ヒーロー協会本部にて、S級ヒーロー達が一堂に介していた。
議題は、ヒーロー協会最高顧問ナリンキ氏の息子ワガンマの救出。
もとい、怪人協会への対策である。
会議を進めるのは『童帝』。弱冠10歳にして作戦立案を任される、正真正銘の天才である。
「キングさんとシルバーファングさんはまだ連絡が取れていないんだけど、作戦が決まったから今いる皆にはもう話しておくよ」
「僕の衛星『障子に目あり号』でZ市のアジトを確認してみたんだけど、確認された怪人の生体反応は500以上だ。一人当たりの討伐ノルマは単純計算で60体くらい。まあ皆ならこの数は問題ないと思うんだけど、懸念点は敵幹部の戦力だ」
「先日S市に出現して都市部を壊滅に追いやった怪人達のうち、二体『幹部』と目される怪人が確認されている」
そこで会議室の机の上に、二匹の怪人の立体映像が表示される。
「うち一体はムカデ長老。こいつはキングさんに倒されたけど、もう一体は討伐報告がない。未だ健在と見ていいと思う」
「交戦したメタルナイトや金属バットからの報告によると、名前は『ハグキ』。S市を爆心地みたいな有様にしたのもコイツだよ。シルバーファングの打撃をものともしなかったという報告もある。その戦闘能力、破壊規模共に災害レベル『竜』で間違いない」
ムカデ長老に比べて随分間抜けな造形に、S級ヒーロー達は疑問を抱く。
「何・・・コイツがシルバーファングより強いだと?」
「見た目は雑魚怪人って感じだが・・・」
シルバーファングを高く評価するアトミック侍は、彼が倒せなかったという怪人に興味を抱く。
一方自分の筋肉に絶対の自信を持ち、シルバーファングと双璧をなす肉弾戦の頂点たる超合金クロビカリは、その情報を聞いてなお侮りに近い感情を抱いたままだった。
「うん。シルバーファングは人間怪人を追っていたんだけど、このハグキにあと一歩のところで人間怪人を連れ去られたらしい。実力は間違いないよ」
「ふーん。まあ、私が負けるとは思わないけど・・・」
この場にいるヒーローの中ではトップに立つ戦慄のタツマキもまた、その情報を聞いてなお自分の脅威とは認識しなかった。
「ともかく!幹部というからには、コイツだけじゃないと考えるべきだ。『竜』クラスの怪人が複数いる、と想定して掛かるべきだね」
童帝の発言に、閃光のフラッシュやゾンビマンも同調する。
「そうだな。少なくともボス格の『怪人王オロチ』と参謀の『ギョロギョロ』、コイツらは間違いなく『竜』だろう」
「幹部に『竜』がいるなら、それらを束ねる奴らは当然『竜』に相当するだろうからな。サシでの勝負はなるべく避けたいところだが・・・」
ゾンビマンの発言は弱気に見えるが、自身の実力を過信しがちな者が多いS級の中で珍しく客観視ができる彼らしい正しい発言だと言える。
同じく状況を認識する能力に長けた童帝も、同じ様に考えていた。
「金属バットが負けたように、S級であっても『竜』二体相手だとほぼ敗北すると見ていい。できれば複数人で行動したいところだけど・・・」
「私は一人でいいわ」
「俺もだ。遅い奴が一緒にいても足手まといになるだけだからな」
「俺もいらねぇ。一人の方が剣が振りやすい」
S級の中でも実力上位の者たちは、童帝の提案を断った。
それを聞いた童帝は内心でその自信過剰っぷりに呆れるが、今回ばかりは彼らの言い分にも利点があったのだ。
「今回は人質救出がメインだ。人質や幹部、ボスの位置までは僕の調査でもわからないんだよ。捜索の目を増やすためにも、今回の作戦では全員ばらけて突入するつもりだ。ただ、皆に通信可能な端末を渡しておくから、窮地に陥っても救援が来ると思わないほうがいいけど、救難信号の出し方は覚えておいてね」
最初から圧倒的不利な状況なのだ。先手を取られた以上、ある程度のリスクは飲み込まざるを得ない。
その後アマイマスクがやってきて多少揉めたが、遅れて到着したシルバーファングとキングによって場は収まり、A級をメインとするサポートメンバーが集まったことで彼らはゴーストタウンに出発した。
ーーーーーーーーーー
地響きがして目が覚めた。
まだ眠り始めてちょっとしか経ってないと思うが・・・。
「ひぃぃぃぃ、ハグキ様ァ!なんですかこれ!?」
マナコが身を屈めながら震えているのを横目に、俺は地響きの正体を察した。
「ポチが暴れてんな」
ガロウが戻ってきたのだろう。そんでポチとかち合い戦闘になったってとこか。
ポチなら心配いらないだろう。手加減込みとはいえ、サイタマのパンチを食らってもピンピンしている怪人だし。
けどずっと暴れられても事だしな・・・。
「ちょっと宥めに行くか・・・」
俺はのっそりと起き上がると、ポチの元へと向かった。
ちょうどポチが、真下のガロウに向かって焦熱弾を食らわせて下の階に叩き落としたところだった。
この下は確かギョロギョロの部屋・・・。概ね原作通りに進んでいると見ていいか。
にしても、ポチのアレを至近距離から食らってピンピンしてるとは。
俺でもちょっと火傷するから、既にガロウは『竜』並みの肉体強度を持っていると判断していいだろう。
あいつはこれからあのボロスにも届く強さに成長して、最終的にはレベル『神』の領域にすら手をかける。
俺より強く、尚且つ敵になる可能性のある要警戒対象の一人だ。
「おーいポチ。まあ落ち着けって。ほら骨やるから、な?」
得物が視界から消えたことで唸り声を上げていたポチだが、俺の存在に気づいた途端機嫌を直して近づいてきた。
「ヴォウ!」
骨(ゴウケツの)を与えてやると、ポチは楽しそうに噛みついた。
その辺の骨だと噛み砕いちゃうんだよな。
その点、ゴウケツの骨なら丈夫で安心だ。この間拝借しといてよかった。
ま、飲み込んだりしてもポチは平気なんだけど。
しばらく骨を投げたりしてポチと遊んでいると、今度は下層から地響きが聞こえてきた。
今度はオロチと戦い始めたか?
