Blue Archive:A story about youth 作:R2017
「はい…電話をしても繋がらなくて…モモトークも既読がつかないんです。」
「分かった、取り敢えず今から探してみるよ。他の子達には?」
「連絡しました。ホシノ先輩が探してくれていて……」
「分かった。取り敢えず、他の皆は学校にまた集まろう。廉も学校に行ってあげて。」
「承知しました。」
そこで二手に別れて、素早く行動を開始する。廉が学校につくまでにはそう時間はかからず……
「お待たせしました。」
「廉さん!来てくれてありがとうございます!」
「皆さんからの頼みなので…ところで、状況はどうなってますか?」
「相変わらず電話をかけてはみてるんですが……」
「全く出る様子がない。」
「私のモモトークも既読がつかなくて……」
「明らかに異常事態……。……昼間に来ていた連中の仕業…なんでしょうか?」
「えっ!?ヘルメット団がセリカちゃんを……!?」
「まだ決まった訳ではありませんが……でも…。」
「取り敢えず待とう。先生とホシノ先輩が調べてくれてる。」
「皆、お待たせ。」
話が交錯していく状況で、先生とホシノが戻ってきた。
「皆、落ち着いて聞いてね〜。」
「皆、セリカの場所が分かったよ。」
始末書覚悟で連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスして連絡が途絶える前のセリカさんの端末の位置を特定した。先生の…シャーレの特権だ。
「ここは…砂漠化が進んでいる市街地の端の方ですね?」
「治安の維持ができなくなってチンピラが集まってる場所だね。」
「このエリアは…!!」
「何か気づきがあったんですか?」
「危険要素の分析をした際にカタカタヘルメット段の主力が確認された場所です…やっぱり…」
「カタカタヘルメット団…襲ってきた集団ですよね?」
「そうだねぇ。皆の見立て通り、カタカタヘルメット団が攫ったので間違いないだろうね。」
「人質をとって脅迫しようってことかな。」
「とりあえず、まずは急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」
「よ〜し、それじゃ行こ〜!」
「出発!皆、忘れ物が無いようにね。」
「了解です!」
戦闘の準備を済ませ、アビドスを出発した。セリカ救出するために。
「…発見しました!あれがセリカちゃんを輸送している車両です!」
「それじゃあ戦闘開始!シロコお願い!」
「ん、任せて。」
先生の言葉と共に、戦いの火蓋は切って落とされる。シロコは手榴弾をトラックへと投擲した。狙い通り、トラックは爆発して運転席からカタカタヘルメット団が、荷台からはセリカが飛び出した。
「あぶないっ……!!!」
廉が車を飛び出し、セリカを落下の寸前に抱えることで怪我を防ぐ。
「なっ、何っ!?爆発!?トラックが爆発した!?」
「砲弾にでも当たったのかな…一体どこから?」
トラックの爆発によって、ヘルメット団も事態に気付き始める。
「セリカちゃん発見!生存確認しました!」
「……あっ、アヤネちゃん!?それに廉!?」
「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」
「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと!そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんねー!!」
「う、うわぁぁ!う、うるさい!泣いてなんか…」
「泣かないでください、セリカちゃん!私たちが、その涙を拭いて差し上げますから!」
「あーもう、うるさいってば!!違うったら違うのっ!!黙れーっ!!」
「無事で、元気そうで安心したよ。」
「助けに来ましたよ!セリカさん!」
