ふー、焦ったぜ。
最初は手加減してたのに、豚神が思った以上に頑張るもんだからこっちもエスカレートして危うく殺しかけた。
いやまあ殺すまでは行かなかったと思うが、噛みつきが成功してから豚神を離したりするといらん邪推を生みそうだからな。
自然な形で豚神を離せたので、やってきた超合金クロビカリには感謝しないとな。
そして不意打ちで殴られた分でチャラだ。
さらに背中から蹴られた分は恨み返し決定な。
にしても、背中が痛い。これまでS級ヒーローの攻撃を受けてもほぼ出血しなかった俺が出血するとはこれ如何にって感じだ。
超合金クロビカリ・・・間違いなく最高峰のヒーローの一人だ。
これも俺が暴れたことによる差異か?まさかコイツが援軍として豚神の救助にやってくるとは。
アレ?とするとガロウにボコられるぷりぷりプリズナーを助けるやつが居なくなるのでは・・・。
まあいいか。ぷりぷりプリズナーはなんか生きてそう。
実際問題、原作でも他のS級達が幹部にボコられてる間クロビカリはフリーだったし、来てもおかしくはない。
まあもうなんか、タツマキとブラストとサイタマ以外なら何とかなりそうだしどうだっていいや。
ひとまずコイツの相手に集中だ。
間違いなく、今まで戦ってきたヒーローの中で生物としてダントツに強い。
パンチ一発で俺の体を揺るがせ、キック一発で吹き飛ばす。
不意打ちだったとはいえ、怪人協会の連中でもこれができるやつはオロチくらいだろう。
原作のハグキだとワンチャン『パンッ☆(爆砕)』で終わってたかもしれない。
肉体的にはちょっと分が悪いか。
だが、いいだろう。この程度の障壁なら超えてやる。
吹き飛ばされた先で瓦礫を排除した俺は、やってきた超合金クロビカリに向かって『歯茎突進』を行う。
クロビカリもぶちかましを行い、俺とクロビカリの体はぶつかり合った。
人知を超えた衝撃により、周辺の空気が押し除けられる。
一拍遅れて轟音が響き、衝撃波がアジトを走った。
ぶつかり合いの結果は・・・互いに無傷。
いやでも、歯がジーンってなった。
あの硬いものが歯にぶつかった時の感じ・・・めっちゃ久しぶりだ。
やっぱ今まで戦ってきたやつの中でも別格・・・!
全力で戦っても壊れない相手は、人間の中じゃ初めてだな。
手加減なんて考えない。
全力で組み伏せてやる!
ぶつかり合った反動で距離を取った俺は、クロビカリの顔面を全力で殴りつける。
一歩だけ後退したクロビカリは、負けずに俺を殴り返してきた。
殴る。殴られる。殴る。殴られる。その応酬。
金属バットとガロウの時のように隙が無いわけでも、シルバーファングの時のように受け流されるわけでもない。
ただ殴り合いが強い。それだけ。
それが・・・それだけが、異常なほど高い水準にある。
「ふんッ!」
「ッ・・・!」
クロビカリの拳が俺の頭に突き刺さり、たたらを踏む。
お返しとばかりに一発叩き込む。
「むんッ!」
クロビカリの首が僅かに仰け反る。
クロビカリの身体は揺れるし、足元の地面も衝撃に耐えきれずに砕ける。
だが、それだけ。
効いていない訳ではないが、決定的なダメージにならない。
「いいぞ!俺の全力をぶつけられる相手!最高だ!超合金!!バズーカ!!」
「ぐふっ!」
俺の腹に拳がめり込み、巨体が浮く。
壁にぶつかり、背後の階層が崩落した。
いってぇ。
再生するから問題ないけど、感じる痛みと衝撃はごまかせない。
「どうした!俺の肉体は、長年のトレーニングによって作り上げた最高傑作!怪人如きに後れを取るつもりはないぞ!」
ふん。
俺に向かって歩いてくる超合金クロビカリを見つめる。
パワーも硬度も極めて強く、スピードも金属バットとかより大分速いな・・・。少なくとも、俺が隙をつこうとしてもそれに対応できるだけの反射速度はある。
確かに、並の怪人じゃあ相手にならないだろう。
調子に乗るのも分かる。
初めて殴り合える相手と出会って、自分の筋肉の性能を確かめられる相手と出会って、楽しくなっているのもまあ分かる。
自分の強さが実感できる相手はさぞ楽しかろう。
だが。
「これならどうかな?」
俺は腕をちょっと長めに変形して、格闘の構えを取る。
「?」
いぶかしむクロビカリのパンチを、流れるような動作で受け流し― ―
反動をすべてクロビカリの顔面に叩き込む!
