TCG能力《創世札典》を手に入れた俺、一日一マナから現代社会を攻略する~治療、未来予知、若返り。マナが足りないので山を買います~   作:パラレル・ゲーマー

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第60話 十マナあるのに境界が足りないので保管庫の鍵を魔力源にしたらしい

 

 日曜日の朝。

 啓介はマンションのリビングで、トーストをかじりながら空中の《創世札典》のバインダーを開いていた。

 

 昨日の深夜零時。《眠れる資材倉庫》が正式に初起動し、啓介の日次マナはついに「10」へと達した。

 啓介は、現在のマナの一覧を改めて確認した。

 

【現在の日次マナ】

 ・任意:2

 ・生命:2

 ・知識:2

 ・物資:2

 ・生命 または 物資:1

 ・境界:1

 合計:10

 

 総量10マナ。ついに二桁に乗った。

 一日のマナがたったの1しかなかった初期の頃を思えば、途方もない資産だ。

 

 でも。

 啓介は、その一覧の中で『一ヶ所だけ』妙に薄い部分を見つめていた。

 

 境界:1。

 

 昨夜も確認した、あの強力なカードを開く。

 《時間停止》。

 発動に必要なコストは、知識2、境界3、任意1だ。

 

「……やっぱり、足りないな」

 啓介は、何度頭の中で計算しても、同じ結論に辿り着いた。

 

 現在の境界マナは固定で「1」しかない。

 任意マナ2つを両方とも境界に変換して、ようやく境界が「3」になる。

 しかし、そうすると『追加で必要な任意1』を支払うためのマナが尽きてしまう。

 

 総量は10マナもあるのに。たった6マナのカードが、色拘束のせいで撃てない。

 

 啓介は、テーブルの上に置いたノートを見た。

 第四の土地(国有地)をまた国に用意してもらえれば、一日1マナ程度増える可能性はある。

 だが、その土地が都合よく『境界マナ』を出してくれるという保証はどこにもない。生命かもしれない。知識かもしれない。物資かもしれない。

 今まで通り、土地から出るマナの色は、こちらから指定することは絶対にできないのだ。

 

「……待てよ」

 啓介は、コーヒーのカップを置いて呟いた。

「土地から出る色を、指定できないなら」

 

『境界属性のマナ源(遺物)』を、自分で作ればいいんじゃないか?

 

 啓介は、以前のノートのページを遡り、自分がかつてまとめた【境界】という属性の定義を探し出した。

 

『境界の定義』

 ・領域

 ・状態

 ・権利

 ・役割

 ・帰属

 それらを明確に区別し、その区別を継続して機能させる性質。

 

 さらに。

 ・壁

 ・扉

 ・柵

 ・立入禁止の看板

 ・法律

 ・運用規定

 ・所有権

 

 啓介の目が、ノートの文字の上で止まった。

 

「……これ、よく考えたら」

 啓介は、部屋の中を見回して言った。

「現代社会なんて、境界だらけじゃないか?」

 

 啓介は、手元の紙の切れ端に、思いつくままに書き出していった。

 家の鍵。社員証。パソコンのパスワード。マンションのオートロック。金庫のダイヤル。賃貸の契約書。入館証。システムのアクセス権限。ネットワークのファイアウォール。管理者権限(Administrator)。

 

 啓介は、本業がシステムエンジニアだ。

 そういった『情報や空間を隔てるもの』について考え始めると、いくらでもアイデアが出てくる。

 ネットワークの設定ですら、「このIPアドレスの通信は通す」「ここは遮断する」という、『境界』の集合体でできているのだ。

 

「むしろ、境界(セキュリティと権限の区別)がなかったら、現代の社会システムは一秒も回らないぞ……」

 

 啓介は、スマートフォンのグループチャットを開き、三人にメッセージを投げた。

 

 啓介:『境界マナ源、自作できるかもしれない』

 

 数秒で、相馬から返信が来た。

 相馬:『次の土地じゃなくて?』

 啓介:『土地じゃなくて、アイテムで』

 三崎も入ってくる。

 三崎:『何を境界の核にするつもりだ』

 啓介:『それを、今から考えるところだ』

 藤堂からも返信が来る。

 藤堂:『今度は、何を魔法のオモチャにするつもりだ』

 

