壊の危険がある旧温室、手入れが必要な樹木など、「自然物」が圧倒的に多かった。
こちらは、ほぼ全面が舗装されている。草刈りの負担はほぼゼロに等しい。
「管理の肉体的・時間的負担は、こっちの方がかなり軽いな」
藤堂が、隣で頷いた。
「我々行政側が、これを三件目の候補に残した最大の理由の一つがそれだ。門倉、お前の現在の管理負担(キャパシティ)をこれ以上急激に増やしすぎない。三件目として、運用に組み込みやすいはずだ」
啓介は、まだアカネをキャリーケースから出さなかった。
「あぎゃ」
ケースの中でアカネが短く鳴く。
「ちょっと待ってろ。まだ外には出せない」
倉庫の敷地内部には、古い釘、錆びた木片、金属の破片、床の段差など、何が残っているか分からない。掌サイズの生物をいきなり自由に行動させるには、リスクがあった。
まずは人間だけで安全を確認する。
管理棟の確認。
小さな事務所だ。事務机などはすべて撤去されており、ガランとしている。
電気の通電は確認できた。水道も、蛇口を捻ると少し錆を含んだ水が出たが、しばらく流せば使えるようになる。トイレも最低限の清掃を入れれば使用可能だ。
相馬が言った。「ちょっと掃除すれば、普通に使えるじゃん」
藤堂が答える。「ただし、国としてこの施設を本来の『資材倉庫』として大規模に再稼働させる予定はない。あくまで、門倉個人の管理地として、最低限維持できればそれでいい」
「じゃあ、無理にお金かけて綺麗に改装する必要もないですね」と啓介。
次に、メインの倉庫棟。
重いシャッターを、ガラガラと音を立てて開ける。
内部は、予想通りほぼ空っぽだった。壁沿いに古いスチールラックが一部残っている程度だ。コンクリートの床には、フォークリフトが走ったタイヤの跡が薄く残っている。
相馬が、当然のように言った。
「ここさ、外部カードの『第二保管庫』にするにはぴったりじゃん」
啓介が即座に突っ込む。
「あのさ。俺たち、旧校舎に厳重なカード保管庫、作ったばっかりだろ」
「いや、将来カードが何百枚って増えたら、一つの場所に固めておくのはリスク分散の観点から――」
藤堂が冷たく遮った。
「相馬。門倉の負担になる用途を、勝手に増やすな」
「はいはい」
今は、ただの「管理地」として機能すればそれでいいのだ。
啓介はタブレットを開き、チェックリストを埋めていった。
アクセス。境界の明確さ。建物の基本状態。草刈り等の外注のしやすさ。定期的な巡回のしやすさ。
どれも、全く問題ない。
「これなら、三件目の土地としては、俺の負担も軽くてかなり楽ですね」
藤堂が頷く。「俺もそう見ている」
相馬が言う。「じゃあ、もう決まりでいいじゃん。ここで」
だが、啓介は慎重だった。
「いや。まだ外周を全部見てない」
まだ契約前だ。即決はしない。
倉庫棟の裏手へと回る。
表の舗装された荷捌き場からは見えにくい、建物の裏の細いスペースだ。
啓介が、最初に足を止めた。
「……あれ?」
外周フェンスの一部が、不自然に内側へ傾いていた。
幅にして数メートル程度。完全にフェンスが消失しているわけではないが、下部のコンクリート基礎のあたりが浮き上がり、外から大人が這って入れる程度の隙間ができている。
そして。
その傾いたフェンスの内側に。
「……なんか、落ちてますね」啓介が言った。
そこにあったのは、古タイヤが数本。
画面の割れた古い小型テレビ。
色褪せたプラスチック製の衣装ケース。
そして、中身の分からない黒いゴミ袋がいくつか。
その他、細かい生活ゴミが散乱している。
うず高く山になっているほどの大規模な不法投棄ではない。軽トラック一台分にも満たない程度の量だ。