「ぐッ!?」
俺にガロウほどの技はない。だが、肉体スペックにそこまで差がない現状、ただのテレフォンパンチなら受け流せる!
これでも、ゴウケツとの組手を繰り返し、ガロウ、バングと高次元な武術家たちとの戦闘を経験した身。
今まで使う必要がなかっただけで、素人の打撃なら簡単に受け流せるのさ。
「怪人が・・・技を・・・」
「お前の攻撃じゃもう効かねーぞ?」
「それはどうかな!超合金バズーカ!!」
「それだけか!?」
馬鹿正直に打ち込んでくるクロビカリの腕に拳を添え、再び受け流す。
だが、クロビカリは筋肉で無理やりに軌道修正してきた。
拳が俺の頬をかすめる。
「大した技だが・・・シルバーファングほどじゃない!」
「そりゃそう」
見様見真似だしな。
続けて放たれる連打を受け流すも、対応が追いつかない。
受けるダメージは減ったが、俺が未熟だからか反撃出来る回数も減っている。
やはり俺の身体で武術は無理があるか。
ならば。
「いただきまーす!!」
やっぱ噛みつきだろ。
俺の攻撃の中では最も威力が高い。
突き出された腕に噛みつく。
ガキィィンッ!!
硬質な音が響くとともに、俺の歯とクロビカリの筋肉が拮抗する。
いや・・・硬った。これ肉だよな?どうなってんだこれ。
「んッ!?」
だが、肉に歯が食い込んでいる。初めてクロビカリが苦痛に顔を歪めた。
「このぉッ!」
噛まれた腕とは反対の腕で俺の上顎を掴み引き離そうとするクロビカリだが、俺の口はそれくらいじゃ開かない。
どんどん力を込めていき、更に深く歯を食い込ませる。
「ぐあぁぁぁッ!?」
ついに悲鳴を上げたクロビカリは、下顎に脚をかけて力いっぱい俺の顎を開き始めた。
ちょ、まじか。俺の咬合力が負けるのか。
少しだけできた隙間から、慌てて腕を引っこ抜き距離を取るクロビカリ。
その腕には深い歯型が刻まれ、表皮に若干血がにじんでいる・・・ように見える・・・気がする?
まあどちらにせよ戦闘を継続するには問題ないダメージだろうが・・・。
だが、クロビカリの表情はさっきとは打って変わり、怯えたような表情になっている。
ついに出たか、クロビカリの弱点が。
それはメンタルの弱さ。
強すぎて追い詰められたことがない故に、いざそういう状況に直面したらそれまでのパフォーマンスを維持できない。
ヒーローとしてどうかと言う意見もあるだろうが、コイツにそれを教えられる怪人なんてレベル『竜』でも一握りだろう。
だから仕方ないのだ。
「ほーれどうした?さっきまでの自信満々な面が消えてるぞ」
「くっ・・・そぉぉッ!超合金!!ダブルバズーカァ!!」
両手で放つ超合金バズーカ。単純に考えて威力二倍・・・だが、それじゃあ俺を倒すまではいかない!
