「ただいま~、ポチ」
タベルの変身を解いて怪人協会に戻ってきた俺は、自室の入り口付近で丸まっていたポチを見かけて声をかける。
「ウ”ォウウ”ォウ!」
ポチが、低い地響きのような声を上げながら巨体を起こし、舌を出しながら駆け寄ってくる。
その視線は俺の保存用胃袋に向いていた。
相変わらず食い意地が張っていて可愛い奴だ。
「お~よしよしよし」
俺はA市から持ち帰ったばかりの肉やペットフードをたくさん取り出してドサッと床に置いた。
ポチは嬉しそうにそれに食らいつき、ガツガツとすごい勢いで平らげていく。
餌やり過ぎかなとも思ったが、今のポチはこの図体だからな。超大型犬と言うべきサイズだし、これでも足りないくらいだろう。
可愛いポチの様子を眺めながら、俺はこれからのスケジュールに思いをはせる。
ボロス襲来が終わったなら、次は怪人協会が本格的に動き出す時期だ。
今回はグロリバースと戦い、ちょっと原作から道筋を変えてしまったが・・・。
怪人協会編では、大筋は変えないつもりだ。
地下での戦いでは豚神と戦い、適当にお茶を濁しつつ地上戦に移行する。
地下ではサイタマがうろついているからな。
地上戦では、ほっとけば死者を出しそうなブサイク大総統を始末し、俺がゲロブサと同じ様な活躍をすることで原作からの乖離を防ぐ。
サイタマが地上に出てくるあたりで身を隠し、そのままその後の戦闘を生き残り、戦闘後に壊滅したZ市にやってきたサイタマについて行ってヒーロー協会本部に転がり込む。
いろいろ考えてはいるが、概ねこんな感じで行くつもりだ。
雑な部分はあるが、今の俺ならかなり強くなってるし、ある程度臨機応変に行けると信じよう。
「ウ”ォン?」
ふと気づくと、いつの間にか餌を食べ終えたポチが俺の近くにやってきていた。
「よしよし、今のうちに英気を養っておけよー。戦争始まったらいろいろ働かなきゃならんからな!」
「ウ”ォウ!」
声をかけると、元気に返事してくれる。
「散歩でも行くか!」
「ウ”ォウ!」
散歩は最近の日課である。
アジトは広いので、こうやって歩き回っておかないと何処がどう繋がっているのかとかを覚えられないのだ。
原作でサイタマが歩いてそうなところに目星をつけ、そこは怪人協会編が始まった時に通らないように記憶したり、他の怪人たちの様子を見たりと、退屈を紛らせるにはちょうどいい。
ポチを連れて、アジトの巨大な地下通路を歩く。俺の巨体とポチの巨体が並んで歩くだけで、そこそこの圧迫感があるはずだ。
すれ違う雑魚怪人たちは、身を縮こませて息をひそめるか、壁に張り付いて道を空けるかのどちらかだった。
平和な日常だ。
まずやってきたのは、滝が流れ、下に水の溜まる大きな空間。何個か石橋がかかっており、色んなところに繋がっている。
ここでは、幹部候補の忍者コンビが鍛錬をしていた。
「む」
「お前たちは・・・」
災害レベル鬼の『疾風のウィンド』と『業火のフレイム』。
怪人としての本性を表せばレベル竜にすら届く、本物の実力者だ。
『音速のソニック』やS級13位ヒーローである『閃光のフラッシュ』と同じ忍びの里の出身者で、その速さは怪人協会でも類を見ないほどだ。
「よぉ君たち、精が出るね」
声をかけると、シュババッとこちらに降りてきた。
「ハグキか。またその犬の散歩か?」
「ここは俺たちの場所なんだが・・・なっ!」
ギュンッって感じでそれぞれ俺とポチの後ろに回り込み脅してくる。
が、俺もポチも顔だけ向けてにらみ返す。
「む・・・」
「フッ。幹部なだけあるな」
