あ〜10000UA突破して気持ちい〜!!!
騎馬戦終了のブザーが鳴り響いた。
グラウンドを埋め尽くしていた騎馬たちは、それぞれの場所で足を止める。
勝者。
敗者。
歓喜する者。
悔しさに拳を握る者。
それぞれの感情が入り乱れる中、巨大モニターへ騎馬戦の最終結果が映し出された。
「さぁさぁさぁ!」
プレゼント・マイクの声が響く。
「ここからは決勝トーナメント進出者の発表だぜぇぇ!!」
観客席が一気に沸き立つ。
モニターへ、次々と名前が表示されていく。
瞬も静かに見上げていた。
障害物競走では二位。
そして騎馬戦でも上位。
ここから先は、一対一。
自分自身の力だけで勝ち上がっていく戦いになる。
「楽しみだな」
瞬が小さく呟く。
その隣では、梅雨が頷いた。
「そうね」
障子も静かにモニターを見つめている。
「俺たちの戦いは終わった」
「ここからは、それぞれの戦いだな」
そして。
決勝トーナメントへ進出する生徒たちの名前が次々と表示されていく。
爆豪勝己。
轟焦凍。
緑谷出久。
そして──。
『針山瞬』
その名前が表示される。
会場から再び歓声が上がった。
「針山だ!」
「また上位かよ!」
「無個性なのにすげぇ!」
瞬は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「まぁ……ここまで来たなら、やるしかないな」
だが。
その直後だった。
「……待ってください」
静かな声が響いた。
全員が振り返る。
そこにいたのは──尾白猿夫だった。
尻尾を持つ少年。
その表情は、どこか納得していない。
尾白は拳を握り締めながら、一歩前へ出た。
「僕は……決勝トーナメントを辞退します」
「え?」
会場がざわめく。
プレゼント・マイクも思わず声を止めた。
「尾白ァ!?」
尾白は苦しそうに続ける。
「僕は騎馬戦で……自分の意思で戦ったという感覚がありません」
「気がついた時には、もう競技が終わっていました」
「自分がどうやって勝ち上がったのかも……はっきり覚えていません」
瞬の表情が変わる。
「……自分の意思じゃない?」
障子も眉を寄せる。
尾白は一度、心操へ視線を向けた。
「たぶん……心操の個性です」
その名前が出た瞬間。
周囲の生徒たちが一斉に心操へ視線を向ける。
心操は何も言わない。
ただ、静かに立っていた。
「俺も辞退する」
尾白と同じ騎馬にいた生徒の一人が手を挙げる。
「俺もだ」
「僕も……」
次々と辞退を申し出る。
彼らもまた、自分の意思とは無関係に心操の洗脳を受け、騎馬戦を勝ち抜いていた。
尾白は静かに頭を下げる。
「僕たちが勝ち上がったのは、自分たちの力だけではありません」
「だから、このまま決勝トーナメントへ進むことはできません」
会場が静まり返る。
瞬はその言葉を聞きながら、心操を見つめた。
(返事をしただけで、身体を操れる……)
(厄介な個性だな)
純粋な身体能力だけなら、瞬にとって恐れる相手は少ない。
だが、戦う前に意識そのものを奪われれば、力を発揮することすらできない。
これはノッキングとはまったく別の意味で危険な能力だった。
相澤が静かに説明する。
「心操の個性は、相手から返答を引き出すことで発動する」
「つまり、あいつと会話すること自体が戦いになる」
「……なるほど」
瞬は小さく頷く。
「返事をしなければいいんですね」
「そう簡単な話でもない」
相澤はそう答えた。
「戦闘中に相手から突然声を掛けられたら、反射的に返事をする可能性がある」
「油断すれば、それで終わりだ」
「そっか」
瞬は再び心操を見る。
心操もまた、瞬を見ていた。
二人の視線が交わる。
だが、瞬は何も話しかけない。
ただ静かに視線を外した。
そして。
「では、辞退によって空いた枠はどうなる!?」
プレゼント・マイクが叫ぶ。
巨大モニターへ新たな名前が表示された。
『鉄哲徹鐵』
「おおおおお!!」
会場が沸き立つ。
「鉄哲が繰り上がりだ!」
「決勝トーナメントに進出!」
鉄哲本人も驚いたように目を見開く。
「俺が!?」
拳を握り締める。
「よっしゃあああ!!」
その声が会場へ響き渡った。
一方。
尾白たちは静かにグラウンドを離れていく。
悔しさがないわけではない。
