S級16位のヒーロー、金属バットはうんざりしていた。
ヒーロー協会の幹部から重大任務と聞いて来てみたら、ヒーロー協会最高顧問の『ナリンキ』とその息子『ワガンマ』の護衛を任される事になってしまったのだ。
先日『人間怪人』ガロウがヒーロー協会幹部の『ゼイミート』を襲ったことで、ヒーロー協会の重要人物にS級の護衛がつけられることになったのだが・・・。
回転寿司チェーン『ネズミ寿司』にて、金属バットは寿司を食べる二人を眺めながらため息ををついた。
うんざりするのはその振る舞い。
ナチュラルに回転寿司を庶民メシだと見下し、食った皿をレーンに戻すなどマナーもなっていない。
無作法な人間を嫌う金属バットにとって、この護衛任務は地獄そのものだった。
仕事自体には誠実な金属バットは、大事な妹であるゼンコと一緒に買い物に行く約束を後回しにしてまでこの任務を請け負ったのだ。
ゼンコから電話が来て、ネズミ寿司に居ることを説明しなければならなかった金属バットは、ゼンコを泣かせてしまい余計にうんざりした。
(泣きたいのはこっちだぜ。幹部の頼み事はもう二度と受けてやらねぇ)
その時、店内にズンッと重い音が響く。
「しまった・・・ガロウか!?」
電話のために席を外していた金属バットは、慌てて親子の元に戻る。
いたのはガロウではなく、二体の怪人。
災害レベル『虎』のムカデ後輩とヒトトリグサだ。
ワガンマを抱えたムカデ後輩は、ギョロギョロから与えられた写真を見ながら呟いた。
「写真の通りだ。ヒーロー協会の重役の人間で間違いない」
「親子連れとは都合がいい。ガキの方をいただいていくぞ」
それを見た金属バットは、ガロウとは別口だと察した。
が、任務は護衛だ。
例え相手が誰だろうと、護衛対象を守り抜かなければならない。
「待てコラ。この店からは一歩も出させねぇ。会計がまだだ」
金属バットは一歩踏み出し、その名前の通りの得物である金属バットを気合二振り。
「ほげぇ!?」「グハァッ!」
ヒトトリグサは頭から潰れ絶命。ムカデ後輩は息こそあるが、下半身を潰され文字通り虫の息だ。
「すごいねパパ!!あっという間にやっつけた!」
「記念撮影しておこう」
呑気な親子に「避難してろ」と注意しつつ、まだ息があるムカデ後輩に向きなおる金属バット。
「くっ・・・流石に強いな、S級は・・・。だがそこまで強いと、自分が頂点だと勘違いしてしまうんじゃないか?実際・・・俺もそうだった・・・」
「虫はしぶといな。一応トドメ刺しとくか」
「洞窟内でムカデとしては規格外のサイズまで成長した俺は自我が芽生え、自然界の頂点は自分だろうと錯覚してしまった。そこに現れたのが、『先輩』だった」
ドンッ!と地面が割れ、さらに巨大なムカデが出現した。
出現時の衝撃波から親子を庇いつつ、崩壊した店から出て態勢を立て直した金属バットは、新たに出現した怪人を見上げる。
災害レベル『鬼』、ムカデ先輩だった。
「(さっきの奴より一回りデケェ・・・!)何なんだコイツらは?」
「わからん!ワシに聞かれても・・・」
「うわぁああああああ!気持ち悪いよぉ!」
腰を抜かすナリンキと、悲鳴をあげるワガンマだったが、何かの匂いを嗅ぐと唐突に倒れた。
匂いの元は、マンホールから姿を現した災害レベル『鬼』の怪人ラフレシドン。
周囲に蔓延した匂いを、バットを振り回すことで散らした金属バットは決意を込めて宣言した。
「ヒーロー狩りと関連あるのかもわからねぇが・・・とりあえずぶっ潰す!!」
ラフレシドンの触手攻撃が襲い掛かる。
それをバットでいなしつつ、全力の一振りで触手を断ち切る金属バットだったが、その後隙を突かれムカデ先輩の『ムカデ大行進』による連撃をその身に受けてしまう。
ボロボロになりながらもバットを振り回し連撃から脱した金属バットだったが、息を切らすその姿からは疲労とダメージが垣間見えた。
「鬼レベル二体を相手になかなか粘るねぇ。ムカデ後輩とヒトトリグサがやられるわけだぁ」
「テメェらの目的はなんだ!?どうしてその親子を狙いやがる!?」