 次の土曜日。

 《静かな旧校舎》の管理事務室。

 啓介、相馬、三崎、藤堂の四人が集まっていた。

 今日はアカネも一緒だ。部屋の隅で、持参した木製リングを前脚で転がしている。

 

 これは国家の命運を分けるような重い会議ではなく、「マナ源の設計」という実務半分、ただの知的好奇心が半分の集まりだった。

 

 啓介は、ホワイトボードに大きく【境界とは何か】と書いた。

 

 相馬が、パイプ椅子に深く座りながら言った。

「なんか、急に哲学の授業が始まったな」

「魔法の設計会議だよ」

 

 四人で、現実的な境界アイテムの候補を出し合う。

 相馬が即答した。

「分かりやすいのは『金庫』だろ」

「確かに分かりやすいな」

 三崎が言う。

「病院の関係者専用エリアの扉のカードキー、とか」

 藤堂も案を出す。

「役所の中ならいくらでもある。特定の職員証がなければ入れない区画、機密文書の保管庫、アクセス権限の区分」

 啓介もシステム屋として言う。

「会社なら社員証、サーバールームの鍵、管理者権限……」

 

 四人とも、少し黙った。

「……本当に、無数にあるな」

 

 啓介が、試しに自分の『自宅マンションの鍵』を候補として、システムに仮評価させてみた。

 確かに、境界属性自体は認められた。

 だが、毎日境界マナを1生み出す『恒久遺物』として作成するには、コストが思ったより重かった。

 

 理由は明白だった。

 単なる個人の私室への出入りを管理するだけの鍵では、用途は明確でも、『境界として果たしている社会的・運用上の役割(重み)』が小さすぎるのだ。

 作れなくはない。でも、マナ効率が非常に悪い。

 

 相馬が笑って言った。

「じゃあ、どっかの銀行の地下にある巨大金庫の鍵でも借りてこようぜ」

「貸してくれるわけないだろ。犯罪者になるわ」

 

「会社の社員証はどうだ?」

 入退室管理。権限管理。確かに立派な境界だ。

 しかし。社員証はあくまで『会社からの貸与物(所有物)』だ。それに勝手に魔法の関連付けを行うわけにはいかない。

「自分の会社の社員証を、勝手に魔法のアーティファクト化しました、はさすがに怒られるだろ」

「怒られるだけで済めばいいな」と藤堂。

 却下だ。

 

 その時、藤堂が旧校舎の廊下の方を見て言った。

「だったら、お前。……わざわざ遠くへ探しに行く必要なんて、全くないんじゃないか?」

「何がです?」啓介が聞く。

 藤堂が、啓介を真っ直ぐに見た。

「ここ(旧校舎)に。お前の魔法関係のプロジェクトで、今一番厳重に『境界』を作って守っている場所があるだろ」

 

 啓介も、ハッと気づいた。

「……カードの、保管庫」

 

 あの、外部カードの『一時保管区画』だ。

 そこはすでに、二名の認可職員、ICカード、生体認証、電子ロック、物理鍵、封緘シール、入退室の記録、搬出の記録……それらすべてによって、ガチガチに管理されている。

 

 目的も極めて明確だ。

『入っていい人間』と『入ってはいけない人間』を分ける。

 さらに、『保管中のカード』と『搬出済みのカード』の状態を分ける。

 

 啓介が呟く。

「……めちゃくちゃ『境界属性』の塊じゃん、あそこ」

 相馬が呆れた。

「今気づいたのかよ」

 

 四人は、実際に保管庫の扉の前へと向かった。

 担当職員に立ち会ってもらい、正規の手順で中へ入る。

 

 二名の認証。ICカード。生体認証。

『ガチャン』と電子ロックが外れる音がする。

 そして最後に、藤堂が『物理鍵』を差し込み、カチャリと回す。

 重い扉が、ゆっくりと開いた。

 

 啓介が見ていたのは、扉の奥の空のキャビネットではない。

 藤堂の手の中にある、『鍵そのもの』だった。

 

 その鍵は、認証、権限、物理的な扉、管理手順。そのすべての最後に使われている。

 