「な、なんで先生まで!?どうやってここまで来たの!?」
「ダテにストーカーじゃない。」
「困った人は助けろと教えられましたから。」
先生やっぱりストーカーだったんだな…
「ふ、ふざけないでよ!この変態教師!!」
…まぁ、そうなるよなぁ。と、廉は心の中で呟く。
「廉の方は…その、ありがとう。助けに来てくれて。…っ!ていうか!!早く下ろしてっ!!!」
「ご、ごめんなさい!!」
赤面するセリカを見て、慌てて廉はセリカを地面に降ろして、縄を解く。
「…怪我は無いですか?」
「…廉が助けてくれたから無いわ。廉こそ、大丈夫なの?ヘイロー無いんでしょ?」
「僕はほら、鍛えられてますので。」
「皆、体勢は大丈夫?そろそろヘルメット団の子達が来るよ。」
「よし、きちっと仕返ししてやるわ!」
「セリカちゃんを泣かせた罪は重いよ〜!」
「だから!泣いてないから!!」
一先ず、セリカを救出することに成功した一同。ヘルメット団の接近を確認した彼女らは散開し、散らばった瓦礫などの物体に身を隠しながら戦闘を行う。まさに少数精鋭と呼ぶに相応しいアビドスの実力と、先生の的確な指揮によって、カタカタヘルメット団はどんどんと倒されてゆく。廉が動く必要もないほどに。
「みんな、気をつけて!奴ら、改造した重戦車をっ…」
セリカがそう呼びかけた瞬間に、耳を劈く砲撃音が響き渡る。廉の遥か背後に、凄まじい衝撃的が走り、砂が大きく舞う。
「重戦車でっっか…!?!?」
見るだけで気圧される程の重戦車。アレが放つ弾に当たってしまえば、キヴォトスの生徒でもひとたまりもないだろう。廉なんて跡形も残らない、。
「あんなもの、何処から持ってきたのかなぁ〜?」
「どうやって倒しましょうか…シロコ先輩?」
「私のドローンが火を吹く時が来た。」
「重戦車を倒す算段はついたけど…その前に、残ってるカタカタヘルメット団の子たちを倒してから…」
「歩兵の方は僕が相手します。その間に重戦車の破壊を頼めますか?」
立ち上がり、右手に刀を作り出す。キヴォトスに来て、初めて握る刀。その右手は震えていた。恐怖か、武者震いか、はたまたその両方か。戦いたくないという彼の本音を押さえ込み、誰かの役に立たねばと心の中で反芻する。
『人を助けて生きてくれ…廉。』
ぐちゃぐちゃな過去の記憶で、唯一頭に何回も響く言葉。その言葉に縛られ続けている。背くことは出来ない。彼の唯一の死なない理由だから。
「その刀…どこから出したんですか…!?」
「おじさんは手から出てきたように見えたよ?」
「…それは、廉が決めたことなんだよね?」
「はい。全て自分の意思です。大丈夫ですよ!こう見えても…僕は結構強いですから!」
「分かった、皆、行くよ!」
先生の静止を振り切って、遮蔽物から飛び出す。廉が飛び出した、瞬間先生もそれに呼応して指揮を始めた。
重戦車を中心に、大きな弧を描くようにしてヘルメット団の背面へと走り始める。廉の姿を見たヘルメット団達は、一斉に銃を構え、発砲する。
「…僕は、戦うことは好きじゃないんですよ。心が荒んでいく気がして。まぁ、誰かを助けること自体は嫌いじゃないんですよ?」
銃弾は真っ直ぐ、無慈悲に彼へと向かってゆく。頭、腹、腕、足を明確に狙って、飛来する。だが、その弾丸は、彼に届くことはなく、真っ二つになって地に落ちるか、彼横を通り過ぎていくか。回避と切断、両方を行って、弾丸を全ていなしてしまう。弾丸を切って刃こぼれした刀を、即座に修復して新品の状態にし続ける。
「でも…誰かを攫うような悪人は、嫌いです。」
彼は銃弾を全て掻い潜り、1人の歩兵へと距離を詰める。相手が持つ銃を狙って刀を振るう。が、その刀は相手を捉えることは無かった。戦闘など日常的なこの世界では、手加減は不要だと即座に判断した。故に、更に踏み込み、燕返しのように刀を切り返して、銃を破壊する。そして首に向けて回し蹴りを当てて、1人を無力化してしまう。