あえて無防備に受ける。
俺の歯はその拳を真っ向から受け・・・そして、弾き返した。
クロビカリとの殴り合いを通して、俺の体は徐々に成長しつつあった。
俺の体が強くなりすぎて、ポチやゴウケツとの戦闘では頭打ちになっていた俺の成長だが、クロビカリという肉体的な格上とぶつかったことでクロビカリ以上の水準へと引き上げられつつあったのだ。
「んなッ・・・!?」
先ほどまでは効いていた拳が効かなかったことで、驚愕するクロビカリ。
まあ、歯に当たったからこうなっただけで、肉体の部分に当たればまだダメージは受けると思うけどな・・・。
「ダメ押しだ。ペッ」
胃液を吐き出す。ゲロシャワーで吐き出すほど大量には吐きかけない。全身が溶けたらショック死しそうだしな。
だが、それで十分のはずだ。
「むッ!?」
咄嗟に腕を交差させて受けたクロビカリ。だが、自分の腕と、胴体に少し俺の超消化液が触れてしまう。
ジュウウウウウウウウウ!
肉の溶けるような、俺にとっては聞きなれた、されどクロビカリにとって嫌な音が響く。
クロビカリの表皮は溶け、皮膚の下が見え始めていた。
まだ大した怪我ではないだろう。
痛みはあるかもしれないが、それはどんな怪我でも同じこと。
通常なら戦闘可能だろうが、ことクロビカリに関してはそうではなかった。
「ぎゃァあアァあぁッ!!!」
俺の眼前だというのに、立っていることもままならず転げまわる。
「その程度で戦意喪失か?情けない奴だ」
俺の消化液をこの程度で済ませてる時点で相当凄いんだがな・・・。
まあいいか。ここは倒したってことで・・・。
ここで食いついたら本当に死んでしまうかもしれないし。
「流水岩砕拳」
突如として俺の身体に連撃が叩き込まれる。
あのさァ。
もういいってシルバーファングは!
クロビカリをジェノスが担ぎ、一旦戦線から離脱させる。
ジェノスも来てんの!?
シルバーファングの横にはボンブが並び立ち、その背後にはフブキまでいる。
「ちょ・・・なんか多くない?」
やばいやばい。更に面倒なことになってきたぞ。
「子供を誘拐するような奴らが多勢を卑怯とは言うまい?」
「またこいつか・・・」
「今度こそ排除する!」
「S級が負けるなんて・・・やっぱり怪人協会はとんでもない化け物の巣窟だったのね」
シルバーファングは・・・ちょっと手間取るか。
ジェノスもやたら刺々しいフォルムになってるし、オロチサイコスの攻撃を相殺した超火力を放てるとみていいだろうな。
負ける気はしないが、もうちょい頑張ったほうがよさそうか・・・。
今更な相手だが、前回はいささか消化不良でもあったからな。
けど、あんまり原作から離れたくないんだがなぁ。
怪人の気配は大体わかるけど、強いとはいえ人間の気配は見分けつかないんだよ。サイタマは特に、遭遇するまで全く気づかない。
遭遇しないために、原作での動きを参考にしてたんだが・・・これじゃ意味ないじゃん。
ポチは何してんだろ。
原作だとこいつらの相手はポチだったはず・・・。
ちょこちょこ暴れてるのは分かるんだが・・・。
すると、突如として轟音が響きアジト全体が揺れた。
「なんじゃ!?」
「この揺れは・・・!?」
「今のは・・・」
「キャッ、何よ!」
遠くで暴れてたポチが急に大人しくなった。生きてはいるようだが・・・。
「そうか。今のが・・・」
サイタマのパンチか・・・。
クロビカリと俺の激突で生じた衝撃なんて比較にならない威力だった。
戦ったら今の俺でも勝ち目ないな。分かっていたことではあるが、実際に体感してみるとまだまだ遠い。
けど。
これでサイタマがしばらくオロチに掛かりきりになるはず。
俺の感知能力も、オロチのようなデカい気配が衝撃の発生地点に向かっているのを捉えている。
なら、多少原作を乖離したとしても、サイタマと遭遇することにはなるまい。
つまり、心置きなくこいつらと戦えるってことだ。
豚神に超合金クロビカリと、いい感じに身体を動かし続けたせいで食欲の方も高まっている。
前回好き勝手やられた恨みもあるしな。
「ガロウが腹の中で暴れてる訳でもないんだ。テメーらが俺に勝てるわけねーだろ」
ポチが殴られて俺も思ったよりむかついてるし、この鬱憤を晴らさせてもらうぞ・・・!
