怪人協会で過ごしていると、時間があっという間に過ぎる。
というか、原作イベントって、読者目線で見てた時の感覚よりだいぶ早く進行しているんだなって最近思う。
俺、巨大隕石が落ちたって聞いたあと本当は深海王襲来を観戦しにいくつもりだったんだよな。
海の幸にも興味があったし。
ところがだ。
俺が地上に出て聞いてみると、既に海人族襲来編は終わっていた。
あれ、隕石落ちてから一週間経たないうちに始まって終わるんだよな。
怪人襲来の頻度が高過ぎてドン引きである。
そしてその数日後にはボロスが来る。
あとちょっとしたら怪人として襲来しようとしている俺が言うのもなんだが、もう終わりだよこの世界。
まあ何が言いたいかと言うと、ぼーっとしてたらあっという間に怪人協会編が始まってしまうので、今のうちに堪能できることは今のうちにしっかり堪能しとこうって話だな。
原作イベントとか。
俺は今、タベルの姿でZ市の市内を歩き回っている。
ゴーストタウンじゃなくて、普通に人間が生活している方だ。
まあ、興味だけで来たわけじゃない。
怪人とはいえ、一応組織に所属する一員。
俺が勝手に行動して、怪人協会の存在がバレる訳にはいかないのだ。
もしバレてしまったら、大々的に宣戦布告をしようとしてるギョロギョロに申し訳ない。・・・と言うのは嘘で、単に原作から乖離するのが怖いだけだ。怪人協会編はもろに俺のこれからを左右するからな。
この間A市に出向いた時にトラブルがあったから、次は慎重に行動しようと心に決めたのだ。
なので、本来なら怪人協会編が始まるまで、アジトで大人しくしてようと思ってたんだが。
ギョロギョロにタベルの姿がバレた。
・・・いやまあ、ヒーロー側にバレないようにすればよかったから、怪人協会でバレても致命的ではないんだがな。
それでも、バレないに越したことはなかった。
怪人の前ではタベルの姿にならないようにしてたんだが、まああのギョロギョロだ。
色んな所に監視の目がある様で、A市の帰り際にタベルの姿を見られてたらしい。
別にヒーローのスパイなんじゃないかと疑われたわけでもない。
もともと俺は、人間だろうが怪人だろうが、食いたいと思ったものを食えてたらなんでもいい、っていうポーズを取り続けていた。
怪人協会に所属しているのも、怪人である俺にとって退治しようとしてくるヒーローが邪魔だからで、人類の殲滅とかにはそんなに興味がないって感じでな。
食いたいものを食うときに、わざわざヒーローと戦闘になるような面倒を起こすよりも隠れて食べる。
そういうやつだって思われるようにしていたのだ。
だからタベルの姿は、狡猾な怪人なら持ってて然るべき、面倒を避けるための手段の一つみたいな扱いだ。
まあ、ハグキのあの見た目で怪人であることを疑う奴なんていないしな・・・。
で、人に化けていろいろ活動できる怪人ってことで、ギョロギョロから情報収集を頼まれたのだ。
正直面倒くさいし、俺が行動したらまた何かやらかしそうで嫌だったんだが、アジトで延々と散歩したり特訓したりしてるだけだから断る理由を思いつかなかった。
人型を隠してた後ろめたさもある。
あとはまあ、さっき言った通り、折角街に出る口実ができたのなら原作イベントを堪能しようって気持ちもあったからな。
そんなわけで、今俺はその辺で買った食べ物片手にZ市を歩いているわけなんだが。
運がいいのか悪いのか、ちょうど原作イベントが目の前で発生していた。
「ギュハハハハハハ!爬虫類を愛するあまり爬虫類に変異したシタノビール様の登場だぁあ!お前ら!俺の子を産めぇえ!」
「なんだコイツ!」
「大の男5人がかりでも手に負えないぞ!」
「怪人だ!逃げろ!」
俺の目の前で繰り広げられているのは茶番。
いや間違えた。怪人シタノビールが一般人を襲っている様子である。
シタノビールってレベル狼だっけ・・・?正直覚えてないが、一般人で抵抗できるレベルならその程度だろうなぁ。
いや、こんなやつはどうでもいいんだ。
大事なのはこの後に来る奴。
「娘っこは一人も逃がさないようぉお!ん~~~レロレロレロレロレ・・・・」
うわこっちに舌伸ばしてくんなし。
俺にシタノビールの舌が触れそうになったところで、シタノビールの注意がそれる。
シタノビールの真横に現れた、強面の大男。
ドッドッドッドッと音を鳴らすその男にシタノビールはビビり散らかした。
「うわビックリした!!な、なんだぁてめぇはぁあ!?」
周囲の人間がその男の正体に気づき、歓声を上げる。
「あ!!!あの人は!地上最強の男と言われているヒーロー・・・キングだ!」