それでも、自分自身の意思で選んだ辞退だった。
瞬はその背中を見送る。
「……強いな」
ぽつりと呟いた。
勝つことだけが強さではない。
自分の納得できない勝利を捨てることもまた、強さなのだ。
そして。
巨大モニターには、改めて決勝トーナメントの出場者たちが映し出されていく。
針山瞬。
緑谷出久。
爆豪勝己。
轟焦凍。
八百万百。
そして、その他の実力者たち。
十六名。
ここから先は、一対一。
誰かの背中に乗る必要もない。
誰かに守ってもらう必要もない。
自分自身の力だけで、頂点を目指す。
瞬は拳を握った。
「……楽しみだ」
その目には、これまでとは違う輝きが宿っていた。
────────
騎馬戦が終わった。
グラウンドには、まだ熱気が残っている。
先ほどまで大勢の生徒たちが入り乱れていた競技場も、今は次の戦いを待つ静けさを取り戻しつつあった。
巨大モニターには、決勝トーナメントへ進出する生徒たちの名前が並んでいる。
その中には──
『針山瞬』
当然のように、その名前もあった。
瞬はモニターを見上げながら、軽く首を回す。
「いよいよ一対一か」
騎馬戦とは違う。
仲間もいない。
騎馬もない。
ただ一人で、自分自身の力だけを使って戦う。
瞬にとっては、むしろこちらの方が分かりやすかった。
「楽しみだな」
その呟きを聞いて、隣にいた切島が笑う。
「お前、本当に戦うの好きだよな!」
「うん」
瞬はあっさり頷いた。
「強い人と戦うの、楽しいから」
「やっぱ男らしいぜ!」
切島が笑った。
その直後。
会場の中央へ、プレゼント・マイクが姿を現す。
「ヘイヘイヘーイ!!」
マイクを握り締め、観客席へ向かって叫ぶ。
「ここから先は、勝ち残った者たちによる決勝トーナメント!!」
観客席から歓声が上がる。
「……の前に!」
プレゼント・マイクが突然、人差し指を突き上げた。
「ちょーっとばかし休憩タイムだぜぇ!!」
「え?」
生徒たちが顔を見合わせる。
「決勝トーナメントの前に、出場者たちにはレクリエーションの時間を用意している!」
その言葉に、会場がざわめいた。
「レクリエーション?」
「何やるんだ?」
「体育祭なのに?」
瞬も少し首を傾げる。
「遊ぶの?」
その言葉に上鳴が笑った。
「さすがにずっと戦いっぱなしじゃキツいだろ」
「確かに」
瞬は周囲を見渡す。
騎馬戦を終えたばかりの生徒たちは、疲労の色を見せている。
中には座り込んでいる者もいる。
だが。
決勝進出者たちは、そんな疲れを見せない者も多かった。
爆豪。
轟。
緑谷。
八百万。
そして──瞬。
それぞれが、これから始まる一対一を意識している。
プレゼント・マイクが声を張り上げた。
「決勝に備えて英気を養え!」
「そして思いっきり楽しめぇぇ!!」
その言葉と同時に、競技場の一角から簡易的なレクリエーションスペースが用意されていく。
生徒たちはそれぞれ思い思いに休憩を始めた。
瞬もその場に腰を下ろす。
「ふぅ……」
ようやく一息ついた。
すると。
「針山」
声を掛けてきたのは上鳴だった。
「ん?」
「一回戦、俺とだよな」
瞬が顔を上げる。
そこには、いつもの軽い笑顔を浮かべた上鳴が立っていた。
「うん」
「マジで楽しみだぜ」
上鳴は拳を握る。
「俺の個性、知ってるだろ?」
「電気だよね」
「そう!」
上鳴がニヤリと笑う。
「近付いてきたところを一気にビリビリだ!」
瞬は少し考える。
「……裸足だから、相性悪いかもね」
「そこ気にする!?」
上鳴が思わず叫ぶ。
周囲から笑いが起こった。
「いや、でもさ」
上鳴は少しだけ真剣な表情になる。
「俺も本気でやるからな」
瞬は笑った。
「うん」
「俺も本気でいく」
短いやり取り。
それだけだった。
しかし。
二人とも分かっていた。
次に顔を合わせる時は、笑って話してはいられない。
その頃。
少し離れた場所では、緑谷が轟と話していた。
爆豪は一人、腕を組んでいる。
八百万は次の戦いに備えて静かに精神を整えている。
そして心操もまた、少し離れた場所から決勝トーナメントの舞台を見つめていた。
誰もがそれぞれの戦いを考えている。
それでも今だけは、戦闘から解放された時間。
笑い声。
会話。
軽口。