・・・・・・・・・・
ヒーロー協会が設立された当時、ヒーローのランク分けはC級・B級・A級の3段階であった。
協会がヒーローをランク付けする際は、
・怪人等討伐の実績
・戦闘能力
・人助け等の社会的貢献度
・大衆人気
等を主な基準としている。
単に強ければA級になれるという訳ではなく、日常の素行や成果を加味した査定を協会が行うことで、身体能力が低くても長所を生かして上位に食い込むことが可能になる。
設立後は毎週のように塗り替えられるランキングによって熾烈な正義の争いが半年以上続いた。
しかしある時協会は気づく。
災害レベル『鬼』。
ランキング上位をキープし続けている者達が束になってようやく退治できる怪人。
それを───
単独で倒せる者がいる。
彼らは不思議なことに自分の順位に固執しなかった。
手柄を挙げようと一足先に現着したヒーロー達が全滅したころにマイペースで現れ───
戦い、そして、勝利する。
総合実績ではヒーロー活動をコツコツと行い、ランキング上位に常駐する者達より下であるため、埋もれていたのだ。
このままでは稀有な才能の確保が難しいと判断した協会は、戦闘能力に特化しそれ個人で国が有事に編成する軍隊の一個師団並の戦力を有すると認めたヒーローに別枠を用意した。
彼らはS級ヒーローと名づけられランクが新設されることになる。
「成りあがってやる」という野心を抱いてプロヒーローの門を叩く猛者は多い。
しかし目指す先は”A級のトップランカー”であり”S級”ではない。
それはいかなる猛者の間にも世間一般の共通認識が通用している証拠である。
『S級は壊れている』
これは一度は最強を目指した男達からの畏敬の表れであり、その存在はいかなる干渉を受けようとブレる事はないと認められている。
しかし。
この日の相手は───
(クロビカリに加勢しなきゃ・・・!!けど身体が動かない・・・!)
全身から血を流し、動くこともできず応援に来てくれたクロビカリの戦いの音を感じ取るしかできない男は、『S級10位ヒーロー:豚神』。
「天井崩すとかなめたマネしてくれたな、オッサン」
黒い精子に吊り下げられ、全身を滅多打ちにされている侍の男は、『S級4位ヒーロー:アトミック侍』。
「どうしたS級。もう復活しないのか?それとも出来なくなったか?」
光球を浮かせるホームレス帝の眼前で全身から煙を上げ、四肢から内臓に至るまでを完膚なきまでに破壊されているのは『S級8位ヒーロー:ゾンビマン』。
(薬品も効かないか・・・アイテム使い果たしちゃったよ・・・今こそ逆転の発想を!僕は天才だろ!あー糖分が足りない!)
