ハグキに転生してから一ヶ月が過ぎた。
俺は今、絶賛トレーニング中である。
怪人、というか人間は死を乗り越える経験をすれば圧倒的に強くなると言う。
常軌を逸した肉体と精神への負荷。
適正な地獄を乗り越えるごとに爆発的な成長を見せる。
実際、童帝によって死にかけた災害レベル鬼の怪人である『フェニックス男』は復活した際に、災害レベル竜の強力な怪人『転生フェニックス男』となった。
しかし、これは元々殺されても復活するフェニックス男の特性が上手く作用した結果だと思われる。
本来はもっと難しいのだ。
圧倒的な才能と、奇跡のような幸運が必要だろう。
怪人王オロチやガロウもその部類だろうし俺もそれくらい強くなりたいが、ここで問題がある。
既にレベル竜の怪人であるハグキにとって、死闘を繰り広げられる相手など同じレベル竜の怪人か、S級ヒーローしかいない。
だが、レベル竜の怪人はそういないし、タツマキやシルバーファングといった化け物がいるヒーローにバレたら生き残れないだろう。
俺はハグキだってオロチ並みに強くなれると思っているが、それはそれとして生き残るためにはクレバーにならねばならない。
だから、今は人里から離れたところで身を隠しながら目につくものを片っ端から食って口を鍛えたり、サイタマがやっていた普通のトレーニングをノルマを何十倍にして実行したり、その辺の怪人と戦ってみたりしている。
徐々にではあるが、食うことで力が強くなっている感じがある。たくさん食うやつはよく育つ、当然のことだな。
そして、無尽蔵の体力を極限まで使い尽くし、疲れ果てたら発声や変形能力の特訓をする。
原作でもある程度身体が伸びたりしていたハグキだが、意識して変形しようとしたことである程度身体の大きさを変えられるようになった。
小型犬くらいのサイズにもなれるが、やっぱり怪人にしか見えない。
変形はもっと特訓が必要だろう。
発声はちょっと微妙だ。
ハグキの口は唇とかないので、そもそも発音に向いていない。
が、明らかしゃべれそうにない奴も喋ってるのがワンパンマン世界。
多分苦手なだけだな。
ちょっとずつ、カタコトではあるが喋るようにはなってきている。
最初は「ブモォォォォォォ」しか言えなくて困ったもんだ。
だが今は、「オレ」「ハグキ」とかの単語を言えるようになった。流れるように喋るにはまだまだ特訓が必要だろうが、進歩はある、焦りつつもじっくり行こう。
とは言え行き詰まりを感じてきたところでもある。
何か新鮮な修行方法がないか考えていると、怪人王オロチが地球のエネルギーを直に吸収しようとした話を思い出した。
ハグキの歯茎は硬過ぎてなかなか鍛える手段が無かったんだが、地面を掘り進み硬い岩盤を噛み砕きまくればきっと全身の筋力だけじゃなく咬合力や歯や歯茎の硬さまで強化されるはずだ!
地球深部のエネルギーを吸収出来ればさらに強化されるかもしれんし!
食べたものを消化し続けなかればいけない環境に身を置けば、きっと消化液も強化されるはず!
そうと決まれば早速行くぞ。いざ地底世界へ。
俺は地面に食らいつき、そのまま飲み込んだ。
美味しくねぇが、ハグキの身体は浅い部分の土や岩などあっさりと消化してエネルギーに変えてしまう。
村田版でも、タツマキによって崩壊した地下から土石を食べ進んできて即消化してたしな。
この程度は余裕だ。
延々と下に潜り続ける。
途中で「なんだ貴様は⁉︎我は地底王ぞぁぁギャァァァァァァ‼︎」みたいなこと言ってた奴とその取り巻きがいたが、止まることが出来ずについまとめて食べてしまった。
別にいいか。
さらに下へ下へと潜航する。
また途中ですごい硬めの殻に当たって、構わず噛み砕いたら蟲っぽい苦味と旨味を感じて「うごっ⁉︎」という声が聞こえた気がしたが、それも無視して進む。
段々暑くなってきたが、それでも構わず潜航する。
段々岩が硬くなるが、それでも食い進む。
消化するのもちょっとしんどくなってきたが、それでも食らい続ける。
段々色々キツくなってくる。
段々硬い岩盤で口内が傷つき始めたし、筋肉、特に顎の筋肉が辛い。
段々熱くなってきて、全身が火傷し始めた。
それでも再生しながら、踏ん張って無心で進み続ける。
限界を越えるんだ俺の歯茎!