金属バットの問いかけに二体は答えず、さらなる攻勢を仕掛けた。
突如グラッとよろける金属バット。
ラフレシドンによる催眠香の影響だった。
通常であれば一嗅ぎで卒倒するような効果があるので、戦闘しながらここまで耐えた金属バットの耐性を褒めるべきだろう。
「やっと私の香りが効いてきたようですねぇ」
「いいぞぉ・・・」
機を逃さないとばかりにムカデ先輩が触手と脚による攻撃を仕掛ける。
「意識・・・が・・・」
血が出るほど強く殴られても、催眠香の影響下にある金属バットの意識は朦朧としたままだ。
「そのままおやすみィ・・・ほらッ、ほら、ほらァッ!!ははははははははァッ!」
そのまま抵抗できない金属バットをタコ殴りにして高笑いを上げるムカデ先輩だったが・・・。
突如として金属バットが自分の頭をぶん殴った。
「!?自分で自分を!?」
「無駄な足掻きをォ!」
追撃に出るムカデ先輩だったが、金属バットは機敏な動きでその鋭い脚ごと攻撃を弾き飛ばした。
「・・・!復活しやがったぞォ!?しかもさっきよりパワーが上がって・・・!」
「そんな簡単に催眠が解けるはずが・・・!」
唖然とする二体に、血をダラダラと流しながら金属バットは告げる。
「気合がありゃ大抵何とかなるんだよ。さっきはよくもボコスカ殴ってくれたな」
「でも俺はやさしいからよぉ・・・」
「一発ずつで!!」
「チャラにしてやんよ!!」
『気合』の入った金属バットの一撃で、ラフレシドンとムカデ先輩は先の怪人二人と同じ結末をたどることになった。
「ふーー・・・久々に気合が入ったぜ」
親子が無事なのを確認すると、金属バットは息をついた。
「応援に来ました!」
「俺たちも戦います!」
そこに駆け付けたのはB級ヒーロー『パイナップル』とC級ヒーロー『モヒカン』。
災害レベル鬼と聞いて、金属バットの助けになるために自分の実力を顧みずにやってきたのだ。
「おう、もう終わったところだ。悪いけどこの親子を病院まで連れて行ってやってくれ。俺は妹と買い物の約束が・・・」
金属バットは、既に戦いが終わっていたことに驚く二人に親子を任せ、妹のところに向かおうとする。
が、そこでモヒカンが違和感に気づいた。
「おや・・・?地面に新たな亀裂が・・・」
「何・・・?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!!!
突如響く轟音と共に、地面からムカデ先輩など比較にもならないほど巨大なムカデが飛び出してきた。
「あ、あれは・・・!大怪蟲ムカデ長老!!」
「知ってんのか?」
「過去に出現した際に町に甚大な被害を与え姿を消した・・・未退治の凶悪指定怪人!!」
「その災害レベルは『竜』に分類されています!」
「『竜』か・・・」
「連絡してS級の増援を要請します!それまで離れましょう・・・!」
モヒカンがいったん離れるよう提言するが、金属バットはムカデ長老を見て何かを決意したように呟くと、二人に指示を出す。
「奴の狙いはそこの親子だ。俺が相手している間に逃げろ。全力でな!」
だが、そこに新たな地割れが発生し、ボコォ!と何かが飛び出してきた。
「あー待て待て、その人質は連れて行く」
白くて丸い肉の塊に、口と短い手足がついたような奇妙な怪人が現れる。
「うわぁっ何か出たぁ!?」
「何だコイツ!?」
「チッ・・・何もんだテメーらは?」
慄く下級の二人と、うんざりしたように聞く金属バット。
新手の怪人ーーーハグキは、金属バットに面倒くさそうに返事を返した。
「俺らは『怪人協会』。ちょっとヒーロー協会と交渉するのに人質が欲しくてな」
「そうかよ!じゃあとっとと死んどけ!!」
金属バットは言うや否や、ハグキの脳天に向かってフルスイングを叩き込んだ。
バチィィィンッ!!!
衝撃で親子を抱えた二人が吹き飛ぶほどの一撃。
ダメージを受け『気合』が溜まると身体能力が上がる特異体質である金属バットの攻撃力は、先の戦いの影響で今までにないほど高まっていた。
しかし。
(はっ!?何だコイツ微動だにしねぇ!?)