でも、明らかに『元々国がここで管理していた資材』ではない。外から持ち込まれたものだ。
相馬が、資料と現地を見比べた。
「……これ、事前の資料に書いてあったか?」
「ない」藤堂が短く答える。
同行していた施設管理の担当者も、慌てて資料を確認した。
「私たちが前回、この施設の現況確認を行った時点では……このような投棄物はありませんでした」
担当者がタブレットで過去の写真ログを呼び出す。
少なくとも前回の内部確認時点では、フェンスは真っ直ぐ立っており、ゴミは一つもなかった。
つまり、ごく最近になって投棄された可能性が高い。
啓介が推測した。
「フェンスのあの部分が何かの拍子で壊れて隙間ができたから、そこから近所の人間か業者が入ってきて、こっそり捨てたってことですか?」
藤堂が答える。
「可能性はある。ただ、今ここで我々が素人探偵になって断定はしない」
犯人捜しは警察の仕事だ。彼らの目的は、あくまでこの土地の管理状況の評価である。
啓介は、そのゴミの山へ向かって一歩近づこうとした。
「ちょっと中身見て……」
「触るな」
藤堂が、鋭い声で制止した。
「え?」
「中身が分からん」
藤堂の目は真剣だった。
黒いゴミ袋がある。古いテレビなどの家電もある。液体が漏れ出ているような危険な兆候は今のところ見えないが、有害な化学物質や、アスベストなどの危険物が混ざっている可能性もゼロではない。素人が不用意に触っていいものではない。
施設管理の担当者が、すぐに「専門業者へ確認の手配を回します」と連絡を入れた。
啓介は、自分が一番気になっていることを聞いた。
「……あの。これ、もし俺がこの土地の貸付契約を結んだ『後』にこのゴミが見つかってたら。……俺がこれを片付ける責任を負ってたんですか?」
藤堂は、嘘をつかずに答えた。
「お前が管理主体として契約している以上、まずは『お前が対応の判断をする』ことになるな」
啓介は顔を引きつらせた。
「うわ」
だが、藤堂はすぐに付け加えた。
「ただし。『お前が全部自腹で業者を呼んで、自分でタイヤを担いで処分場へ持っていけ』という意味ではない」
契約の内容、不法投棄された原因、施設所有者である国側の責任範囲(フェンスの構造的欠陥など)、廃棄物の種類、警察への被害届、行政処理として対応できるか。
それらをケースバイケースで判断し、最終的に国側の費用で処理できる枠組みは用意されている。
「お前の仕事は、タイヤを運ぶことじゃない」藤堂が念を押す。
啓介はホッと息を吐いた。
「そこは、ちょっと安心しました」
相馬が笑う。「お前、農業試験場の草刈りの時と全く同じ話してるな」
藤堂が、今回の対応を明確にした。
「今回は、まだ契約前だ。お前に責任はない。ここはまだ国の管理下であり、しかも貸付前から存在する問題だ」
したがって。
・投棄物の内容確認。
・専門業者による適切な撤去。
・フェンスの補修と強化。
これらはすべて、国側の責任と費用で終わらせる。その上で、綺麗な状態で啓介に引き渡す。
啓介は頷いた。
「なら。この不法投棄があったという理由だけで、ここを候補から外す必要はないですね」
「俺もそう思う」藤堂が同意した。
相馬が、傾いたフェンスを見てニヤリとした。
「そういや門倉。お前、《故障箇所の特定》ってカード、作れそうだったよな?」
「使わないぞ」啓介が即答する。
「俺、まだ何も言ってないけど」
「フェンスが倒れてる場所なんか、魔法使わなくても目の前にあるだろ!」
相馬が肩をすくめる。「じゃあ、倉庫のシャッターの動きが悪いところとか」
「それも普通の業者に見てもらえ!」