すると、唐突に楽になった。
うおっ、なんだこれ。
体が軽い。
今まで硬く感じていた岩盤がまるでプリンを食べているみたいにどんどん食える。
熱かった環境も慣れたのか、何も感じない。いや、心地いい温度に感じる。
身体も傷つかずに進めるようになってきた。
これは来たな。
俺は限界を超えた!
リミッターを外したぞぉ!
今の俺はニューハグキ!
サイタマの頭に噛み跡をつけることすらおそらく可能だ!
災害レベルは神だ‼︎
・・・冗談はここまでにしよう。
だが、結構肉体が強くなった自信があるぞ。
原作のハグキとは比較にならない強さになった気がする。
気がするだけだが。
比較対象がいないから分からない。
調子に乗りすぎるのは良くない。
だが、自分の強さに自信を持つのも大事だ。
何せ、心一つで人間が怪人になる世界だからな。
心が強ぇ奴は肉体も強ぇのだ。
よし、もっともっと限界突破するぞ!
ホリホリホリホリ(掘り進む音)
ガリガリガリガリ(掘り進む音)
バクバクバクバク(掘り進む音)
ガツガツガツガツ(掘り進む音)
ゴックン!(飲み込む音)
グギュルルルル!ジュワー!(消化する音)
「ゲェェェェェェェップ!」(ゲップの音)
岩盤ども退けぇ!俺はハグキだぞ!
ガリィィ‼︎
「ブモォ⁉︎」
痛ってぇ‼︎
調子に乗って掘り続けてたらなんかすげぇ硬いものが口に入ってきた。
歯がジーンと痛い。歯は欠けてないが、痛いもんは痛い。
なんだこれふざけんじゃねぇぞ!
せっかく人(怪人)が気持ち良く穴を掘ってる時にぃ!
よくもやってくれたななんか見覚えのある変なキューブ!
噛み砕いたらぁ‼︎
【久しいな、繋がる者は。私の力を与えるに足る器か見てやろう】
ふんぬぬぬぬぅ!!!か・た・いーー!
【力を欲してみるがいい。値する器なら力を受け取れる】
砕けろやコラァ!
【さもなくば没収だ…おい?】
なんかうるせーぞハゲ‼︎こっちは今忙しいんじゃあ!
【おい、キューブを壊そうとするな、話を聞け】
ぬおおおおおお‼︎いける!キューブにヒビ入ってきた!
【おいやめろ】
憤怒ぅぅぅぅぅ‼︎‼︎
【やめろと言って「パキィィィン‼︎」
シャオラァァァァァ‼︎やってやったぞこんの野郎!
なんか変なキューブは粉々に砕けて俺の胃の中に入り、強化トレーニングでバッキバキに強化された俺の消化液によって溶かされていった。
うおぉ、なんか前より力が湧いてくるぞ!
今のはもしかしてパワーアップアイテムか何かだったのか?
話しかけてくれたハゲには悪いことしたかもしれん!
勢いのままに岩盤を掘り進むと、マグマが渦巻く大空間に出た。
マグマの中に落ちた。
「ブモォォォォォォ⁉︎」
アッツゥゥゥゥゥくない⁉︎
やったぞ!遂にサイタマと同じ岩盤浴ならぬ溶岩浴が出来た!
あ“あ”〜〜〜溶岩浴気持ちええ〜〜〜疲れた身体に地球のエネルギーが染み渡るぜぇぇ!
「ブゥゥゥゥゥゥッハァァァァァァァ」
めっちゃオッサンみたいな声が出てしまった。
いかんいかん、サイタマのペットになるにはせめて愛嬌を身につけないと…。
マグマ風呂の中で寛いでたら落ち着いてきたな。
にしても、なんか見覚えあるなこの場所。
えっと、確かオロチが見つけた地下遺跡だったか?