流動するエビル天然水の身体に捕らわれ、窒息寸前に追い込まれているのは『S級5位ヒーロー:童帝』。
人間怪人ガロウの打撃を受け、立てないほどのダメージを身に受けているのは『S級17位ヒーロー:ぷりぷりプリズナー』。
鏡が散乱する部屋で、ブサイク大総統相手に何もできずにボコされているのは、実力は間違いなくS級と目されている『A級1位ヒーロー:アマイマスク』。
同じく『A級2位ヒーロー:イアイアン』『A級3位ヒーロー:オカマイタチ』『A級4位ヒーロー:ブシドリル』もエビル天然水によって血を流して倒れていた。
彼らトップヒーローがバケモノ扱いされるのはあくまでヒト社会での話。
ヒーロー協会は今日初めて本物のバケモノの集団と接触したのであった。
死を覚悟するということ。
人ならざる力を手にした者達ほど、縁のない話になっていく。
彼らもまた、今日死ぬ覚悟は出来ていなかった。
彼等の脳裏に久しく忘れていた感覚が再び現れ始めていた。
『恐怖』。
そしてそれは、最硬の身体を持つこの男でも例外ではなかった。
ヒーロー『超合金クロビカリ』は幼少の頃、虚弱体質で運動が苦手であった。
遊びとはいえスポーツや追いかけっこなどではでは敗北を重ね、自信のない少年時代を過ごしていた。
15歳の誕生日、そんな彼はプレゼントとして3キロのダンベルをねだった。
彼は毎日欠かさずダンベルを持ち上げ続け、ダンベルの重さは5キロ10キロと増えていく。
数年後には片腕で50キロを持ち上げるようになり。
さらに100キロ、200キロ、1トン、2トン・・・さらに月日を重ねた時、その肉体はどれ程の頑強さを手にしたのか。
もはや数値で表すことは叶わぬ領域に達していた。
彼は自分との孤独な戦いに完全なる勝利を収め、大いなる自身を育むことに成功する。
その筋肉まさに無双!
あらゆる競技で圧倒的なパフォーマンスを見せつけた彼はヒーロー協会に活躍の場を移し、連勝に次ぐ連勝。
やがてS級ランクに昇格し、自分の100%をぶつけられる相手を探すようになった。
だが今、自分の100%をぶつけられる相手を前にして、彼は自分の間違いに気づいた。
目の前の怪人は強い。
自分の100%をぶつけてなお崩せない怪人など初めてだった。
最初こそ対等な殴り合いに興奮した。自分の強さを実感し、楽しかった。
豚神の救援として来たことも、自身の肯定感を高める一因として機能した。
S級ヒーローである豚神が負けた相手でも、自分は対等以上に戦える。
やはり自分は最強だ、と。
だが、ハグキが徐々にクロビカリの動きに対応し始め、クロビカリに痛痒を感じさせたことでその感情は吹っ飛んだ。
『この戦いでは俺も無事では済まない』
その考えが現実味を帯びた時、彼の筋肉は急速に萎えていった。
この戦いを一刻も早く終わらせたくて放った全力の一撃が簡単に防がれ、続け様に消化液によって自慢の黒光りする皮膚に傷を入れられた時。
彼の心は完全に折れた。
「ヒィッ、俺の筋肉が、溶ける・・・育てて来た無敵の筋肉が・・・」
この場にいるはずがない鬼サイボーグに救出されたことにも頭が回らず、豚神が発した救難信号によりシルバーファングが応援に来てくれたことに感謝もできず・・・彼は戦場から少しだけ離れた場所でただ震えて蹲ることしかできなかった。
轟音が響く。
「ヒィッ!?」
クロビカリが目を向けると、そこはまさに地獄絵図だった。
クロビカリと戦っている時とは打って変わって、縦横無尽に飛び回るハグキ。
これまでの鬱憤と、可愛がっていたポチが殴られたこと、そしてサイタマがいないことからタガが外れて、怪人としての本能に身を任せ大暴れしていた。
多様な手段を用いて、圧倒的な破壊を撒き散らしていた。
それに挑んでいるのは、5人の強者。