「うわああキングだ!」
「すげえ!キングだ!」
「最強のヒーローだ!」
歓声がうるさいが・・・そう。この男は、S級7位ヒーロー『キング』。
ヒーロー協会の中でも、タツマキやブラストすら差し置いて『最強』ともてはやされる男である。
その評価だけを見れば、俺たち怪人協会にとっても最大の強敵と言えるだろう。
評価だけを見ればな・・・。
シタノビールは完全に委縮し、周りに響く『キング』コールの中、ついには土下座までし始めた。
「こっこここ・・・この度は皆様に多大なるご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ございませんでした」
調子に乗る民衆に、音量を増すドッドッドッドッという爆音。
シタノビールは恐怖心が限界に達したのか、痙攣しながら泡を吹いて気絶した。
ええ・・・。
原作を読んでると笑えるシーンだが、実際に現場に居合わせると何が起こってるか訳わからんぞ。
キングに話しかける一般人どもから抜け出して、キングの様子をよく観察する。
確かに、威圧感のある顔をしている。
更にその威圧感を際立たせるのは、キングが戦闘態勢に入った時に鳴るというキングエンジン。
ドッドッドッドッと腹に響くこの音を聞いて生きて帰った怪人はいないと言われているらしい。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・いや、確かに底知れない男に見えるぞ。
注視すればするほど、怪人協会幹部にして災害レベル竜の中でも上位の力を持つこの俺の肉体細胞が、この男の一挙手一投足を見逃すべきではないと訴えてくる・・・!
こいつは確かに、幹部の総力をもってして相手すべき最大の敵・・・!
そう言えるかもしれない・・・!
・・・原作を知らなければな!
S級ヒーロー『キング』、その実態は外見が強そうなだけの、めちゃくちゃ運がいい無職のオタクである。
災害レベル鬼や竜が跋扈するサイタマの怪人退治の現場にたまたま居合わせ、その度になんとか生き残り、近くにいたことでその怪人を倒したのがキングだと勘違いされ、ヒーロー協会にS級ヒーロー認定されたという経緯がある。
いや、こいつホントにすごいな。
作中ではサイタマを除く全員が彼に対し何らかの畏怖や警戒を抱き、本当は弱いことに関しては、怪人相手に小便を漏らしながら直接打ち明けたサイタマ以外には、弱いと自己申告しても強いと勘違いされるほどのラッキーマンである。
本人が苦労しているので本人にとって幸運かはともかく・・・。
だが、それも今相対してみて納得した。
事前に知っていなかったら、俺でも警戒を抱いていただろう。
サイタマクラスに強くないと、こいつのもはや異能ともいうべき雰囲気と運に対抗できないのか。
原作で幹部たちがホントは弱いキングの一挙手一投足に翻弄されるのを俺は読者として面白おかしく見ていたが、何も知らない状態でこいつと会うとああなるのもやむなしだな。
キングが一般人を散らし、歩いていくのを尾行しながらそんなことを思う。
こっそりキングについていっていると、TVゲーム専門店に入っていき、しばらくすると出てきた。
「ふう・・・買えた。新作の恋愛シミュレーションゲーム『どきどきシスターズ』初回限定版。テンション上がってきた。ゲーム買ってから家に帰るまでのこのワクワク感がたまりませんな」
「・・・・・・・。」
「早く帰ってプレイしよ。・・・・・・むふっ」
・・・いや、やっぱこいつに威圧感を感じるのは無理あるかも。少なくとも、俺はもうこいつをただのオタクとしてしか見れねぇや。
ギョロギョロにはどう報告すればいいのやら。
もちろん本当のことを言うわけにはいかないが・・・。
フードを被って店を後にするキングを眺めながら、何とも言えない気持ちで俺は嘆息した。
「このあとは何があるっけ・・・?」
この世界に転生してもう半年くらいだが、いろいろあったせいでこの辺の記憶は曖昧だ。
っていうか、怪人協会編が長すぎて、小エピソードが重なるこの辺りはどんな順番で何が起こったのか詳しく覚えてないんだよな・・・。
「先生、やはりあれはキングのようです」
「誰?」
くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?!?!?!??!?!??!!??!
真後ろから聞こえた声に思わず息が「ヒュッ」と漏れた。
冷や汗だらだら、固まる首をギギギと鳴らしながら恐る恐る振り向くと、そこにいたのは光り輝くハゲ頭。とついでにサイボーグ。
サイタマじゃねーか!
・・・近ぇ!!