この超常社会Live2Dのイケメンアバターより『疲れ切った23歳男の地声を持つロリ美少女』の方が需要あるのバグ以外の何物でもないでしょ 作:九咲
##
「――はい、優、口開けて。早く開けて。お前には話す権利なんてないからこの特上カルビ(※1人前3,500円)を限界まで喉の奥に詰め込みなさい!!」
「むー! むーっ!? ちょ、駆、ストップ! 美味しいけど、ジューシーだけど窒息するーーー!!」
トングを片手に般若のような形相で肉を焼きレディの口へ容赦なく放り込む俺。
テレビの中では抜群のプロポーションで大衆を魅了するトップヒーローMt.レディは今やただの「幼馴染みを社会的に破滅させかけた大食い女」に成り下がっていた。
「駆、落ち着け。優の口に肉を詰め込む速度がプロのヒーローのそれではない。……それに肉の脂で個室の換気扇が限界を迎えている」
スーツ姿の守宮盾が冷奴を口に運びながら冷静に俺のトングを止めた。
「落ち着いてられるか盾ぇぇぇ!!!」
俺は(※極上の重低音イケボで)涙目で叫んだ。
「お前ら知ってるか!? 今日の雄英の文化祭! 俺が教壇に立った瞬間1年A組の全員がガタッと起立して『割内先生! 起立! 礼! おつナビー!!!』ってクソデカ大声で挨拶してきたんだぞ!!
隣にいた相澤先生の目が、見たことないレベルで冷たくて、俺その場で個性の画面(ブルーウィンドウ)を30枚くらい出して気絶するかと思ったわ!!」
「ギャハハハハ!!! ゲホッ、ンぐっ……美味いっ!!」
優はカルビを豪快に飲み込むとビールをグイッと煽って爆笑した。
「いいじゃん駆! 聞いたよ、経営科のブースで『生ナビーお悩み相談室』やったんでしょ? スパチャ用の賽銭箱に、一般のお客さんから500円玉が雨のように降ってきたって! ほらその通帳の残高見なさいよ、底辺脱出じゃない!」
「脱出した代償に『教師としての尊厳』と『プロヒーローとしての隠密性』が全部消し飛んだんだよ!!
今日だってさぁ、轟くんがマイ枕持ってテントに突撃してきて『先生の横で蕎麦屋紹介のイケボを聴きながら寝かせてくれ、入場料は3倍払う』とかガチの目で迫ってくんの!! 爆豪くんからは『てめぇコミュニティ欄に「生身の姿も愛してね(はぁと)」とか書いたなブチ殺すぞ!』って掌から火花出されるし、もう生きた心地がしなかった!!」
「……待て、駆」
盾がウーロン茶のグラスを置いて鋭い目で俺を凝視した。
「そのコミュニティ欄の『生身の姿も愛してね』という文面は、一体誰が書いたんだ? 俺はお前の代わりに防犯ガイドライン(PDF)の音読を推奨しろとは言ったがそんな破廉恥な規律違反の文言は許可していないぞ」
「俺が書くわけないだろ!!! 犯人は目の前で特上タン塩を網に乗せてるアイツだよ!!!」
俺がトングで優を指すと優はペロッと舌を出してウインクした。
「あはは☆ だって、駆が文化祭前日に『胃が痛い、明日アパートに引きこもりたい』ってLINEでシクシク泣くからさぁ! 幼馴染みとしてちょっとでも文化祭にハクをつけてあげようと思ってあんたの事務所のPCリモートでハッキングして、あたしの自撮りフォルダに入ってた『駆のヨレヨレジャージ姿(顔スタンプ隠し)』の写真付きで告知してあげたのよ! ファンサービス!」
(※限界まで声を低く、セクシーに、かつ怨念の塊のような重低音で)」
「――お前、今度ウチの事務所のセキュリティ強化費用(100万円)、Mt.レディ事務所の経費から一括で落とさせてもらうからな……?」
「うわ、ガチトーンのナビちゃんボイスやめて! 耳が溶けて請求書拒否したくなる!」
優は縮み上がりながらも嬉しそうに次のハラミを網に並べた。
「でもさ、駆」
盾が、少しだけ真面目なトーンで口を開いた。
「身元が完全に割れたのは不本意だろうがお前のやってきた『バーチャル防犯』はいまや雄英の上層部や公安すらも動かした。お前が可愛いガワを被って泥臭い護身術をあの声で説き続けた結果、確実に若者の防犯意識は向上している。……プロヒーローとして、前は誰も成し得なかった治安維持の形を作り上げたんだ。それは、誇っていい」
「盾ちゃん……お前法律ヤクザのフリして配信した時は生真面目すぎて焦ったけどやっぱり持つべきものは持つべき幼馴染みだな……(ホロリ)」
「ただし」と盾は冷酷に続けた。
「明後日公開される、お前とイレイザーヘッド先輩による『国家公認・防犯バ美肉生特番』の台本だが相澤先輩から『割内が変なファンサを強要してきたら即座に拘束する』と連絡が来ている。駆、お前は当日絶対に猫耳をピコピコ動かすなよ。法を舐めるな」
「相澤先生の猫耳なんて俺が一番見たくねぇよ!!! 先輩が勝手に公式アバターに選んだんだよ!!」
「あははは!! 決定、特番の日はあたしもコメント欄で『黒髪猫耳の相澤先生カワイイー!』って赤スパ5万投げるわ!!」
「絶対にやめろ岳山ァァァ!!!」
個室の中に肉の焼けるジューシーな音と、俺の絶望の極上イケボが虚しく響き渡る。
底辺ヒーロー・割内駆の国家公認バ美肉トップ配信者としてのドタバタな新生活はこの騒がしすぎる幼馴染みたちの笑い声と共に賑やかに加速していくのだった。