この超常社会Live2Dのイケメンアバターより『疲れ切った23歳男の地声を持つロリ美少女』の方が需要あるのバグ以外の何物でもないでしょ 作:九咲
「(……よし。コメント欄のモデレーター制限、最大。公安への緊急ホットライン、接続。……始めよう)」
最新の防音壁に囲まれたタワマンの一室。
俺はいつも通りの『白髪ケモ耳ロリ美少女(ナビちゃん)』のアバターを起動した。画面の中のナビちゃんは、今日はウインクも首ピコピコもしない。少し悲しげに、大人の真面目な目で画面の向こうを見つめている。
ピコン、と配信開始のシグナルが入ると、わずか30秒で同時視聴者数は10万人を超えた。
『――はい、おつナビー。……うん、今夜は急な配信でごめんね。どうも、割内駆です(※いつものセクシーな色気を一切排除した、深く静かで、冷徹なまでの重低音地声ボイス)』
コメント欄の流速がいつもの「イケボ尊死www」ではなくどこか緊張感を持ったものに変わる。
『ナビちゃん、こんばんは』
『最近ニュースが怖くて、通知が来た時ちょっとホッとした』
『今日も護身術の話ですか?』
俺はマイクを少し引き寄せ視界の『ウィンドウ』で最新の治安データを確認しながら語り始めた。
『みんな、ここ数日間のニュースを見てるよね。保須市での騒動、神野区の緊張、そしてネット上に蔓延する、社会を煽るようなヴィランたちの動画。……怖がらせたいわけじゃないんだ。でもね、プロヒーロー『ナビゲイト』として、今夜はみんなに「超常社会の、本当の防犯の話」をさせてほしい』
画面の中のナビちゃんがすうっと目を細める。
『今、世間は「オールマイトが勝つか、ヴィランが勝つか」という、派手な戦闘のニュースばかりに目を奪われている。でも、本当に恐ろしいのはそこじゃないんだ。
社会の緊張感が高まるとね決まって「便乗犯」や「野良ヴィラン」が路地裏に増える。
大本命のヴィラン連合がヒーローの目を引きつけている裏で、一般の学生や市民を狙った、生々しいコソ泥、強盗、そして「SNSを使った闇バイトの勧誘」が激増している。これが、数字に表れている今のリアルな現実(悪意)だ』
『大爆破神(仮)(※爆豪):……チッ(青スパ:1,000円)』
『SHOTO(※轟):……(青スパ:1,000円)』
いつもなら高額な赤スパを投げて怒鳴り散らす爆豪や、蕎麦の話をする轟も、今夜は静かに、ただ1,000円の青スパの文字だけで「聴いている」ことを示していた。
『いいかい、画面の前のみんな。特に個性が戦闘向きじゃない学生や、一般市民の諸君』
俺は声を一段と低くし一文字ずつ脳髄に叩き込むように囁いた。
『「自分には強いヒーローがついているから大丈夫」だなんて、絶対に思わないでくれ。
ヒーローは、君たちがヴィランに襲われた「後」にしか駆けつけられない。
通報してからヒーローが現場に到着するまでの平均「4分42秒」。
この時間君の命を守れるのは、オールマイトでも雄英の生徒でもない君自身の「逃げる技術」と「境界線」だけなんだ』
画面のナビちゃんが真剣な顔で手のひらを前に出す。
『今すぐできる、3つの境界線(ルール)を伝えるよ。
1つ目。「イヤホンをして夜道を歩くな」。
君たちの個性がどれだけ優秀でも、背後からの接近に気づけなければ意味がない。聴覚という最大の警戒センサーを、音楽で自ら殺すな。
2つ目。「SNSの裏アカウントの募集に、絶対に触れるな」。
「個性を有効活用して、1日で10万円」なんて美味い話はこの世界に存在しない。それは、ヴィラン連合のサイバー班が、使い捨ての「盾」や「デコイ(身代わり)」を探すための罠だ。
3つ目。「もし路地裏で怪しい影を見つけたら、プライドを捨てて全力で防犯ブザーを鳴らし、大通りへ全力疾走しろ」』
俺は深く、重いため息を吐いた。
『戦って勝とうなんて、1ミリも考えなくていい。
ヒーローのプライドなんて、プロの俺たちに全部押し付ければいいんだ。君たちの最優先の任務は、傷一つなく、今夜無さそうに家に帰って、温かいご飯を食べて眠ること。それだけだ。
……分かったかい、子猫ちゃんたち(※ここで初めて、いつもの優しいウィスパーボイスに戻る)』
コメント欄が、静かに、しかし熱い言葉で埋め尽くされていく。
『涙出てきた。本当に気をつけよう』
『重力ゼロ子:先生、ありがとうございます。明日からもっと警戒します』
『インジニウムに憧れる男:割内先生……。貴方の言葉、全雄英生、いや全国民の規範とすべき泥臭き正論です。身が引き締まりました!』
『大爆破神(仮):……お前らはさっさと寝ろ。外のクソヴィラン共は、俺たちが全員ブッ飛ばしてやるからよ(赤スパ:5万円)』
「(爆豪くん、最後の最後でカッコいい5万円投げるのやめてよ……。泣いちゃうじゃんか)」
画面の裏で、俺は視界の『ウィンドウ』を操作し、警察庁の防犯サーバーへのアクセス数が爆発的に跳ね上がっているのを確認した。
『うん。みんな、真面目に聴いてくれてありがとう。
今夜はもう、防犯の鍵を3重にかけて、大人しくベッドに入るんだよ。電子の海からの悪意は、俺と、俺の事務所の法律ヤクザ(盾ちゃん)と、雄英の先生たちで全部叩き潰しておくから。
……よし、じゃあ治安維持(新居のセキュリティ再チェック)に行ってきます。おつナビー。……みんな、絶対に、安全で良い夢を見てね(吐息)』
プチッ、と配信の切断ボタンを押した。
タワマンの広い静寂の中、俺は椅子にもたれかかり、大きく息を吐き出した。
ふとスマホを見ると、相澤先生から1通のショートメールが届いていた。
『……割内、良い配信だった。お前のおかげで、今夜の寮の消灯時間は1分も遅れずに全員がベッドに入った。……不合理な世の中だがお前がバーチャルの皮を被って戦う意味は、確かにある。……明日の授業、遅れるなよ』
「……へへ、相澤先輩に褒められちゃったな」
俺は少しだけ誇らしい気持ちになりながら、明日配るための「ガチの防犯プリント」の作成画面を、個性のウィンドウで開き直すのだった。