 啓介は、システムへのアプローチを少し変えた。

 

 まず、物理鍵単体での仮評価を投げる。

 対象:保管庫の物理鍵。

 要求:この鍵を核として、一日一回、境界マナ1点を生み出す遺物を作る。

 

 システムからの評価。

『作成可能』

 ただし、概算コストは高めだった。

 必要マナ:【境界5】

 

 相馬が顔をしかめた。

「……五? 重くないか?」

 啓介も頷く。「やっぱり重いな」

 

 なぜ高いのか。

 システムは、この鍵が境界属性を持つことは認めている。

 だが。使用履歴がまだ浅いこと。啓介個人の完全な所有物ではないこと。この鍵一本だけで入退室を完結できるわけではなく、複数の認証要素の一部に過ぎないこと。

 そういった点で、単独の「境界の核」としては力が少し弱いのだ。

 

 不可能ではない。

 ただ、今の条件では高い。

 

 啓介は、かつてのやり方を思い出した。

 《思索の計数盤》。《小さな工房箱》。

 能力を手に入れて間もない頃に、少ないマナで恒久的なマナ源のアーティファクトを作った時の手法だ。

 

 ただ「毎日タダでマナをくれ」と要求すれば、システムは高額なコストを吹っかけてくる。

 だから、厳しい『現実の運用条件(縛り)』を付けるのだ。

 使わなくなったら止まる。一つしか作れない。核を失ったら止まる。

 そうやって、魔法の自由度をわざと制限することで、発動コストを削り落としてきた。

 

「じゃあ、今回もちゃんと縛るぞ」啓介が宣言した。

 

【条件1:唯一】

 《守庫の鍵》(仮称)は、世界に一つしか存在できない。同じ鍵のコピー(合鍵)を作って、魔法を二倍に増殖させることは不可。

 

 相馬が言いかけた。「合鍵百本作れば――」

「黙れ」藤堂が即座に止める。

「俺、まだ最後まで言ってないぞ」

 

【条件2:守庫連動】

 この鍵という金属の塊が単体で存在するだけでは駄目だ。

 旧校舎の外部カード保管区画が、実際に『アクセス制御された保管庫』として運用され続けていること。

 もし国が倉庫を廃止したり、扉を開け放って誰でも入れるようにしたりすれば、マナの起動は停止する。

 

【条件3:権限連動】

 その鍵が、正規の保管庫アクセス用物理鍵として有効であること。

 鍵のシリンダーを交換した。藤堂の権限を剥奪した。紛失した。

 物理鍵としての本当の役目を失えば、停止する。「退役したただの記念品の鍵」からはマナは出ない。

 

【条件4:実運用】

 保管庫そのものについて、一定の期間内に、

 ・正規の入退室

 ・鍵や電子ロックの点検

 ・アクセス記録の確認

 ・セキュリティシステムの点検

 などの『現実の運用(活動)』が行われていること。

 これなら、仮に中にカードの在庫がゼロの期間が続いたとしても、定期的な設備点検が続いていれば条件は達成できる。無理にカードを出し入れする必要はない。

 

 条件を揃え、再計算させる。

 境界5。

 ↓

 境界4。

 

 ここで、コストの低下が止まった。

 

 啓介は、画面を見て頷いた。「……四か」

 相馬が言う。「おい、もう一個くらいキツい条件をつければ、三まで下がらないか?」

 啓介は首を振った。

「何でもかんでも縛ればいいってもんじゃない。無理にコストを削るためだけに、現実の運用を歪めるような不自然な条件を入れたら、後で絶対システムが破綻する」

 境界4で採用だ。

 

 啓介は、バインダーに正式設計を打ち込んだ。

 

 《守庫の鍵》

 遺物・魔力源・境界

 必要マナ:境界4

 効果:旧校舎の外部カード保管庫で、現実の入退室制御の一部として使用される物理鍵を核として作成する。

【日次起動】境界マナ1点を得る。

【唯一】《守庫の鍵》は一つしか存在できない。

【守庫連動】関連付けられた保管庫が、正規のアクセス管理を伴う保管区画として運用されていなければ起動できない。

【権限連動】核となる鍵が当該保管庫の正規の物理鍵としての資格を失った場合、起動を停止する。

【保全】鍵の紛失または修復不能な破損が発生した場合、カード効果を失う。

【実運用】一定期間、入退室管理またはセキュリティ点検が行われていない場合、日次起動を停止する。

 