その様子を見ていたアビドスの生徒たちは、驚きを隠せなかった。ヘイローを持たない人間が、弾丸を全て防ぎ、キヴォトス生徒を倒してしまうなど、想像出来なかったのだ。
「あと歩兵は何人…」
彼は向かってくる弾丸を回避しながら、残りの人数を確認する。残り4人の相手をどう戦うか確認しつつ、先生たちの方にも目を配る。先生の指揮と、統率されたアビドスは、重戦車を翻弄し、装甲を削っている。明らかに有利戦況であった。
「流石先生たちだ…!!」
皆の頑張る姿を見て、もっと早くやらねばと、先程よりもギアをあげていく。2人目の気が重戦車へ逸れたのを確認し、一瞬で接近して銃を切り刻む。3人目は銃を乱射したが、弾丸を全て避けた後に距離を詰めて、銃床で殴りつける動きを見てから、回し蹴りで銃を吹き飛ばし、首を峰打ちして気絶させる。残り1人。と、思っていたのだが…
「ご、ごめんなさーい!!」
戦意が喪失したのか、凄まじい速さで逃げてゆく。流石はキヴォトス人、とてつもなく足が速い。歩兵を全て無力化したことを確認し、廉は先生たちの方へ向き直る。
重戦車の方を見てみると、完全に破壊に成功した様子だ。シロコが少し誇らしげな顔をしている。
「皆さん、お疲れ様でした!」
廉が先生の元へと駆け寄ると、各々が労いの言葉をかけた。
「廉君の動き少し見たけど、かなり良い動きしてたねー!おじさんはもう追いつけないよぉ。」
「私よりは劣るけど良い身体能力してる。」
「シロコ先輩、張り合っちゃダメでしょ!?廉はキヴォトスの人じゃないんだから!」
「皆、お疲れ様。それじゃあアビドスに…」
「やばいッ…先生!」
廉が先生を左手で押し退けると、弾丸が彼の左腕を貫く。峰打ちで気絶させたヘルメット団の1人が意識を取り戻し先生にに向けて発砲したようだ。彼の詰めの甘さが出てしまった。銃をしっかり壊しておけば…と脳内で反省会を行っていると、セリカが発砲したヘルメット団をを撃って気絶させた。彼の傷口からは血が滴り落ちている。
まぁ、出血が酷い訳じゃないから、止血すればどうにでもなる適当に放置しておけばいいや。
「すいません、僕のミスで…」
「廉、怪我が…!!ノノミ、救急箱貰える?」
「わ、分かりました!応急処置だけしてアビドスにすぐ帰りましょう!!」
先生とノノミに応急処置をして貰い、アビドスへと帰還後、彼は保健室で本格的な治療をした。保健室を出ようとしたが、大人しくして、とシロコに釘を刺され椅子に座って大人しくすることとなってしまった。疲労や緊張感から開放されたセリカさんが倒れてしまったセリカを見守るは、丁度良かった。
しばらくすると、先生がお見舞いの品を持っていき、廉と共にセリカを見守ることとした。その数分後、セリカが目を覚まし、廉と先生を交互に見やる、
「あ、れ…?先生と廉!?ど、どうしたの?」
「お見舞いに来たよ。」
「僕はここで見守ってました。」
「…あぁ、私なら大丈夫。いつまでもこうしちゃいられないし。アヤネちゃんや他のみんなも心配してるし……バイトにも行かなきゃだし。だ、だから、お見舞いとかいいから!ほら見て、元気だし。」
「それなら良かった。」
「ふふっ、良かったですよ。無事で。」
「…あ、あの!!そういえば、先生にはちゃんとお礼言ってなかったなかったなぁって、思って…。あ、ありがとう……色々と…。」
「でもっ!この程度でアビドスの役に立てたなんて思わないでよね!この借りはいつか必ず返すんだから!」
セリカは頬を紅潮させながら言葉を放つ。素直ではない発言に、先生は微笑んで、少し声を出して笑っている。
「な、何よ!?何ヘラヘラ笑ってんの!?…はぁ、全く。というか!!廉は大丈夫なの?私のせいで…」
「僕が決めたことですから。それに、セリカさんは何も悪くありませんよ。」
