複数のS級ヒーローでも勝てない怪人協会幹部ハグキと、同じく複数のS級ヒーローを倒してきた人間怪人ガロウ。
両者とも一般的な視点から見れば途方もない強者だが、その勝負は一方的な様相を呈していた。
ハグキが腕を振り下ろす。
一見すると単純な振り下ろし。
ガロウは当然、受け流そうとするが───。
(んなッ!?皮膚だけズレた!?)
ハグキの腕にガロウの手が触れた瞬間、接触した部分だけが横に流れ、腕自体は軌道を変えずにガロウの脳天に振り下ろされる。
「くッ!?」
慌てて両腕を交差させて受けるガロウだが、そのあまりの威力にガロウの両腕の骨は砕けていた。
その痛みに悶える間もなく、ガロウは鳩尾にとてつもない衝撃を受けて吹き飛んだ。
「ごほッ!!」
ハグキによる膝蹴りをもろに食らったのだ。
壁をぶち抜きながら吹き飛ぶガロウ。
吹き飛びながら空中で体勢を整えようとしたガロウだが、ハグキはガロウに追いつきその上半身に平手打ちを叩き込んだ。
「───ッ!!」
ガロウは地面に叩きつけられ、その衝撃で地面が波打ちクレーターができる。
それだけでは飽き足らず、ハグキはガロウの上半身をその大きな手で掴むと何度も何度も地面に叩きつける。
轟音が何度も響き、一度叩きつけられるたびに地面全体に衝撃が伝播した。
最後に脚を振り下ろしガロウを足蹴にしたハグキは、未だに抜け出そうと踠くガロウに内心驚愕しつつもつまらなそうに言って見せた。
「おいおいガロウ。大口叩いた割にはボコボコにやられ過ぎなんじゃないか?(コイツなんでここまでやって倒れないんだ?)」
対するガロウは、何とか意識を保つのも精一杯の状況だったが、それでも闘志を折ることなく抗い続ける。
「うるせぇ・・・(パワーもスピードも今まで戦ってきた中で最上・・・なのに武術めいた動きまで使って来やがる。オマケに変形による流水岩砕拳の対策まで・・・反則だろ。このままじゃ負ける・・・ていうか死ぬ)」
腕に力を込めてハグキの体重が掛かる胴を持ち上げ、出来た隙間から何とか足蹴状態を抜け出したガロウ。
「お?」
感心したようにガロウを見るハグキは、即座に立ち上がりハグキの胴に連撃を叩き込むガロウの姿をしばらく眺める。
が、ダメージが入らないことを確認するとガロウの右手をパシッと掴み取り言った。
「折れてた腕が治ってるな。人間の回復速度じゃない・・・怪人化が進んでるのか?」
「分析してんじゃねェ!───うおッ!?」
手を離させようと左手でハグキの手を殴るガロウだが、ハグキの手を守る歯の硬度を突破できず、自分の拳が傷つく結果に終わる。
ハグキはガロウの手を持ったまま振り回すと、キュッと力を込め腕を折ってから手を離した。
「ハァ、ハァ・・・」
地面にボロ雑巾のように崩れ落ちたガロウだが、当然のように腕を地面に立て、フラフラと立ち上がった。
「やっぱ腕治ってんなー」
「俺の怪人化が進んでるって?そりゃ結構・・・このままテメーも追い越してやるよ!」
「やってみろ」
ハグキが正拳突きを放つ。
ハグキ自身の膂力、ゴウケツから学び取った豪拳、そして変形能力による受け流し対策を備えたそれは、最高の破壊力を持つ必殺の一撃。
しかしガロウは、自身の両手を顔のギリギリに近づけて構えると、ハグキの拳が接触した瞬間に流動する皮膚と同時に自身ごと受け流されることで回避した。
即座に反撃に転じようとするガロウを反対の手で薙ぎ払いつつ、ハグキは考える。
(もう俺の流水岩砕拳対策に適応してきた。やはり尋常じゃない成長速度・・・しかもタフさも上がってきているっぽいな。覚醒ガロウの片鱗を見せてきたか)
先ほどまではヒットする度にガロウの骨を砕いていたハグキの攻撃だが、今の薙ぎ払いではヒビ程度で済んだようだ。
「へへッ、どうしたよ。自慢の技があっさり攻略された気持ちはどうだ?」