そんな穏やかな空気が流れていた。
瞬は空を見上げる。
「……いい天気だな」
雄英体育祭。
ここまで来た。
障害物競走。
騎馬戦。
そして──一対一。
もうすぐ、自分の本当の力を試す時が来る。
瞬は静かに拳を握った。
だが、その表情には緊張よりも──
楽しそうな笑顔が浮かんでいた。
決勝トーナメント開始まで、あと少し。
そして最初の対戦相手は──
上鳴電気。
二人の戦いは、もうすぐ始まる。
────────
決勝トーナメント開始まで、残された時間は僅かだった。
騎馬戦を終えた生徒たちは、それぞれ身体を休めながら、これから始まる戦いへ意識を切り替えている。
緑谷は自分の手を握ったり開いたりしながら、何度も深呼吸していた。
轟は静かに目を閉じている。
爆豪は腕を組み、誰とも話さずに競技場を睨んでいた。
そして瞬は。
ベンチに座り、自分の足首を軽く回していた。
「針山くん」
声を掛けられ、顔を上げる。
「ん?」
「一回戦、上鳴くんとだよね」
「うん」
緑谷が少し心配そうに尋ねる。
「上鳴くんの個性は強力だから、気を付けた方がいいと思う」
「分かってる」
瞬は競技場へ視線を向ける。
「近付いたら危なそうだね」
「うん。上鳴くんの放電は周囲に広がるから、距離を詰める時は特に注意した方がいいと思う」
「なるほど」
瞬は小さく笑った。
「じゃあ、どうやって近付くか考えないとな」
そこへ。
「おーい!」
上鳴が歩いてくる。
「針山!」
「上鳴」
上鳴は瞬の前で立ち止まった。
「いよいよだな」
「うん」
「俺、マジで勝ちに行くからな」
その目は真剣だった。
瞬はその表情を見ると、静かに笑う。
「分かった」
「俺もちゃんと戦う」
「おう!」
二人は拳を軽く合わせる。
「よろしくな」
「よろしく」
やがて。
会場に大歓声が響き渡った。
「来たぞォォォ!!」
「決勝トーナメント第一回戦!!」
プレゼント・マイクの声が競技場全体を震わせる。
「第一試合はァァァ!!」
「針山瞬!!」
瞬が競技場へ姿を現す。
雄英高校の体操服。
巨大な身体。
観客席から驚きの声が上がる。
「やっぱデケェ!!!」
瞬は気にすることなく、競技場の中央へ歩いていく。
反対側。
「続いてェェ!!」
「上鳴電気ィィィ!!」
上鳴も入場する。
軽く手を振っているが、その表情は真剣だった。
二人が中央で向かい合う。
「針山」
「ん?」
「悪いけど、最初から全力でいくぜ」
瞬は笑う。
「うん」
ミッドナイトが二人を確認する。
「それでは──」
腕が振り上げられる。
「スタート!!」
「行くぜッ!!」
上鳴が前へ出る。
瞬も同時に駆け出した。
ズンッ!!
一瞬で距離が縮まる。
「早ッ!」
上鳴はすぐに足を止めた。
瞬の拳が迫る。
「だったら──!」
バチィィィィッ!!
上鳴の身体から強烈な電流が一気に放たれた。
放電。
狙いを定めて飛ばしたわけではない。
周囲一帯へ広がる電撃。
「ッ!」
瞬は咄嗟に身体を捻る。
完全には避けきれない。
電流が身体を走った。
「ぐっ!」
瞬の動きが一瞬止まる。
「よし!」
上鳴が拳を握る。
「近付いてきたところを狙えば──!」
だが。
瞬は倒れない。
ゆっくりと顔を上げる。
「……なるほど」
「そういう使い方か」
上鳴の表情が固まる。
「マジかよ……」
瞬は身体を軽く振る。
痺れを振り払うように肩を回した。
「今のは危なかった」
「効いてる……よな?」
「うん」
瞬は笑った。
「結構効いた」
そして。
また走る。
「来るなッ!」
上鳴は再び放電する。
バチバチバチッ!!
電撃が周囲へ広がる。
瞬は大きく横へ跳ぶ。
地面を転がり、立ち上がる。
「なるほど……」
瞬の視線が上鳴へ向く。
正面から近付けば放電。
距離を取れば攻撃手段が限られる。
ならば。
瞬は一気に加速した。
「また来た!?」
上鳴が身構える。
瞬は正面から突っ込む。
「放電ッ!!」
バチィィィィィッ!!
電撃が炸裂する。
瞬は直前で身体を沈めた。
電流の強い範囲を最小限に抑えながら、一気に懐へ潜り込む。
「なっ!?」
上鳴の目が見開かれる。
瞬の肩が上鳴の胸元へ迫る。
だが。
「まだだ!」
上鳴は反射的に放電する。
ゼロ距離。
逃げ場のない電撃。
バチィィッ!!