攻撃を受けたはずのハグキはピンピンしていた。
「うーん。S級って言ってもこんなもんか?こんな攻撃じゃダメージにならねぇぞ」
殴られて煙を上げる頭をポリポリと搔きながら、ハグキは拍子抜けしたように言った。
「んなっ!?金属バットさんの今の一撃を食らって無傷!?」
「こいつもレベル『竜』・・・!?」
驚く二人を尻目に、金属バットは更なる気合を入れて飛び上がった。
「まだまだぁ!!怒羅厳シバきぃ!!!」
ドガガガガガガガッ!!
ハグキの顔周りに、ひたすらバットを叩きつける。
金属バットの猛攻をしばらくその身に受けていたハグキだったが、ダメージにならないことを確信したのか反撃に出た。
「あ~~ん」
その大口を開け、金属バットを飲み込もうと迫る。
「うおっ!?」
上顎を手でつかみ、下顎に脚をかけて筋力で抵抗しようとした金属バットだったが、その顎の力に全く抵抗できずに噛み砕かれそうになり・・・。
「危ねぇ!」
ガリィッ!!
特注の得物であるバットを突っ張り棒のようにすることで、何とか噛み砕かれずに済んだ。
しかしバットごと噛み砕こうとハグキは口の筋肉を隆起させ、ミシミシとバットが音を立て始めたことに気づいた金属バットは息つく暇もなく慌てて口から脱出した。
「ふー、焦ったぜ・・・」
「なんだそのバット。硬ぇ!俺が噛み砕けないとか、何製だよ」
咬合力に自信のあったハグキは、手加減していたとはいえバットをすぐに嚙み砕けなかったことに自信を失う。
「あ、あの二人いつの間にか逃げてんじゃん!ムカデ長老!奴らを追え!」
「わかっている・・・」
金属バットとハグキが戦闘している隙に、現場にいてもどうしようもないと判断したパイナップルとモヒカンは親子を連れて逃げ出していた。
「逃がさん!」
ハグキと金属バットの戦闘を眺めていたムカデ長老はそれに目をやり、巨体に見合わぬ超スピードで追跡を開始する。
「あ!?待てやコラァ!お前らの相手はこの俺だ!」
ハグキと向かい合う金属バットは、頭上を追い越していったムカデ長老に声を張り上げる。
当然ながら聞く義理のないムカデ長老は止まらない。
「ちっ、さっさとテメーを片づけてムカデもぶっ倒す!!」
ハグキに構える金属バット。
「お前じゃ無理無理。俺でもムカデ長老でも、お前程度の攻撃じゃダメージ通らないから、なッ!!」
ハグキはその腕を振りかぶり、金属バットの真横から振り抜いた。
「!?」
かろうじて反応しバットで受けたが、踏ん張ることすらできずに吹き飛ばされる金属バット。
ビルを何棟も貫き、吹っ飛ばされた先で高速移動するムカデ長老の胴体にぶつかり、さらに遠くへ吹っ飛ばされる。
(うぐっ・・・あのナリでなんて素早い動きだ!・・・クソッ、強すぎるぞアイツ!)
ハグキの見た目に反する予想外の実力に、金属バットは歯噛みする。
「おーおー、すげぇ飛んで行ったな。まるでピタゴラスイッチだぜ・・・。・・・そろそろ来るかな?」
ホームランボールのように吹っ飛んで行った金属バットを見ながらハグキが呟くと、遠方からジェット機が飛来するような音が聞こえてくる。
S級6位の『メタルナイト』であった。
メタルナイトはミサイルを発射し、親子を抱えるパイナップルとモヒカンを追い詰めていたムカデ長老を怯ませる。
「さて、さっさと子供を攫おうかね」
それを見ながら、ハグキはやはり面倒くさそうに呟くと飛び上がって追跡を開始した。
ーーーーーーーーーー
あービックリした。
出会い頭に金属バットに殴られたときはちょっとビビったが、全身を鍛えている俺には全く通用しなかったようで安心した。
武器の硬さには驚いたけど。
だが、金属バットは『気合』によってどこまでも強くなる男。
そのポテンシャルを考えれば、警戒するに越したことはない。
金属バットと入れ替わるようにやってきたメタルナイトが、ムカデ長老の周りを飛び回りながらミサイルを打ち込むのを横目に、俺は親子を追いかけようとしたが・・・。
フェニックス男とサイレスラー、ヘドロクラゲの三名が逃げた二人の前に立ちふさがっているのを見て追跡を辞めた。
あの三人なら問題ないだろう。