「この程度で攻略できたとでも?使い分ければいいだけだ」
ハグキが再び腕を振る。
先程のように回避しようとしたガロウだったが、今度は皮膚が動かず直撃をもらう。
しかしガロウは踏みとどまり、続くハグキの連撃を受け流そうとして───
今度は皮膚が動き、威力の受け流しに失敗して再び直撃を食らい血を噴き出す。
数十手ほど、ハグキの攻撃をガロウが流そうとして失敗し攻撃を食らう時間は続いた。
ハグキが受け流すか受け流さないか、ガロウがどう受け流すか。
それを読み合いながら格闘を行う高度な戦闘は、スペックで勝るハグキの優位で進んでいた。
ガロウが殴られる。
反撃しようとしてまた吹き飛ばされる。
立ち上がるも蹴り飛ばされ、再び地面に叩きつけられるもやはり起き上がり反撃しようとする。
しばらく一方的な展開は続いた。
が、ある時ガロウは受け流しに成功する。
そこからは加速度的にガロウが受け流せる回数が増えていった。
ハグキに攻撃を当てられる回数も増えていく。
ハグキがノーダメージな現状では対等とは言い難いが、一方的共言い難い程度には戦いが成立し始めていた。
「流石にS級達が手を焼くだけはある。強いなお前は」
「テメーこそだ!怪人のくせに技巧を使いやがって」
武術と進化の極地に至り掛けている二人は、戦闘の最中互いを認め合っていた。
しかし。
その高揚が最高潮に達した瞬間、思わぬところから水を差され戦闘は中断されることになる。
「あん?何だって?」
突如として、ハグキが何かから語りかけられたように意識を別に向けたのだ。
結果としてガロウの猛攻をくらい続けることになり、腕を体の前で交差させ防御姿勢を取りハグキは硬直した。
(何だ・・・?)
ガロウは突如として防御に徹し始めたハグキを疑問に思いつつも、その防御を崩すべく更なる猛攻を加え始めた。
ーーーーーーーーーー
ガロウは強い。
確かな技に、確かなパワー。
技はシルバーファングほどじゃないが、パワーは上だ。
逆も然り。
パワーはクロビカリほどじゃないが、技は上だ。
足して二で割ると言うには強すぎる。
先ほどまで俺を追い詰めていた両名の強みに加えて、ガロウは異常なタフさを備えていた。
クロビカリのようなダメージが通しにくいといった硬さではなく、ダメージを受けても立ち上がる打たれ強さとか、そういった方向性の強さ。
最初歴然だった力の差は、技巧で徐々に縮まり、ガロウ自身の耐久力の上昇によってまともな戦闘が成立するレベルに達していた。
俺の防御力が高すぎるせいでそこまで脅威は感じないが、攻撃の威力も徐々に上昇しているようだ。
というか、先ほど追い詰められた際の超回復によって俺自身の耐久力もかなり上昇しているらしい。
ちょっと前の俺ならダメージを受けたかもな。
さて、殴り合いが楽しくなってきた頃、間の悪いことにギョロギョロ───というかサイコスからテレパシーが来た。
『ハグキ!豚神は倒したか!?今すぐこちらに来い!』
「あん?何だって?」
思わず声が出ちゃったよね。
ガロウの相手をしながらテレパシーは難しいので、とりあえず防御に徹してサイコスのテレパシーに意識を向ける。
『戦慄のタツマキに捕捉された!タツマキの注意を引いてほしい!』
うわ嫌すぎる。
『いやちょっとこっちも立て込んでてさァ。オロチはどうしたよ』
『オロチは死んだ!お前ほどの怪人を苦戦させる相手だと!?まさか豚神がそこまで強かったのか!?』
『豚神と戦ってたら超合金クロビカリやらシルバーファングやら鬼サイボーグやらが乱入してきてな。挙げ句の果てにお前が誘い込んだガロウに襲われてるんだが』
『何!?・・・とにかく来い!タツマキが最優先だ!お前と私ならタツマキも倒せるはずだ!』
はぁ、行きたくねぇな。
っていうか、ほっといても何とかなるだろ。
どうせオロチが二人を食いに向かうはずだ。