 鍵は扉を開ける。

 誰にでも、ではない。

 

「よし。じゃあ作ります」

 啓介が手を伸ばした時。

「待て」

 藤堂が、鋭い声で止めた。

 

「え?」

 藤堂が、啓介の手を制して言った。

「国の管理物(国有財産の鍵)を、行政側の許可なしに、勝手にお前の魔法の『遺物』に変えるな」

 

 啓介はハッとした。「……あ」

 相馬が苦笑する。「お前、すっかりそこ忘れてたのかよ」

 

 この場では、作成を一時ストップした。

 藤堂が、施設管理側と、上司である久世側へ正式に確認の調整を入れる。

 

 ポイントは以下の通りだ。

 ・鍵の物理的な開錠機能は、一切変化しない。

 ・鍵の所有権も国から変わらない。

 ・正規の鍵として、これまで通り使用可能である。

 ・魔法化によって、勝手に鍵が複製されたり増殖したりはしない。

 ・万が一紛失した場合は、魔法よりも行政の通常のセキュリティ・鍵交換手順を優先する。

 

 数日後。行政側から正式に了承が下りた。

『対象物を、魔法のマナ源として関連付けることを許可する』と、記録にも残された。

 

 作成前に、啓介は念のためシステムへも確認した。

「遺物化して、物理的な鍵として鍵穴に入らなくなったり、形が変わったりしないか?」

『物理的な開錠機能および形状を完全に維持したまま、関連付けは可能です』

 安心した。

 藤堂も言う。「魔法のせいで『鍵穴に入らなくなりました』では、防犯上話にならんからな」

 

 さて、作成開始日を決める。

 現在、啓介が最大で一日に用意できる『境界マナ』は。

 ・《アカネの守り巣》=境界1

 ・任意2を両方とも境界へ変換=境界2

 合計、境界3。

 

 だが、《守庫の鍵》の必要マナは『境界4』だ。

 だから、一日では完成しない。最低二日かかる。

 

 翌週の土曜日。一日目。

 旧校舎。その日は、外部の癌カードの製造予定は入っていなかった。

 

 啓介は、藤堂から渡された鍵を前に、マナを支払う。

 《アカネの守り巣》境界1。

 《借宿》任意1→境界へ変換。

 《五彩の魔石》任意1→境界へ変換。

 合計、境界3。

 

 これを、《守庫の鍵》の作成プロセスへと一気に注入する。

 鍵が淡い紫色の光を帯びる。

 

 システム表示。

『《守庫の鍵》へ、境界マナ3点を固定しました』

『作成進捗:3/4』

 

 啓介が呟く。「あと一個」

 この日は、まだ完成しない。

 

 だが、ここで啓介は『10マナ化』の本当の余裕を実感した。

 3マナという重いコストを、この恒久遺物の投資へ全額突っ込んだのに。

 彼の手元には、まだ。

 生命2。知識2。物資2。生命または物資1。

 合計7マナも残っているのだ。

 

「昔なら、一週間がかりでチマチマやってたことを……。一日で三マナも入れて、それでも七マナ残るのか……」

 

 残ったマナは、無理に使わずその日の午前零時に失効させた。

 

 作成途中の鍵が、物理的にちゃんと動くかどうかの確認も行った。

 担当者が鍵を使用する。電子認証後、物理鍵を差し込む。

 カチャリ。

 普通に開いた。

「鍵としては、全く異常なし」藤堂が確認する。

「よかった」

 再び施錠し、元の厳重な管理状態へと戻す。

 

 その夜。マンション。

 アカネはいつものようにパーカーの上で寝ている。

 啓介はノートに書き込んだ。

 《守庫の鍵》。進捗3/4。

 明日、境界1を入れれば完成だ。

 能力を手に入れて間もない頃、《五彩の種石》へ毎日一つずつマナを注いでいた時のことを少しだけ思い出した。

 

 二日目。日曜日。

 啓介はもう一度、旧校舎へ赴いた。

 

