ノッキングマスターの弟子のアカデミア   作:のんびり者

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 何時ぞやの小説をリメイクしたものです。

 ※この小説はAIを使用していますAIなんてだっせーよなと言う方は回れ右して帰ってください


無個性の受験生

 朝靄が山を包む。

 

 鳥のさえずりが木々の間を抜け、澄んだ空気が山小屋を満たしていた。

 

 そんな静かな朝──

 

 ドゴォン!! 

 

 山中に鈍い衝撃音が響く。

 

 枝葉が揺れ、小鳥が一斉に飛び立った。

 

「……朝っぱらから景気のいい音じゃのォ」

 

 山小屋の縁側で酒をあおっていた老人は、呆れたように呟いた。

 

 白髪交じりの髪を無造作に掻き上げながら、徳利を傾ける。

 

「おーい、瞬」

 

 返事はない。

 

 代わりに、

 

 ドゴン! ドゴン! ドゴォン!! 

 

 規則正しく響く衝撃音。

 

「聞こえとるくせに……」

 

 老人──針山次郎は立ち上がると、ゆっくり森の奥へ歩き出した。

 

 木々を抜けると、小さな開けた場所に出る。

 

 そこでは、一人の少年が大木を相手に拳を振るっていた。

 

 黒髪。

 

 鍛え抜かれた巨躯。

 

 高校生とは思えないほど完成された肉体。

 

 汗を飛ばしながら、無心で拳を打ち込んでいる。

 

「ふっ!」

 

 ドンッ!! 

 

 拳が幹へめり込み、大木が大きく揺れた。

 

「……九百九十八」

 

 少年は静かに呟く。

 

「九百九十九」

 

 もう一歩踏み込む。

 

 全身の筋肉が連動し、腰から肩、腕、拳へと力が流れる。

 

「千ッ!!」

 

 ズドォォォン!! 

 

 轟音と共に、大木が根元からゆっくり傾いた。

 

 ミシ……ミシミシ……

 

 やがて巨木は地面へ倒れ、大地を震わせる。

 

 少年は息を吐き、額の汗を拭った。

 

「終わったー」

 

「終わった、じゃねぇ」

 

 後ろから次郎が頭を小突く。

 

「いって!」

 

「朝飯前に木ァ倒す阿呆がどこにおる」

 

「だって丈夫そうだったし」

 

「そういう問題じゃねぇ」

 

 次郎は倒れた木を眺め、小さくため息をつく。

 

「あとで薪にしとけ」

 

「了解」

 

 瞬は笑って返事をした。

 

 怒られているはずなのに、どこか楽しそうだった。

 

 次郎はそんな姿を横目で見ながら、小屋へ戻り始める。

 

「飯にするぞ」

 

「今日の朝飯なに?」

 

「味噌汁」

 

「それだけ?」

 

「魚」

 

「やった!」

 

 さっきまで大木を倒していた少年とは思えないほど、瞬は嬉しそうに笑う。

 

 二人並んで山道を歩く。

 

 山小屋へ戻ると、湯気の立つ鍋が卓の上に置かれていた。

 

 瞬は席に着くなり手を合わせる。

 

「いただきます!」

 

 茶碗を持ち上げ、一気にご飯をかき込む。

 

「……相変わらずよく食う」

 

「腹減るんだもん」

 

「昨日も五合食ったろ」

 

「昨日は昨日、今日は今日」

 

「便利な言葉じゃな」

 

 次郎は苦笑しながら味噌汁をすすった。

 

 瞬は魚を骨まで綺麗に食べ終え、ご飯のおかわりへ手を伸ばす。

 

「ジジイ、おかわり」

 

「はいはい」

 

 炊飯器から山盛りによそう。

 

「ありがとう」

 

 瞬はまた勢いよく食べ始めた。

 

 その食べっぷりを見ながら、次郎はぽつりと言う。

 

「今日だったな」

 

 瞬は箸を止める。

 

「ああ」

 

「緊張しとるか?」

 

「全然」

 

「ほう」

 

「楽しみ」

 

 その一言だけだった。

 

 気負いも、不安も見せない。

 

 いつも通りの笑顔。

 

 次郎は酒を一口飲むと、口元をわずかに緩めた。

 

「そうか」

 