で、融合してオロチサイコスになるだろ。
そしたらタツマキがアジトを念動力で地上に引っ張り出して、オロチサイコスがS級達にやられた後幹部戦って流れだ。
さっさと地上戦に移行して欲しいんだがな。
それまではガロウとこのまま戦っていたい。
「どうした!?急に怖気付いたのか!?」
「いやちょっと電話中なのよ」
「は!?」
ガロウはここまま戦っていれば確実に『竜以上』の強さに至るだろう。
そして俺も、ガロウの技巧を学ぶことで成長できる。
タツマキの力は未知数だし、このままガロウの相手をする方が良いだろう。
『他の幹部を当たれ。俺は忙しいから。ブサイク大総統やホームレス帝あたりなら喜んで行くんじゃないか?』
『おい!ハグキ!?』
俺はテレパシーを切ってガロウと再び向き直ろうとして───
唐突に金縛りを受けた。
「うッ!?何だこれ?」
その答えは、ある女がテレパシーに割り込んできたことで分かった。
『さっきから誰と話してるのかと思ったら・・・例のキモ怪人に助けを求めてたのね!?死になさい!』
タツマキィ!何だキモ怪人って!
タツマキが念信号を辿って攻撃を仕掛けてきたらしい。
身体が捻られそうになるが、ここは筋肉で耐える。
無防備な俺にガロウが連打を叩き込んでくる。
ちょ待って、流石に無防備に受けるには威力が高すぎる。
ちょっと痛いぞ。
───仕方ない!
タツマキに捕捉された以上、先にタツマキをどうにかしないとガロウの相手もままならないだろう。
『ギョロギョロ、仕方ないから行く、ちょっと待ってろ』
ガロウの相手は一旦切り上げて、タツマキの攻撃を凌ぐことに専念する!
フルパワーを出すぞ!
金縛りを筋肉で弾き飛ばすと、その勢いでガロウも弾き飛ばす。
本気の技・・・多少無理はすることになるが。
「いきなり動き出しやがって。電話とやらは終わったか?」
全身に程よく配置した口周りの筋肉───咬筋を、まずは全て下半身に移動。
「まあな。ちょっと急用が入ったんで、一旦外すわ」
小さくなったが一応存在する口で空気を吸引。
「は?」
地面を超パワーで蹴り、真っ直ぐガロウに向かって飛び出す。
背中に口を作り出し、空気を噴出する形で加速力を得る。
地面を蹴った衝撃で大地が割れ、あらゆるものが地面から跳ね上げられた。
「───ッ!?」
下半身の咬筋を上半身に移動。
咬筋によって極限まで圧縮した空気を一気に開放しながら、全身の運動エネルギーを跳ね上げられた相手にぶつける。
この技の名前は──────
「くそッ、こいy───
『大 咬 砲』
「ふぅ、さっさとタツマキの妨害に向かうとするか」
元々最下層近くまで降りてきていた関係上、地面に叩きつけても岩盤しかなく階層が崩落するなんてなかったんだが。
ガロウがいた場所には、余りの衝撃が硬い岩盤を抉りとった結果、奈落を思わせるような深い大穴が広がっていた。
もしも地上で炸裂していたなら、それは一つの都市を吹き飛ばす程度では留まらない被害を齎しただろう。
「あっ、バイトシフト解けた」
タツマキとサイコスがぶつかり合っていると思われる場所に向かう道中、バイトシフトモードが解け元のフォルムに戻ってしまった。
タベル形態と違い、結構無理した変形なので維持が難しいのだ。
言わば、全身を力んでいる状態を維持しているというか・・・。
さっきのように大技を使ったりすると解ける。
あとちょっと口が疲れる。
まあいいだろ。タツマキ相手なら遠距離攻撃できた方がいい気がするしな。
にしても、結構怪人が殺されてるな。
S級達が侵入してきた以上当然だが、幹部以外は生き残るのも難しい環境だろう。
「おっ、魔ロン毛じゃーん」
長かったロン毛が見る影も無くなって倒れ伏す魔ロン毛。
生きているかも死んでいるかもわからないが、このままここに居たらどうせ死ぬので食べてしまおう。
食べ供養なので問題ナシ!