ウィンドとフレイムも雑魚じゃない。俺とポチが二人の速度を目で追っていたことを認識し、その額に冷や汗を流している。
確かにこの二人は速いのだが、完全に対応不可能ってほどじゃない。
確かに速度で言えば幹部より速いが、幹部の中には反応速度は間に合うってやつが多い。
肉体派の幹部たちは当然目で追うし、エビル天然水の水鉄砲も発射だけなら同等の速度で来る。身体能力は一般人並みのホームレス帝ですら謎の反射神経で神通力による防御を間に合わせてくる。
ちなみに俺は、口の変形でこいつらの速度に追随できるし、こうして近づかれたら噛みつきも間に合う。対フラッシュがあるかもしれないと考えて鍛えているからな。
あとは、まあ、この二人は攻撃力が足りないのだ。
幹部になれない理由はそれだな。
人間相手にするなら十分竜クラスあると思うが。
「まあお疲れさん。お前らも十分強いよ」
忍びの里にもいろいろ背景があるが、俺はそこに深入りする気はないので割愛する。
次に行こう。
やってきたのはブサイク大総統の部屋だ。
部屋の中をちらっと覗く。
そこには、マヌケづらをしたブサイク大総統が『簡単にモテる10の方法』という本を読んでいた。
「あ?なんだよ」
「いや別に・・・」
「ゴルルルルルルル・・・」
俺がブサイク大総統のことを嫌っているのを察してか、ポチもブサイク大総統と会うときは唸り声をあげる。
別に嫌いなキャラじゃないんだがなぁ。
その振る舞いは、怪人として見るならむしろグッド。
読者として見ていたころなら物語に緊張感を与えてくれた存在だ。
だが、原作でブサイク大総統はハグキを殺したからな。
そこが俺がこいつと仲良くできない理由のすべてだ。胃がムカムカするぜ。
「あばよ」
さっさと退散するとしよう。
「・・・なんだったんだぁ?」
そんな声が聞こえてきたが、フル無視だ。
ちょっと深部に降りると、ホームレス帝の部屋がある。
ちらっと部屋をのぞくと、周りに光球を浮かせて祈りを捧げている最中だった。
「神よ・・・」
ちょっと声を掛ける雰囲気じゃないな。
次。
歩いていると、道端でニャーンが寝ていた。
ニャーンは何処でも見かける。
3㎜隙間があれば何処でも入れるという能力を持つこいつは、怪人協会内でも神出鬼没扱いされてるな。こうして散歩してると毎回違う場所で寝ているのが見られる。
さらに進んでちょっと広い空間に出ると、複数の怪人たちがたむろしていた。
「うおっ、ハグキ様だ・・・」
「ポチも。相変わらず強そうだな・・・」
「ども、ちわっす」
「一騎当千、流石は幹部」
いろいろいるなぁ。
ほとんどは雑魚のごった返しだが、一部レベル鬼もいる。
「おお、お疲れさーん」
挨拶を返すと、一部の連中から声が返ってくる。
「幹部か。落ち着きがないな」
フェニックス男。
着ぐるみが脱げなくなって怪人化した変な奴。
レベル鬼でも特別な立場で、中間管理職的なポジションにいる。便利なんだよね、こいつ。
しかし怪人としてのポテンシャルもなかなかのものだ。
こいつが進化し『覚醒フェニックス男』になれば、その実力は幹部にも劣らない。
あと、なんだかんだで怪人協会編後も生き残る奴である。
「ふっ!今に見てろよ!?俺がすぐに追い越して幹部になってやる!」
サイレスラー。
名前のまんま、レスラーの格好をしたサイ。
最初は虎だったが、鍛えてるうちにレベル鬼になった怪人。
アトミック侍のかませにされたが、イアイアンがちょっと苦戦してたのでレベル鬼に相応しい強さはある。
が、こいつが竜に至るビジョンは見えないな。
まあそれを言ったら俺も原作では幹部一番の雑魚だった。