 食事を終えると、瞬は食器を流しへ運ぶ。

 

 制服へ着替え、玄関で靴紐を締めた。

 

「忘れ物ないか?」

 

「たぶん」

 

「たぶんじゃ困る」

 

「あっ、受験票」

 

「ほれ」

 

 次郎が懐から封筒を投げる。

 

 瞬は慌てて受け取った。

 

「危なかった……」

 

「お前さんは昔からそこだけ抜けとる」

 

「えへへ」

 

「笑って誤魔化すな」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

 そして同時に笑った。

 

 山小屋の外へ出る。

 

 朝日が山を照らし、一本の山道が麓まで続いていた。

 

 瞬は一歩踏み出し、振り返る。

 

「行ってくる」

 

「ああ」

 

 次郎は徳利を片手に頷く。

 

「受かって来い」

 

「もちろん」

 

「……あと」

 

「ん?」

 

「腹ァ減ったら我慢すんな」

 

「そこ?」

 

「そこじゃ」

 

 瞬は吹き出した。

 

「わかった」

 

「あと怪我すんな」

 

「善処する」

 

「善処じゃねぇ」

 

「努力する」

 

「努力でもねぇ」

 

「じゃあ頑張る」

 

「……それでいい」

 

 次郎はぶっきらぼうに手を振る。

 

 瞬も笑って手を振り返し、山道を駆け下りていく。

 

 その背中が木々の向こうへ消えるまで、次郎は黙って見送っていた。

 

「……さて」

 

 誰に聞かせるでもなく呟く。

 

「行ってこい、瞬」

 

 山の風が静かに吹き抜けた。 

 

 ────────

 

 数時間後。

 

 雄英高校。

 

 全国から集まった受験生で、正門前はごった返していた。

 

 炎を手から噴き出す者。

 

 体を巨大化させる者。

 

 身体中から電気を漏らす者。

 

 様々な個性が飛び交う。

 

 その中を、一人の大男が歩いていた。

 

 百九十五センチの長身。

 

 鍛え抜かれた肉体。

 

 黒髪に黒い瞳。

 

 その圧倒的な存在感に、周囲の受験生が思わず道を空ける。

 

(……なんか歩きやすいな)

 

 本人だけが理由を理解していなかった。

 

 その時だった。

 

「どけや、雑魚共!!」

 

 怒鳴り声。

 

 受験生の列を割るように、一人の少年が歩いてくる。

 

 金髪。

 

 鋭い目つき。

 

 手のひらでは、小さな爆発が弾けていた。

 

 その受験生の視線が瞬を捉える。

 

「……チッ」

 

 明らかに機嫌が悪くなる。

 

「なんだテメェ。その図体」

 

 瞬は首を傾げた。

 

「え?」

 

「邪魔なんだよ」

 

「ごめん」

 

 素直に一歩横へずれる。

 

 あまりにも素直すぎる反応に、受験生の方が拍子抜けした。

 

「……はぁ?」

 

「通るんだろ?」

 

「……」

 

 受験生は一瞬だけ黙る。

 

 そして舌打ちした。

 

「チッ……気に入らねぇ」

 

 そう吐き捨て、そのまま校舎へ向かっていった。

 

 瞬はその背中を見送りながら首を傾げる。

 

「怒ってたのかな」

 

 近くにいた受験生が苦笑する。

 

「いや……あれは誰にでもあんな感じだろう」

 

「そうなんだ」

 

「君、怒らないんだね」

 

「?」

 

 瞬は不思議そうな顔をした。

 

「通りたかっただけなんだろ? だったら譲ればいいし」

 

 それだけ言って歩き出す。

 

 受験生は呆気に取られ、その背中を見送った。

 

 ◇

 

 筆記試験。

 

 静まり返った教室。

 

 問題用紙が配られる。

 

『開始』

 

 試験官の声。

 

 瞬は迷わず鉛筆を走らせた。

 

 ヒーロー法。

 

 災害対策。

 

 救助理論。

 

 機械工学。

 

 ロボット構造。

 

 問題を読むたびに、次郎から教わった知識が自然と浮かんでくる。

 

(考える前に知っとけ)

 

(知識は裏切らねぇ)

 

 何度も聞かされた言葉だった。

 