 今回は、貴重な任意マナを変換する必要はない。《アカネの守り巣》から出る、固定の境界1だけを使えばいい。

「《守庫の鍵》、作成継続」

 

 最後の境界1を注入する。

『作成進捗:4/4』

『遺物の作成が完了しました』

『次回の日次更新より起動可能です』

 

 カードが正式に定着した。

 《守庫の鍵》。

 鍵はそのまま。物理的な見た目も、重さも、何一つ変化していない。

 啓介は、それを正規の保管場所(藤堂の管理下)へと戻した。

 

 同行していた相馬が聞いた。

「これで、明日から毎日『境界1』が出るのか?」

「ああ」

「すげえな。ただの鍵一本で」

 啓介は首を振った。

「鍵一本じゃない。……あの保管庫の、厳格な『運用制度』込みだよ」

 

 藤堂が、腑に落ちたように言った。

「つまり。魔法のために我々が無理やり新しい制度を作ったんじゃなくて。……もともと現実の管理に必要だった『保管制度』があり、それが現実に機能しているからこそ。その一部が、マナ源として成立したということか」

「そういうことですね」と啓介。

 

 午前零時。

 マンションのリビング。日付が変わった。

 

 《守庫の鍵》が、初起動した。

 啓介の現在の日次マナ。

 

 ・任意:2

 ・生命:2

 ・知識:2

 ・物資:2

 ・生命 または 物資:1

 ・境界:2

 合計:11。

 

 啓介は、総量(11マナ)が増えたことよりも先に。

 一番下にある項目を見た。

 

 境界:2。

 

「……二つある」

 これまで、境界マナは固定で「1」しかなかった。

 それが今、初めて固定境界が「2」になったのだ。

 

 啓介は、少し手が震えるのを自覚しながら。

 バインダーの奥底にある、《時間停止》のカードを開いた。

 

 必要コスト。

 知識2。境界3。任意1。

 

 今なら。

 知識2 = 固定で払える。

 境界3 = 固定境界2 + 任意1を境界に変換。

 任意1 = 残った最後の任意1。

 

 成立する。

 

 啓介は、頭の中で何度か計算を繰り返した。

「……払える」

 もう一度、ゆっくりと確認する。

「本当に、払えるぞ」

 

 一マナしかなかった時代から、ずっとカード一覧の片隅にあり、絶対に手の届かなかった、あの究極の魔法。

 《時間停止》。

 ついに、システム上「使用可能」な状態へと切り替わったのだ。

 

 啓介は、スマートフォンのグループLINEを開き、短くメッセージを打った。

『時間停止、撃てるようになった』

 

 送信して、わずか数秒後。

 

 相馬:『撃とう』

 三崎:『撃つな』

 藤堂:『撃つな』

 

 三人の返信が、ほぼ同時に画面に並んだ。

 啓介は苦笑して返信した。

『分かってるよ』

 

 相馬だけが、食い下がってくる。

『たった六秒だけだろ? 何も起きないって』

 三崎が即座に否定する。

『時間の停止という物理法則の破綻を、「たった六秒だけだから」で済ませるな』

 藤堂も続く。

『完全に安全な検証手順と、万が一の事態のリカバリー環境ができてからだ』

 啓介がまとめる。

『俺も、今すぐ使う気は全くないから安心しろ』

 

 そのやり取りをしている最中。

 アカネが、トテトテと歩いてきて、啓介のスマートフォンのすぐ横に顔を出した。

「あぎゃ」

 啓介はスマートフォンの画面から目を離した。

「いや、お前までこの議論に参加しなくていい」

 

 啓介は、空中のバインダーに表示された《時間停止》のカードを、開いたまましばらく眺めていた。

 

 以前。

「六マナなんて、いつになったら払えるようになるんだ」と途方に暮れていた。

 今。

 総量は11。足りなかった色(境界)も揃った。

 指を置いて「使用」と宣言すれば、今この瞬間でも使える。

 

 でも、使わない。

 

 啓介は、バインダーを静かに閉じた。

「……『撃てるカード』と、『撃っていいカード』は、全く別だからな」

 

 アカネが、不思議そうに首を傾げた。

「あぎゃ?」




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