「…なら良いわよ。でもちゃんと話は聞かせてもらうわよ。逃がさないからね!元気なら教室行くわよ!」
「あ、はい。」
彼は、厄介なことになったな。と、表面には出さないが心の中で呟いていた。死ぬ予定である人間が、他人から深く質問されるなど、一体どうすれば良いものか、と悩ませる。
「まずは、私から質問です…」
「はい、アヤネさん、どうぞ…」
「先生と同じで、銃による傷って…」
「はい、致命傷になります…。」
「なんで黙ってたの?身体能力の高さのせいで気づかなかった。」
「戦うことはないと思っていて…」
「それに、あの手から刀を出していたのは一体なんですか…?」
思ったより質問の嵐だ…うーむ、これは一旦…
「では…改めて僕の情報を整理しますね。僕は一 廉と申します。身体能力は高い方ですが、防御力だったり、耐久力は並の人間程度です。持久力も多少ある程度で…。本題が、僕のあの刀を作る力についてです。」
「僕はアレを『能力』と呼んでいます。僕の場合、『武器を作る能力』と…今は少し機能していない能力が『絶対切断』です。」
「能力…うへぇ、私たちでいう神秘みたいなものかな?」
「僕はその解釈で間違ってないと思っています。」
「とにかく!廉くんはもうあんな危ないことしちゃダメですよ!次は私が怒っちゃいます♣︎」
「そうですよ!私たちと違って致命傷になりうるんですから…慎重にお願いします。」
「すいませんでした…善処します。」
「ほら、廉。他に何かないの?」
「他に…?」
「好きな物とか、得意なこととかあるでしょ。」
「あ、そういえば何も言ってませんでしたね。てへ。」
「自分のこと頓着しなさすぎでしょ!?」
好きな物…か。うーん…うーん……
「好きな物はコーヒーです。得に、香りが強いと嬉しいですね。好きなことは誰かと話すこと。得意なことは…うーん…」
「誰かに優しくできること、ですよ☆」
「ふふ、じゃあそうします。ノノミさんにそう言われるなら、少し自信が持てますよ!」
アビドスの優しさに、彼は照らされている。
「そういえば、腕の傷は大丈夫なの?かなり血が出てたみたいだけど。」
「あぁ、もう大丈夫ですよ。ほら。」
傷口のガーゼやらを外すと、傷口が既に埋まりかけているのが見える。
「回復するの早いねー。もしかして、それも廉くんの力かな?」
「はい、とある事情で回復能力が高いんです。だから、切断や大火傷しない限りは大体の傷は治ります。致命傷も、場合によっては傷痕が残らないこともありますね。」
「凄いですね…こんなに回復が早い人は中々居ませんよ…。」
「噂によると、トリニティの戦略兵器が回復能力高いらしい。」
「ヘイローの無い人間がヘイローのある人間と張り合えてるのがもうびっくりなんだけど…何者なの?」
「あ、話し込んでたら少し遅くなっちゃったね。みんな、今日のところはそろそろ帰ろう。セリカのこともあったから、皆気をつけて帰ってね。」
「掘り返さなくていいから!また明日!」
「ん、またね。」
「さようなら〜!」
「じゃあ廉、私たちも。」
「そうですね。さようなら!」
「ばいばーい。」
「また明日会いましょうね!」
「時間が遅かったのもあるけど…廉が一瞬だけ困った顔していたから切り上げたけど…余計なお世話だったかな?」
先生の言葉に、廉は目を見開く。人をよく見て、廉の僅かな感情の発露にさえ気付いてしまう。ある種の超人のようだ。
「いえ、助かりました。心配はさせたくないので、あまり僕のことは話したくなくて…。」
「…そっか。もし、話したくなったら言ってね。私ならいつでも相談に乗るよ。」
「…じゃあ…2つだけ。僕は…ストレスで味覚障害なんです。」
「つまり…食べ物の味が…」
「はい、分かりません。香りくらいしか…だから香りのいい飲み物は好きなんです。食べ物も…香りは分かりますが、口に入れた瞬間に分からなくなるんです。嘆かわしいですよね。もう1つが、痛みに慣れて、痛みが恐怖じゃなくなっている うんです。」