 カリカリ、と鉛筆だけが音を立てる。

 

 開始から三十分。

 

 瞬は最後の問題を書き終えた。

 

「終わった……」

 

 周囲を見回す。

 

 まだ誰も終わっていない。

 

(早すぎたかな)

 

 そう思いながら、もう一度最初から見直し始める。

 

 ◇

 

 試験終了。

 

 受験生たちは一斉に立ち上がる。

 

「次はいよいよ実技か」

 

「ロボット戦だよな?」

 

「緊張してきた……」

 

 様々な声が飛び交う。

 

 瞬も静かに歩きながら、右手を握ったり開いたりする。

 

 指先には、長年積み重ねた修行の跡。

 

 その感触を確かめるように、小さく息を吐く。

 

「……よし」

 

 そして、実技試験会場へ向かって歩き始めた。

 

 巨大なゲートの向こうでは、無数のロボットが静かに待ち構えている。

 

 これから始まるのは、雄英高校最大の関門。

 

 無個性の少年が、その常識を覆す戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。

 

 ────────

 

 巨大なゲートの前。

 

 受験生たちは緊張した面持ちで開始を待っていた。

 

 その最前列に、針山瞬は静かに立っている。

 

 周囲ではそれぞれが個性を発動し、肩慣らしを始めていた。

 

 炎が揺らめき、雷が弾け、腕が巨大化する。

 

 そんな中、一人だけ何も纏わない少年。

 

 瞬は深く息を吸い、ゆっくり吐いた。

 

「……いつも通り」

 

 そう自分に言い聞かせる。

 

 壇上ではプレゼント・マイクがマイクを握り、大声で叫んだ。

 

「ヘイヘイ受験生ィ!! ルールはシンプル!! ロボットをぶっ壊してポイントを稼げぇ!! ヴィランは待ってくれねぇぞォ!!」

 

 会場が歓声に包まれる。

 

「それじゃあ──」

 

 マイクが腕を振り上げる。

 

「スタァァァァァァトッ!!」

 

 ゲートが開いた。

 

 受験生たちが雪崩のように飛び出していく。

 

 瞬も地面を蹴った。

 

 その瞬間。

 

 ──ドンッ!! 

 

 地面が小さく陥没する。

 

「速っ!?」

 

 近くの受験生が目を見開く。

 

 瞬は風を切りながら一直線に市街地へ飛び込んだ。

 

 目の前に1ポイントロボット。

 

 腕部からビームを放ちながら接近してくる。

 

「悪いな」

 

 瞬は一歩踏み込む。

 

 その視線がロボット全体を捉える。

 

(……ここ)

 

 自然と一点へ意識が向く。

 

 関節。

 

 駆動部。

 

 装甲の噛み合わせ。

 

 そこへ拳を叩き込む。

 

 ガァァァン!! 

 

 装甲が砕け、内部機構が爆ぜロボットは完全に停止した。

 

「今の一発で!?」

 

「個性使ってたか!?」

 

 驚く受験生を横目に、瞬は次の敵へ向かう。

 

 2ポイントロボットが二体。

 

 左右から挟み撃ちにしてくる。

 

 瞬は足を止めない。

 

 左へ踏み込み、拳。

 

 右へ体を捻り、肘。

 

 続けざまに回し蹴り。

 

 三発。

 

 三度の金属音。

 

 二体のロボットが同時に崩れ落ちる。

 

「よし」

 

 そのまま走る。

 

 迷いがない。

 

 どこを壊せば最も効率良く止まるか。

 

 考えているわけではない。

 

 見えた場所へ、最短で拳を届けるだけ。

 

 ◇

 

 一方。

 

 モニター室。

 

 教師陣が試験映像を見守っていた。

 

「面白い少年ですね」

 

 十三号が呟く。

 

 セメントスも腕を組む。

 

「あの子……確か無個性の子でしたよね」

 

 プレゼント・マイクがモニターを指差した。

 

「おいおい見ろよ!! あいつ全部急所をぶち抜いてるぜ!!」

 

 ネズ校長が目を細める。

 

「ふむ……」

 

 一撃。

 

 また一撃。

 

 どのロボットも最小限の攻撃で沈んでいく。

 

 まるで構造を知り尽くしているかのようだった。

 

「力任せじゃない」

 

 エクトプラズムが静かに言う。

 

「壊し方を知っている」

 

 ◇

 

 その頃。

 

 瞬は既に十数機を撃破していた。

 

「次!」

 

 3ポイントロボット。

 

 巨体が拳を振り下ろす。

 

 瞬は懐へ飛び込む。

 

 低い姿勢。

 

 踏み込み。

 

 掌底。

 

 ガゴォン!! 

