気づいたらサイタマに後ろを取られていた。
怪人にとってこれ以上の恐怖があるだろうか?いや、ない!
そうだったよ。さっきの原作イベントは、サイタマがキングと知り合う回じゃねーか!
なんで思い出せなかったんだ馬鹿!
サイタマの動向は何よりも把握しておくべきだろーがよ!
・・・・・いや、落ち着け。
今の俺は『タベル』。
只の人間にしか見えないはずだ。
ここは何事もなかったかのように離れよう。
「ん?お前冷や汗すげーけど、大丈夫か?」
ぎゃああああ!
サイタマが話しかけてきたぁ!
「い、いえ・・・!!大丈夫ですお気遣いどうも・・・!」
なんとか返事をするが、挙動不審になってしまった。
だから落ち着け・・・今の俺は人間。
サイタマにワンパンされることはないはずだ。
「そうか・・・?」
サイタマは首をかしげながらも納得してくれた。
よし、このままトンズラさせてもらおう。
「待て、先ほどから不審にキングのことを見ていたようだが、キングに何の用だ?」
ジェノスぅ!噛み壊したろかてめぇ!
「キングって誰だっけ?」「S級集会にも来ていたヒーローです。サイタマ先生を差し置いて最強の称号を手にしている男です」
ジェノスがサイタマの疑問に耳打ちで答えているのを横目に、必死で言い訳を考える。
ジェノス単体なら相手するのもわけないが、サイタマいたら逃げるのすら無理ゲーだ。
どうにか会話で凌がねば。
「それで、何者だお前は。生体反応も、人間の子供にしては妙に小さいな・・・まるで気配を隠しているような・・・」
ジェノスぅ!余計なこと言うなぁ!なんだその無駄に高性能なセンサーは!怪人としての生体反応を隠してる気配まで読み取れるってなんだよ!じゃあ原作でもポチを怪人だと見分けろ!
「な、なんですか急に!俺はただの通りすがりの一般人ですけど!?」
わざとか弱い少女っぽく震え声を出しながらジェノスに反論する。
「じゃあなんでキング見てたんだ?」
うげっ、サイタマに痛いとこ突かれた。
「いや、実は俺、キングさんのファンでしてぇ・・・」
「へぇ、そうなのか。人気ヒーローなのか?あいつ」
「そうですね。S級ヒーローですから、ファンも多いかと」
サイタマはあっさり納得すると、疑問をつぶやきジェノスもそれに答える。
よし、空気が軽くなったぞ。このまま畳みかけよう。
「そ、そうなんですよ。だから、握手の一つでもしてもらえないかと思って・・・忙しいヒーローの方に迷惑でしたよねすいません!」
「・・・・・・」
うっ、ジェノスの沈黙が痛い・・・!まだ疑ってやがるなこの野郎。
どう切り抜けようか頭を悩ませてると、すぐ近くから悲鳴が聞こえてきた。
「きゃあああああああ!」
「怪人よぉおおおお!」
一般人の悲鳴!でかした!
「怪人だと?すぐに消して・・・いや」
「キングの実力を見る良い機会かもしれません。様子を見ましょう!」
ジェノスは俺に意識を向けたまま、キングと怪人のほうにも目を向ける。
最強と呼ばれる男の戦闘に興味があるんだろう。
キングの目の前にはビルほどもある巨大な騎士型のロボット、『機神G4』。
ジェノスは戦闘をキングに任せ、俺への追求をする気だろうがそうはいかない。
ハッタリ野郎のキングは何のかんのと言い訳して戦闘から逃げ、結局ジェノスが戦う羽目になったはず。
俺はその混乱に乗じて逃げるとしよう。
この状況を何とかできそうな道筋が見つかって、テンパっていた心も落ち着いてきた。
ジェノスにいくら疑われようが、サイタマに怪人と認識されなければどうとでもなるのだ。
そしてサイタマは俺のことを怪人だとは思ってないし、興味もなさそうである。
うん、どうとでもなるな。
機神G4と何か話したキングは、便意がどうとか言って機神G4に10分待たせ、この場を後にした。
「強そうな怪人だな」
それを見ながらサイタマがいう。
いやあんたの方が強いだろっていうツッコミはさておき、機神が高性能であることは否定できないな。
「高エネルギー反応・・・。あれはロボットですね。それもかなり強力な。俺よりも性能は上かもしれない。最低でも災害レベル鬼はある厄介な相手です」
ジェノス評でも災害レベル鬼以上はあるらしいな。
まあ鬼レベルなら俺にとっても楽に勝てる相手ではあるが、機神シリーズの真価はそこではない。
ONE版では、AIロボットである機神シリーズは各地で敵との戦闘経験を積み、情報収集を通して全ての機体が連動的に強化されていく仕組みだった。
こいつもそうした機体の一つで、戦えば情報を盗まれ、勝ったとしてもいずれその対策や有効な攻撃手段を持った機神が新たに現れるのだろう。
・・・そして今はまだレベル鬼だが、いずれ竜クラスが機神の平均となるのだ。