「──ッ!」
瞬の身体が大きく震える。
観客席から悲鳴が上がる。
「針山!!」
だが。
次の瞬間。
瞬の腕が上鳴の身体へ伸びる。
「捕まえた」
「え──」
指先が肩へ触れる。
「ノッキング」
上鳴の身体が完全に硬直した。
「……マジかよ」
膝から力が抜ける。
上鳴はその場に崩れ落ちた。
ミッドナイトが即座に判定する。
「勝者──針山瞬!!」
会場が大歓声に包まれる。
瞬は倒れた上鳴の前へしゃがみ込む。
「大丈夫?」
「……大丈夫じゃねぇ」
上鳴は悔しそうに笑った。
「ちゃんと当てたのにな……」
「うん」
瞬は頷く。
「凄かったよ」
上鳴が顔を上げる。
「……お前、本当にそう思ってんのか?」
「思ってる」
瞬は笑う。
「最後の放電、凄かった」
上鳴は少しだけ驚いた後、苦笑した。
「そっかよ」
「じゃあ……次はもっと上手く使ってやる」
「うん」
瞬は立ち上がる。
「楽しみにしてる」
上鳴の敗北。
瞬の勝利。
しかし。
この試合を見ていた者たちは、別のものにも気付いていた。
瞬はただ力任せに突っ込んだわけではない。
上鳴の放電の性質を見極め。
その危険を理解した上で。
何度も接近を試みていた。
そして上鳴もまた。
最後まで勝つために放電を使い続けた。
両者ともに本気だった。
だからこそ。
勝者となった瞬の笑顔には、相手への侮りなど一切なかった。
ただ。
強い相手と全力でぶつかったことへの、純粋な喜びだけがあった。
────────
第一回戦が終わった。
歓声の残る競技場を、瞬はゆっくりと歩いていく。
その顔には疲労よりも、どこか満足そうな表情が浮かんでいた。
「針山!」
控え場所へ戻ると、切島が勢いよく駆け寄ってきた。
「すげぇ戦いだったな!」
「ありがとう」
「上鳴の放電、まともに食らってただろ?」
「うん」
「よく平気だったな……」
切島が呆れたように瞬を見る。
「結構痺れたよ」
「結構で済むのかよ!」
上鳴本人も、少し遅れて戻ってきた。
「針山」
「上鳴」
「……次は絶対勝つからな」
悔しさは残っている。
けれど、その表情には敗者としての落胆だけではなく、次へ進もうとする意志があった。
瞬はそんな上鳴を見て笑った。
「うん」
「また戦おう」
「おう」
上鳴は拳を握った。
そして控え場所を離れていく。
瞬はその背中をしばらく見送った。
その時だった。
「次の試合が始まるぞ」
飯田の声が聞こえる。
瞬は競技場へ視線を戻した。
次々と試合が進んでいく。
勝者が決まり。
敗者が退場する。
観客の歓声が何度も上がる。
その中で。
瞬は自然と前のめりになっていた。
「……」
目が離れない。
強い。
上鳴とは違う。
それぞれ違う個性。
違う戦い方。
違う身体能力。
その一つ一つを見るたびに、胸の奥が僅かに熱くなる。
「針山」
緑谷が隣へ座る。
「どうしたの?」
「いや」
瞬は競技場を見たまま答える。
「次、誰と戦うのかなって」
「楽しみ?」
「うん」
少しだけ間を置いて。
「……今度も強い人だといいな」
その言葉を口にした瞬自身が、ほんの僅かに驚いた。
これまでも強い相手と戦うことは好きだった。
けれど。
今は違う。
上鳴との戦いを終えたばかりなのに。
もう次の相手を求めている。
もっと速い相手。
もっと強い相手。
もっと自分を追い込んでくれる相手。
そんな相手と戦ってみたい。
瞬は自分の手を握る。
「……変なの」
「え?」
「なんでもない」
そう言って笑った。
まだ、それが何なのか。
瞬自身にも分からなかった。
やがて。
「第二回戦の組み合わせが決まりました!」
会場にプレゼント・マイクの声が響く。
観客席が再び沸き上がる。
瞬も顔を上げる。
次の対戦カードが表示されていく。
そして。
「次の試合──!」
瞬の視線がモニターへ向く。
自分の名前。
そして。
対戦相手の名前。
「……」
一瞬。
瞬の口元が上がった。
「へぇ」
その目に。
ほんの僅かに鋭さが宿る。
まだ獰猛ではない。
まだ戦いに飢えているわけでもない。
ただ。
「……面白そう」
小さく呟いた。
その言葉を聞いた緑谷は、瞬の横顔を見る。
何かが少しだけ変わった気がした。
だが。
その変化が何なのか。
まだ誰にも分からなかった。
ただ一つ確かなことがある。
針山瞬は。
もう次の戦いを待っていた。
読んでくれてサンガツ!