シルバーファングが近接を担当し、ハグキの鞭のようにしなる伸びた口に対応している。
超スピードで一帯を抉り取るその伸びた口を上手く流しつつ、近づいて打撃を加えているがハグキに応えた様子はない。
ガチンガチンガチンとハグキが口を鳴らすたびに発生する衝撃歯は、ボンブが旋風鉄斬拳による真空波を当てることで対処していた。
一発の衝撃歯の威力は絶大で、一つに対して複数の真空波をぶつけることでなんとか威力を弱められているのが現状だった。
鬼サイボーグは中距離を維持しつつ、身体のあちこちから高威力の焼却砲を放ちシルバーファングの援護をする。
一直線の焼却砲なら食べて無力化してしまうハグキだが、複数の方向から襲いかかる焼却砲には対処しきれず、いくつかを食らってしまっていた。
だが、これも大して効いた様子はない。
フブキは後方で達人兄弟二人の強化と、好き勝手吐き出される消化液を超能力で浮かせて遠くに飛ばす役割を担っていた。
達人兄弟は武術による液体の弾き飛ばしができ、深海王との交戦経験からジェノスも消化液への対応策を持っていたが、完璧に対処するにはハグキの他の攻撃が激しすぎた。
フブキに治療を受けた豚神も参戦し、抜けてくる衝撃や攻撃から身を挺してフブキを守っている。
豚神には消化液に耐性があり、他のメンバーが消化液を喰らいそうになったら庇う場面もあった。
皆命を賭して戦っていた。
一つ掛け違えば一気に全滅するだろう。
クロビカリにとっては軽傷で済む攻撃でも、今戦っている面子なら致命傷だ。
彼らを見て、自分には勇気など無かったのだ、とクロビカリは気づいた。
(怖い・・・戦うのが怖い・・・)
自分がやっていたのは圧倒的な力の差がある格下を叩き潰すだけのヒーローごっこだった。
勝敗の見えない闘争に身を投じるつもりはなく、求めていたのは『気持ちの良い勝利』。
それを自覚したクロビカリは自信を喪失した。
自分の情けなさと勇気ある者達への劣等感が、彼の最後の自信を根こそぎ奪ってしまったのだ。
既に体表の消化液は効力を失いつつあったが、既に負った傷の痛みと心の痛みは消えない。
(『ヒィッ』だと・・・?)
なんて情けない。
クロビカリはやはり、その場から動くことは出来なかった。
「うッ!?」
唐突に、ハグキの衝撃歯をモロに受けた豚神が苦悶の声をあげて吹っ飛んできた。
「豚神!?大丈夫か!?」
「豚神!」
クロビカリが心配すると同時に、フブキも飛んできた。
誰かが庇ってくれないと、フブキではあの戦場に居られないのだ。
一刻も早く回復させ、タンク役を戦場に復帰させなければならなかった。
フブキは豚神を治療しようとしたが、クロビカリの姿を見て驚きの声をあげる。
「ひどい怪我・・・消化液を食らったのね。今治療するわ」
だがそのフブキも、既にボロボロだった。
ハグキの攻撃は余波でもフブキの致命傷になりうる。
故に、常にバリアを張りながら他の超能力を並列して使わなければならなかった。
それはフブキの脳に大きな負荷を与えており、既にフブキは頭や目から血を流している。
「いや俺は・・・」
まだ戦える。
そう言えればどれだけ良かったことか。
「フブキ!クロビカリを回復させるのに僕の体力を使えないかい?」
「豚神・・・でも、貴方も重症なのに・・・」
「あの怪人を倒すにはクロビカリの力が絶対必要だ。それに君も連携の要・・・僕は体力に自信があるから大丈夫さ。さあ早くやってくれ!」
「わかったわ!」
フブキは豚神の体力を借り受け、クロビカリの治療を開始する。
見る見るうちにクロビカリの表皮は元の輝きを取り戻し、完治した。
「やったわ!」
「俺の腕が・・・元通りに・・・」
安堵するのも束の間、フブキは豚神自身の体力で豚神の傷を回復させると、戦場への復帰を促した。
「さあ二人とも!急いで戻るわよ!あの三人もいつ限界が来るか・・・」