藤堂が冷たく言った。「二マナも使ってフェンスの穴を発見するくらいなら、目を開けて歩け」
軽い笑いが起きた。
啓介が、管理者らしくもう一歩踏み込んだ提案をした。
「フェンスを直してゴミを捨てるだけで、本当にいいんですか?」
藤堂が答える。「よくない」
引き渡し前に、追加の対応を決めた。
・外周フェンス全周の再確認。
・破損箇所の補修と強化。
・投棄物の撤去。
・ゲートの錠前の交換。
・『無断立入禁止』および『不法投棄厳罰』の警告表示の追加。
・死角となる必要箇所への簡易監視カメラの設置。
・管理業者への委託項目に、『不法投棄の目視確認』を追加。
啓介が言った。
「旧校舎とか農業試験場の時に決めた管理のルール(項目)、結構そのまま使い回せますね」
「使えるシステム(手順)は、使い回す。それが効率化だ」と藤堂。
トラブルはあったが、施設の残りの部分(倉庫の構造、屋根、電気、舗装、排水)には重大な問題はなかった。十分に管理可能だ。
最後に、啓介が決断した。
「……補修と撤去がちゃんと終わるなら。俺は、ここを三件目の候補として進めていいです」
「了解した」藤堂が答える。
人間側の確認が終わり、安全な表側の舗装スペースへと戻ってきた。
そこだけは危険物がないことを確認し、啓介は車の助手席のキャリーケースを開けた。
「出ていいぞ」
「あぎゃ」
アカネが、アスファルトの舗装の上へとトテトテと歩み出た。
青梅のふかふかした土とも、農業試験場の草地とも違う。硬くて平らな、無機質な場所だ。
枯れ葉もほとんど落ちていない。
啓介は、アカネが何をするか黙って観察した。
アカネは、倉庫の壁沿いをトテトテと歩き。排水溝のグレーチングの蓋の匂いを少しフンフンと嗅ぎ。駐車スペースを区切る白線を、なぜかピョンと跨いで歩いた。
啓介が声をかける。「今日は、建物の裏の方には行くなよ」
「あぎゃ」
アカネがその意味を理解したかは不明だが、啓介の目の届く範囲だけで大人しく歩き回っていた。
数日が経過した。
平日の夜。藤堂からLINEで写真が数枚送られてきた。
『撤去・補修完了』
写真には、ゴミが完全に無くなった倉庫裏のスペース。真っ直ぐに直されたフェンス。新しく設置された黄色い注意看板。交換されたゲートの鍵。追加された監視カメラが写っていた。
啓介は感心した。
「……仕事、早いな」
『候補地なんだ。問題が分かったらすぐに処理する。それが行政の仕事だ』
専門業者による処理結果の報告書も添付されていた。
投棄物は、一般的な家庭ゴミと廃家電であり、特殊な危険物や有害物質は確認されなかった。業者が適切に搬出し、大規模な土壌汚染などの追加対応を要する兆候もなし。
これで、問題は完全にクリアされた。
そして、貸付条件の最終確認に入った。
旧校舎や農業試験施設と同じ大枠。
・三十年間無償貸付。
ただし、施設ごとの『個別条項』がある。
旧資材保管施設では。
・倉庫建物の維持(大規模修繕時は国と協議)。
・外周フェンスの定期確認。
・無断立入(不法投棄)対策の実施。
・火気管理の徹底。
・日常巡回、清掃等は業者委託可。
・国の許可なく、第三者へ『本来の倉庫業』として転貸しないこと。
啓介が呟く。
「また、三十年か……」
相馬が横から突っ込む。
「おめでとう。六十六歳まで、お前の肩書きに『倉庫番』が追加されたな」
「倉庫番はしない! 管理するだけだ!」
今回は、手続きのスピードが圧倒的に速かった。
最初の旧校舎の時のように、行政の内部で一から制度設計で揉めることがなかった。二件目の農業試験場で使った契約の「型(形式)」がある。
必要書類。管理計画書のフォーマット。委託方法。すべてにテンプレートができあがっていた。