何か変化があればこいつが竜になってる世界線も・・・いや、ないな。
「がんば~」
まあ、戦争の時はぜひ頑張ってほしい。
ちょっと歩くと、知ってるが今まで見なかったやつがいた。
「おいそこの奴。見ない顔だな」
「ヒエェェェッ!?幹部ゥ!?」
話しかけると、目玉を飛び出させて驚いた一つ目の笹団子みたいな怪人。
こいつはマナコといって、サイタマとフラッシュに遭遇しながら便利さと愛嬌と運で生き残ったすごい奴である。
もしかしたら怪人協会編後も会うかもしれないな。
「あ、ども、マナコっていうものです・・・目が光ります・・・」
「ギョロギョロに似てるね~」
「あ、はい。ギョロギョロ様の肉体の一部が切除されて生まれたのが私です・・・」
怪人ってホントに謎な生態してるな。
ギョロギョロの肉体ってあれ、サイコスが肉人形として作っただけのやつだろ。
それから怪人が生まれるとか、上手くやれば怪人を無限に増やせそうだ。
「頑張って生き残れよ~」
「あ、あざっす・・・?」
もう少し深く潜ると、広い訓練場に出た。
ゴウッと強烈な暴風が全身に叩きつけられる。俺とポチだからいいが、鬼クラスの怪人でも即死する圧力だ。
これを発生させたのはこの部屋の主の正拳突き。
鍛錬しているのは道着を着た筋骨隆々の怪人。
幹部であるゴウケツだ。
「ハグキか」
「ようゴウケツ。鍛錬か?相変わらずいい技だな」
ゴウケツは比較的話せる奴である。最初会ったときは成長性がない奴だと評価したが、その評価は訂正する。
こいつは普通にめちゃくちゃ強い。
原作でサイタマにやられていなければ、俺の見立てではクロビカリとも張り合えそうな武闘派である。ギョロギョロやオロチもこいつの強さには信頼を置いている。
そんな怪人だ。
たまに実践稽古と称して手合わせしているのだ。
優れた武術の使い手なので、シルバーファングやガロウと戦うときに参考となるだろう、と思ってな。
タベルのときに使う体術もこいつを参考にしている。
「ガハハハハッ、まあな。お前はポチの散歩か。そっちこそ、相変わらずよく躾けられているじゃないか」
「ああ、可愛い相棒さ」
「ここに来たということは・・・やるか?」
「おう、やろう。ヒーローとの決戦も近いしな」
「ああ、来るべき決戦に備えて、武術はいついかなる時も錆び付かせてはならん」
こいつと会ったときは大抵組手になる。
悪くないが、いつもそれだとやっぱ疲れるからな。
普段はやっぱ黒い精子と暇をつぶすのが一番楽だ。
だが今回は、体を動かしに来たのだ。
ここはどれだけ暴れても地上に音が響かないし、ポチが遊ぶのにちょうどいい。
三体でほどほどの運動をしよう、というわけだな。
言うが否や、ゴウケツの体がぶれ、俺のいた場所にかかと落としが叩き込まれる。
最小限の動きでそれを避けると、ゴウケツはすぐさま足払いに移行。
宙に飛んで躱した俺に、今度は目にも止まらぬ正拳突きが繰り出される。
真正面から『衝撃歯』で相殺。
互いににらみ合うと、いつの間にか飛び上がっていたポチが俺とゴウケツに向かって焦熱弾を吐いてくる。ポチにとっては遊びの範疇だし、幹部にとって致命的な威力ではないが、それでも高威力な焦熱弾が俺たちを襲う。
ゴウケツは腕を回転させる回し受けで焦熱弾を霧散させる。
俺も真似して、伸ばした口を回転させて焦熱弾を散らす。
「ほう、流石だな。お前は『武術』が分かっている。使う技は武術とは言い難いが」
「まあね~」
ゴウケツの超高速の乱打を躱し、受け流し、時には反撃しながらポチの相手もする。
ポチは焦熱弾に目が行きがちだが、膂力も怪人協会トップクラス。