「ああ!ってクロビカリ、どうしたんだい?」
傷は治ったはずなのに、一向に立とうとしないクロビカリに豚神が疑問を呈する。
クロビカリは葛藤しながらも、自身の気持ちを打ち明けた。
「戦うのが怖い・・・自分が傷つく覚悟なんて俺には無かった。君たちとは違った・・・俺がやっていたのはただのヒーローごっこだったんだ・・・」
「クロビカリ・・・」
「ふざけないで」
フブキは『地獄嵐』をクロビカリにぶつける。
レベル『鬼』の怪人でも傷をつけられる威力だが、クロビカリには当然通用しない。
弱者の刃は強者には刺さらない。
クロビカリの心が折れてなお、そこには絶対的な超えられない力の差が存在していた。
「怒るのも無理ないな・・・」
体操座りで微動だにしないクロビカリに、フブキは怒りを滲ませながら声をかける。
「当然よ!貴方は姉と並ぶS級ヒーローなんでしょう!?私がどう頑張っても辿り着けない境地にいるのよ。今だってそう!私の地獄嵐で傷一つ付かない・・・戦わないなら、その強さを私に分けてよ!本当なら、私がフブキ組のメンバーを助けなきゃならないのに・・・」
「本当にすまない・・・」
そんなフブキとクロビカリを見て、豚神が声をかける。
「クロビカリ・・・怖い気持ちはよく分かるよ。僕もあの怪人が怖い。けど、勝つためには絶対に君の力が必要だ。僕は遊びのようにボコボコにされたけど、君は対等以上に渡り合い傷までつけて見せたじゃないか」
「だが・・・俺は・・・」
すっかり治った腕を見つめる。この輝きが、再び失われることが恐ろしくて震えが止まらない。
「また溶かされるかもしれない・・・!」
「そうだね」
「次は腕だけじゃ済まないかもしれない。死んでしまうかもしれないんだぞ・・・?」
「確かにそうだ」
クロビカリは、豚神のあっさりとした肯定に思わず顔を上げる。
豚神もまた、震えていた。
初めて捕食される側に回った豚神もまた、まだ無惨に死ぬ覚悟は出来ていなかった。
「怖いよ。でも、今ここで逃げたら・・・代わりに僕より弱い誰かがアレと戦うことになる」
クロビカリは戦場を見る。
シルバーファング。
ボンブ。
鬼サイボーグ。
皆クロビカリより脆い者達だ。
必死にハグキの猛攻を防ぎ、勝機を探っている。
だが、それも時間の問題だろう。
未だ消耗を見せぬハグキに対し、疲労や消耗によって徐々に追い詰められていく一行。
クロビカリが矢面に立てば、少なくともその負担は大きく減るだろう。
勝機も見つかるかもしれない。
「くっ!?」
ハグキの放った衝撃歯がジェノスの装甲を掠める。達人兄弟の受け流しや相殺が間に合わなくなり始めたのだ。
「僕は戻るよ。クロビカリ、誰のために戦うかってことを、よく考えてほしい。たとえ誰だろうと、それは戦う理由になるはずだから」
「私も行くわよ!」
ダッと地を蹴って戦場に向かった二人を、見送るしか出来なかったクロビカリ。
「誰の、ために・・・?」
クロビカリには命に変えても守りたい人などいないはずだった。
己の筋肉の震えを見つめる。
この期に及んで自己保身に走る自分に嫌気がさした。
・・・・・・・・・・・
ジェノスは葛藤していた。
フルパワーを出力するかどうか。
フルパワーを10秒以上出せば壊れてしまう。
が、目の前の怪物には10秒でケリをつけられるかどうか不明瞭だった。
だが今、豚神とフブキが一時的に戦線離脱したことで、全体の余裕がなくなった。
誰かがやられる前に、一か八か最高火力を放つしかない。
「バング!ボンブ!隙を作ってくれ!」
「おうよ!」
「わかった!」
二人が攻めに出る。
ジェノスが何をしようとしているかを察したハグキは、衝撃歯でジェノスを妨害しようとするが、やってきた豚神とフブキにより阻まれる。
