この超常社会Live2Dのイケメンアバターより『疲れ切った23歳男の地声を持つロリ美少女』の方が需要あるのバグ以外の何物でもないでしょ 作:九咲
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## 1. 最悪のチャイム
「(……クソ、胃が痛い。今日こそは平穏無事に、もやしを炒めて寝るだけの人生を送るはずだったのに)」
昨夜の配信は大盛況だった。おかげで来月の家賃と高級プロテイン代、それに胃薬のストックも一気に潤った。しかし、画面の向こうで未来のトップヒーローたちが札束(赤スパ)の殴り合いを演じていたツケは想像以上に最悪の形で回ってきた。
ピンポーンとアパートの安っぽいチャイムが鳴ったのは翌日の夕方。
パトロールという名の猫の捜索を終えヨレヨレのジャージ姿で一息ついていた時だった。
「はいはーい、今出ま……」
ガチャリ、とドアを開けた瞬間俺の全身の細胞が『回れ右して鍵を閉めろ』と最大級の危険信号を発した。
目の前に立っていたのはボサボサの黒髪に首元に巻かれた灰色の捕縛布。そして寝不足でバキバキに充血した三白眼。
メディア露出を極限まで嫌う雄英高校1年A組担任――プロヒーロー・イレイザーヘッド(相澤消太)がなぜかうちのボロアパートの前に直立していた。
「……割内駆。ヒーロー名『ナビゲイト』だな」
「(※思わずガチのイケボで)は、はいっ! イレイザーヘッド先輩……!? な、何故ここに……」
相澤先生は無言で俺を押し退けて部屋に入り込むとデスク上の配信機材(高性能PCとLive2D用カメラ)を一瞥し重いため息をついた。
「単刀直入に言う。……お前が『ナビちゃん』だな」
「ぎゃふんっ!!」
「今日、朝のホームルームの時点で1年A組の男子生徒の半数が深刻な寝不足に陥っていた。原因を問い詰めたところ、爆豪のスマホの画面にお前の配信履歴が残っていた。さらに轟の部屋からはお前の声が睡眠導入剤代わりに大音量でループ再生されていた」
相澤先生の目が怪しく赤く光る。
ふわり、と黒髪が逆立ち殺気にも似た威圧感が四畳半の部屋を満たす。
「うちの生徒の睡眠時間を削り規律を乱している元凶が同業者のバ美肉配信だと知った時の俺の気持ちが分かるか? ……非常に不合理だ。今すぐその白髪ケモ耳ロリのガワを削除しろ。さもなければお前の個性を――」
「ちょっと待ってください先輩!!! それはあまりにも理不尽で不合理です!!!」
俺は捕縛布を構えようとする相澤先生に向かって両手を広げて必死に叫んだ。
ここを退いたら、俺の生活費が消える。底辺ヒーローの尊厳(と家賃)がかかっているのだ。
「いいですか先輩!? それって俺、1ミリも悪くなくないっすか!?」
「……何?」
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## 2. 生徒が100%悪い論法
「俺はただ! 深夜に! 健全かつ合法的な『防犯・護身術講座』をネットの海に流してただけです! 視聴ターゲットは一般の無力な学生! 悪いヴィランから身を守るための知識を、少しでも親しみやすくするために可愛いガワ(※中身はイケボ)で噛み砕いて説明してただけなんですよ!
それを! 先輩んとこの生徒たちが! 勝手に夜更かしして! 勝手に高額な赤スパを投げて! 勝手に寮内で内ゲバを起こしてるだけじゃないですか!!
悪いのは100%、『消灯時間を守れない雄英生』であって、配信規約を1ミリも破ってない俺じゃないですよね!? なんで俺が被害者面で『抹消』されなきゃいけないんですか!!」
一息でド正論をまくしたてると相澤先生の逆立っていた髪が、すうっ……と元に戻った。
あれ、個性を解いた? 伝わったか俺の圧倒的ド正論が。
「……ふむ。確かにお前の言い分には一理ある。悪いのは規律を守れなかったうちのガキどもだ。それはそれとして今日のホームルームで全員きつく絞り上げる。……だが」
相澤先生は鋭い目で俺のパソコンの画面(昨日のおすすめ蕎麦屋のメモ)を見つめた。
「お前の『防犯講座』のせいで、緑谷が『ナビゲイトさんの対ヴィラン近接護身術・金的編』という不穏なノートを3ページも書き殴っている。あいつの戦闘スタイルが不気味な方向に進化したらどう責任を取るつもりだ。それと轟が『ナビちゃんの声を聴かないと眠れない体』になりかけている。これもお前の仕業だな?」
「それは風評被害ですって!!! 轟くんに関してはエンデヴァーさんの家庭環境のストレスを俺の極上イケボが癒やしちゃってるだけですから! むしろ実家にセラピー代として請求したいくらいですよ!!」
「口が減らない奴だな……」
相澤先生はこめかみを指で押さえ本日一番の重いため息をついた。
「……まぁいい。お前の配信自体を止める権限は俺にはない。だが、これ以上うちのクラスの連中を夜更かしさせるな。次、消灯時間間際に赤スパの投げ合いが始まったらお前の事務所のドアを文字通り叩き壊しにくるからな」
「ひえっ……」
「あと……これを持っていけ。雄英の公式書類だ」
相澤先生がポケットからクシャクシャの紙を放り出してきた。見ると、そこには『雄英高校 課外授業・防犯特別講師 依頼書』と書かれていた。
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## 3. 最強の買収
「え、これ……?」
「お前の配信のせいで生徒たちが無駄に防犯意識を高めてる。なら、いっそのこと昼間の授業で公式に喋れ。そうすれば夜にコソコソ見る不合理もなくなる。……ギャラは雄英の予算からお前の現在の年収の3倍は出るぞ」
「(※深く、甘く、最高に現金な低音ボイスで)
――謹んで、お受けいたします。イレイザー先輩(はぁと)」
「声のトーンを戻すな。気持ち悪い」
こうして底辺プロヒーロー兼美少女VTuberの俺はなぜか最高峰のヒーロー校「雄英高校」の特別講師として生身で教壇に立つ羽目になったのだった。
しかし、俺は完全に失念していた。
昼間の教壇に立つ割内駆の声は、深夜に彼らが聴き込んでいる「ナビちゃんの中の人」の声そのものであるということを。
生徒たちに「バ美肉おじさん」だとバレずに、この特別授業を乗り切ることなど、果たして可能なのだろうか?