 

 脚部が砕け、巨体が大きく傾く。

 

 そのまま肩へ跳び乗る。

 

「はっ!」

 

 肘打ち。

 

 頭部センサーが砕け散る。

 

 ロボットは完全停止した。

 

 その時だった。

 

「きゃあああっ!」

 

 悲鳴。

 

 瞬の足が止まる。

 

 反射的に振り向く。

 

 瓦礫の下敷きになった女子受験生。

 

 その前には、1ポイントロボットが迫っていた。

 

「危ない!」

 

 考えるより先に体が動く。

 

 瞬は一直線に駆け抜ける。

 

 拳がロボットを吹き飛ばす。

 

 続けて瓦礫を持ち上げ、少女を助け出した。

 

「立てる?」

 

「う……うん」

 

「よかった」

 

 それだけ確認すると、瞬はすぐ立ち上がる。

 

 少女がお礼を言おうとした時には、もうその背中は遠ざかっていた。

 

「……名前も聞けなかった」

 

 少女は呆然と、その大きな背中を見送る。

 

 瞬は振り返らない。

 

 次の誰かが困っているかもしれない。

 

 その思いだけで走り続ける。

 

 そして、この直後。

 

 試験会場全体を揺るがす轟音と共に、"0ポイント"が姿を現そうとしていた。

 

 ────────

 

 地鳴りが響く。

 

 模擬市街地のビル群を見下ろすように、0ポイントロボットがゆっくりと歩みを進める。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 そのたびに地面が揺れ、瓦礫が跳ねる。

 

「ゼ、0ポイントだァ!!」

 

「逃げろぉぉぉ!!」

 

 受験生たちは蜘蛛の子を散らすように走り出した。

 

 試験官が討伐対象ではないと説明していたロボット。

 

 倒しても得点にはならない。

 

 だから誰も戦おうとはしない。

 

 そんな中──。

 

「きゃあああっ!!」

 

 崩れた外壁の下敷きになった少女が声を上げた。

 

 逃げようとして転び、足を瓦礫に挟まれている。

 

 零ポイントロボットは、その少女へゆっくりと腕を振り上げた。

 

 その腕が振り下ろされれば、助からない。

 

 瞬は足を止め一瞬だけ周囲を見る。

 

 誰も来ない。

 

 皆、自分の身を守るので精一杯だ。

 

 ならば。

 

「ここで逃げる奴が、ヒーローになれるかよ」

 

 瞬は地面を蹴った。

 

 コンクリートが砕け、身体が一直線に少女の元へ飛ぶ。

 

 振り下ろされる巨大な鉄腕。

 

 間一髪。

 

 少女を抱え上げ、その場から離脱する。

 

 轟音と共に道路が陥没した。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「う、うん……」

 

「よし」

 

 少女を安全な場所へ降ろし、瞬は振り返る。

 

 巨大な影。

 

 二十階建てのビルにも匹敵する鉄の巨人。

 

 普通なら、逃げる。

 

 戦う相手ではない。

 

 だが瞬は静かに目を細めた。

 

「……デカいな」

 

 その視線がロボット全身を駆け巡る。

 

 頭部。

 

 首。

 

 肩。

 

 胸部。

 

 脚部。

 

 油圧。

 

 関節。

 

 重量配分。

 

 次郎との修行で磨かれた観察眼が、機械を解析していく。

 

(見える)

 

(重心)

 

(荷重)

 

(一番壊れやすい場所)

 

(……そこか)

 

 巨大な相手ほど、一度では見抜けない。

 

 だが、見えた。

 

 ロボットが再び腕を振り上げる。

 

「来い」

 

 瞬は深く息を吸った。

 

 全身の筋肉が軋む。

 

 脚。

 

 腰。

 

 背中。

 

 肩。

 

 腕。

 

 全身の力を一点へ収束させる。

 

 山で何千、何万回と繰り返した動作。

 

 次郎が叩き込んだ、全身を連動させる打撃。

 

 地面を踏み抜いた。

 

 ドォォォンッ!! 