バングとボンブが『交牙竜殺拳』を使い、ハグキに一瞬の硬直を作り出した。
「真螺旋焼却砲!」
「うおおおおおおお!?」
ハグキに向かって一直線に放たれたのは、ジェノスの技の中で最大最強の局所破壊力を持つ技。
最初は咆哮で相殺しようとしたハグキだが、押し負けて吸い込みによる封殺に切り替える。
ズゴゴゴゴゴッと言う轟音とともに吸い込まれていく焼却砲。
1秒2秒と吸い込み続けるが、10秒を過ぎる直前───
「うおッ!?」
食いきれず、ハグキの口内が爆発して、口から炎が溢れ出した。
ハグキにとってこれまで食った攻撃の中で最大火力───あのポチの攻撃をも超えていたのだ。
この戦いで一番のダメージであったが、しかしハグキの命に届くことはなかった。
ミチミチと音を立ててハグキの胃や口内が再生していく。
「クソッ!」
命をかけてでも最大火力を維持すべきだったかと後悔するジェノス。
「よくもやってくれたなこの野郎ォォォッ!」
ハグキはお返しと言わんばかりに、食って吸収した炎を伴う指向性の大咆哮をジェノスに向けて放った。
極限まで圧縮された破壊力がジェノスを襲う。
「ジェノス君!」
防御は間に合わない。少なくともバングはそう判断した。
共にいる豚神、フブキ諸共破壊に飲み込まれるしかない。
着弾し、核爆弾でも爆発したかのような衝撃と熱が撒き散らされる。
だが───
煙が晴れた時そこにいたのは、腕を交差させ無傷で背後の三人を庇う超合金クロビカリだった。
「クロビカリ・・・」
「良かった・・・」
「来てくれたのね!」
間違いなく自分が耐えられなかった攻撃を無傷で防ぐクロビカリの実力を目の当たりにして呆然とするジェノスと、恐怖を乗り越えて来てくれたクロビカリに喜ぶ豚神とフブキ。
「ほーん?また俺に筋肉を溶かされに来たのか?」
「いいや・・・俺は守りに来たんだ。助けに来てくれた彼らと・・・情けない自分自身の誇りをな。さっきまでの俺には怪人と対峙する覚悟がなかった。だが今は違う。仲間と自分のために命を賭ける」
「そういうとこ嫌いじゃないぞ・・・だが、俺の方も余裕ないんでな。期待してるようなハッピーエンドは迎えられないぞ」
S級4名、同等の達人1名、B級1名VSハグキ。
ほぼ全ての怪人を討伐できるであろう超戦力が、一体の怪人を倒すためだけに集まったのだ。
「行くぞ!」
クロビカリが突貫する。
ハグキは消化液で迎え撃つが、その前にフブキが超能力で消化液を移動させ、クロビカリには当たらなかった。
正面からの激突。
クロビカリに組みついたハグキは噛みつこうとするが、クロビカリが下顎を固定してシルバーファングが上顎の力をずらし、しっかりと噛み合わせない。
「いってぇ」
顎がグキッとなったことに苛立ったハグキは飛び上がり、めちゃくちゃに衝撃歯と消化液を撒き散らすも、フブキの念動力とボンブの旋風鉄斬拳、ジェノスの焼却砲と豚神の身を挺した防御により防がれる。
先ほどまでより遥かに完成度の高い連携。
ハグキに近い力を持つクロビカリが主体となることで、全体の無理な動きがなくなったのだ。
(あ、これちょっとやべぇかも)
ヒーロー界における肉弾戦の頂点二人+αを前にして初めて、ハグキは危機感を覚え始めた。
ヒーローの反撃は始まったばかりである。
本文に入れられなかった補足
キング「一人だとやばいしとりあえずサイタマ氏の家行こ」
フブキ&ジェノス「怪人協会のアジトがこの下にあるだと!?これは行くしかない」
フブキ&ジェノス「二手に別れよう。キング一人ね」
キング「なんで俺が一人なんだよ・・・」
ボンブ「バングに同行」
バング&ボンブとフブキ&ジェノス「あ(合流)」
バング「むっ、救難信号が来とるぞ!行こう!」
アトミック侍から逃走中の機神G5「パンッ⭐︎(豚神の救援に向かうクロビカリに轢かれる音)」