この超常社会Live2Dのイケメンアバターより『疲れ切った23歳男の地声を持つロリ美少女』の方が需要あるのバグ以外の何物でもないでしょ 作:九咲
## ■ 『絶対に人が集まりすぎるお悩み相談室』
「(……胃が痛い。文化祭って、生徒たちが主役のイベントじゃなかったっけ……?)」
雄英高校文化祭の当日。
俺は経営科の生徒たちが「一攫千金!!」と目を血走らせて設営した特設テントの中で1台の配信用マイクを前に頭を抱えていた。
テントの入り口に掲げられた看板には大文字でこう書かれている。
【緊急開催! 国家公認バ美肉教師・割内駆先生の『おつナビー!生イケボ防犯お悩み相談室』※入場料500円】
「割内先生! チケット、一般公開から3分で完売しました!! 転売対策に個性の『ウィンドウ』で電子認証の警備お願いします!!」
「物販の『ピンクゴールド仕様・公式催涙スプレー』、ファットガム事務所のインターン生が箱買いしていきました!!」
「経営科の諸君、商魂が逞しすぎるだろ!! 俺、一応同僚の先生(相澤先輩)の圧力で公式講師として雇われてる身なんだけど!? 完全に客寄せパンダ(バ美肉)扱いじゃないか!」
俺が(※最高にセクシーで疲れ切った地声の低音で)ツッコミを入れると、テントの外から凄まじい大歓声が響いた。入場開始の合図だ。
一番乗りでテントに飛び込んできたのはやはりA組のヘビーリスナーたちだった。
「先生!!! いや、ナビの兄貴!!!」
切島鋭児郎がキラキラした目で俺のデスクに両手を突いた。
「昨日の『身バレ開き直り生雑談』最高に漢気溢れてました! 今日は生で兄貴の防犯講義が聴けるって聞いてA組のバンド隊の朝練抜けてきました!」
「切島くん、ありがとう。でも耳郎ちゃん(バンド隊のリーダー)が後ろでガチの形相でプラグを構えて君を睨んでるから、今すぐ練習に戻りなさい。あと、隣のショートくん、なにそのポーズ」
轟焦凍はマイ枕を小脇に抱えテントのパイプ椅子に神妙な面持ちで腰掛けていた。
「……割内先生。……今日は文化祭で人が多くて騒音のせいでさっきから軽い偏頭痛がするんだ。……頼む、A組のステージが始まるまでこの特設テントの端で先生の『おすすめの蕎麦屋紹介(CV:極上重低音ウィスパー)』を聴きながら寝かせてくれ。入場料は3倍払う」
「轟くん、君は雄英の文化祭を何だと思ってるの!? プレミアム安眠セラピー会場じゃないんだよ! あと実家(エンデヴァーさん)がそこの模擬店で烈火のごとく睨みつけてるから早く行きなさい!!」
その時テントの入り口から「どけコラァ!!」と、掌から火花を散らした爆豪勝己が割り込んできた。
「おい、陰キャバ美肉教師!! てめぇ、身バレしたからって、昨日ナビちゃんねるのコミュニティ欄に『これからは生身の姿も愛してね(はぁと)』とかいうクソ舐め腐った告知文出しやがったな!? ガワ(ロリ美少女)のあざとさを生身のジャージ姿で再現しようとしてんじゃねぇぞブチ殺すぞ!!」
「爆豪くん、あれは俺じゃなくてMt.レディ(岳山優)がウチの事務所のパソコンハッキングして勝手に書いた誤爆第2弾なんだよ!! 俺だって朝起きて自分のジャージ姿の自撮り(※顔はスタンプ)がアップされてるの見て、恥ずかしさでブルーウィンドウ出して気絶したわ!!」
カオスを極める相談室。
デクにいたってはノートを片手に「割内先生の生声の周波数はやはりマイクを通した時と比べて0.3ヘルツほど低音の響きが……。これがLive2Dのキツネ耳モーションと完全に同期していた時の心理誘導効果についてだけど……」と、ブツブツ呟きながらガチのストーカープロファイリングを再開している。
「はぁ……(※全リスナーの脳髄を揺らす、最高にセクシーで、最高に諦めに満ちた低音のため息)」
俺はマイクを引き寄せ、テントの外――長蛇の列を作っている全校生徒と一般のお客さんたちに向けて、国家公認の「あの声」で囁いた。
「――……静かに。……悪い子は、誰かな……?
せっかくの文化祭なんだ。そんなに大きな声を出すと、相澤先生の個性の餌食になっちゃうよ……?
今夜はみんな、A組のバンドとエリちゃんの笑顔だけを見て、良い夢を見るんだよ。……おつナビー(吐息)」
テントの外から「ギャァァァァァ!!! 生ナビーーー!!!」「耳が溶けたーーー!!!」と、地鳴りのような悲鳴が上がり、経営科のブースに設置された『スパチャ用賽銭箱』に500円玉が雨のように投げ込まれる。
横で腕を組んで見ていた相澤先生が、あきれ果てた目で「……合理的だが、やはりシンプルに気持ち悪いぞ割内。終わったら売上の3割を雄英の警備費に回せ」と呟いたが、もうどうにでもなれだ。
身バレした底辺ヒーロー割内駆の文化祭は、生徒たちの圧倒的な「推し活の熱量」に包まれながら、家賃の心配が完全に消え去るほどの大盛況で幕を閉じるのだった。