「銃で撃たれた時に反応が薄かったのも…」
「それが原因ですね。舌噛んた時とか気づきはしますけど痛くはないんですよ。まぁ、こんな感じだったりするんです。こんなことまで言ったら、アビドスのみんなに余計な心配をかけて…余計なことを考えさせる訳にはいきませんから。」
「…そっか。廉は、優しくて強い子なんだね。」
「…え?あ、はい?あ、ありがとうございます?」
先生からの突然の褒め言葉に、廉はきょとんとする。
「私は、相手を思いやって、行動することって凄く難しいと思うんだ。それができる廉は本当に凄いよ。人を助けられる勇気も持っている。でも、自分をないがしろにするのは良くないよ。」
…この人は、優しい言葉をかけてくれるんだな。僕とは違って、心の底から人を助けたいと思える人なんだろう。…この人になら僕の全てをさらけ出しても良いんじゃないか?全てを失って以来、誰にも言えなかったことを、この人になら…
「…もう少しだけ、相談しても良いですか?」
「勿論だよ。先生に任せて。」
「じゃあ、僕の昔の話を少しだけ。前の世界では、人だけじゃなく悪魔だったり、獣人だったり、神だったり…色んな種族が居たんです。僕は幼い頃、虐待を受けて…いや、そこから話すと少し長くなるので…色んな出会いがあったんです。ずっと僕に寄り添ってくれた兄さんだったり、親代わりであり親友のような存在だった人だったり、相棒だった悪魔だったり…孤独だった僕と兄さんの周りには、沢山の仲間ができたんです。でも…能力や特別な素質を持った種族が入り乱れる世界です。当然、事件が起きればその規模は大きくなります。僕の周りには色んな人が居ましたから、色んな事件に巻き込まれたんです。…僕が経験した中で最悪の事件…なんというか…人類の命運をかけた戦い、とでも…呼び…ます。その事件で…僕以外の…知人は…知人はっ……っ…ぁっ…」
彼は右手で胸を押さえ付け、服を握りしめる。心拍強まる呼吸は荒くなってゆく。不安定な状態なのは、自分で理解している。彼は痛み慣れている。だが、心の痛みは、消すことはできない。先生は、廉を優しく、真っ直ぐな瞳で見つめて頷き続ける。廉の話を受け止めるために、何も言葉を発さず、寄り添うように待ち続ける。
「全員…亡くなったんです…僕だけが生き残って…それで…『困っている人を助けろ』という言葉を誰かに託されて…2年か、3年か…ただ、その言葉に従うだけ従って…今に…至ります…。」
語れば語るほど、蓋をしていた記憶は溢れてゆく。ぐちゃぐちゃな頭を整理しても尚、嗚咽は止まらず、涙流れ続けてしまう、。
「ずっと、後悔しているん、です。あの日!僕が!!自分の意思を強く持って自我を保ってしっかり思考していれば!!ただ指示に従うだけの人間じゃなければ!!皆を助けることができたって…僕は…僕が大嫌いだ……。っ…ぅぁ……僕が……いなければ……!!」
今すぐ自分を刺し殺してしまいそうな程に強い、自分への悔恨と殺意。抑えつけていた負の感情は、とめどなく溢れてゆく。それでも抑えようと、声のない号哭が過去の凄惨さを物語っていた。
「廉はずっと、1人で頑張ってきたんだね。過酷な運命を背負って、戦えたんだ。廉は凄く強いよ。辛い目にあったあとも、言葉に従って人を助けられるのは誰にでもできるわけじゃないよ。」
「そん、な……僕…は…。」
顔を上げた時に、それは映った。絶望に塗れた彼の滲む視界にも届いてしまう程の、眩い光を、希望の光を感じるような、先生の真っ直ぐな瞳が。
「でも、誰でも同じことだけど、1人で抱えられるものには限界があるんだ。子供なら尚更そうだよ。だから…私が、廉を支える。」
「せん、せいが…僕を…?」
「私が支える。優しい廉が安心して頼れるように、大人としての責任、先生としての義務を果たすよ。」