「なんか、三件目ともなると、書類のフォーマットに見覚えがすごいな」
啓介が言うと、藤堂が当然のように返した。
「毎回毎回、ゼロから新しい制度を作ってたら、何年かかると思ってるんだ。標準化して回すんだよ」
土曜日。
《静かな旧校舎》の管理事務室。
啓介が、最終的な契約書に署名し、実印を押した。
国側の担当者も処理を完了させる。
藤堂が、宣言した。
「これで、正式発効だ」
第三の国有地。旧資材保管施設。
三十年間。啓介の使用・管理権が、正式に成立した。
「よし、じゃあ現地へ移動するか」啓介が立ち上がった。
相馬が、ふと思いついたように言った。
「おい門倉。せっかくなら、あの新しいカードの《領地渡り(ワープ)》で行こうぜ」
啓介が呆れて返す。
「お前馬鹿か。今契約したばっかりで、あっちの土地にはまだ『到着点』すら登録してないだろ! 飛べるわけないだろ!」
「あ、そうだった」
「それ以前に、車で数十分の距離に、往復で四マナも払うのは絶対に嫌だ」
結局、普通に車で現地へと向かった。
補修済みの現地。
前回問題になった倉庫裏を見る。
フェンスは正常。ゴミはなし。注意表示も追加済み。
啓介が、送られてきた写真と現地の状況を照合する。
「よし。ちゃんと直ってる」
「これで、引き渡しの条件はすべて満たした」藤堂が言った。
啓介は、ゲートの新しい鍵を受け取り、管理資料、緊急連絡先、委託業者候補のリストを受け取った。
周囲に他人がいないことを確認し。
啓介は、《創世札典》のバインダーを呼び出した。
今回は、「土地カードになりますか?」と恐る恐る聞く候補地視察ではない。すでに正式な権利がある。
土地カードのページ。
光が集まり、新しい一枚のカードの『候補』が浮かび上がった。
《眠れる資材倉庫》
土地・旧資材保管施設・借用地
【日次起動】物資マナ1点を得る。
【権利連動】正当な使用・管理権限を失った場合、このカードは消滅する。
【実地管理】管理意思および管理実態が長期間失われた場合、日次起動を停止する。
必要マナ:0。
相馬は、啓介のバインダーのUIが見えないため、横からそわそわと聞いた。
「おい。何色だった?」
「まだ、システムに定着させてない」
「早くしろよ!」
「ガチャの結果待ってるみたいに言うなよ」
啓介は、バインダーに向かって宣言した。
「《眠れる資材倉庫》、定着」
システム表示。
『土地カードの定着が完了しました』
『次回の日次更新より起動可能です』
啓介は、小さく息を吐いた。
「……物資1、だ」
一秒の沈黙の後。
「ほら見ろォォォ!!!!」
相馬が、誰もいない旧資材保管施設の敷地内に響き渡るような大声で叫んだ。
「俺の言った通りだろ!! やっぱり倉庫だから物資だったじゃねえか!!」
めちゃくちゃ嬉しそうだった。
「うるさい!」啓介が怒鳴る。
農業試験施設。
相馬予想=生命。結果=生命。
資材倉庫。
相馬予想=物資。結果=物資。
「これで俺の予想、二連勝だぞ!」
「たまたま二回当たっただけだから!」
藤堂も、珍しく少しだけ笑みをこぼした。
「……次(四件目)も当てたら、相馬の予想を少しは真面目に評価項目に入れてやるか」
「藤堂さんまで悪ノリしないでくださいよ」
現在、啓介のマナ総量は9。
次回、午前零時の日次更新から、この《眠れる資材倉庫》の『物資1』が追加される。
明日から、10。
「……二桁、か」
啓介は呟いた。初めて、一日のマナの絶対量が二桁に突入するのだ。
啓介は、その場で頭の中で将来の構成を確認した。
明日以降。
・任意:2
・生命:2
・知識:2
・物資:2(追加!)
