この超常社会Live2Dのイケメンアバターより『疲れ切った23歳男の地声を持つロリ美少女』の方が需要あるのバグ以外の何物でもないでしょ 作:九咲
「(……胃が、胃のストックがもう原型を留めていない……!)」
特番の翌週、雄英高校の職員室。
俺のデスクの上には、サポート科や経営科そして一般のファンから送られてきた『ナビちゃん&イレイザーちゃん』のファンアートや、非公式のアクリルスタンドが文字通り山積みになっていた。
特にタチが悪いのが黒髪猫耳ロリのガワを被った相澤先生のイラストだ。どれもこれも実物の100倍あざとく描かれている。
「……割内」
背後から地獄の底から響くようなローテンションの声。
振り返るとボサボサの黒髪の隙間からバキバキに充血した三白眼で俺のデスク(の上の猫耳アクスタ)を睨みつける相澤先生が立っていた。
「は、はい先輩っ! これ、俺が勝手に飾ってるわけじゃないですからね!? 今朝来たらサポート科の発目(ハツメ)さんが『新作の防犯ARアクスタです!』って置いていっただけで――」
「……お前のせいで、今朝のホームルームの規律が完全に崩壊した。教室に入った瞬間、爆豪が俺の顔を見て『おい猫耳クソ教師、今日の喉の調子はどうだコラァ!』と叫び、女子一同から『先生、今日はお耳ピコピコしないんですか?』と一斉にスマホのカメラを向けられた。非常に不合理だ」
「先輩、それ10割Mt.レディのせいですよ!! あいつが当日10万も投げてガサ入れ(監査)喰らったせいで、ネットニュースで『レディ事務所、猫耳ロリに敗北』ってトレンド入りして、余計に生徒たちが面白がっちゃったんですから!」
「……どいつもこいつも、規律という言葉を知らん。今日の放課後、お前もグラウンド50周だ」
「なんで俺までーーー!!?」
理不尽な連帯責任に(※極上の重低音イケボで)絶叫していると、職員室のドアが静かに開いた。
入ってきたのはマイ枕に加えて今回はなんと「高級な紙パック入りの蕎麦つゆ」を持参した轟焦凍だった。
「……失礼します。相澤先生、割内先生。……次の時間は自習なのですが割内先生を15分ほどお借りしてもよろしいでしょうか」
「轟くん!? 君、なんで職員室に蕎麦つゆ持ってきてるの!? あと『お借りしても』って何!? 俺は雄英の備品じゃないよ!?」
轟は至って真面目な顔のまま俺の目の前まで歩み寄ると、すっと蕎麦つゆをデスクに置いた。
「……昨日の特番、素晴らしかった。おかげで昨夜は10時間熟睡できた。だが現在の自習室の騒音のせいでまた頭が冴えてしまっている。……先生、この蕎麦つゆ(※最高級品)を差し上げるので、自習室の俺の席の真横で、代文の教科書を『あの声』で朗読してほしい。特に夏目漱石の『こころ』を、あの深夜ラジオのトーンで囁いてくれたら、俺の精神の治安は完全に維持される」
「どんだけ俺の声で眠りたいんだよ君は!!! ナンバーワンの息子が担任の同僚(23歳男)のイケボに依存するな!!! あと『こころ』をあのトーンで囁いたら内容がドロドロしすぎて逆に眠れなくなるわ!!」
「不合理だ、轟。今すぐ教室に戻れ」
相澤先生が捕縛布を構えると、轟は「……チッ」と小さな舌打ちを残して(※エンデヴァーそっくりの頑固な顔で)蕎麦つゆを置いたまま去っていった。舌打ちするな生徒。
ハァ……と、俺が画面の向こうのLive2Dがなくても伝わるレベルの、最高にセクシーで最高に疲弊した地声のため息を吐くと相澤先生がクシャクシャの別の書類を俺の頭にポン、と乗せた。
「……落ち込んでいる暇はないぞ、割内。公安の守宮(アイギス)から緊急の連絡だ。昨日の配信の成功を受けて、警察庁が正式に『全国の警察署の広報担当者に、お前のLive2Dシステムとボイス制御技術を研修するプロジェクト』を立ち上げた。来週からお前、全国の警察署を回って『正しいバ美肉のやり方』をレクチャーしてこい」
「俺のキャリア、プロヒーローじゃなくて『バ美肉の伝道師』になってないですかね先輩!!?」
「ギャラはお前の年収の5倍、かつタワーマンションの社宅付きだそうだ」
「(※最高に深く、甘く、手のひらを高速回転させた低音ボイスで)
――謹んで、お受けいたします。警察庁の皆さん、および相澤先輩(はぁと)」
「本当に現金な奴だな……」
こうして、完全身バレ&公式特番を終えた割内駆の日常は、平穏とは程遠い「国家規模のバーチャル治安維持」へと完全にシフトしていくのだった。