たとえ一体一体が自分より弱かろうと、対策を備えたレベル竜が無尽蔵に押し寄せてくるとなれば真面目に命の危機だ。
誰だって戦いたくないだろうし、俺でも嫌な相手だ。
まあ、この場は原作通りジェノスに任せればいいだろう。
「確かに強そうなロボットですね。キングはどっか行っちゃったけど、戦わなくていいのかな?S級ヒーロー、ジェノスさん」
俺がジェノスにそう言うと、ジェノスは俺に何とも言えない視線を向けた後に拳を握りしめながら返事をする。
「・・・キングが戻ってこないなら、一般人に被害が出る前に俺が戦う。先生もそれでいいですか?」
「いいけど。手貸さなくて大丈夫か?」
「はい。先生に出された課題『S級ランキングで10位以内を目指せ』を達成するには、これしきの相手は独力で倒せるようにならなくてはいけませんから」
「そうか」
おーおー、やる気があって何より。
ぜひ頑張って戦ってほしいね。
・・・そういえば、実はジェノスをサイボーグに改造した奴と機神の製作者は同じなんだよな。
ONE版最新話では、ジェノスを改造して救った正義の科学者クセーノ博士は、機神を製造する『組織』の黒幕で、ジェノスが追う仇『狂サイボーグ』でもあったことが判明したのだ。
名が体を表すこの世界で、クセーノはやはりクセェ奴だったわけだ。
ジェノスもデータ収集のために泳がされていた個体の一つで、AIを部分的にでも超えることを目的としたサイボーグ被検体だった、というわけだな。
そのあたりの話はまだ不明な部分が多いのでこれと決めつけるわけにはいかないが・・・。
・・・ともすると、ジェノスと機神G4が戦う流れって、クセーノにとってなんの利益もないんじゃなかろうか?
いや、ジェノスの戦闘経験になるから全くの無駄というわけではないだろうが、どちらの挙動も操作できるクセーノからしたら、この戦闘はやろうと思えばいつでもできることで、そして積極的にやっていなかった以上費用対効果に見合うものではないのだろう。
そして、この流れを作り出したのはキング。
怪人協会編ではなにかとキッチリ仕事をこなすキングだったが、今回に関してはただ敵から逃げただけだと思っていた。
でも実際は、世界のリセットを企む『組織』に戦闘データを盗ませないことだけじゃなく、同士討ちで戦力を浪費させることすら達成していたのか。
・・・なんかもうちょっと怖いな。
こうまでやることなすこと全てが良い方向に傾いているのを見ると、怪人側に立つ身としてはいつか足元をすくわれそうな気がする。
やはりキングは恐ろしい男だ。人間側の味方になるまではなるべく近づかんどこ。
キングの危険性を再認識もできたので、さっさとこの場を離れることにする。
「じゃあ、俺も避難しますんで・・・頑張ってねー」
そう言って俺が踵を返すと、流石のジェノスも何も言ってこなかった。
これから戦闘しようってのに、ちょっと怪しいだけの自称一般人を疑いだけで戦闘に巻き込むわけにはいかないもんな。
「じゃあ俺も外すわ。負けんなよジェノス」
サイタマもこの場を離れるようだ。
この後は逃げたキングに興味をもってキング宅まで行くんだったな。
ぜひ行ってきてくれ、俺も帰る。
機神G4から離れるように通りを歩いていると、後ろから戦闘音が聞こえてくる。どうやら10分経ったようだ。
周囲が慌てて避難する中歩いていると、サイタマがマイペースに隣を歩きながら話しかけてきた。
「お前ヒーロー好きなのか?ジェノスのことも知ってるみたいだったし」
さっさとキングのとこ行ってくれないかなぁ!?
いや、サイタマとの会話自体は望むところではある。
さっきは急すぎてビビったが、そもそも俺はサイタマの庇護下に入ろうと画策してるんだからいちいちビビるわけにはいかないのだ。
けど、今はこの姿が怪人協会にバレている。
もしも今怪人協会の怪人とバッタリ会って、「あ、ハグキさん!一緒に人間ども襲いませんか?」とでも言われればその時点でサイタマにワンパンされて終わりだ。
怪人協会が壊滅して俺の正体を知るものが(喋れないポチや、同じく怪人だとバレたらまずい怪人協会編後の黒い精子を除き)全滅するまでは、大手を振ってサイタマの元には居ることはできないだろう。
「え?まあ、そうですね。好きですよ。S級ヒーローは誰でも知ってると思いますけど・・・」
キングのファンだと嘘を吐いた手前、否定するわけにもいかない。
俺はどっちかというと作品全体が好きなんだが、ヒーローももちろん好きなので間違ってはいない。
「ふーん。俺今からキングのとこ行こうと思ってるんだけど、ファンなら一緒に行こうぜ」
はい?
サイタマはそう言うや否や、俺の体を脇に抱えて飛び上がった。
ちょっ、タンマ!