・生命または物資:1
・境界:1
合計、10。
今、一番重い運用である『癌カード』を作った日、どうなるか。
《局所悪性腫瘍の除去》外部固定化。7マナ。
これを、今の構成で支払う。
生命3、知識2、境界1、任意1。
使用後の、残りのマナ。
・任意1 + 物資2。
合計、3マナ。
以前は、癌カードを作った後に残るのは『任意1+物資1』だった。
今回は、『任意1+物資2』。
着実に、マナの余裕が増加している。
相馬が計算して言った。
「癌カード一枚作った日にも、手元に三マナも余るのか」
「そうなるな」
「しかも、物資が2になった」相馬がニヤリとする。
前に仮設計した、《故障箇所の特定》というカード。必要コストは知識1+物資1だ。
物資が2に増えたことで、他の魔法と競合せずに圧倒的に使いやすくなった。
「やっぱ、うちの相馬産業の工場で――」
「だから、安全な検証手順組んでからなって言ってるだろ」
その時、相馬がハッと思い出したように言った。
「おい。じゃあ、十マナになったってことは……。あの《時間停止》のカード、ついにいけるんじゃないか?」
啓介は、無言でバインダーの配分を見た。
《時間停止》。6マナ。
知識2 + 境界3 + 任意1。
境界を3にするためには、固定の境界1に加えて、任意マナを2つとも境界に変換しなければならない。
そうすると、手持ちの任意マナが尽きる。
結果、追加コストである「任意1」が払えなくなる。
「……無理」啓介が答えた。
「十マナもあるのに!?」相馬が叫ぶ。
「総量の問題じゃなくて、色(境界)が足りねえんだよ!」
またしても、TCGプレイヤーの悲痛な叫びだった。
藤堂が冷静に言った。
「なら、次の土地だな」
啓介が嫌そうな顔をする。「もう四件目の話しないでくださいよ」
「行政の候補地リストは、まだあるぞ」
候補地は、まだ残っている。
啓介は、新しい土地の敷地を見回した。
「ここも、将来《領地渡り(ワープ)》のカードを使う気なら、到着地点(アンカー)の登録だけはしておかないとな」
啓介は、安全で施錠できる管理事務所の床面を指定し、システムに『到着点』として登録した。
夜。
マンションに帰宅した。
アカネはいつものように、古いパーカーの上で丸くなっている。
啓介は、ノートに本日の記録をまとめた。
【第三国有地】
・旧資材保管施設。30年無償貸付。
・フェンス補修、不法投棄撤去済み。
・土地カード:《眠れる資材倉庫》定着。
・次回日次更新より、物資1追加。
・現在は、まだ9マナ。
午前零時。
日付が変わった。
システムが更新され、《眠れる資材倉庫》が初起動した。
現在の日次マナ。
任意2。生命2。知識2。物資2。生命または物資1。境界1。
合計:10。
啓介は、バインダーのその数字をじっと見つめた。
「……十」
一日たった一マナから始まった。それが、ついに二桁に到達したのだ。
啓介は、《時間停止》のカードのページをもう一度開いた。
6マナ。現在総量10マナ。
でも、撃てない。
「……いや。やっぱ、何回計算しても納得いかねえな」
アカネが、パーカーの中から顔を出した。
「あぎゃ?」
啓介は、理不尽なシステムに向かって愚痴をこぼした。
「十マナもあるのに、六マナのカードが使えないって、どう考えてもおかしいだろ」
でも、理由は痛いほど分かっている。色事故だ。《創世札典》は、そこまで厳密なTCGのルールを適用してくるのだ。
啓介はバインダーを閉じ、最後につぶやいた。
「……次は、境界マナが欲しいなあ」
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!