地下遺跡には壁画と祭壇があって、そこにはオロチそっくりの絵が描かれていて、『ふさわしい生贄によって我らの神が復活する』とかいう文言でオロチが自分が神だと思うようになるんだ。
そしてサイタマの強さを感じ取ったオロチが、サイタマを最高の生贄として神になるためにここにサイタマを招いたんだよ。
ほら、オロチそっくりの姿が描かれた壁画と祭壇がある。
いや、え⁇
あそこってZ市の地下だろ。
なんで人里離れたところから掘り始めた俺がこんなところに?
あっ、垂直に掘ったら登れなくなるかもと思って斜めに掘っていったから、偶々ここに出たのか?
すげー偶然だなおい。
え⁇
不味くないかこれ。もしここでオロチと鉢合わせたら殺されるだろう。オロチは自分が神だと言うことを隠したいはずだしな。
ヤベェ、さっさととんずらするとしよう。
そういえば、実は壁画はオロチを生贄として、『カミ』の復活を示唆するものだったな。岩で埋まっている部分にも絵はあって、壁画に描かれているオロチよりさらに巨大な『カミ』の姿が描かれているのだ。
ん?待てよ…?
さっきのキューブ。
聞こえた変な声。器、力、没収…。
アッ、あのキューブ神との通信機じゃねーか‼︎
村田版でブラストが集めて回ってるやつ!
サイタマ、フラッシュ、マナコがキューブに触れて、同じような問答をしてた気がする。
え?ってことはだよ?俺さっき、『カミ』を無視した挙句ハゲと罵って通信機を壊して一方的に通話を切ったってことじゃあ…?
ヤッベ!
オロチなんぞより遥かにやばい『カミ』を敵に回したかも知れん。
冷や汗出るわ。
とりあえず早く元の場所に戻ろう。
俺が来た穴は…遥か天井にあるな。
ヤバい。この空間はだいぶ広くて、今いる溶岩風呂から天井まで1000mはある。
ハグキの身体は身体能力も高めで、100mくらいは全然ジャンプ出来るのだが、全然届かん。
帰れねぇ…!
仕方ないから別の壁から掘りあがるか。
ん?
なんか、でかい気配が近づいてくる。
何が来る?
決まってる。オロチだ。俺が地下に現れたことを感づいたな。ゴリゴリ岩盤を掘ってたから当然だ。
やばいやばいやばい。流石に今の段階でオロチには勝てんだろ。勝てても原作の流れが台無しになるし、やりたくねぇ。
穴を掘ったら多分気づかれるし、おそらく潜行の速度はオロチの方が速いから逃げられない。こうなったら隠れるしかねぇ!いや駄目だ!オロチはめっちゃ首があるから、索敵範囲も広いだろう。多分見つかる。
どうするどうする…?こうしてる間にもどんどんでかい気配が降りてくる。
取り合えず体を縮める。体を縮めたくらいじゃ見つかってしまう。マグマの中に潜ってみる。
マグマの中で息をひそめる。今の俺はマグマの湖のそこにある岩石だ!何の異常もないぞオロチ!頼む気づくな!
オロチが降りてきた。見えないが気配で分かる。でかいし、クソ強い。
さて、どう出る…?
触手が伸びてきた。
そこら中、それこそマグマの中も探し回られる。
触手が俺の背中を撫でる。
終わった。
くそ、俺は原作最新話の先が知りたいのに、ここで終わりか・・・!
そう思ったが、触手はそのまま俺を素通りして別の場所を探し始めた。
ありゃ?
数分の間あちこちをごそごそと探し回る動きがあったが、結局なにも見つけられなかったのか、「気のせいか・・・?」とつぶやきオロチは帰っていった。
・・・バレなかった。
絶対バレたと思ったが、天は俺を見放さなかったらしい。『カミ』に喧嘩売っちゃったのにね。
恐る恐る動こうとすると、体が岩石のように硬い。
ん・・・?
自分の体をよく見ると、岩のようになっていた。
こ、これはまさか!
夢にまで見た変形能力では!?
これでオロチの目をごまかせたらしい。
オロチに気取られたときは終わったと思ったが、なんというケガの功名!
歓声はオロチに聞こえるかもしれないので残念ながら挙げられないが、嬉しすぎるぞこれは。これでまた一歩目標に近づいたんだからな。
こんなおっかないところからはさっさとおさらばしよう。
めっちゃ慎重になりながら、変形能力を駆使して壁を上りなんとか地上に帰って小躍りした。