・・・まあいいや。
見物したい気持ちはあるが、今から俺にとっても洒落にならないイベントが始まるんだからな。
「見物」は終わり、これからは原作イベントの中心に巻き込まれることになる。
気合いれないとな!
「マナコ、俺の服持ってるか?」
部屋に戻ってきた俺は、マナコに聞いた。
「え?はい、持ってますけど・・・」
「じゃあそのまま持っといてくれ。絶対なくすなよ」
「ええ!?そんな大事なもの私に預けないでくださいよぉ!」
これからS級達と戦う上で、胃袋の中身が滅茶苦茶になることもあるかもしれないからな。
いつも着ている奴は収納用にしまったままだが、予備をマナコに渡しておく。
無事な服を探すのも面倒だし、マナコならアジトが壊滅した後でも地上で生きてるだろうからな。
「俺の服持ってんだから死ぬなよ」
数時間後。
地上にて戦闘が行われていることが伝わってくる。
災害レベル『竜』に片足突っ込んでるジャガン率いる怪人軍団が、やってきたヒーローたちを迎え撃っているのだ。
だが、まあそろそろ全滅だろう。
S級に勝てる戦力ではない。
少しでもヒーローを消耗させ、情報を得るためだけの所詮捨て駒だ。
地上戦を分身体を通して眺めるギョロギョロが呟く。
「もう見たよ。できればキングの力も見たかったけど・・・」
「なるほどなるほど。これで大体わかったよ」
そんなギョロギョロに声をかける者たちがいる。
「チッ・・・殺す気が昂ってたのに呼び出すんじゃねーよ」
「で?」
「何がわかったって?」
災害レベル『竜』。
怪人協会最高戦力『幹部』。
戦死したゴウケツとムカデ長老。
作戦行動を任せられるだけの理性を持たない、育ち過ぎたポチとエビル天然水。
それらを除く五体の幹部が、ギョロギョロの面前に集まっていた。
もちろん、俺もその一人である。
「よく集まってくれた。対ヒーロー協会の作戦を簡潔に伝える」
「やってきたヒーローは、『戦慄のタツマキ』『シルバーファング』『アトミック侍』『童帝』『キング』『ゾンビマン』『豚神』『超合金クロビカリ』『閃光のフラッシュ』『ぷりぷりプリズナー』のS級10名にA級一位『アマイマスク』、それに下級の雑魚が15名ほど」
「おいおい、俺達とやるにはちょっと数が少ないんじゃねーの?」
やってきたヒーローの数を聞いて鼻で笑う黒い精子。
その発言に、ギョロギョロは単眼を不気味に歪めながら返す。
「S級ヒーローは手ごわいぞ。だが・・・我らとやるには不足しているという点については正しい。『ブラスト』と『メタルナイト』がいない。大方、タツマキがいれば勝てると踏んだのだろう。飛車角落ちの状態でいらっしゃったようだ・・・」
「ならばやることは当然、蹂躙だ」
「黒い精子はアトミック侍。ホームレス帝はゾンビマン。ブサイク大総統はアマイマスク。ニャーンはぷりぷりプリズナー。そしてハグキは豚神を狙え。私はタツマキを相手取る」
「今言った相手ならば、そう手間取ることもなく倒せるはずだ」
「各々ターゲットのヒーローを始末し終えたら、残りのヒーローの始末に向かえ。位置は私が指示する」
「残りのヒーロー・・・特に『キング』は未知数だが、我々で袋叩きにすれば確実に勝てるだろう」
「アトミック侍、ね。少しは楽しめればいいけどなぁ?」
「ゾンビを殺せ、と?フ、この私の力なら容易いことだ」
「キヒヒヒヒ・・・あのすかした面をぐちゃぐちゃにしてやんぜ・・・!」
「ぷりぷり・・・ああ、囚人たちが言ってたやつね」
俺は豚神か。原作通りでもハグキなら圧倒出来た。今の俺なら普通に考えて楽勝・・・だが、S級は油断ならないと最近教え込まれたばかりだ。油断なく行こう。
「大食い対決ってワケか。負ける気しないな」
「では、行け幹部たち。調子づいたヒーローどもに現実を見せてやれ!」
ギョロギョロから指示された地点に向かいながら、俺は考えを巡らせた。
よーし、概ね原作通りだ。
適当に豚神をいなしつつ、原作通りに進めて・・・地上に出てから、死亡イベントを乗り切る。
これでいいはずだ。
・・・何か違和感あるな・・・。
待て、『シルバーファング』もいるってギョロギョロ言ってたよな。
村田版だったら、ガロウに手心を加えた疑いで童帝がメンバーから外して、キングの手引きでこっそり侵入してきた感じだったはず。
怪人側もシルバーファングの参戦を認識してなかったはずだ。
まさか、俺が介入したことで展開がちょっと変わってるのか・・・?
不安だ。
メタルナイトからハグキの脅威を聞かされたことで、こいつに横やりされたならシルバーファングがガロウを逃がしたのもまあ仕方ないか・・・となった童帝。