「僕は…優しくなんてないですよ……。だって…貴方みたいに…誰かを助け"たい"訳じゃない…助け"なきゃ"って…貴方みたいに…誰かを想って行動できない…したくない…。怖いんです…。助けたいと想った相手が助けられないかもしれないから…怖い…。義務感で、動かなきゃ、何もできない………。」
「なら、余計に私を頼って欲しいな。」
「先生の手を…煩わせるなんて…」
「廉が助けなきゃと思う相手は、私が助けたいと想う相手なんだよ。だから、手伝わせて欲しい。私にできることは少ないかもしれないけど、廉が安心して人を助けられるように助けたい。廉は私の補佐だけど…その前に、私の生徒なんだ。」
先生は跪き、廉の目線に合わせる。そして、彼の頭に手を置き、優しく撫でた。先生の温もりが、廉の身体に伝わってゆく。廉は、涙を更に流して、俯いてしまう。
「『助けなきゃ』、その気持ちがあれば人を助けるには十分だよ。だから、助けなきゃって思った時は、最初に私に声をかけて欲しい。申し訳ないなんて思う必要はないんだよ。人を助けて生きる人は、人に助けられるべきなんだから。」
「ぁ…っあ……」
『人に助けられて…人を助けて生きてくれ…廉。きっと…この出来事は…廉の人生で一番辛い出来事になるから…自分を閉ざさないで欲しいんだ…自分の想いと自分のことを…大切に、して……欲しい…。』
「兄、さん。」
鮮明に、記憶が蘇ってくる。あの言葉は、兄さんが言った言葉だった。そして、僕のことを、最期まで思ってくれていた。辛かった。痛かった。怖かった。何よりも、自分が嫌いになった。こんな現実から逃げたかったがために、目を背けたかったがために、こんな大切なことを忘れた。
「少しずつ、こなしていこう。自分を大切にできるようにして、助けられることを当たり前にして、助けることを当たり前にして、誰かを想えるようになって、廉の根底にある『助けなきゃ』を『助けたい』にして…自分を好きになろう。」
「い、良いん、ですか?先生、を…頼っても。」
廉の絶望に滲んだ瞳が、少しずつ晴れてゆく。先生は笑顔で、何の不安も無いと断言してしまう程の勢いで。
「勿論。任せて欲しい。私とこのスーパーAIがあれば無敵だよ!なんてね。」
「あり…がとう…ございます……せん、せい…!!」
涙を拭う廉を、先生は優しく抱き締める。これから解決していこうと。これから一緒に頑張っていこうと。これからは、私がついていると。先生の暖かみが、廉を優しく包んでいた。これは一歩目。彼が歩みを始めるための、スタートラインだ。
「先生のお陰だ。やっと、前へ進めるんだ。…ごめんね、兄さん。前を向くのに、2、3年もかかっちゃった。本当にごめんね。」
泣き止んだ彼は、先生と雑談しながらシャーレへと帰った。散々泣いて、醜態を晒してしまったので少し恥じていた。だが、色々と吹っ切れた彼にとって些細な問題だ。現在、彼は自室でベッドに横たわっていた。
「今日は…先生の驚いた顔が少し面白かったなー…」
廉の年齢は、先生に誤解されていたのだ。それもその筈、彼はある事情で容姿が15歳辺りから成長していない。だか、実年齢はもうすぐで19歳。もうすぐ酒を飲める年齢だ。普段は元気ハツラツ…を演じているために、若干幼く見えるのだろう。
「さて、もう寝よう。明日もアビドスに行くし…清々しい気分だから、気持ちよく寝れそうだな。」
人との出会いは偶然かもしれない。それでも、そんな偶然に、奇跡を感じてしまえば、運命だとそう言えるのではないだろうか。先生との出会いという、たった一つの奇跡が、彼に大きな変化をもたらした。きっと、これから先、幾つもの苦難が彼に立ちはだかるだろう。だが、今の彼ならば、大丈夫だろう。
これは、彼が青春を知る物語だ。沢山の友達を作り、遊び、時に困難に立ち向かい…協力して乗り越えてしまうような、そんなお話。目眩く未来への始発点へと、足を踏み入れた。