・・・今回は、ヒーロー協会の逃げ道をなくし真っ向勝負するために、ヒーロー協会の重役を攫いに来たのだ。
原作ではムカデ長老とその他って面子だったが、原作より理性的でフットワークが軽い俺も駆り出された。
まあサイタマもいないしタツマキがいるわけでもないので楽な仕事である。
俺はメタルナイトの相手でもしてればいいか。
ムカデ長老の体を駆け上がり、ジャンプ台にして空中を飛行するメタルナイトに超高速で迫る。
「ナニ!?」
予想外だったのか、反応が遅れたメタルナイトの機体は俺にあっさり噛み砕かれた。
「機械は美味しくないなぁ・・・」
「貴様・・・鬱陶しいコバエ程度すぐに始末できたというのに・・・」
ムカデ長老は俺にメタルナイトを倒されたことに苛立っているようだ。
「はは、速いもの勝ちだ。それにこれは遠隔操作のロボットだろ。これに勝ったってメタルナイトがいなくなるわけじゃない」
そう、メタルナイトの正体は天才科学者ボフォイ博士が操作するロボットだ。
いくら機体を壊したところで、スペアがあればいくらでも復活する。
無尽蔵の物量と倒せない司令塔だと考えたら、ヒーロー協会のS級の中でも厄介な相手と言えるだろう。
「俺は吹き飛んだ金属バットでも追うとするかな・・・。ムカデ長老はフェニックス男たちが人質取ってくるまで適当に暴れとけよ」
「チッ、わかった」
ムカデ長老の巨体だと、豆粒みたいな人間なんてうっかり潰しかねん。
その辺の融通が利き、尚且つ『鬼』の強さを誇るフェニックス男ならしくじることはないだろう。
俺が金属バットの方に行こうとすると、またしてもキーンという飛行音が聞こえてきた。
「ん?」
「む・・・」
遠方からミサイルが飛来し、ムカデ長老と俺に襲い掛かる。
ムカデ長老は多少怯んだが無傷。俺はミサイルを丸呑みにした。
先ほど破壊したメタルナイトと同じ個体が、またしても飛来したのだった。
「あー鬱陶しい。ムカデ長老、お前相手しろ。俺は金属バットの方に行くから」
機械はおいしくねぇのよ。消化できるけど、それとこれとは話が別だ。
「分かった・・・今度こそ叩き落としてやる!!」
猛り動き出したムカデ長老を尻目に、俺は金属バットが飛んで行った郊外まで行こうとビルの上を飛ぶ。
原作通りなら金属バットとガロウが戦っているはず。
今の俺の強さなら問題ないと思うが、ガロウの強さは把握しておきたい。
いずれ俺より強くなることが確定してるしな。
それに流水岩砕拳とやらを体感して、シルバーファングと戦うことになった時の対抗策を練っておきたいのだ。
しかし、そんな俺の思考は唐突に飛来した弾丸によって中断された。
二十センチはありそうな大口径の弾丸が、俺の顔面を正確に狙って飛んできたのだった。
ガリィッ!!と歯で噛んで受け止めたが・・・こんな攻撃して来る奴いたっけな。
飛んできた方向に目を向けると、遥か遠方にメタルナイトに酷似した機体が浮いているのが見えた。
ドンッ!ドンッ!という砲撃音と共にさらに弾丸が飛来する。
ちまちまと鬱陶しいそれを受け止めながら、俺は思い出した。
あれはボフォイ博士の戦闘ロボット『メタルシリーズ』・・・!
その中でも右手が大砲になった『メタルルーク』だ!
村田版だと出てきてなかったが、ONE版では最新話付近で登場した。
『メタルナイト』があっさりとやられたことで、俺を探るために持ち出してきたのか。
だが、あの距離なら『歯ミサイル』で壊せる。
そう思って俺が発射態勢になると、唐突に横から強い斬撃を受けた。
「ぐぅ!?」
腕で受けて下手人に向き直ると、そこにいたのは『メタルナイト』よりも一回り大きく、巨大な剣を持った機体だった。
『メタルキング』だっけか?
今の一撃は、相当に強かった。少なくとも、さっきの金属バットの打撃のように無防備に受けるわけにはいかない程度には。
「なるほど・・・S級上位ってのはダテじゃないな・・・」
負ける気はしないが、これがまだまだ出てくるとなると少し厄介だ。
だが、むしろ闘志も高まるってもんだ。
歯をガチガチ鳴らしながら、俺はメタルキングに襲い掛かった。