 

 半径数十メートルのコンクリートが陥没する。

 

 爆発的な加速。

 

 音すら置き去りにして、瞬の身体が宙を翔けた。

 

「ビィィィッグ──!!」

 

 拳を引く。

 

 全身の筋肉が限界まで収縮する。

 

「──バンッ!!!」

 

 拳が、ロボットの胸部深くへ突き刺さる。

 

 次の瞬間。

 

 ドガァァァァァァァァァァァァァン!! 

 

 凄まじい衝撃が爆発した。

 

 装甲が弾け飛ぶ。

 

 内部フレームがひしゃげる。

 

 油圧装置が連鎖的に破裂し、火花が嵐のように吹き荒れる。

 

 巨大な躯体が大きく仰け反った。

 

 ミシッ……

 

 ミシミシミシ……

 

 そして。

 

 轟ッ!! 

 

 0ポイントロボットはゆっくりと崩れ落ちた。

 

 大地を震わせながら、その巨体は完全に沈黙する。

 

 会場中が静まり返る。

 

 誰も言葉を発せない。

 

 モニター越しに見ていた教師たちでさえ、目を見開いていた。

 

 プレゼント・マイクがようやく我に返る。

 

「な、なんだ今のはァァァァ!? いやいやいやいや! パワーがおかしいだろォォォ!!」

 

 セメントスが思わず呟く。

 

「地面まで砕いたか……」

 

 ブラドキングも腕を組む。

 

「中学生とは思えんな」

 

 煙が晴れる。

 

 そこには瓦礫の上へ着地する瞬の姿があった。

 

「いてて……」

 

 右拳をぶらぶらと振る。

 

「やっぱ全力は痛ぇな」

 

 少女が駆け寄ってきた。

 

「ありがとう……助けてくれて……」

 

 瞬は照れ臭そうに笑う。

 

「気にすんな」

 

「無事ならそれでいい」

 

 その時だった。

 

 試験終了を告げるブザーが鳴り響く。

 

「タァァァァイムアァァップ!!」

 

 プレゼント・マイクの声が会場へ響き渡る。

 

「実技試験終了ォォォ!! 受験生は速やかに退場してくれェェ!!」

 

 瞬は空を見上げる。

 

「終わったか」

 

 その表情に悔しさも後悔もない。

 

 ただ、やれることはやった。

 

 それだけだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ──数日後。

 

 山小屋。

 

 縁側で酒を飲む次郎のもとへ、一人の郵便配達員が歩いてくる。

 

「針山さん、雄英高校からです」

 

「おう」

 

 封筒を受け取った次郎は、小屋の中へ放り投げる。

 

「瞬」

 

「ん?」

 

「来たぞ」

 

 台所から顔を出した瞬は、慌てて駆け寄った。

 

「おっ、本当に来た!」

 

 少しだけ緊張した手で封を切る。

 

 一枚の紙。

 

 そして、小さな記録媒体。

 

 通知に書かれていた文字を見た瞬間、その顔がぱっと明るくなった。

 

「……受かった」

 

 震える声。

 

 もう一度見返す。

 

 何度見ても同じだった。

 

「ジジイ!」

 

 勢いよく振り返る。

 

「受かった!!」

 

 次郎は酒を一口飲み、鼻で笑う。

 

「当たり前だ」

 

「お前が落ちるようなら、雄英の方がおかしい」

 

「ははっ!」

 

 瞬は子供のように笑った。

 

 次郎も小さく笑う。

 

「今日は祝いだ」

 

「好きなだけ食え」

 

「やった!」

 

 瞬は勢いよく台所へ向かう。

 

「今日は肉だ! 山菜も山盛りだ!」

 

「酒に合うもんも作れ」

 

「任せろ!」

 

 山小屋に笑い声が響く。

 

 夕日が二人を優しく照らしていた。

 

 こうして、針山瞬は雄英高校への切符を手に入れた。

 

 無個性。

 

 それでも誰かを救うために拳を振るう少年の物語は、ここから本当の始まりを迎えるのだった。





 読んでくれてサンガツ!!
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