「行くなんて誰も言ってないんだが!?」
景色が高速で流れていく。
「でもファンなんだろ」
サイタマに文句を言うと、俺が否定しづらい反論をされた。
「いやまあ・・・そうなんだけどぉ!」
「じゃあいいじゃねぇか。ほれ、ついたぞ」
「はや」
いや早。サイタマの身体能力なら納得ではあるが、にしたって一瞬過ぎてびっくりだ。
確かにそこまで離れてなかったけれども。
降り立ったのは高層マンションの一室のベランダ。
サイタマはベランダのドアに手をかけると、すっと開けて入っていった。
おまっ、そんな躊躇なく・・・。
怪人である俺でももうちょっと遠慮するぞ。
ベランダで立ち止まっていると「何してんだ」と引っ張りこまれた。
そこにいたのは、さっき買っていた恋愛シミュレーションゲームをやってニヤニヤしているキングだった。
「どきどきシスターズオープニング凝ってるなぁ・・・。これはわくわくが止まらん」
・・・やっぱこいつ危険に見えねぇ。
「主人公の名前を決めてください、か・・・。本名は照れくさいよな・・・。29歳にもなって。どうしよっかな~~」
どこからどうみてもオタクなキングに、我らがサイタマが話しかける。
「主人公キングでいいんじゃね?」
「いやヒーロー名はちょっと。ゲームキャラにキングお兄ちゃんなんて呼ばれてるの誰かに見られたら死ぬしか・・・」
そこでキングはこちらを見て、「・・・え?」って感じの顔をした。
いやもうそうとしか表現できない顔だった。
ごめんよキング。悪いのはサイタマのはずだけど、人の隠したい秘密に意図せず触れてしまったことで俺にも罪悪感が湧き上がる。
とっくにモラルなど消え去ったと思っていたが、キングの醜態に俺の前世の記憶が反応しているな。
共感性羞恥というやつだ。恥ずかしい。
「窓が開いてたもんで」
悪びれもしないサイタマにドン引く。サイタマ、普通に不法侵入だぞ。
俺は怪人だから気にしないけど、お前は気にしないとダメだぞ。
「ここ22階ですよ」
ごもっとも。怪人が襲来するならともかく、知らん人が勝手に上がりこんでくる状況としてはおかしい。
しばらく惚けていたキングだったが、コホンと息払いすると顔を正して喋りだした。
「こ、困るなぁ~!勝手に人の家に上がりこんでもらっちゃあ!こ、この俺がS級ヒーローと知ってのことなのかな?」
家に入ってきた不審者に対しハッタリ利かせられるあたり、なんだかんだ言ってキングも度胸あるなぁ。
「知ってるよキングだろ?こいつがファンなんだってさ。握手してやってくれよ」
そんなことを考えていると唐突に話を振られた。
ちょっ、展開速いって。
「え?ファンの子?あ、握手くらいならいいけど・・・」
「あ、どうも・・・」
いそいそと手を差し出したキングの手を、取り合えず取ってしまった俺。
なんとなく見つめ合っていると、サイタマが声を上げた。
「にしても、こういうゲームやるタイプだとは知らなかったよ」
名前を決める画面で止まったテレビゲームが、『オ兄チャン!名前ヲ決メテ!』と棒読み音声を発する。
「や、やめろぉおおおおおおお!」
バッとサイタマの方を振り向くキング。いたたまれねぇ・・・。
「ん?なんだこのゲーム面白そうだな」
「やめ・・!えっ!?あっそれはアクションゲームだ!!」
自分から話を振ったのに、自分から別のゲームの話をするとは。
そういうとこやぞサイタマ。
「ロボット動かすのか」
「そうそう!本当はそういうゲームが好きでこのゲームもアクションかと思ったら何だこれ恋愛ゲームだったのかよ間違えて買っちゃったよ!」
「どきどきシスターズって書いてあるぞ」
「マジで!?怒気怒気シューティングスターかと思った!あ~騙された!すぐ捨てよう!おっと電源切んないと電気代の無駄だな!29歳で恋愛ゲーム間違えて買うとか恥ずかしいな~アハハハハハ」
「じゃあこれやろうぜ」
「うんそうだねこんなのよりそっちの方が・・・・・・・え?やるの?それ」
「え?駄目?どうせ暇だろ?」
「いや・・・うん・・・」
見てられなくなってきた。
「サイタマさんだっけ?キングさんも、ほら、忙しそうだし?ここは遠慮しましょうよ」
「どこが忙しそうなんだよ」
助け舟出そうとしたら一刀両断された。
キングを見ると、更にドーンと落ち込んでいた。
・・・あっ、見た目子供の俺に誰の目から見ても瞭然な気遣いをされたからか。
ファンの子にこんな醜態見られたらそりゃ落ち込むよなぁ。
悪いことした・・・。
「いいよ・・・。やろうか。何飲む?」
キング・・・。
やっぱりお前メンタル強いだろ。
『タベル』形態の見た目ですが、『リトルナイトメア』の『シックス』をイメージしています。大食いキャラつながりです。身長はタツマキよりちょっと低いくらい。
ちなみに、『タベル』という名前はONEさんの作品『魔界のおっさん』に出てくる、ハグキに酷似した『タベルちゃん』というキャラクターから引っ張ってきました。美少女らしいです。
魔界のおっさん、面白いので読んでみてください。