その噛みつきやお手、突進ですら無防備に受けると危ないのだ。
本気で反撃したら可愛そうなのでしないけど、真面目に対応はする。
ポチのお手を俺が受け止めると、その隙をついてゴウケツが刃のような回し蹴りを放つ。
ポチは飛び上がって躱し、俺は両手で受け止める。
受け止めた脚を掴んで離さないように固定すると、ゴウケツは脚のスナップを聞かせ俺の体を弾き、拘束を剥がした。
ポチはそのまま上からゴウケツに襲い掛かるが、ゴウケツは両腕で器用に焦熱弾と噛みつきをいなすとポチを投げ飛ばす。
投げ飛ばした態勢のゴウケツに突進を仕掛けるが、即座に反応したゴウケツは肘で俺を叩き落とす。
俺は空中で衝撃歯を放ち落下の軌道を変え、ゴウケツの手刀による追撃を避けた。
超高速で動く三体による三つ巴。怪物同士のじゃれ合いは、その動きだけで空気が加熱され、中央で熱が渦を巻いていた。
三体によるじゃれ合いとは思えないほどの凄まじい衝撃が、訓練場の岩盤をガリガリと削り取っていく。
元武術の達人であるゴウケツの洗練された動き。
怪人協会トップクラスの巨体と圧倒的な火力を誇るポチ。
そして、そのどちらをも受け流し、時にはトリッキーな変形能力と『衝撃歯』で立ち回る俺。
三つ巴の乱戦は、それぞれの強さが噛み合って最高にスリリングだった。
「ヴォオオオオッ!」
ポチが一段と大きな吠え声を上げ、今度は足元から地面ごと抉り取るような勢いで突進してくる。
その圧倒的な質量と突進力をそのまま利用し、俺は華麗に避けてゴウケツに向かってポチを誘導した。
「ほお、面白い!」
ゴウケツは微塵も動じず、迫るポチの巨体を両腕で受け止め、その勢いを利用してそのまま背負い投げの要領で床へと叩きつける。
ドゴォォンッ!! と地響きが鳴り渡り、訓練場の中心に巨大なクレーターが生まれた。
「クゥン!?」
ポチは少し首をかしげてるが、怪人としての耐久力が高すぎてダメージは皆無だ。すぐに起き上がろうとしている。
だが、ここまでだろう。
俺は最後の一撃と言わんばかりに力をため、『歯茎突進』を繰り出した。
ゴウケツはニヤリと笑って、腰を落とした本気の正拳突きで迎え撃つ。
ゴウケツの拳と、俺の歯がぶつかり合う。
ズッッギャァァァァン!!
衝撃が訓練場内を駆け巡る。
「よーし、ここまでだな」
「そうだな。」
俺が両手を挙げて一歩引くと、ゴウケツもすっと構えを解き、フッと鼻を鳴らした。
息一つ乱していないが、その巨体には心地よい熱気がこもっている。
「ガハハッ、見事だ、ハグキ。やはりお前相手だといい運動になる」
「そっちこそ。やっぱゴウケツとの死合は学べることが多い」
ポチも満足したのか、俺の足元にトコトコと歩み寄ってきて、巨体をドスンと床に横たえた。
「そろそろ戻るとするよ。これ以上暴れるとギョロギョロに余計な小言を言われそうだしな」
「そうだな。全力はヒーローどもに取っておくとしよう」
「ああ。まあ、頑張れよ。あんまり目立ちすぎると、強い奴といの一番に当たるかも知れないけどな」
俺の忠告とも皮肉とも取れる言葉に、ゴウケツは微かに眉を動かしたが、何も言わずに鍛錬を再開した。
そんなゴウケツを尻目に、俺はポチを連れて訓練場を後にする。
・・・怪人協会編まであとひと月もない。
始まってしまえば、大体の奴はやられるのだ。
俺がいるから細部はどう転ぶかわからないが、サイタマがいるので壊滅は確定事項である。
・・・怪人の日常というのも変な話だが、もう少しだけこのマイペースな日常を満喫するとしよう。
原作での見せ場がなかった怪人たちに、ちょっとでも見せ場を、と思っております。