ちょっと行くと、めちゃめちゃに壊れた部屋の下に血まみれのギョロギョロが落ちていた。
所詮肉人形だが、結構インパクトあるな。
これも頂いちゃおう。
さらに行くと、ビームが飛んできた。
パクッと食べて消化する。
出たのは谷のようになっている空間。
そこでサイコスがなんか目からビームを出して、タツマキにあっさりと防がれたものが弾かれて俺に飛んできたのだった。
タツマキにあっさりと念力を跳ね返され、全身を拘束されたサイコスが俺を見つけて叫んだ。
「ハグキィッ!この女を殺せ!」
「お前ギョロギョロなの?」
知ってると不自然なのでワンクッション挟んでおく。
「そうだ!私の名前はサイコス!ギョロギョロの中身だ!さっさとしろッ!」
はいはい・・・。
とりあえず衝撃歯を五発ほどタツマキに叩き込んだが、あっさりと防がれた。
「ふん、わざわざ退治されに来たの?」
お返しと言わんばかりに、俺の身体を先ほどとは比にならない強力な念動力が襲った。
「ちょッ・・・ふぎぎィ・・・顎ォォオオォッ!ふんッ!!」
顎が外れそうになったが、何とかねじ切り攻撃に耐える。
「へぇ・・・生意気な奴ね」
俺が耐え切ったことに驚きを見せつつも、タツマキは自信を滲ませて俺に告げた。
「いいわ!この女よりやるようだし、先にアンタから殺してあげる!」
ちょっと勘弁して欲しいな。
そこで周囲から熱線が放たれ、タツマキに着弾し大爆発を起こした。
「くっ・・・」
オロチか。
「なあサイコス、やっぱ俺いらなかったんじゃね?」
「ふふ・・・いい子だオロチよ!私と融合すれば、あの女にも勝てる・・・!」
聞いちゃいねぇ。
とりあえずオロチと一緒になって歯ミサイルを撃つと、バリアで防がれるオロチの熱線と違ってバリアを貫通した。
が、即座に張られた追加の5枚のバリアを二枚目までしか抜けずに、そこで止まった。
「私のバリアを貫通するなんて・・・」
「それ何枚でも張れるのか?じゃあ歯ミサイルじゃ突破出来ないな・・・」
俺とタツマキが睨み合ってると、地下から蛾のようなオロチサイコスが現れる。
無事に融合に成功したらしい。
じゃあもう俺いらないね。
帰っていいですかァ!
タツマキが挑み掛かるが、オロチサイコスによってバリアの表裏を反転させられたことで追い詰められてしまう。
超能力って便利だけど、色々難しそうだなぁーとか考えていると、龍の頭を模した触手が次々と俺に襲い掛かってきた。
「は?」
全部食べてやったが、どういうことだよ。
「おいサイコスゥ!何すんだよ!?」
「黙れ!!私は神によってこの星の生命の最終走者に選ばれたのだ!そのための最初の犠牲は、神を侮辱したというお前だ!!」
「ハァ!?」
・・・・・・ハァ!?
ああ!思い出した!
もう随分前のことだが、カミのキューブに触れた際にめっちゃ虚仮にしたんだった。
それ根に持ってたんですか!?
それでも神かよォ!
「死ねェ!」
触手で形成されたサイコスが、手で三角を作り出し、下方にいる俺に向けた。
感じたことのないエネルギーがサイコスの手のひらに収束される。
ちょッ、それは・・・!?
地表を削り取ったエネルギー収束波・・・!?
それは俺どころか───地球がヤバい!
サイコスが鬼上司に・・・